シオウ
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ブルーヒプノシス Hypnosis Free‼ !R18!

催眠アプリを使って真琴くんに色々するナナハル。エロギャグにするつもりがナナハルがほんのり闇堕ちしてしまった。

オリンピック競泳種目において、史上最も多く金メダルを獲得した選手は、試合における自身の一挙一動を完全に習慣化していたそうだ。
朝、目覚めた瞬間から試合会場に入り、一着でゴールするまで。
毎日同じ物を口にし、同じウェアを身に着け、同じ曲を聞いて、全く同じトレーニングをする。
さらには使うロッカーや座るベンチ、キャップとゴーグルを置く位置に至るまで、あらゆる動作とそれに費やす時間を決めて同じパターンを繰り返す。
コーチと一緒に作り上げたその習慣は「ビデオを再生する」と呼ばれた。
選手曰く、頭の中で自分が金メダルを取る日のビデオを流し、その通りに行動すれば結果は決まっている、と。
それはトレーニングいうよりは催眠や洗脳に近いものがあり、実際にコーチは催眠を学んでいたとも言われている。

そんな話を本で目にした矢先に、スマホ画面に飛び出したアプリ広告。

【悪用厳禁!催眠アプリで相手を思うままに操る!】

遙がそれをついクリックしてしまったのも無理はないかもしれない。
相手を思うままに操るアプリ……そんなものを悪用以外できるのかと問いかけたくなるが、インストール中の画面から目を離せずにいる。
三角形の中に目玉の描かれた怪しげなアイコン。
さっそく開いてみるとシンプルなUIに日本語の不自由な片言の注意書きが羅列してあり、スクロールすると最後に【ここをタップ!】と書かれたボタンのような表示があるだけだった。
危険すぎると思いつつ注意書きに目を通す。

【タップすると催眠!相手は貴方の何でもを聞く!好きな身体を思うままにできる!それは性奴隷のようです!アプリ消すとセクハラも忘れるので安心!楽しめます!】

あまりの意味不明さに声を出して笑ってしまった。
悪用厳禁と言いながら性奴隷とは過激すぎはしないか。
アプリを終了させてアンインストールしようとしたが、この文面を誰かに見せるだけで笑いをとれるだろうと思い留まった。
男連中はこの手の話題に飢えている。
明らかに危険なアプリをインストールした猛者として賞賛を浴びる自分の姿がぼんやり浮んだ。

その後、アプリの存在をすっかり忘れていた遙だったが、久しぶりに部屋を訪ねてきた真琴を見て不意に思い出してしまった。
遙の手料理にありつける、と尻尾を振ってノコノコやってきた真琴はこの手の話題でウケを狙うには最も相応しくない相手かもしれないが……

「面白いアプリ見つけたんだけど、知ってるか?」

丹精込めて作った料理が並ぶ食卓を前に、遙は思いきって切り出した。
お互いにもう子供ではないわけだし、こういう話をしてもおかしくはないだろう。

「え?どんなの?見せて!」

好奇心いっぱいの笑顔で身を乗り出して来る真琴に少し怯みつつ、わざとらしく咳払いをしてから告げる。

「エロいことができる催眠アプリらしい」

「な、何それ!?ハルどうしちゃったの!?まさかそれ、誰かに……!?」

案の定、笑うどころか真っ赤な顔で非難の言葉を喚きちらす真琴のうっとおしさに、遙はヤケになってアプリを起動させた。

「ほら、まずは真琴で実験してやる」

タップして画面を真琴に向けると電子音が鳴りだした、様な気がする。
あまりに音が小さいので耳鳴りの様にも感じて確信は持てない。

「どうだ?催眠きいてるか?」

遙はスマホを振って揶揄うように問いかけた。が、反応はない。
立ち膝で喚いていた真琴はぺたりと力なく座り込んで呆然としている。

……おい、ふざけるな。面白くないぞ」

遙の不機嫌な声。
それでも何の反応も見せない真琴を小突いてやろうかと近づいたその時。
逆に腕を強く掴まれて遙は驚いた。

「ま、っ……!?」

名前を呼ぼうと開いた唇が、まさに今その相手の唇で塞がれる。
一回り大きな身体に圧しかかられて遙は混乱を極めた。
すぐに身体と唇が離れ、目の前の真琴は相変わらず呆然としたまま、たどたどしい動きで上着を脱ぎ始める。

「真琴……っ、何して……!?」

やっとのことで絞り出した声に真琴の声が重なる。

「ハルと……せっくす、する……

とりあえず、耳と目と数秒前の記憶を疑ってみる。
まさかこのアプリが本物だとでもいうのか。

「待て……!真琴、落ち着け……!」

再び声を絞り出すと、真琴の動きがぴたりと止まった。
自分はこんな大きな声が出せたのかと感心しつつ、先程の行為で床に放り投げられたスマホを拾い上げる。
画面には【催眠発動中!エンジョイしてください!】の文字が。
……ふざけやがって。
苛立ちをぶつける様にタップするが、画面の表示は変わらない。
それどころか耳鳴りの様な電子音が一際大きくなった気がする。

【催眠は強力です!お楽しみください!】
【自由にどうぞしてください!】
【お好きなだけできます!】

不自由な日本語が画面一杯に点滅して、スマホを叩きつけたい衝動に駆られた。
それが実行できなかったのは再び真琴が遙の肩に手をかけてにじり寄って来たからだ。

「ハル……せっくす、して。おねがい」

焦点の合わない瞳。
真琴は艶めかしく反らせた裸の上半身に、ピンク色の胸の先端を露わに、僅かに膨らんだ股間で腰をくねらせて、ひたすら切なげな甘い声を出してくる。

「ハルの、欲しいよぉ……

眼前に拡がる肌色……桃色の肉感的な迫力。
耳を蹂躙する激しい吐息と熱を帯びた情欲の匂い。
いつもの大型犬の様な愛らしさはどこへ消えてしまったのか。
もっとも、制止も聞かずに四つん這いで遙の股間に顔をすり寄せ始めてしまった今の姿は、ある意味では犬の様だ。

「ば……っ、ま……!」
馬鹿、真琴、と言おうとしたが最初の一文字しか声にならなかった。

「ハルのせいえき、欲しい……

部屋着のジャージと下着は簡単に下げられ、すでに勃ちあがっていた性器が真琴の口の中へぬるりと収まる。

「~~~~……っ!!」

遙は信じられない感触に歯を食いしばった。
真琴の整った小さな顔が自分の股の間にあって、その愛らしい唇が……

「やめろ……!馬鹿……っ!」

思わず真琴の髪を掴んで乱暴に頭を引き離す。
真琴は上体を起こし、唾液の溜まった口をポカンとあけたまま、
その場でズボンと下着をさげて膝立ちすると、自らの陰茎に指で作った輪をはめ、遙の目の前で自慰を始めた。

