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hiro_kitaumi
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FF14二次創作
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温もりの名前
FF14の二次創作です。
時間軸は暁月のフィナーレ(6.0)クリア直後くらいを想定しています。
CP要素あり。光の戦士(ヴィエラ♂)×アリゼー。
「あたたかい場所で」を先にお読みいただけると幸いです。
オールド・シャーレアンの、ある日の朝。
なんだかとても温かい。
そう思いながら覚醒していく意識の端で、アゼルは花の香りを嗅いだ気がした。
重たい瞼を開けば、鼻先には柔らかな銀糸。
つまり、腕の中にアリゼーがいた。
「
……
ちょっ、待てっ、えええ?!」
「あ、起きたの? ごめん、私もちょっと寝ちゃってたわ」
そんな風に目を擦りながら呑気にしている場合じゃない!
大慌てで腕の中から彼女を解放して、ばっさばっさと布団を跳ね退けシュタッとその場に正座した。
「この度はまことに申し訳ありませんでした
……
!」
まずはともかく速やかな謝罪が肝心である。
情状酌量の余地はありますか?
「はあぁ
……
」
大きな溜息がひとつ。
またやってしまった。頭の後ろをかき混ぜながらアゼルは自責の念に苛まれていた。心なしか赤土色の耳が項垂れている。
いくつかの特殊条件が重なった上でしか発生しないはずではあるが、それにしてもこの悪癖だけはいい加減どうにかしたいものだと思いながら。
「はあぁぁぁぁ
……
」
もう一つ、大きな大きな溜息を吐き出すのだった。
そこでふと、あることが頭の隅をよぎった。
「あれ、アリゼーとは前にも同じことがあったような
……
なかったような
……
?」
あれはアルフィノだったっけ?
それを口にしなかったのは賢明な判断だろう。おそらく。
代わりに、並んでベッドの縁に腰掛けている彼女に疑問の視線を飛ばしてみたのだが。
「そうだったかしら?
……
っくしゅん!」
いたずらそうに笑ってとぼけようとしたところに、可愛いくしゃみの音がひとつ。
ここ、知神の都はイシュガルドよりもさらに北、北洋諸島に位置している。おまけに今朝は随分と冷え込んでおり、ひんやりと澄んだ空気が厚いカーテン越しにも伝わってきた。
彼女が風邪をひかないようにと、アゼルはまだほのかに温もりが残る掛け布団を小さな肩に被せてやった。
ありがと、と小さな声。
「で、どうしてこういうことになっているのでしょうか?」
全く記憶にございませんが。
そこは互いの名誉のためにもはっきりしておかねばなるまいと、些か某読みがちに問うてはみたが。
「どうしてって言われてもねぇ」
何故かジト目の視線がそこにはあった。
「あなた、まだ傷が完全には治っていないでしょう? 昨日の夜、見てたんだから」
人目の薄い場所で、アゼルが脇腹を押さえて苦しそうな顔をしていたのを。なのに、話しかけられた途端に慌てて平気な振りをしていて。
「それで、心配だったから。さっき近くを通ったついでに
……
様子を見に来てみたのよ」
彼女の声に次第に憂いの色が滲んでいくのを感じて、アゼルは何も言えなくなった。
「呼んでも返事がなかったから。ちょっと覗くだけのつもりだったわ。なのに、あんな寝顔をしてるんだから
……
」
どうやらひどく魘されていたらしい。
不安になった彼女は様子を窺うために眠るアゼルの元へと近付いた
……
ということだ。
「すまない」
彼女にはいつも心配をかけてしまっている。天の最果てから魔導船ラグナロクに帰還した時の、彼女が見せた涙は今も忘れられない。
こればかりは謝っても謝りきれないな。アゼルの胸に申し訳ない気持ちがこみ上げたが、今はそう言う他にはなかった。
「そうよ!」
気まずい沈黙が漂い始めたのを振り払うようにアリゼーが切り出した。その声色には少々わざとらしさが込められている。
「あなたってば、また鍵を掛けてなかったわ! いくらあなたでも寝る時くらいはちゃんと鍵を掛けなさいって、クリスタリウムの時にも
……
あ!」
そう、これは「正しく」二回目。
自ら墓穴を掘ってしまったことに気付いてしまい固まるアリゼー。
(知ってて、ほんのちょっとだけ期待してたなんて、絶対言えるわけないじゃない!)
