マロビ
2024-06-26 23:31:57
8292文字
Public リョ三
 

ハジメテを三井さんと

【SD/リョ三】
高校時代。
セフレになるリョ三のきっかけのはなし。
⚠️リョ→彩描写あります
⚠️性行為前後の描写があります

ハジメテを三井さんと


 三井サンの手ってこんなに冷たいんだっけ。
 切羽詰まった状況でそんなことを思ったのは普段のイメージと違ったから。堀田さんに『炎の男』なんて呼ばれているとは思えない冷たい手にゾクッと背が粟だった。
 それが緊張からくる冷たさだったと気づいたのはかなり後になってから。
 この時、そのことに気づく余裕があれば、この後のオレたちの関係にも違う道があったかもしれない。
 でもオレより上手うわてな三井サンはそんな素振りを見せなかった。
 裸のままオレの下で薄っすら笑みを浮かべてオレを煽った。
「宮城ィ、ビビってんなら目ぇつむってろ。そしたら女相手にすんのと変わんねーだろ」
 そんな三井サンに「ビビってねーし」と呟くだけで精一杯だった。
 これがオレと三井サンのセフレ関係の始まりの日。
 その日から三井サンとのセックスは日常になった。

 グレていた三井サンがバスケ部に戻ってきて、一緒にバスケするほどオレの中に歓喜が湧く。そして中学の頃に出会ったキラキラした少年の面影が重なる。
 ずっと昔から三井サンに対して憧れのような感情があったのかもしれない。
 それでもこんな関係になるなんて想像もしていなかった。
 きっかけは茹だるような暑さの中で、三井サンが滑らせた軽口をオレが拾ったせい。
 IHが終わってオレがキャプテンになり、新生バスケ部が始動した夏の昼下がりだ。
 バレー部が練習試合をするとかで午後の体育館が使えないために午前中で部活を切り上げた。
 午後練がない事を忘れて親に弁当を作ってもらっていた三井サンとオレは、練習が終わると中庭の隅のベンチで弁当を食っていた。
エアコンの無い部室は暑すぎるからって中庭に出たのに、中庭ものぼせそうなほど暑かった。
 バスケ雑誌をめくりながら弁当を食う三井サンが「午後はあそこのストバス行くか?」って言ってくるから「この暑さで野外のストバスって正気っすか」って答えた。
 そう答えながらも、この人が相手だと行く流れになるんだろうなーとか考えていた。
 なのに。
「あ、やっぱダメだ。今日オナニーする日だし」
「は?」
 三井サンの言葉に耳を疑う。
「こういう日でもないと限界までできねーだろ。IH前くらいからずっと練習で疲れてたから、そんなタイミングなかったしな」
「それは……オレもそーだけど」
 普段なら「だからってオナニー宣言なんてすんなよ」と思っただろう。……この時はあまりの暑さに正気じゃなかった。暑さで茹だった思考は斜め上の疑問を口からスルスル漏らしていた。
「限界までって何回くらいするもんなんすか?」
 オレが話にのった事が嬉しかったのか、三井サンがニヤリと笑った。
「空っぽになるまでやるんだけどよ、まあ5回が限界だな」
 限界までオナニーするなんてチャレンジはしたことがない。「へえ」って答えながら週に一回程度のオレは枯れてんのか? って少し不安にもなった。
 でもその不安は次に三井サンが落とした発言によって吹き飛んだ。
「宮城はオナニー足りてねーんじゃねえか? よく練習中に勃起してるだろ」
「はあっ!?」
 いや、してねーしっ! ふざけんじゃねーぞ、三井!
 反射的に罵りそうになったのを堪え、にっこり笑った。笑って流そうとした。
「ははっ、なに言ってんすか。してないっすよ? ジョーダンはやめろよ」
「いや、お前のデカいから服の上からでもすぐわかんだよな。うちは女マネもいんだからよォ。もうちょっと気ィ使えよ」
 三井サンの悪魔のようなアドバイスに血の気が引いた。
 この人マジで言ってる。
 え、じゃあマジで練習中に勃起してんの? 全然自覚がねえのに?
 何か上手い言い逃れはないかと考えても、落とされた爆弾の威力が激しく『練習中に勃起』の文字がクルクル回りながら頭の中を占拠していた。
「そういや、お前ん家ってあんまりオナニーできる環境じゃねえんだっけ? 午後オレん家くるか? 今日は夜まで親いねえし」
 三井サンが『ストバス行くか?』と同じノリで誘ってくる。
 正気だったら断っていた。
 その時どう答えたのか覚えていないけど、その後三井サン家に行ったんだからオレは正気じゃなかったんだろう。
 初めは一緒にオナニーするだけだった。それが三井サン家に行く回数を重ねると「もっと気持ちよくなるから」って安易な理由で行為はエスカレートしていった。
 お互いのモノを触り合うところから愛のないセックスに至るまで。
「いや、でもケツを掘られるのはムリっすよ!」
 ドン引きしたオレに、ベッドの上にいた三井サンはしばらく黙った後、少し顔を赤らめてみせた。
「オレはケツの経験あるから、ヘーキだぜ?」
……へ?」
「昔の女に前立腺マッサージされたことあんだよ。その手の仕事してる女で。アレに慣れると前だけじゃ足りねーってのすら、ある」
 グレていたころの髪の長い三井サンが頭に浮かんだ。見目の良い不良と風俗嬢の年上の彼女、そんなセットをすぐに想像できた。
 普段なら知り合いのセックスなんて想像したくもない。でもこの時ばかりは年上の女に後ろを責められてぐちゃぐちゃに乱れる三井サンを想像していた。
 それがあまりにもエロくて。……オレとシてもそーなんの? って思った時にはもうダメだった。
「それじゃ……試しに一回だけ」
 オレのバカ。一回で済むはずねーだろ。