……ぬるぬるのやつ、出すね」

子供の様な口調で無邪気に告げるが、力が入らないのか気の抜けた緩慢な動きを繰り返している。

「ん……っ、ぅ……?」

張り詰めてビクビクと震えているの自らの陰茎を、不思議そうな顔で見下ろす真琴の姿が滑稽で遙は居たたまれず目を伏せた。

「真琴……、もうやめろ」

「やだ……っ、ハルちゃんのいれてもらう……!」

真琴は片方の手で必死に陰茎をシゴき、もう片方を後ろに回して秘部をいじりはじめる。
自らの精液をローションの代わりにする算段らしいが、そんな動きではいつまで経っても達することなどできないだろう。

……っ?ふ、うぅ……

もどかしさからか、時折腰を前後に動かしては、納得できない様な表情を浮かべる。
どうして達することができないのか、或いは何故こんなことをしているのか。
そのどちらの表情なのか遙にはわからなかった。
けれど、催眠にかかっているくせに自慰のひとつも上手くできないなんて、
何だかそれが妙に真琴らしく思えて、酷く興奮を覚える。

「真琴、そのままじゃ苦しいだろ」

このまま放っておいたら何をしでかすかわからない、自分にそう言い聞かせて、
同じように膝立ちで真琴の前に立つ。
と、陰茎を掴む手に自らの手を重ねた。

「ほら、もっとこうやって力入れて……速く動かせ」

真琴の手を包み込んで、操る様に陰茎を扱く。
言葉の通り力を込めて素早く小刻みに上下させてやると、真琴は悲鳴をあげて後ろに回していた手を戻し、遙の肩を押し退けようとする。

「ひっ、…………っ!」

びくともしない遙に焦ったのか、真琴は陰茎に添えられた手を振り解いて、今度は肩に両手を押し付ける、が。
遙の手の動きが激しくなると、その膝は快感にがくがくと震え出し、全く力が入らなくなってしまった。
限界まで張り詰めていた陰茎を容赦なく責められて、真琴は慄いて腰を引き逃れようとする。

「あ、う……っ、あっ!」

「真琴、逃げるな」

心なしか愉悦を含んだ遙の声。
絶えず陰茎を責めながら、片方の手を真琴の後ろに回し、肉付きの良い尻に指を食い込ませ、引き寄せる。

「や……っ、ぅ、~~……っ!」

真琴は催眠の影響で満足に言葉を発することができないのか、短い喘ぎ声を出してしきりに首を横に振る。
或いは性奴隷らしく(?)否定的な言葉を話すことは禁じられているのかもしれない。
そんなことを考えながら遙は真琴を引き寄せるために咄嗟に掴んだ臀部の意外な感触に囚われていた。
むちっ、と指が食い込み、手の平に吸い付くようなすべすべの肌。
胸の高鳴りを感じながら、柔らかな肉をかき分けるように間の秘部に指を這わせる。
少し濡れたソコは陰茎を扱く遙の手の動きに合わせてヒクヒクと収縮している。
……これは、と遙の身体が一気に熱くなる。
先程からどんなに陰茎を刺激しても真琴は一向に達する気配がない。
男同士のセックスなら、と考えて無意識に言葉を発する。

「ここ……ぬるぬるに、するんじゃなかったのか?」

にゅちにゅちと音をたてて秘部を擦る。

「ん……っ、うんっ、挿れてもらいたいっ!」

真琴は急に興奮して遙にしがみつき、額の辺りに胸を押し付けてくる。
遙はその勢いで冷たい床に背をつけて倒れ込んだ。
ここぞとばかりに、真琴は膝に溜まっていたズボンと下着と脱ぎ捨て、とうとう裸になってしまって、遙の上に跨る。

「ふふ……ハルのが、ぬるぬるだから大丈夫だね」

ジャージからはみ出し、屹立して先走り塗れになっている遙の陰茎を揶揄してからソレを片手で押さえ、自身の秘部にあてがう。
真琴の腰が沈み込む一瞬の間に、けたたましい耳鳴りと共に思考が駆け巡る。

【どうする?今ならまだ、真琴を楽にしてやる為だ、どうせ忘れる、催眠のせいで、真琴が、違う、まことから、俺の、欲しがって……

次の瞬間には、一気に肉棒を根元まで秘部で咥え込んだ真琴が大きく仰け反って痙攣していた。

「は、ひぃ……、いぃ……っ」

びゅくびゅくと精液を垂れ流して恍惚の表情を浮かべる真琴は激しい絶頂の余韻に浸りきっている。

「きもち…………しゃせい、気持ちいいよぉ

遙は下半身のとてつもない圧迫と熱を感じつつ、真琴が楽になって良かったとぼんやりしていた。
それも束の間、真琴は上半身を倒して遙に何度も口付けてくる。

「ハル……っ、はるちゃんっ、好きっ」

「ま……っ、ぐ……!」

唾液塗れの口から情けない声が出てしまうのも無理はない。
真琴は器用に背中を丸めて腰を動かし、遙のモノを使って自分が気持ちいい所を擦っている。
腰が降ろされる度に、遙の内腿に真琴の尻が当たって、たぷんといやらしい音をたてた。
やがてキスに飽きたのか真琴は遙の首筋に舌を這わせて、鎖骨の辺りにぢゅうっと思いきり吸い付いく。

「い……っ、いい加減にしろっ」

これでは身体中を痕だらけにされかねない。
遙は真琴を押し退けて上半身を起こす。

「もっと、……あぅっっ!」

真琴がバランスを崩して仰向けに転がると、ぶぽっと卑猥な音をたてて遙の陰茎が抜けてしまう。
不満気な吐息をもらす真琴を組み敷いた。

……勝手なことばかりするな」

こうなってしまったら収まりが付かない。
好き勝手された仕返しだ、と真琴の両膝の裏を掴んだ。
散々圧迫されて麻痺気味の陰茎を、躊躇いもなく穴に捻じ込む。

「あ、……んっ、はる、ちゃ……

真琴は語尾にハートマークでも飛んでいそうな悦びの声をあげて必死に抱き付いてくる。

「はるとナマで、せっくす……きもちいぃっ」

「何が生でセックスだ……ゴムつけてシたことあるのかよ」

心の声が思わず漏れ出る。
催眠の効果なのか、相手の劣情を刺激するような言葉をばかり口にする真琴に苛立った。

「じゃあ、生で中出しされるのも気持ちいいよな」

自分を受け入れてうねる肉壁の誘惑に耐えられず、遙は腰の動きを速める。
――ほんの数十分前は、いつもの関係のまま食卓を囲んでいたのに。
もう到底、戻ることなどできそうにない。
獣のような雄の本能が、目の前の相手を完全に支配し、服従させ、自分の種を植え付けろと命令してくる。
ひと突きするごとに理性を壊し、さらに奥深くへと己の匂いを染み込ませる。
その体を完全に開かせ、自ら子種を求めて尻を突き出すようになるまで。

