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雨宮水月
2024-07-01 18:28:54
1281文字
Public
探索者の日常
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二番目の恋
氷室絵里の話
よその子をお借りしています。
(2019年6月の作品)
好きな人に「気味が悪い」と言われたことはあるか。
白いセーラー服が、憎いくらいに青い空の真ん中を突き刺す。夏が来る前のジメジメとした空気と日に日に増していく日射量に、誰もが夏休みを待ち望んでいた頃。そんな眩しい日に彼女は、恋い慕っていた人に告げられた。
二回りも歳の違う担任は清潔感のある短髪に帽子を被り、額に暑さと焦燥の汗を流していた。目の前に立つ真っ白な少女の言葉を反芻し、そして、雷の一撃とも言える拒絶を示す。
「オレはお前のことを
……
気味が悪いと思う」
火照る体温を下げるように風がセーラー服を揺らす。彼女の瞳もそれに合わせて一瞬だけ揺らいだ。表情筋を一切使うことなく、絵里は小さな声で疑問を抱く。
今まで出会ってきた人たちは、可愛いとか、美しいとか、可憐だとか、そういった評価をするのが圧倒的であった。女子に関しては悪女だとか、性格が悪いだとか、そんな陰口を言われていたこともあるが、「気味が悪い」と言われるのは初めてだった。だからこそ、不思議に思ったのだ。
「なんで、私は気味が悪いんですか。先生」
その時の先生の顔を、彼女は一生忘れないだろう。
容姿端麗、頭脳明晰、自信家で努力家。負けず嫌いで、人当たりも良い。その上、東京の有名大学にまで推薦で合格出来るほどの実力を持った氷室絵里という生徒は、誰もが一度は憧れる完璧な人間だった。
だからこそ、気味が悪かったのだ。
「お前は、全く子どもらしくない」
今まで微笑をたたえながら談笑し、真剣な顔で授業に臨み、上手く立ち回っていた彼女が。
突然自分の前でだけ、無表情で口数も少なくなった彼女が。
「気味が悪い
……
恐ろしいやつだよ、おまえは」
海を見ていた。
堤防に立つ白セーラーは、向こうに跳ねるうさぎを見ていた。
仲間になりたそうに、涙を流していた。
海は彼女を否定しない。
空は彼女を見守り続ける。
長かった髪が、海に葬られた。
「おい、氷室〜。着いたぞ」
「氷室さーん、起きてください」
暗い海の底に声が届いた。
どうやらすっかり眠ってしまったらしい。エアコンの効いた車内で、隣に座る人物に寄りかかった姿勢のまま、絵里は瞼を開けた。
隣を見ればゆかりが、おはようございますと笑いかけてきた。自分が寄りかかっていた方を見ると、蛍が重かったと言いたげに肩を回している。
(懐かしい、夢
……
)
ぼうっとしながら車外へ出ると、意地悪な日光が目を覚ませと言わんばかりに降り注ぐ。自分の荷物をトランクから取り出してくれた渚にお礼を告げて、絵里は深呼吸をした。
あの日から、自分には恋人はおろか、友人さえ出来ないと思っていたけれど。
(いろんな人がいるわね)
荷物を取るために屈んでいた渚の頭をぐしゃぐしゃに撫で回しながら、創作活動に関する話の続きをしていた蛍とゆかりを眺めた。渚の「なに!?突然なんだよ!荷物運んでんだけど!」といった声もうわの空。
微かに口角が上がった、お盆の終わり。葬られたあの恋は、また海へかえっていった。
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