 高二の夏は瞬く間に過ぎ去った。
 初めての時はガチガチに緊張したのに、何度もするうちに「こんなもんか」ってストンと腑に落ちた。
 恋愛感情がなくてもセックスはできる。
 オレの体は自分で思っていたより簡単に昂るし、三井サンは遊びに誘うようにオレをベッドに誘う。
 だから快感を得るためだけに三井サンと繋がった。童貞だったオレは馬鹿になったようにセックスに溺れていた。
 夏休みが終わって学校が始まるとお互いに忙しくなり頻度は減った。それでも無性に人肌恋しくなると、人気ひとけの無い場所を選んでは三井サンの肌に触れた。
 久しぶりに三井サン家に遊びに行った時、いつものようにセックスすると、その後しばらく三井サンが動かなくなった。
「ねえ三井サン、寝ちゃった?」
 ベッドの上でうつ伏せの後頭部を撫でると、ビクッとその体が跳ねた。
 なんだ、起きてんじゃん。
「寝たふりしてんの?」
 戯れに三井サンの背中にのしかかると「重てぇなクソッ」って暴言を吐きながらオレの下でもがいた。
 しっとり汗ばんだ背中は少しひんやりしていてくっつくと気持ちいい。思い返せば、ガキの頃は兄のソータの背中にくっついているのが好きだった。
 今も昔も自分より大きな背中に惹かれるらしい。
「どーしたんすか。バテるの早いっすよ」
「うるせえ。ベッドでヤったの久しぶりだったろ。まだ体が慣れてねえんだよ」
「あーだから――
 行為中の様子を思い出して納得したが、「いつもより声デカかったもんな」という感想を言うのはやめた。からかいに受け取られたら喧嘩になる。
 オレをベッドの上に落としながら仰向けになった三井サンが汗で湿った前髪をかきあげた。
「宮城」
「ん?」
 オレを見る三井サンの目がイタズラっぽく笑った。その手がゆっくり三井サンの筋肉質な下っ腹を撫でた。
「ここ触ってみろよ、まだ奥で痙攣してんの。お前がお構いなしにデカいの奥まで突っ込むから」
 ニヤッと笑った三井サンの全部がエロすぎて、湧き上がる嗜虐心を「三井サンが悪いから」と言い訳する。
 溜まった性欲を解消するためのセックスから、相手を征服するためのセックスに変わっていた。

 ――オレはいつの間にか心の中で引いていた一線を超えていた。
 これ以上、三井サンに心を寄せてはいけないという境界線。
 その一線を越えるたびに歪んだ感情が膨らんでいく。
 ただスッキリするためにしていた行為の中に、三井サンへの執着心が生まれていた。
 オレとの行為を「久しぶり」っていった三井サンにホッとする。オレ以外のセフレはいないと確かめて。オレは身勝手な独占欲を抱いていた。
 経験豊富な三井サンが何股してようと、セフレのオレに口出しする権利はないのに。