「ハルちゃんっ!はる!好きっ!せいえき、おなか、あったかくて嬉しいよぉっ!」

真琴が喚きちらす言葉で、自分が射精したのだと気付いた。
頭に血がのぼり、ふらついて意識が朦朧とする。

「はぁ、は……

喉から短い息がひっきりなしにもれて、下腹の辺りがビクビクと痙攣している。
途方もない解放感。
すぐに頭は冷え切って、全身から血の気が引く。

真琴の中に……

遙はすぐにいつもの無表情に戻って腰を引き、真琴から自身を抜く。
まだぐずぐずと縋りついて甘えてくる真琴をあしらって、てきぱきとその身体を綺麗にしてやる。
秘部の中から指で精液をかきだす最中、真琴はあんあん喘いだが構ってはいられない。
遠くへ脱ぎ捨てられた洋服は汚れていなかったので「自分で着ろ」と命令する。
のろのろと真琴が動き始めたのを見て、遙は自身も下着を取り換え、床を掃除しながら、初めての場所がこんな狭くて冷たい床だったのだと思うと何とも言えない気持ちになった。
裸だった真琴はきっと背中が痛かっただろう。
時間の経過を演出する為に手つかずの料理を冷蔵庫へしまう。
全ての処理を終えた遙に服を着た真琴がしがみついてくる。
まだ耳鳴りの様な電子音は続いている。
スマホを手繰り寄せ、画面から目を反らした。

何もなかった。……そうだ。何も起きていない。

呪文のように心の中で繰り返す遙に、虚ろな瞳の真琴が告げる。

「ハル……だいすき」

少しは冷静になった頭で考えてみる。
先程から何度も告げられる「好き」という真琴の言葉。
アプリは「言う事を聞く」「性的に言いなりになる」といった趣旨の催眠で、相手を好きになるという効果は書かれていなかったはずだ。
もちろん、「好きになれ」と命令すれば話は別だろうが、そんなことは一切口にしていない。
……それと、何より。
催眠のせいとはいえ、初めての行為であんな振る舞いができるものだろうか。
不安に駆られた遙は、思わず問いかける。

「真琴は他の誰かとも……したことあるのか?」

息を飲んで答えを待つ遙に、虚ろな瞳の真琴があっさりと告げる。

……ない。ハルが初めて」

答えに胸を撫でおろす。
とんでもない秘密を知るはめにならず良かったと心底安堵した。
催眠にかかっているからこそ、嘘をつく必要はないだろう。
間違いなく真実であるはずだ。
とすると、やはり気になるのは……

……好きな奴とか、いないのか?本当は好きな相手とすることだろ」

こんな最低なアプリで真琴を汚しておいてどの口が、とは思うが聞かずにはいられなかった。

「オレは……、ずっと前からハルが好きだよ」

その虚ろな瞳に一瞬、光が宿った気がした。
が、すぐにその輝きは消え失せ、仄暗い闇が覆う。

「でも、ハルには絶対言えない。一生言うつもり、ない」

遙はどんな顔をしていいかわからなかった。
目の前の無表情な真琴から告げられる秘められた想いに。
これが真琴の本心なら。

……好きなら、そう言えばいいだろ」

「何よりもハルが大切だから……幸せでいてほしいんだ。ずっと」

……何だよそれ。お前はどうなってもいいのか」

真琴は黙ってしまった。
この苛立ちが何なのかわからない。
誰よりも大切な存在だから、自分が苦しむ姿を見せたくない。
悲しい顔をさせたくない。
それなら、きっと幼いあの時の俺だってそうだ。
凛だけじゃなく、真琴や渚の居場所まで奪ってしまったのだと。
思い出も絆も傷つけてしまったのだと、自分を責めた。
その苦しみを、ほんの僅かでも真琴には背負わせたくなかった。

……だったら、俺が他の誰かと一緒になっても平気なのか」

その言葉にぴくりと真琴の顔が引き攣った。

「そんなの……耐えられなくて、死んじゃうかも」

自嘲を浮かべた口元。
けれど歪んだグリーンの瞳からは大粒の涙が次々と零れ落ちる。
見惚れるほどに美しい、本当の涙。
遙は催眠のことなどすっかり頭から抜け落ちてしまって声を荒げた。

「ふざけるな……!死ぬくらい辛いなら打ち明ければいい!綺麗ごとぬかして自分が傷つくのが怖いだけろ!」

言い切ってから、激しい呼吸に肩を上下させて、もはや自分が誰に向かって叫んでいるのかわからなくなった。

「じゃあ、俺が真琴のこと好きだって言ったら……!」

最後の切り札のつもりで出した言葉に、真琴は力なく首を振る。

……ハルはそんなこと言わないよ」

それっきり、一切喋らなくなってしまった真琴の肩を乱暴に掴む。


……真琴。お前は飯の後、ここで居眠りしてた。いいな?」

コクリと頭が上下したのを見届けて、スマホの電源を切る。
……これで悪夢は終わりだ。
耳鳴りがやんで、辺りが静寂に包まれると、現実感が一気に押し寄せる。

……真琴、起きろ」

呼びかけられて顔をあげた真琴の瞳は完全にいつもの状態に戻っていた。

……あれ?オレ寝てた!?ハルのご飯が美味しくて食べすぎちゃったかなあ」

実際には手つかずの食事を前に散々セックスに浸っていたわけだが、真琴は満足そうに自らの腹を撫でている。
それが先程の行為の最中、精液を腹に注がれて幸せだと笑った姿と重なって遙は思わず顔を逸らす。