何故か目を逸らしながら顔を赤らめていく彼女。それを直視するのはなんだか悪い気がした。
顔から外した視線の先で、襟元から微かに覗く白い項が美しいコントラストを描いている。
その時、ふと、胸の奥から何かが小さな声を上げたような気がしたが。
今はまだ、気付かなかったことにするアゼルであった。
「とにかく。いつまでもこんな格好で君の前にいるわけにもいかないし、着替えて顔洗ってくるよ。それから朝食を食べに行こうと思うけど」
「あ、ラストスタンド?」
「そう。まだだったら一緒にどうだ?」
「それってあなたの奢りかしら?」
「
……
この状況でそれ以外の選択肢はないな」
「ふふ、ありがと。ご馳走さま!」
「なのでこのことはフルシュノさん達にはくれぐれも内密に。オネガイシマス」
そんなやりとりがあったのが少し前。
ここはオールド・シャーレアン港湾に面した食事処、ラストスタンド。
小洒落た内装とコーヒーの香り、そして何より美味しい食事が、訪れる客達にひと時の幸福な時間をもたらしている。
アゼルはカウンターのディコンから二人分のコーヒーとホットサンドを乗せたトレーを受け取ると、店外に出てアリゼーが待つテラス席のテーブルへ向かった。
時刻はET8:30。
朝のラストスタンドは、港でひと仕事を終えた労働者や始業直前まで朝のひと時を楽しもうという学生たちで賑わいを見せている。なにしろこの街でまともな味にありつこうとしたら「最後の砦」であるここしかないのだ。
よって、二人が訪れた時に空いていたのは海に臨んだテラス側の角席だけだった。
晴れた空、太陽の光は今日も海と水瓶の神像を明るく照らしている
……
のだが。
「やっぱり寒くないか、ここ?」
ところどころに簡易的な暖房器具が置かれているようではあるが、屋外ではその効果も微々たるもの。海から吹きさらす風が肌を撫でていくたびにアゼルは肩を縮めそうになる。寒いのは苦手なのだ。実は。
「そう? 陽が当たっていれば案外平気なもんよ。まぁ私は慣れてるからっていうのもあるのだけど」
さらりとアリゼーがそう言うのは、きっと学生時代にこの場所で過ごす朝も多かったからだろう。周りに見える制服姿の学生たちも皆平気な顔をしている。
「あなたこそ大丈夫?」
真顔で聞いてくる彼女にアゼルは「大丈夫だ」と応えたが、その指先はさりげなく湯気の立つマグカップに触れていた。
そんな彼の様子を見て、アリゼーは母が昔言っていたことを思い出した。
『男の人が見栄を張っている時はね、そっと見守ってあげるのが女の子の器量なのよ』
たしかに母の言う事にも一理ある、が。
「はい、これ。あなたの分」
先ほど店員から貸りておいたチェックのブランケットをアゼルに手渡した。ファイアシャードが生地に織り込まれているおかげで、触れただけでも温かい。
あからさまに顔色を明るく変えて嬉しそうに受け取るアゼルが、よくやったと讃えるように右手の親指を掲げるのを見て。
(ここぞという時に弱点を補ってあげるのも仲間の器量なのよね!)