「宮城、中庭の時計塔のところで待ち合わさせな」
 体育館が使えなくて部活がない日の放課後、そう三井サンに言われた時は気持ちが浮き足だった。
 きっといつものようにストバスへ行こうって話だろうけど、あんな風に言われたのは初めてだったから、放課後デートに誘われた気分だった。
 でも三井サンの指定した時計塔のモニュメント下には、三井サンじゃなくてアヤちゃんがいた。
「あ、リョータ! 買い出しに付き合ってくれて、ありがとう。重いモノがあるからひとりじゃ大変なのよ」
 制服姿のアヤちゃんはジャージ姿の時よりも女らしさが増す。そんなアヤちゃんのにっこり笑顔にキュッと胸が甘く締めつけられた。
 ……っていうか、三井サンは? 遅れてんの?
 見回してもその姿はない。アヤちゃんの買い出しには付き合いたい。それこそ放課後デートみたいだ。
 でも三井サンとの約束を無断で破るわけにもいかない。せめて一言断ってからじゃないと。
 オレの焦りを感じ取ったのか、アヤちゃんが顔を曇らせた。
「あれ、違った? 三井先輩が助っ人を頼んだの、リョータじゃないの? 買い出しに行くって言ったら、三井サンが荷物持ちに男手ある方がいいから後輩に声かけてくれるって言ってくれたんだけど」
「え?」
 ピンときた。
 アイツ、オレとアヤちゃんの仲を取り持とうとお膳立てしたんだ。
 それならそうと、アヤちゃんが相手だって言ってくれたらいいのに。あんな曖昧な言い方するなんてサプライズのつもりだったのか?
 浮かれていた心がモヤモヤしたものに覆われた。
「リョータ? 用事があるなら私の方はいいのよ?」
「あ、いや行くよ! 三井サンが詳しく言わなかったからビックリしただけ。オレは暇してるからさ」
「そう?」
 少し不思議そうな顔でオレを見たアヤちゃんが、すぐに笑顔を浮かべて「それじゃ早く行こ。本当は今日もストバスとかで練習したかったんでしょ」って言うから、アヤちゃんには見抜かれてるなと苦笑いした。でもストバスよりアヤちゃんとのデートが優先だ。
 隣を歩くアヤちゃんのふわふわした長い髪が風に揺れて良い匂いがした。部活中は縛っている髪も今は解いて流していた。
 それを抑える指は細く、短く整えられた爪も綺麗な桜貝のようだ。
 美人で気立の良いアヤちゃん。男なら好きにならないはずがない。
 隣を歩いているだけで浮かれた気分になる。
 アヤちゃんの綺麗なアーモンドアイと目が合った。
「三井先輩と何かあった?」
 浮かれたところにビシャッと冷や水を浴びせられた。
「なにって……
「最近、一緒にいること多いでしょ。楽しそうだし、前よりもお互いに遠慮がなくなったっていうのかな。春のことを思い出すとすごい変化よね。だからふたりで遊びに行ったりしてるのかと思って」
 周りからはそう見えているなんて。自分が変わった自覚はなくても、その原因には覚えがあった。
 焦る心を見抜かれたくなくて「ストバスで1on1頼んだりしてるからかな」と明るい声で答えた。
 アヤちゃんはそれで納得してくれたのか「そういえばシュートに課題があるって言ってたわよね」と口元に指を当てて思い出したように頷いた。
 そんなポーズをすると、アヤちゃんの肉感的な唇と細い指に自然と視線が向く。華奢で女性らしい容姿を綺麗だと思う。
 初めはその容姿に一目惚れして、付き合いが長くなるほどに芯の強い性格に惹かれていった。
 オレの好きな人、好きになって当然な人。
 ……三井サンとの関係をアヤちゃんには悟られたくない。
 三井サンを散々に抱いておきながら、アヤちゃんを想う心は純粋なままでいたい。
 そんな自分がたまらなく汚く、身勝手に思えた。

