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ナガレ
2021-03-13 20:28:34
2326文字
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寝起きが悪い豊前の話
たまに寝起きが凶悪になる豊前について。当本丸の桑名は豊前の顔面に容赦なく右ストレートを打ち込める子。カップリングは無いつもりだけど、ぶぜまつ狂が書いてるので微妙。
それはとある朝の事だった。
松井江が眠い目を擦りながら朝食会場である広間に入ると、広間にはすでに篭手切江と桑名江の姿があった。
「おはよ~」
「おはようございます」
「おはよう
……
」
松井は朝に弱い。篭手切の隣に座って朝食に手をつけ始めたものの、意識はまだぼんやりとしており、うつらうつらと船を漕ぎながら手と口が動いている状態だ。これは毎朝の事なので篭手切も桑名も気に留めていない。うっかり味噌汁を引っかけてひっくり返さないように遠ざけたりするぐらいだ。
「
……
あれ?豊前がいない」
朝食を半分ほど食べた所でようやく目の覚めた松井は、一振り足りない事に気がついた。江の者で一番の早起きは桑名で、次が篭手切もしくはここにいないもう一振り
――
豊前江だ。
遠征でもない限り、豊前は松井よりも早く来ている。寝坊したと言って廊下で会う事はあっても、松井より遅く来る事は今まで一度も無かった。一体どうしたのだろうか。松井の顔が曇った。
「僕、ちょっと見てくる」
刀剣男士も肉体は人の子だ。もしかしたら体調を崩しているのかもしれない。そう考えた松井は、ごちそうさまでしたと言って箸を置くと立ち上がった。
「松井、どこ行くの?」
「豊前の部屋」
「え!あの、それはやめておいた方が
……
」
松井の言葉に篭手切が焦った声を出した。篭手切は豊前の事が心配ではないのだろうか。松井は心配でならないというのに。
「部屋で行き倒れになっているかもしれないし、心配だ」
「ですが
……
」
「篭手切、松井が行きたいって言ってるんだから行かせてやろうよ。単なる寝坊だと思うけど」
「それならそれでいいんだ。じゃあ、行ってくる」
空になった膳を持って広間を出て行った松井を見送る篭手切と桑名。松井の姿が見えなくなると、篭手切は桑名に詰め寄った。
「桑名さん!」
「松井は知らないと思うよ。でもね、洗礼っていうか一度現実見た方がいいと思うんだ。松井は豊前を神聖視しすぎだし、豊前も松井の前だとかっこつけすぎ。相互理解のいい薬になる」
「そういうものなのでしょうか
……
」
篭手切と桑名の二振りは、豊前が起きてこない朝がどういうものかを知っている。しかし、つい最近顕現したばかりの松井はまだ知らない。松井は豊前を心配していたが、篭手切は松井の事が心配でならなかった。
「
……
豊前、起きてる?」
豊前の部屋の前。松井は部屋の外から声を掛けた。中から返事は無い。これは本格的に体調を崩しており、起き上がることすらままならない状態ではないのかと松井は危惧した。一度様子を見て、熱があるなら熱冷ましの薬を貰ってこよう。
もし桑名の言うようにただの寝坊なら、朝ご飯が無くなるよと起こしてあげればいいだけの話だ。
「入るよ」
松井が静かに部屋の障子を開けると、部屋の真ん中より少し奥に敷かれている布団がこんもりと山になっているのが見えた。何となく豊前は大の字になって寝ているというイメージだったが、少し想像とは違った。
「大丈夫?薬もらってこようか?具合悪いなら看てもらった方が
……
」
「うーん
……
」
近づくと中からくぐもった声が聞こえてくる。どうやら、起きてはいるみたいだ。熱があるなら布団に籠もっているのはよくない。松井は「布団捲るよ」と声を掛け、こちら側に背中を向けている豊前が目の辺りまでしっかりと被っている掛け布団に手を掛けて、少しだけ持ち上げた。
――
その時だった。
「
……
うるせーぞ」
地を這うような低い声。隙間から射殺すようにぎろりと睨まれ、松井は思わず固まった。
「触んな」
放っておいてくれ。そのうち勝手に起きるから。起こしに来たのはどうせ桑名だろうと、豊前はぞんざいにその手を払い除けた。ぺしんと軽く乾いた音がする。布団を被り直そうとした時、払い除けた手が目に入った。
――
爪の先が青い。豊前は一瞬にして覚醒した。
「その、起こしてしまってすまなかった。まだ寝てていいから
……
っ!」
まさに脱兎。起こしに来た相手が誰なのか気づいた豊前が布団を撥ね除けて起き上がるよりも早く、松井は部屋を出て行った。起き上がった豊前は、やってしまった
……
と片手で顔を覆い、呻いた。
豊前はいつも決まった時間に目が覚めるし、目覚めもそれほど悪くない。だが、たまに体内時計が狂うのか起きられない朝がある。桑名曰く「その凄みだけで遡行軍を倒せる」ほど凶悪らしい。と言われても、目が覚める前の事だから豊前には自覚が無い。
そんなこんなで、起きてこない朝は自力で起きるまで放置されるか、朝から元気な桑名が叩き起こしに来るかの二択だった。まさか松井が起こしに来るとは思わなかった。しかも具合が悪いのではないかという心配と善意の気持ちで来てくれたのだ。申し訳ない気持ちで一杯だ。
「
……
謝んねーと」
桑名相手ならいいというわけではないのだが、相手が松井だと思わなかったのだ。松井には絶対に見せたくなかったのに。この「時々寝起きが非常に悪くなる癖」は早急に直したい。どうやったら直るのかさっぱりわからないが、直さないとまずい。
というか、桑名も篭手切もどうして松井を止めなかったんだ。特に桑名。起こしに来るから知っているだろうに。悪いのは起きられない自分だという事は重々承知で、豊前は内心で八つ当たりをした。
「どう説明すっかな
……
」
あれこれ言うのは後からにして、まずは誤解を解かねばならない。豊前は松井を探す事にした。
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過去に洗礼を受けた時、篭手切は松井と同じような反応をし、桑名は臆せず物理で対抗して起こしたという裏設定。
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