「疲れてたんだろ……今日は泊っていけ。ベッド使っていい」

「え!?でもハルは……

「急に招集かかったから行ってくる。帰ってこれそうにないから、鍵いつもの所に置いといてくれ」

「そっかぁ……気をつけて行ってね。ご飯ありがと!」

嘘に気付けないほど真琴も消耗しているのだろう。
出ていく姿を見送ろうともせず、のそのそとベッドに向かうと、そのまま横になって寝てしまったようだ。

あれ以上真琴と一緒にいるのが耐えられず、嘘をついて外に出てはみたものの、
身体のダルさといい、ぐちゃぐちゃの頭の中といい何一つ解放された感じがしない。
何より耐えられないのは……、このクソみたいなアプリがなければきっと、一生真琴の本心を聞けなかっただろうということだ。
誰よりもずっと一緒にいたのに。
自分が情けなかった。
けれど。
プライベートな事情ばかり気にしてはいられない。
強化合宿も選抜試合も、やらなければいけないことは次々に迫ってくる。
今の自分には問題を解決する時間も、心の余裕も全く足りない。
ただでさえ会える時間は限られているのに。
何もかもが手詰まりに感じた。
こんな事で自由に泳げるわけがない。
もう自分はすでに卑怯な手を使って堕ちる所まで堕ちている。
……であればとことん堕ちるしかない。
遙は今夜の出来事を、一度、無かったことにすると決めた。



すぐにお互いに忙しくなって、真琴と会えない日々が続き、
あれは本当に夢だったのではないかと思うようになった。
あんなこと起きるわけがない。
けれど、スマホの中の薄気味悪いアイコンが完全には忘れさせてくれなかった。
消せばいい、と思いつつも消せないでいるのは、やはりまだこの力に未練があるからだろう。
……そもそもこのアプリは一体何なんだ?
検索して調べようにも、本来アイコンの下にあるはずのアプリの名前がないのでお手上げだった。
催眠、とワード検索して似たようなアプリを探すが、どれもこのアプリとは別物だ。
それならせめて催眠についての知識を深めようと練習の合間に書店に足を運ぶ。
大型店舗の広大な売り場。
それらしい棚を片っ端から周るが、さすがに専門書に催眠と名のつく物はなく、ふらりとオカルト本のコーナーへ向かうと棚には多くのラインナップが揃っていた。
何冊か手に取ってパラパラと流し読みしてみる。

【催眠状態の脳は深い変性意識になっています。相手と呼吸を合わせ、視覚、聴覚、触覚を共有し優れた術者は一瞬で相手に催眠をかけることができまた、スクリプトを埋め込んだ短い創作物語を催眠の代わりに使うこともそもそも催眠療法に代表されるように催眠とは相手に何らかのポジティブな利益を与えるものであり、それとは逆に洗脳とは相手の意思を奪い支配するものです

どの本も催眠の方法や仕組みが大まかに書かれていて、共通する用語や似たようなエピソードがならぶが、『催眠アプリ』の存在を示すような部分は見つからない。
催眠とはやはり術者として人間が行うものらしい。
最後の一冊、と手に取った本の冒頭に印象的な記述があった。

【催眠術は何よりまず先に、術者である自分に催眠をかける所から始まります。
自分の強力な変性意識の世界に相手を誘い、脳の中の書き換えを

逆説的に思えるがどうなのだろう。
自分自身まで催眠にかかっていたら誰がお互いの催眠を理解できるのか。
やはり素人にはよくわからないし、オカルトとしか思えない。
ただ、このアプリの効果が本物であること、それだけは疑いようがなかった。
……何にしろ、一番の問題は催眠中に真琴が口にした言葉だ。
真琴の秘めた想いを知ってしまった以上、知る前には戻れない。
それ以前にあんなことまでしておいて、なかったことにはできない。
自分はどうしたいのか。
毎晩のように問いかけては答えを出せずにいた。





再び会う約束ができた頃には、あれからひと月ほど経っていた。
あの時と同じ。
真琴に手料理を食べさせてやる口実で自宅に招いた。
せめて今回は腹いっぱい食べさせてやろうと大人しく食事を始める。

「なんか久しぶりだね!ハルは調子どう?」

……どうだかな」

「ふふっ!そういえば宗介と尚先輩が……

真琴は口いっぱいに料理を頬張りながらモゴモゴと話を続ける。
クラブに所属する宗介や夏也、尚のことで話題は尽きない。
人の気も知らないで随分と青春を謳歌しているらしい。

「食うか喋るかどっちかにしろ」

「うう、ごめん……だってさぁ、夏也先輩がすっごくタイムあげてて、今ならハルに勝てる!ってオレに

……真琴」

苛立った声。
真琴の目は「なんで怒ってるの?」と告げている。
言葉にしなくても伝わってくる心配に、さらに苛立ちが増した。

「お前、好きな奴がいるんだろ」

「え……?」

唐突な質問に真琴はただただ戸惑っている。

「どうしたの急に……なんかあった?」

「知り合いから聞いた。真琴は俺のことが好きだって」

「な、何言って知り合いって誰なの?そりゃあハルのことは好きだけどそういう意味じゃ……

鎌をかけたつもりだった。
真琴の顔はみるみる赤くなっていき、しどろもどろで言葉もおぼつかない。

「別にいいだろ。俺もお前のこと、好きだし」

「あはは……嬉しいけど……もうハルったら、なんでそんな」

なんでそんなこと言うの、と真琴は黙ってしまった。
その顔は怯えているように見える。
すぐに無理矢理の笑顔が作られて、微かに震えた声があがった。

……もう冗談は終わり!ご飯冷めちゃうから食べよ?ね!」

ぎこちない笑顔から苦悩と絶望が伝わってくる。
やはりあの時の気持ちは本心だったのだと遙は確信した。
……この先、ずっと一緒にいても。
真琴は決して俺に本当の気持ちを明かすことは無い。
全て一人で抱えて、腐れ縁の幼なじみを演じるつもりだ。

「真琴、噓つくな」

……ウソって何、ホントにどうしちゃったの?ハルってば」

「いい加減にしろよ」

手首を掴んで力を込めると、真琴は驚いた表情でこちらを見る。

「ハル……痛いよ、離して……っ」

こわい、と告げてその瞳に涙が滲む。

「もうやめよう?……オレ達は、男同士だし、幼なじみで

まったく呆れ果てるほど白々しい、拒絶の態度。
純粋無垢な顔をしたとんでもない嘘つき。
俺だって多少は勇気を振り絞って想いを告げたのに。
……それなら。
遙は手を離すとポケットからスマホを取り出す。
あれから事あるごとに見つめたアイコンをタップして、アプリを起動させる。