 部活に行く前、体育館そばのトイレで個室から出てきた三井サンと出くわした。
 手洗い場で並んだ三井サンがニヤつきながら鏡越しに「じれってぇヤツ」と声をかけてきた。そのからかう口調にイラッとした。
「なんすか」
「彩子と買い出しに行ったんだろ。お前らなんも変化ナシかよ」
「余計なお世話なんだよ。オレは今の関係でもいいし、部活での立場もあるし、アヤちゃんの気持ちを大事にしたいっていうか――
「ごちゃごちゃ考えてる間に、他の男に取られんぞ」
…………うっせーな」
 アヤちゃんと付き合いたいって思っていた。本気で。
 でも三井サンにアヤちゃんとのことをお膳立てされるのはたまらなく嫌だった。
「三井サンこそ、恋人欲しーとかないんすか」
「あぁ、ねーな」
 即答かよ。
……もし、可愛い子に告白されたら、オレとはもうする必要ないんじゃないすか」
 手の水気をピッと払った三井サンが、眉間を寄せて訝しむ目でオレを見た。
「だから彼女はいらねーって。おめーとヤってるほうが色々楽だろ」
 喜びにゾクッと体が震えた。指先にまで甘い痺れが走る。
 ただ都合がいいだけで選ばれた相手。それでも自分は三井サンの中の特別な位置にいる。ピリピリとくすぐったい指先を誤魔化すために握りしめた。
「なんだ、おめーヤリたくなったか? もう部活だからヤんねーぞ?」
「んなわけねーだろ。キャプテンが遅刻する訳にはいかねーよ」
 邪推する三井サンを乱暴に肘で押してトイレから出た。
 スポーツバッグを肩にかけ、三井サンの隣を歩きながら体育館に向かう。隣の横顔をこっそり見てため息をついた。
 オレはなんでこの人に、こんなに執着してんだろ。
 アヤちゃんとはいい感じだ。この前の買い出しの時も話が弾んだし、暑いからって途中でふたりでアイスを食べた。こんなのもうデートやし。
 なのに、バスケとセックスしかしてない三井サンにも執着して、その言動に一喜一憂している。
 オレより背はデカいし、態度もデカいし、声もデカい。そんなむさ苦しい男よりアヤちゃんのほうが100倍良いだろ。……そう思うのに。
 ジワジワと三井サンへの感情が膨らんでいる気がする。
 その感情はアヤちゃんに対するものとは全然違う。ねじれてドロドロとした感情。それでも言葉にするなら「好き」と表すのかもしれない。
 でも三井サンはオレを牽制する。オレが三井サンのことを好きにならないように。
 オレは三井サンといる時にアヤちゃんの話をしない。でも三井サンは何度もアヤちゃんの話をする。それは一線を越えるなって警告のようで。
 三井サンはオレがいつでもアヤちゃんのほうへ行けるように地面の上の境界線を指さしている。
 優柔不断なオレはそんな三井サンを複雑な気持ちで受け入れるしかない。
 部室への廊下を三井サンと並んで歩いていた時、甲高い女生徒の笑い声が耳を突いた。
 開いている窓の外から『ルカワくん』とハッキリ聞き取れてピンときた。
「おぅおぅ、親衛隊のやつかぁ?」
 同じようなことを想像したのか、ニヤッとした三井サンが窓から外を覗いた。
――……からじゃ、ルカワくん見えないよねえ。人多いし、よく見えるところは親衛隊が邪魔でさあ。今日は向こう側に回る?』
『そーしよ。人多すぎだよね。せっかく見にきてもあんまり人が集まると扉閉めちゃうしさあ。こないだもちょっとしか見れなかったし、ありえなーい』
 てっきり親衛隊かと思ったら別の派閥らしい。IHに行ってから見物人が増えていた。特に流川は顔が良い上に全日本ジュニアにも選ばれている。一目見ようと近隣の学校の女生徒まで入り込んでくることがあった。
『見物人多いと集中できないとか言って閉め出してんじゃない』
『あー言いそう、あのキャプテン。チビなのに態度デカいっていうか、口うるさいっていうか』
 あれ? なんか雲行きが怪しくなってきたか?
『キャプテンはルカワくんで良いじゃん。バスケ部で一番チビなのにキャプテンってマジ? 良さがわからんし』