陽射しのような笑顔を浮かべて彼女も親指を返すのだ。
「で、さっきはうやむやになっちゃったけど、あなた体調は大丈夫なの? ちゃんと治ってるの?」
トン、と巻貝柄のマグカップを置く音が響いた。
「ああ、傷の方はまぁ大体は。みんなのお陰でね」
皿に添えられているキャロット・ラペを頬張りながらアリゼーの問いに答えるアゼル。ちらと彼女の方に目をやると「誤魔化されはしないわよ」とその目が強く語っていた。
それを感じ取りアゼルは観念した。ここは正直に言わなくては駄目だろう。
「時々、体の奥の方がまだ痛むことがある。内臓系はどうも回復術の効きが悪いみたいだ。でも大丈夫、しばらく大人しくしておけばそのうち治るさ」
心配かけまいと努めて明るく続けたつもりなのだが、アリゼーがこちらを見る目が何故だかますます厳しくなったような気がした。
「
……
あなたの大丈夫なんて、全然信用できないんだから」
ぽつりと呟く声が耳に痛い。
まいったな。アゼルの右手が頭の後ろあたりを泳ぎ始める。
「あー、もう!」
一声上げて、アリゼーは自分の皿からホットサンドを掴み取った。
「今さらあなたに無茶するなとは言わないわ。でもね、今度そういう無茶を通さないといけない時には、私を連れていきなさい! 必ず! 絶対に!」
アゼルのことを指差して「わかったわね!」と念を押すように言ってから、手にしたパンをパクっと勢いよく頬張った。
「あつっ!!」
想像以上にパンの中身が熱かったのか、慌てて水を流し込む彼女。その様子に思わず笑みが溢れた。
「わかった。それから
……
」
今度は謝るのではなく。
「ありがとう」
少しだけ間を置いてから「分かればいいのよ」との声。今度はゆっくりパンを齧る彼女に習い、アゼルも自分の分を手に取った。
あたたかい。
彼がそう思ったのは、ホットサンドの熱さのせいだけではないだろう。
食事を終えて口を付けたコーヒーは、しばらく外気に晒されていたせいか既に温もりを失いかけていて、少々酸味が強く感じられた。
「そういえば、あなたのアレって昔からなの?」
手元のカップにミルクを追加しながらアリゼーが問いかけてきた。
「アレとは
……
?」
カップを片手に頭を捻る。いくつか候補が出てきたが、すぐに今朝のことだろうと思い当たった。それから彼はため息をひとつ添え、額に手を置き空を仰いだ。
「ああ、アレか
……
」
「そう、アレ」
どうやら彼女に対しては二度もやらかしてしまっている。あまり好んで説明したいことではないのだが、粗相に対する詫びの意味でも少しは話しておかねばならないだろう。
アゼルはどこから説明したら良いものかと考えて、
「あれはまだ俺が幼気な仔兎だった頃
……
」
と話し始めたものだから、アリゼーが小さく噴き出した。失礼な、自分にだってそういう時代はあったのだ。
そう抗議したい気持ちを抑えて、アゼルは子供の頃の、雪の森での手酷い失敗のことをざっくりと彼女に説明した。
「
……
で、師匠に助けてもらってなんとか家には帰れたんだが。その冬はしばらく眠れない夜が続いたんだ。怖かったんだろうな。寒いのが。寝てても結構魘されてたみたいで、心配した母さんや姉さんが、しばらく一緒の寝床で寝てくれたんだ」
続ける内にだんだん気恥ずかしくなってきた彼は、眼鏡の山を押さえる振りをしてアリゼーの視線からそっと顔を逸らした。
「それで?」と先を促す声が少々つらい。
「そうすると不思議とよく眠れたのさ。たぶん温かいと安心できるんだ。それから、寒い日には無意識にそれを求めるようになって
……
その、いつしかアレをやってしまうようになりまして」
これでもだいぶマシになったのだとアゼルは主張した。
師と共に過ごし始めた頃、最初にやってしまった時のことは
……
あまり思い出したくはない。矯正するとの名目で行われた地獄のような
……
もとい、ありがたい指導の過程はなかなかに大変なものではあったのだが。ええ、とても。「根性入れろ、このお布団お化け!」と、どこからともなく幻聴が聞こえてくる。おかしいな。
当時のことを思い出して、しばらく遠くの空を眺めてしまうアゼルであった。
「そんなこんなでいろいろあって、次第にアレも落ち着くようになった。まぁ師匠と別れてからは一人の時期が長かったから、そういう事故も起こりようがなかったが。それがみんなと知り合って一緒に旅をするようになってから、何度かやってしまったな」
故郷の森を離れエオルゼアにやって来てから、最初に暴発したのはイシュガルドでアルフィノと宿を共にした時のことだったか。
あの時は大変焦ったし、しばらく彼と顔を合わせるたびに気恥ずかしさが残ったものだ。
その後もサンクレッド、アリゼー、ウリエンジェと続く度に恥ずかしさと申し訳無さが募り、いっそ穴にでも埋めてくれと思うほどなのだが。