……真琴、覚えてるか?」

耳鳴りが、甘美な陶酔へと誘う。
真琴の顔からは表情が消え失せ、一切の動作が停止した。
部屋には電子音だけが響いている。
期待に胸を膨らませて、遙はじっと待つ。
しばらくすると、真琴は焦点の合わない瞳で身体を寄せてくる。

「ハル……、好きだよ……

ぞくぞくと甘い痺れが体中を駆け巡り、たまらない優越感に身震いする。
……やっとあの時の素直で健気な真琴に戻った。
『戻った』という安堵の思いに違和感を感じる余裕はなかった。
真琴が再びあの時の様に四つん這いになって遙の股間に顔を埋めてきたからだ。

「はぅちゃん……好きぃ」

はむはむと口を動かしてズボン越しに唇で遙のモノを探る。

「っ……ドコに話しかけてるんだ」

やはりこの光景には慣れない。
真琴の頭を撫でてやって引き剝がす。

「ほら、挿れてやるから準備しろ」

「うん……!」

真琴が今日履いてきたボトムは小綺麗な見た目だがウエストがゴムタイプの物のようで、下着と共にぐいっと伸びて簡単に下がった。
露わになった陰茎を、前回とは違って小刻みに力強く扱き始める。

「ん……っ、んぅっ!」

あの時の指導の賜物か、と遙は満足げだ。
しかし相変わらずいつまで経っても真琴が達する様子はない。
後ろに挿れなければ射精できないとは、催眠程度でよくもこう都合のいい体になるものだ。

「真琴、もういい。後ろ向いて床に手つけ」

言われた通り四つん這いになって尻をこちらに向ける真琴。
今度は両手でそのむちむちとした肉付きを楽しみつつ、尾てい骨の辺りに大量の唾液を落としてやる。
生温かい唾液が割り開かれた双丘の間を滑るとそれだけで感じてしまったのか、真琴は背中を震わせてポタポタと先走りを床に垂らした。

「ハル……っ、はるちゃんっ」

待ちきれない様子で穴をヒクつかせてもじもじと尻を振る。
完全な同意の元で行われる恋人同士のセックスだ、と遙は嬉しくなった。
にゅぶにゅぶと熱い肉棒が秘部に飲み込まれていく。
この簡単に挿入できてしまう仕組みも、挿れただけで真琴がイってしまう仕組みもどうなっているのか謎だ。
これが催眠にかかっている間だけであればいいが……
絶頂の快感に震えている真琴の背中を抱きしめる。

「お前がつけた痕、なかなか消えなくて大変だった」

これも、まさに恋人同士の様な会話だ。
お返しだからな、と真琴の首の後ろに音をたてて吸い付く。

……っ、嬉しい、ハル、中にたくさん出してっ」

真琴は頭だけ振り返って恍惚と続きをねだった。

「はる、ハルちゃんっ、にんしん、させて

これにはさすがに馬鹿な、と苦笑する。
男が男に使うとは想定外なのだろう。
もしくは……これもまた真琴の本心なのかもしれない。
そう思うとたまらなく愛しくなって、奥深くへと届くように強く腰を打ち付ける。
体位を変えて正面に向き合うと、真琴の足が遙の腰にしっかりと絡み付く。
離さないとでも言うように。
ほとんど真琴に羽交い締めにされて、その胸に顔を埋めながら腰を動かす。
絶えず呼ばれ続ける名前と愛の言葉に、身も心も芯から満たされていく。
何度目かの射精を終えた頃には真琴の秘部から遙の精液がとめどなく溢れ出していた。
前回とは違い、全く罪悪感を感じることのない幸福な快感。
こんなものを味わってしまったら……

またもや床での行為を終えて、ベッドに移動すると裸で横たわる。
真琴は遙にぴったりと寄り添って笑顔を浮かべている。

「ね、ハル……ずっと一緒に居たいね」

……そうだな」

安いドラマのワンシーンの様なピロートークにまたもや苦笑いしてしまう。

「ハルは本当にオレのこと好き?凛よりも?」

何故そこで凛が出てくる?と疑問に思ったが、やはりこれも、いつも遙と凛の関係を気にかけている真琴の本心なのだろう。

「あいつはライバルで……真琴は俺の恋人だろ」

……うん」

えへへ、と真琴がはにかむ。
こんなに素直な真琴が偽りで、あの嘘つきで臆病な真琴が本物だなんて信じられなかった。
どうして、何が問題で俺達は今の様になれないんだろうか?
催眠が解かれれば再び、真琴は俺を拒絶して、あの空虚な作り笑いを浮かべるんだろうか。
……嫌だ、もうあんな真琴は見たくない。
今、こうして俺のことを愛してくれる真琴と離れたくない。
遙はむくりと起き上がってスマホを手にする。
微かな電子音。
画面を何度も何度も何度もタップする。
狂った様な耳鳴り。
それはもはや警告音のように鳴り響くが、遙はスマホを真琴に向けて言い聞かせるように告げた。

……俺達は幸せな恋人同士で、何回もセックスしてる。催眠が解けたってその記憶は消えないいいな?」

空っぽの瞳の真琴がゆっくり頷くと、ブツリとスマホの電源が勝手に落ちた。
痛いほどの静寂。

「真琴……?」

恐る恐る問いかける。

「あ、ごめんね、オレ……

二人とも裸でベッドの中にいる状況に真琴は何の疑問も抱いていないようだ。

「すっごく気持ち良くて、意識飛んじゃってたかな」

そう言って照れた様に笑う真琴を見て遙は笑みをこらえきれなかった。

「俺も。真琴とセックスするの凄く気持ち良かった」

「っ……!もう、はっきり言わなくていいから!」

真琴は両手で顔を覆い耳まで赤くなった。
その手を掴んでどかし……瞳を覗き込む。
深い緑色の輝き。いつもの真琴の目だ。
「いつもの真琴」の、と思ってから遙は少し戸惑う。
本当の真琴は……


「あのね、凄く幸せだよ。ハル……

目の前の真琴の甘い囁きが、わずかな戸惑いと胸の痛みを中和していく。

【催眠とは、まず自分にかけるもの――

遙は頭の中に浮んだ言葉を搔き消す様に真琴の胸に顔をうずめた。













Hypnosis Free‼  


やはり催眠などで人の本質は変わらないものだ。
晴れて恋人同士になったはいいが、身体を重ねることのできない日々が続いていた。
真琴は真琴、ということなのだろう。

練習で疲れてるだろうから。
アパートの壁が薄いから。
明日は朝が早いから。
今日はもう夜遅いから。
挙句の果てに「アスリートにとって性行為は良くないものらしい」とのことだ。