『わかるー! キャプテンって感じしないよね。噂じゃすごい女好きで手当たり次第に告白してフラれたって』
『え、マジムリ。それで彩子へのあの態度? それあからさますぎっしょ。童貞しぐさすぎ。そりゃフラれるし』
 オイオイオイオイ!
 ……オレって評判悪いんだな、はは。
 自分の陰口を盗み聞きしてしまうなんてついてない。
 酷い言われように腹は立つけど、盗み聞きしてしまったこっちも悪い。さっさと立ち去ろうとしたとき、三井サンの横顔が険しいことに気づいた。
 ってか、真っ先に「宮城、あんなこと言われてんぞォ」ってニヤニヤ笑いながらからかってきそうな三井サンが静かな時点で気づくべきだった。
「これ持ってろ」
 三井サンがスポーツバッグをオレに預けてスタスタ歩き出した。
「え、どこに――
 三井サンが窓を飛び越えたと思ったら、中庭の手洗い場の蛇口に繋がったままの長いホースをズルズル引っ張って歩いていく。
「え、ちょ、みついさん……っ!?」
 慌ててスポーツバッグを両脇に抱えながら廊下の扉から外へ飛び出した時には、女生徒の悲鳴が上がっていた。
 中庭の木立のベンチの前にはびしょ濡れの女生徒とびしょ濡れの三井サン。手に持ったホースの先からはドボドボと水が流れ落ちていた。
 『酷い!』『なにすんのさ!』ってキレている女生徒に向かい合った三井サンの顔がこっちからは見えないけど、聞こえる声にはドスが効いていた。
「テメーらみたいなのに見学こられるとメーワクなんだよ。ピーチクうるせえくせに何もわかってねえガキが! うちのキャプテンの悪口言うなら試合見てから言え! パスもドリブルも上手え神奈川屈指のすげえチビなんだぞっ! バスケ部期待の星なんだからな!」
 アンタがそれいう? 一年の時のオレに『誰が期待してるって? このチビを』なんて言って突っかかってきたアンタが。
 抑えられない笑いが込み上げた。
 女生徒は気まずくなったのか文句をそこそこに切り上げて校舎の方へ逃げた。
 三井サンはびしょ濡れのままホースを地面に投げ捨てた。
「オイこれ、ホースの先を絞ったらオレまで飛んできた。おかげでこのザマだぜ」
「格好悪いすよ」
 ウソだ、格好良い。思ったらすぐ行動に移せるアンタは格好良い。行動力があって物怖じしないアンタは、中学生の頃からオレの憧れだ。
 そんなアンタがオレのことを認めてくれていた。そしてオレの尊厳を守ろうとしてくれた。
 その気持ちが嬉しすぎて、笑いながら泣けてくる。
 三井サンが好きだ。
 また心の境界線を踏み越えてそう思った。
「え、オイ宮城っ!? 笑ってんのか泣いてんのかどっちだ!?」
 慌てふためいた三井サンに校舎の影で抱き寄せられた。誰に見られるかわからないのに。
 濡れたシャツに顔を押し当てるとヒヤリと冷たい。濡れたシャツにまぎれて、涙が本当に出ていたのかすら自分でもわからなくなった。
「あんな言葉、間に受けんなよ。あいつらは何もわかってねーんだからな。宮城はもう童貞じゃねーっての」
 その無茶な理論に小さく笑った。
 珍しく優しい三井サンが抱き寄せたまま頭をポンポンと叩いた。
「今日オレん家来るか?」
 それはつまりセックスするかという合図。
 でも今はそれとは違うモノを三井サンから欲しいと思った。
「それよりキスして欲しいです」
「オレに甘えんな、バカ。そーいうのは女の子にやってもらえ」
 あっさりフラれた。
 慰めのセックスはよくて、慰めのキスはダメ。そんなところに三井サンのセフレ境界線があるらしい。
 オレはアヤちゃんが好きだ。そして三井サンも好きらしい。
 優柔不断なオレは三井サンに好きだという資格も、言われる資格も持っていない。
 それを見抜いているから三井サンはセフレの境界線を踏み越えない。オレが踏み越えても見て見ぬふりで目を閉じる。

 ……自分が苦しくなるだけだ。

 わかっていながら、少し上にある唇に唇を押しつけた。
 三井サンは思った通りの反応をしたけど。
 オレのハジメテを全部、三井サンに押しつけた。




     END