溶けかけ。
2024-07-03 23:23:46
2275文字
Public ほぼ日刊
 

フォンテーヌは今日も晴れ

お買い物するヌヴィレットとフリーナのお話。
書きたいことは沢山ありますがまあ、これくらいで。



「わあ……!このワンピースとても素敵だね。僕に似合うかい?クラバレッタさん」

 フリーナが体にワンピースを当てて見せれば、メイドのクラバレッタさんが同意を示すようにハサミをチョキチョキと鳴らした。

「やっぱり、キミもそう思うんだね!これいくらかなぁ……ひっ……!?ご、五万モラ……

 フリーナが財布を開けて中身を確認する。中にある手持ちでは悲しいかな、全く足りていなかった。

「ねえ……シュヴァルマラン夫人……

 フリーナの財務担当、シュヴァルマラン夫人をちらりと見遣れば、彼女はふるふると首を横に振った。

「うぅ……やっぱりだめかぁ……

 ワンピースを元あった場所へと戻そうとしたとき、もう一つの手がフリーナの横から伸びてきてワンピースへとその手を添えた。

「それが欲しいのか?」

 聞き馴染みのある声に思わず「う、うん……」と頷くフリーナ。

「そうか」

 ワンピースがひらりと宙を舞うのを呆気にとられたまま目で追う。長い銀髪がそよぎ、件の人物は颯爽とレジへと並ぶと手早く会計を済ませた。

「ヌヴィレット……キミここで何を?」

 フリーナが居るのはいわゆる女性用の服飾品を主に取り扱うブティックだ。そのため、男性であるヌヴィレットは目立っていた。買い物に来ていた貴婦人たちが彼を見てひそひそと何事かを話す仕草でようやくフリーナは我に返った。

「とにかく、出よう!」

 彼を押して店を後にする。店の外に出て、小さな路地に入って彼を問い詰める。

「一体、なんの真似だい?」

「何がかね?」

「これだよ、これ!」

 フリーナは先程の店でヌヴィレットが買ったワンピースを指差す。青い箱に白いリボンが付けられたプレゼント仕様になったワンピースはヌヴィレットが着るものではないとはっきりしている。

……キミへの贈り物だが?」

 ヌヴィレットは小首を傾げる。なに、「当たり前だろう」みたいな顔をしているんだ、とフリーナはちょっと苛立った。

「僕は頼んでない!」

「私が勝手にしたことだ。君はこれを素直に受け取ればいい……人はプレゼントに滅法弱いとリオセスリ殿から聞いている」

「それは外交とかで何か目的があるときに使う手法であってだね……

 フリーナが眉間を揉む。彼は絶対に何か勘違いをしている。

「目的ならある」

「へ?」

「君と買い物がしてみたい」

 ヌヴィレットがまっすぐにこちらを見据えて言い放つ。

「無論、アポイントメントは取っていないし、この場の思いつきである以上、君には断る権利がある」

 あのヌヴィレットが、とフリーナはあんぐりと口を開けた。思いつきで行動するなんてらしくないことをヌヴィレットがしている。ならば、フリーナとしては断る理由もないのではないか、と考えた。

……はあ、分かったよ。じゃあ、一緒に買い物しようか」

 フリーナの了解を得られたヌヴィレットが僅かに目元を和らげた。

 (そんなに嬉しそうにされたら少し照れるじゃないか……





「ヌヴィレット。ちょっとここのお店に寄ってみていい?」

 可愛らしいぬいぐるみがディスプレイされた店の前でフリーナが立ち止まる。

「勿論だとも」

 待ち切れない、とでも言うように足早にフリーナが店へと入り、ヌヴィレットもその後へと続いた。
 店内で目を輝かせて、そわそわとする彼女は、ついこの間まで神として振る舞っていたのが幻か何かだったのではないかと錯覚してしまう。
 愛らしいぬいぐるみに興味を示し、流行りの型の服を着たフリーナはどこにでもいる普通の少女に見えた。

「買わないのか?」

 ネックレスを見ていたフリーナは値段を確かめるとそっと元の場所へと戻した。

「うん……ほら、他にも良いものがあるかもしれないしね」

 もっともらしい言い訳をしながらフリーナの目線は先程のネックレスと自身の鞄を行ったり来たりしていた。

「これひとつ」

 制止するフリーナを無視してレジへとネックレスを持って行く。丁寧にラッピングをしてもらい、紙袋を受け取る。







「うぅ……こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……

 色とりどりの箱のタワーを持ち、腕に紙袋を大量にかけたヌヴィレットを見ながらフリーナは独りごちた。
 結局、全てヌヴィレットに買ってもらってしまった。迷惑をかけたくないと言っておきながら、なんという体たらくだ。

「私は君と買い物が出来て嬉しく思っている」

「それでも悪いよ。後でお金返すから」

 ヌヴィレットは僕を家まで送ってくれると言っていた。ならば、その時に返せばいい。たとえ、数週間バブルオレンジだけの生活になったとしても構わない。

「その必要はない。私がしたいからしたのだ。君はそれを享受していればいい」

 ヌヴィレットの声は厳格で裁判中の彼を彷彿とさせた。こうなった彼は案外、頑固だ。





「それでは、また」

「待って!」

 家まで送ってきてくれたヌヴィレットの服の裾を掴む。訝しげな彼に紙袋を押し付けた。

「今日のお礼!僕も楽しかったから……また一緒に買い物に行こうよ」

 僕の言葉にヌヴィレットが少し驚いたように目を見開いたあと、顔を綻ばせた。

「ああ……楽しみにしている」

 ヌヴィレットの返答に安堵する。よかった、断られなくて。

「またね、ヌヴィレット」

「ごきげんよう、フリーナ殿」