少ないチャンスを何かにつけて断られて、遙は限界だった。
卑怯な手を使って現実を捻じ曲げてしまった引け目から強くは出られないし、セックスに至るまでの甘い触れ合い程度なら頻繁にできていたのでしばらくの間は何とか持ちこたえていのだが。
厳しい練習に、周囲からのプレッシャー。
じりじりと擦り減っていく心と身体を癒すことができるのは、恋人である真琴以外にはいないのに。
あの時の様に、素直な愛の言葉が聞きたい。
何より、その豊満な肉体のぬくもり……と考えた所でいよいよ限界を悟った。
遙の部屋に来てまで何やら書類仕事をしている真琴に問いかける。

……真琴、今日はセックスするだろ」

「え!?は、ハル、合宿から帰ってきたばっかりだし、少し休んだほうがいいと思うな……

予想通りの答え。
別に期待はしていなかった。
遙は溜息をついてからスマホを取り出して例のアイコンをタップする。

「今日、セックスするよな?」

……うん!」

一度使ってしまえば、後はその行為の抗いようの無い快感に罪悪感は薄れていく。
……何より、催眠にかかっている真琴は素直で可愛くて癒される。
遙は回数を重ねるうちに過激なことにも慣れてしまって、会えた日はどうしても誘惑に勝てずアプリを起動させてセックスをするようになっていた。

先程から熱心に遙の陰茎をしゃぶっている真琴に問いかける。

「口の中も気持ちいいのか?」

「ん……っ、むぅ」

真琴は片方の頬を、咥えた陰茎で膨らませて遙を見上げる。
その瞳で、違う、と訴えてから、唾液塗れの口を離してうっとりとした表情で答えた。

「あのね、ハルのここ舐めたりできるの、オレだけでしょ?だから嬉しくて」

口の中も性感帯になってしまっているのだろうと思っていたが、予想外の答えに胸がギュウ、っと音をたてた気がした。
独占欲の様なものなのだろうか。
催眠にかかっている真琴の素直な言葉はいつも凄まじい破壊力で遙の心を滅茶苦茶にする。
幼い印象の太眉に、エメラルドグリーンの垂れ目。
薄い桜色の唇で微笑む、世にも愛らしい顔に押し付けられている生々しい肉欲の象徴である男性器。
本来ならこの美しい顔の横にはフォトジェニックなスイーツでも並べておきたいところだが。
最初は見慣れた幼なじみが陰茎を咥えている姿は耐えがたかったが、次第にそのとてつもない背徳感が癖になってしまった。

「真琴、もういいだろ」

興奮が限界に達して、くらくらする。
遙が床に仰向けになると、真琴は尻尾を振る犬の様に嬉々として裸になった。

「ハル……っ」

遙の腰の辺りを跨いでしゃがみこむ、いわゆるM字開脚という状態は、本来の真琴なら見せたくないであろう部分が全て丸見えになる。
遙は頭だけ持ち上げてその様子をじっくりと見るのが好きだった。
引き締まった腹筋と細い腰。
折り曲げられた、張りのある太腿のラインと繋がる肉付きの良い大きな尻。
間に見える、使い込まれてぷくりと盛り上がったピンク色の秘部は期待と羞恥でヒクついているが、男性器は通常の状態のままだ。
真琴のそこはもう男性として機能していないのか、挿入でしか射精できなくなっていて、その射精すらも一度あれば良い方だ。
一刻も早く慣れ親しんだドライオーガズムを迎えようと、真琴は遙の股間をまさぐり、勃ち上がった陰茎の先を秘部に当ててぬるぬると滑らせて、熱い吐息をもらした。

「はぁ……っ、すぐイっちゃうから、ゆっくり、するね」


恍惚としながらも、じっと何かを我慢しているような表情。
下から見上げると、『谷間』とでも表現したくなるような豊満な胸は揺れないのが不思議なくらいだ。
男に性欲を抱かせるために作られたような卑猥な身体に、あまりに美しい造形
の童顔、少女のような甘い声。
『ネオテニー』……幼形成熟だったか、ふとそんな言葉を思い出す。
この状態の真琴を拒める人間が果たしてこの世にいるのだろうか?

「俺につかまってすればいい」

遙は上半身を起こして、真琴の手を自分の肩へと招いた。

……ハル、優しいから好き」

頬を染めた天使のような笑顔。
しかし下半身は今まさに、陰茎を咥え込もうとしているところだ。

「んく……っ、ふ……ぅ」

遙の両肩を掴んで、浮かせた腰をゆっくりとおろすと快感で力が抜けたのか足が震え始めた。
耐えきれず座り込むと、真琴の尻は遙の鼠径部に打ち付けられる形になった。
全体重をかけて遙の陰茎を根元まで飲み込んでしまい、真琴は口をぱくぱくとさせて震えている。

「あぅ、あ……っ、全部入っちゃった

「真琴……っ、重い……

遙は苦痛に顔を歪めて訴えると、自らの腰を反らせて真琴の尻を押し返してやる。

「やっ、んっ!それ気持ちいぃっ」

っ、早く自分で動けって……!」

「うんっ」

真琴は身体を後ろに反らせて床に手をつくと腰を動かし始める。
この体勢が『一番良い所に当たる』のだそうだ。
何度もそう喚き散らしていたのですっかり覚えてしまった。

「んっ、ンっ!」

鼻にかかった声が、たまらない快感を訴えている。
真琴が自らを気持ち良くさせるためだけに大きな身体を激しく揺さぶり、必死に腰を振って中に肉棒を擦り付けている、いわゆる騎乗位はいつ見ても圧巻だ。
遙も、座るか仰向けに寝そべるだけの全自動スタイルが嫌いではなかった。
あれこれ理由をつけなくても、真琴が自分を求めて気持ち良くなってくれる。
それが男として何より幸せなことだろう。
真琴は目を閉じて、動く度に沸きあがる快感に酔いしれているが、絶頂が近いのか等間隔で秘部をぎゅうぎゅうと収縮させ始めた。
最後くらいは自分がイかせてやろうと、目の前で震える両胸の先端を指で弾いてやる。

「あぅ、う……っ!」

予想していなかった突然の刺激に真琴の動きがピタリと止まった。

……どうした?」

「お、おっぱい、気持ち良くてイっちゃうから……

真琴はふぅふぅと息を整えて、先程まで仰け反らせていた身体を丸める。

「今までイきたいから腰振ってたんだろ」

遙は意地悪く笑って、ぷくりと膨らんだ肥大気味の乳首を下から指の背で擦りあげた。
弾かれて、ぶるんと音でもしそうなほどに勃起したピンク色の乳首はイヤらしいことこの上ない。
実際、擦る度にぷりぷりと上下に揺れる感触が心地良くて何度も擦り続ける。

