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雨宮水月
2024-07-01 18:41:59
944文字
Public
創作
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昇降
ワードパレット
14.金星「泡」「繋ぐ」「いちばん」
(2019年8月の作品)
水槽の中にいるみたいだな。
川のほとりに腰掛けながら、俺はぽこぽこと生まれては消えていく泡を見ていた。太陽に反射して虹色に光りながら、見事な空の青さを閉じ込めたしゃぼん玉がたくさん飛んでいく。はしゃいでいる子供たちは上を向きながら走っているため、足元が覚束無い。転んでもそのまま寝転がって遊ぶ子もいれば、転んだことも楽しいらしく笑う子や、泣き出して母親の元へ戻る子など三者三様だった。大きく転ぶ度にハラハラするが、大きな怪我をしているわけではなさそうなのでほっと胸を撫で下ろす。
いちばん高い場所まで割らずに飛ばせた人が勝ち、という遊びをしていたのを思い出した。
小さかった頃はどこがいちばん高い場所なのかわからなくて、屋根の上か雲、飛行機まで届けば良いと思っていた。上ばかり見ていて首も痛くなったし、足元に何があるかもわからなかった。
散らばった宿題の山と答案用紙、参考書。舗装されていない道を歩くための掃除機。いつからか空も見なくなった。
今度は下を見て歩いていた。
勉強する時も、食事をする時も、歩く時も、電車に乗った時も。下ばかり見ていたら首が痛くなったし、周りに何があるかもわからなかった。景色が変わっていることに気づかないどころか、景色は変わるのだということにさえ考えが至らなかった。
もう俺にはこれしかないのだと縋ったものに、振り落とされた。
周りに何も無いと思い込んでいた。しゃぼん玉がどんどん割れて、何も無くなっていくように。次へ次へと挑戦する度に、呆気なく崩れていく砂上の楼閣。
沈んでいく度に、俺の前で誰かがしゃぼん玉を吹いていた。
俺が世の波にもがいて溺れて、苦しんでいることを知っているかのように。それは俺の酸素を奪っていくように空へ逃げていく。
だから、今も目の前で子どもたちが虹色の泡を飛ばしている。ぬらぬらとした怪しい光を反射しながら、いちばん高い場所を目指していく。そこへ到達出来ないと知りながら、昇っていくしかないその憐れな群れを河原に寝そべって眺めていた。
ここは彼岸と此岸を繋ぐ場所。
「やっと、見つけてくれた」
大勢の悲鳴が、河原に注がれる。その振動でしゃぼん玉は全て消えた。
そうやって、世界は回っていく。
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