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溶けかけ。
2024-07-01 00:13:32
1624文字
Public
ほぼ日刊
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またの名を旅立ち
フが家族を作って、幸せなおばあちゃんになって、亡くなる前日のヌとフのお話。
ヌフのつもりではありますが、どちらかというとCPよりは長い付き合いの友人の様な関係性の2人です。
「やっと来たんだね。待ちくたびれたよ」
フリーナは読んでいた本を閉じると枕元に置いた。ほぼ見えなくなったと聞いたのに、とヌヴィレットが思っているとフリーナはその考えをピタリと言い当てた。
「あ、こいつ見えないんじゃないのか、とか思ってる顔だね?天気がいい日なら多少見えるんだよ」
眼鏡を外し、近くの椅子をヌヴィレットに勧めたフリーナは陽光に目を細めた。
「ああ、今日はとっても暖かいね」
「
……
そうだな」
ヌヴィレットの手をフリーナのしわくちゃな手が包み込む。
「ふふ
……
最後まで来てくれないんじゃないかと思ったよ」
「そのようなことは
……
」
ヌヴィレットは苦虫を噛み潰した心地になる。彼女は歳を重ねるごとに勘が鋭くなっている気がする。
「キミが分かりやすいんだよ」
フリーナが歌を口ずさむ。フォンテーヌなら誰もが知ってる童謡だ。
「
……
御家族は息災か?」
「ああ、勿論だとも。上の子は孫を連れてきてくれたし、下の子は今頃モンドかな?」
フリーナがサイドチェストから写真を取り出す。家族写真もあれば、旅行中に撮ったのであろう夫婦の写真もあった。
「いい写真だろう?古いのは夫が撮ったんだけど、なかなかの腕前だと思ってるよ」
フリーナと男性が幸せそうに笑い合う写真に目が留まる。
「これは
……
」
「ああ、それかい?僕の一等お気に入りだよ。なんてたってキミが撮ってくれたんだから」
フリーナがくすくすと笑う。とても魅力的な笑みだった。
「キミが旅人たちとたくさん練習してたって知ってるんだからな」
「む。内密に、という話だったのだが」
羞恥に僅かに頬を染めるヌヴィレットにフリーナは自慢気に胸を反らせた。
「ふふんっ!キミが僕に隠し事なんて百年早かったね
……
このまま僕は逃げ勝ちさせて貰うよ」
逃げ勝ち、という言葉に心臓を握られたように胸が締め付けられた。
「ご、ごめん
……
そんな顔をさせるつもりはなかったんだよ
……
本当さ」
ヌヴィレットの頬にフリーナの手が触れる。その手にヌヴィレットの手が重なる。
しわだらけの手だ。以前よりも弱々しく、けれど強い手だ。
「まったく、キミは泣き虫だね」
窓の外は小雨が降っている。先程まで晴天であったはずの空に人々が戸惑い、走り回る姿が見えた。
「うちの子どもたちよりも置いていくのが心配だなぁ、キミは」
「ならば、ずっと
……
」
ヌヴィレットの言葉をフリーナが首を振ることで制する。
「それは駄目だよ
……
キミも知っているだろう?」
穏やかな顔をするようになった。以前から淑女の見本のような人ではあったが、結婚をし、子どもや孫が出来てなお、その美しさは衰えない。いや、より魅力的な女性になった。その姿はいつ何時もヌヴィレットを魅了して止まない。
「今まで守ってくれてありがとう。僕の大切な人」
ヌヴィレットの手にフリーナが神の目を握らせる。ヌヴィレットが口を開きかけたとき「フリーナさん、検診の時間ですよ〜」という間延びした声がノックと共に聞こえてきた。
「私はこれで失礼しよう」
言いたいことは飲み込んで、いつもどおりに。彼女がそれを望むならヌヴィレットも従うまでだ。
扉に手をかけたヌヴィレットの背に声がかけられた。
「ヌヴィレット。フォンテーヌを頼んだよ
……
なんて、キミは言わなくても知ってるか」
ヌヴィレットも振り返らずに応える。
「勿論だとも
……
フリーナ殿、お元気で」
フリーナの訃報が報じられたのは翌日の早朝のことだった。
その日から数日間、フォンテーヌ人の心境を表すかのように雨が振り続いた。人々は口々に水龍が悲しんでいるのだと噂した。
数日振り続いた雨も、フリーナの葬儀の日は彼女の門出を祝福するような雲一つない青空だったという
――
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