「ん、んぉ……っ、おっぱいっ」

指の動きに合わせて体をビクビクと震わせては、足りない頭で意味をなさない単語を繰り返す真琴が可愛くて、遙はさらに激しく愛撫を続けた。
硬く芯を持った乳首を摘まんでぐりぐりと捩じる様に引っ張ってやると、真琴の中が短い痙攣を繰り返し始める。

「イクっ!おっぱい゛でっ、イ゛くぅ……っ!」

真琴は濁点のついたような声で情けない悲鳴を上げた。
顎が上向くほど身体を大きく仰け反らせて、はしたなく腰を突き出し全身を痙攣させている。
萎んだままの陰茎からたらたらと薄い精液の様なものが流れ出してきて、言葉通りの絶頂を知らせた。
その激しさに、気が付けば遙もあっという間に達してしまっていた。
真琴はふにゃりとした笑顔で遙の胸にもたれる。

「オレ、おっぱいでイっちゃったぁ……。おなかのナカも、ハルちゃんのであったかくて気持ち良くて……しあわせ……

……ああ、俺も」

遙は満たされた気持ちで、子供の様な真琴の頭を撫でてやる。
恋人とのセックスはこんなに幸せなのに。
一体何がいつもの真琴を、と考えた所で目の前の本人はすでに復活していた。

……まだまだ、たくさんセックスしようね」

今度はハルが来て、と真琴は遙の陰茎を中から引き抜き、ごろんと仰向けに寝転がる。

「えへへ……ワンちゃんみたいでしょ?」

真琴の言うとおり、無防備に腹を見せて両手足を折り曲げる姿はまさに犬のそれだ。
一瞬で再び勃起した遙はその身体に覆いかぶさる。

……犬は喋らないだろ」

遠い昔、真琴の幼い弟と妹……蓮や蘭としたおままごと。
その時と似たような台詞を放ってしまって苦笑する。

「んぅ……、はぅちゃ……ん」

真琴が首の後ろへ腕を絡めて口付けてくる。
遙の舌から必死に唾液を絡めとって飲み込んでは、自分の唾液を遙の口の中へと舌で押し込む。
ふと妙な味がして遙は思い出した。

「お前……さっきまで俺のしゃぶってたから……

「ん、ぇ……?オレの口の中、ハルちゃんの味になっちゃってる?」

くすくすと真琴が笑う。

「ふふ……たくさん舐めてたから、ハルの匂いもするかも」

複雑な気持ちで呆れる遙とは対照的に、真琴は興奮したように抱き付いてきた。

「ね、オレのカラダに、ハルの味と匂いつけて……ナカまで、全部っ」

耳元で熱く囁かれて遙は顔をしかめる。
……こいつは、いちいち人を煽らないと気が済まないのか。

「そうだな……下の口にも、たっぷり塗りつけてやらないと」

下卑た言葉に真琴は嬉々としていったん体を離してから、仰向けのまま内腿を自らの手で押さえつけて大きく開き、固定する。

「いちばん、奥に出してね……っ」

期待と悦びに蕩けてしまいそうな顔をごまかそうと必死に笑顔を作っている真琴の表情が脳下垂体を、視床下部を、前頭葉を刺激する。
脳のよくわからない部分から、よくわからない脳内物質がどばどばと溢れ出すのを感じた。
すでにぐちゅぐちゅになっている秘部に勢いよく陰茎を挿入する。
望みどおり、最奥を狙って正面から乱暴に腰を打ち付けると、真琴は狂ったように喘いだ。
絶え間なく続く激しいピストンに、先程までの余裕は消え失せ、涙と鼻水と涎に塗れた顔で息をするのがやっとのようだ。

「ふっ、ふぅ……っ、イ゛くっ、もぉ、イく……っ!」

「もう少し我慢しろ。奥にかけてやるから、それでイけよ」

遙に言われて、真琴は健気に何度も頷いた。
息を止めて、唇を噛み締め、必死に耐える。
奥に当たる感覚から気を逸らそうと真琴は固く目を閉じたがそれは逆効果で、より一層貫かれる快感が増しただけだった。
限界を迎えて意識を手放しそうになった次の瞬間、腹の奥にとてつもない熱を感じて仰け反る。
こじ開けられた肉壁の行き止まり、その壁のさらに奥に向かって熱い塊の様な粘液がびゅくびゅくと叩きつけられているのが確かにわかる。
真琴は信じられないといった様子で喚き散らして遙の腰に足を絡めた。

「すご、いっ!いちばん奥に濃いの……っ、ハルの、あつい……っ」

やがて、ドクンと全身が脈打つと、遅れてやってきた絶頂に頭が真っ白になって悲鳴のような声があがる。

「あ゛っ……、っ~~~!あ゛っ!」

絶頂で硬直した身体は、腹と尻だけがびくびくと痙攣している。
遙は真琴の腹を満足げに撫でてやった。

「俺の匂いが沁みつくまで、何回でもしてやる」



いつもの様にアプリの電子音が響く中、真琴の身体から情事の痕跡を消しながら、行為の最中に搔き消された疑問が再び浮かび上がる。
せっかく恋人になったのに、真琴がセックスを拒むのは何故なんだ?
恥じらい、だけでは説明がつかない。
ぼんやりとした表情の真琴に、最初の時の様に問いかけてみることにする。

「真琴、本当のお前はセックス……したくないのか?」

真琴はゆるゆると首を横にふった。

「したくないわけじゃ……ない」

「じゃあ、なんで」

遙の言葉を遮るように、真琴が続ける。

「自信が、ないし……ハルが何でオレのこと好きなのかもわかんない……。でも、ハルに触られるとすごく嬉しくて、変、なんだ。すぐ気持ち良くなっちゃうから……恥ずかしくて……。こんなのハルに知られたら嫌われる、って……

無表情のまま泣き出しそうな声で語る真琴の姿に胸が痛んだ。
結局のところ、自業自得だったというわけだ。
何も知らない真琴の体を催眠で滅茶苦茶にしてしまったのだから。
異様な変化に怯えるのも無理はない。

「胸も……なんか変になってて……あ、あそこも………っ、恥ずかしくてハルに見せたくないよぉ」

催眠にかかっているはずなのに、真琴はとうとう顔を真っ赤にして泣き出してしまった。

「俺のせいだ……悪かった」

猛烈な罪悪感がわきあがってきて、遙は思わず真琴を抱きしめた。
けれど、この謝罪と償いは催眠状態では意味がない。
こうして再び真琴の本心がわかった以上、するべきことは決まっているはずだ。