――
しかし考えてみれば、彼が大人になってからの「アレ」の被害者は、もれなく全員暁の仲間たち。
とどのつまり、自分は彼らのことを
……
。
「アゼル?」
しばらく黙り込んでしまったアゼルに、訝しそうにアリゼーが声をかけた。
彼女の青い瞳を、今度はまっすぐに見据えて彼は言う。
「そうだな。誰かが、みんなが隣にいると思うと、やっぱり安心するんだろうな」
これは偽らざる彼の本心。
無意識下でも求めてやまない温もりは、何にも変えることができない大切なもの。その温かさの名前を、彼はもう知っている。
それを今さら言葉にする必要はない。だから、ここは笑い話で済ませてしまおう。
「またアレをやらかすことはあるかもしれませんが、アリゼー様並びに暁の皆様におかれましては懲りずに今後ともよろしくお願い致します」
冗談めかして一息に言い、頭を下げた。
ついでに一つ言っておかねば。
「あと一応言っておくが、男が寝ている部屋にホイホイ入って来ないように! 何が起きても俺は責任取れません!」
「う、それはそうだけど
……
であればしっかり鍵を掛けることね! そうだ、今度はあなたが寝る前に確認しに行こうかしら!」
アリゼーも譲らないと言わんばかりに腕組して、互いに互いを見つめ合う。
噴き出したのはどちらが先のことだったか。
それを合図にして今度は二人で笑うのだった。
「さてと、あなたは今日は何をするの?」
「そうだな、いろいろ落ち着いてきたし、たまにはのんびり過ごすのもいいかもな」
天の果ての道程と決着については、帰還後すぐにアルフィノ達が哲学者議会と関係各署へ報告を済ませていた。戦いで大きな怪我を負ったアゼルはしばらくの間療養を余儀なくされたが、日常生活に支障が無くなった頃合を見計らい、議会には当事者としていくつか補足の報告を行った。
その後は近隣で世話になった人達へ少しずつ挨拶に回り、最近はラヴィリンソスの方にも足を延ばすようになっていた。
身体の自由が利くようになった途端についつい動き回ってしまうのは冒険者の性だろうか。ここのところは何だかんだと忙しない日々が続いていたが、そろそろ一日ゆっくりするのも良いかもしれない。
体調もまだ万全とは言えない。休息は必要だ。
早く体を治さなくては。周りには、思っている以上に自分のことを見てくれている人がいるのだ。彼女のように。
もう心配はかけたくない。
「だったら」とアリゼーが口を開いた。
「せっかくだから今日はもっといろいろ話しましょ! さっきみたいなあなたが子供の頃の話とか、他にも聞きたいし」
「そんなに面白い話はないけどなぁ」
「いいの。私のことはお母さま達が随分とバラしてくれちゃってるし、じゃないと不公平だわ!」
軽く唇を尖らせながらそう言う彼女に、アゼルは笑みと一緒に降参の意を示した。
「わかった、それじゃ行こうか」
空いた食器をトレーに乗せて椅子から立つ。折り畳んだブランケットも小脇に挟んだ。
「どこへ行くの?」
「アゴラへ買い出し。お菓子とかいっぱい買ってさ、いつかみたいに分館のホールで広げて話そうか。ガレマルドへ行く前だったか? あれ、結構楽しかったからさ」
「いいわね、それ!」
立ち上がったアリゼーが、アゼルの小脇からブランケットを引き抜くと「返してくる!」と言いながら、青のエプロン姿を探して駆けていく。
その背を視線で追いながら、アゼルはいつの間にか寒さを感じなくなっていたことに気が付いた。
なるほど。陽の当たるここは、たしかに思ったよりも温かい。
「あれは
……
アリゼーとアゼルだね」
グ・ラハ・ティアと共にアゴラを訪れたアルフィノが、賑わいの中に見覚えのある二人組を見つけて言った。
様子を伺っていると二人はどうやら一緒に買い物をしているようで、アゼルが抱えた紙袋にはパンや菓子が次々と詰め込まれていく。
「随分いろいろ買ってるみたいだな。手伝った方がよくないか?」
隣のグ・ラハはそう言うのだが、アルフィノは微笑みながらそれを制した。
彼の視線の先では二人が笑い、時には怒る振りや困る振り。それからまた顔を合わせて二人一緒に笑い合う。
それはまるで、くるくると色を変える万華鏡のよう。
楽しそうに、嬉しそうに、ひらひらとじゃれ合う妹達を優しい瞳で見守りながらアルフィノは言った。
「声をかけるのは、もう少し後にしようか」
「ああ。時間を置いて、あとでホールへ行けばご相伴に預かれそうだ」
合意は得られた。
そうして、二人と二人は雑踏の中をそれぞれ違う方へと歩き出す。
知神の都の一日が始まる。
今日は楽しくなりそうだ。
END
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