「真琴、今まで本当にごめんな。……愛してる」

鳴り響く電子音の中、遙は真琴の頭を撫でて口付けた。
催眠状態を見るのはこれが最後、そう決意して――



数週間後。
遙はまとまった休みをとって、真琴の予定も抑えた。
長い戦いになるかもしれないと思ってのことだ。
あの日から、様々な葛藤と罪悪感と……同時に奇妙な優越感も味わっていた。
催眠状態の真琴が告白した、体の変化。
確かに、悪戯しすぎて真琴の乳首は以前より大きくなっていたし……「あそこ」とはどちらのことを指すのか定かではないが、挿入を繰り返した秘部は形が変わってしまって、機能しなくなった男性器はサイズが小さくなったようにすら感じる。
知らない間に、気付かないうちに、少しずつ。
自分の体が淫らに変わっていくのは真琴にとってどれほどの恐怖だっただろう。
そしてそれを、何より見せたくない相手が遙だった。
その事実にたまらない興奮を覚えてしまう。
それは何より、真琴が自分を愛してくれているという証拠ではないか。
遙はそんな風に思って、一刻も早く本当の真琴とセックスしたくてしょうがなかった。
二人で食材を買い、軽くデート気分を味わってから自室に真琴を招く。
真琴はしばらくの間二人きりで過ごせることが嬉しくてしょうがないといった様子だ。

「たまにはオレが何かハルに作ってあげたいなぁ~。あのね、簡単なチョコケーキのレシピ見つけたんだ!」

無邪気にはしゃぎながら、買って来たものを冷蔵庫に詰め込んでいる後ろ姿を見て、遙は改めて劣情がわきあがるのを感じた。
真琴のオリーブブラウンの髪、長めの襟足から覗く首筋。
濃い緑色のサテン生地ジャケット、インナーに灰色のTシャツ。
黒のボトムスは細身だがゆるいシルエットで、ファッションに気を使っているのがわかる、今時の大学生。
スタイルの良さは折り紙付きで、この洋服の下を想像してみた人間が何人いるのかわからない。
だが、すべてを見たことがあるのは世界でただ一人だ。
もちろんその体の秘密を知っているのも……
一息ついた所で真琴をベッドに座らせ、早速切り出す。

……今回、お前とちゃんと話がしたくて誘った。何のことかわかるよな?」

「え……?」

驚いた顔は「わかっている」とも「わかっていない」とも見てとれる。
構わず遙は続けた。

「俺達、恋人なのにもうずっとセックスしてないだろ。……何が嫌なのかちゃんと教えてほしい」

真琴は一瞬、気まずそうなを顔してから上擦った声を上げる。

「ち、違うんだ!オレ、別に嫌じゃないよ!……ただ、ハルは忙しいし、大切な身体だし……

ハルの為を思って。
その言葉に遙はすかさず反論する。

「俺の為を思うなら受け入れてほしい。好きだから繋がりたいって思うのは……悪いことなのか?」

「ううん……っ、オレもハルが好きだから……!でもっ」

真剣な遙の表情と言葉。
息を飲むほど綺麗な蒼の瞳に、真琴はたじろぐ。
……あと一押し。
遙はさらに真琴に詰め寄っていく。

「真琴が必要なんだ……本当に心を満たしてくれるのはお前だけだから」

真琴は耳まで赤くなって、身動きひとつ取れずにいる。
切ない声で絞りだされる何よりも甘い言葉に、息ができないほど高揚してしまう。誰もが憧れる美しい英雄。そんな人間が恋人として切実に自分を必要としている状況に心臓がついてこない。
一方で遙は、完全に思考が停止している真琴をそのままベッドに押し倒すが、Tシャツを捲り上げたところで声があがる。

「やだ、見ないでっ、オレの、変だから!」

それを聞いて、やはり真琴が気にしていたのは身体のことだったのかと安堵した。遙は知らん顔で答える。

……好きな人の傍にいると、ホルモンの変化で身体が変わるって聞いたことがある」

……え?ホント?」

真琴が涙目できょとんとこちらを見る。

「ああ。……真琴が俺のこと好きって証拠だ。俺も真琴といると変になるし」

……そ、そうなの?ハルも……?」

これならイけそうだ、と遙は心の中で笑った。
……なんだ。催眠アプリなんて必要なかった。
優しく、じっくり、時間をかけて、少しずつ剥ぎ取ってやればいいだけだ。
甘い愛の囁きと、何よりも自分が必要とされているという使命感。
それを刺激してやれば羞恥心なんて簡単に吹き飛ぶ。

「真琴が可愛いから……いつも興奮してる」

「か……っ、わ……!」

ぶわっ、と真琴の肌が一気に赤みを帯びた。
今がチャンスとばかりに遙は畳みかける。

「好きな奴に触られたら気持ちいいのは当たり前だし、セックスで身体が変わるのも普通のことだろ。それに……恥ずかしい所も見せあえるから恋人なんじゃないのか?もう一回言うけど、俺にはお前しかいないから……拒まれると苦しい」

真琴はすでにノックアウト状態の恍惚とした瞳で遙を見つめる。
誰より愛する遙が、自分を苦しみから救ってくれた。
抱えていた悩みを受け止めて、全てを肯定してくれた。
真琴にはもう遙を拒む理由がない。

「ごめんね。オレ、くだらないこと気にして……全部ぜんぶ、ハルのことが好きだからで……おかしいことなんかじゃないよね」

「ああ。お互いに好きって証拠だ」

謝るはずが、逆に謝られてしまってはさすがに心が痛んだ。
けれど、服を脱ぎ始めた真琴を見て一気に熱がわきあがる。

「ね、ハル。……今まで出来なかった分、これからはたくさんしようね」

逸らされたエメラルドグリーンの瞳は澄み切っている。
痛いほどに伝わってくる、いじらしさと恥じらい。
恐る恐るこちらの反応を窺う健気さ。
これは本当の真琴にしかできない反応だ。
すでにアプリは削除してある。
あれが結局なんだったのかは永遠に謎だが、もう催眠なんて必要ない。


けれど。
その後の行為から、遙には全く余裕が無くなってしまった。
真琴の顔をロクに見ることもできず、キスのひとつもうまくできない。
――何もかもが思い通りにならない。
それこそが人を愛するということなのだと、改めて思い知った遙だった。