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いを
2024-06-26 21:50:20
1971文字
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刀神
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輪を切って
スミのこと。
・雪月さん【higasa_onink】
お借りしています。
雪月やスミの周りの古い人間が一向に「思い通りにいかない」ことをどう思っているかなど、想像にたやすい。
スミからすればこちらが黙殺すればするほど、いらだちを増しているのだろう。ある意味とても分かりやすい家だ。
雪月が巌那家当主になった今、家は一刻も早くスミを巌那家に入れさせたいのだろう。
けれどそう易々と思い通りにならない
――
しない、と言ったほうがいいだろうか。そう、しないのが彼女なのだとスミは考える。
みずみずしい、緑色の肌がゆらりと揺らいだ。
スミがそれを再度、見る。長細い葉。白っぽい葉脈。真っ直ぐな茎。花はすこし黄色めいていた。名前の知らない花だった。
花壇に植えられるでもない、鉢に、狭そうにくるまってただそこに置いてあるだけの花。
背が高い茎。それに顔を近づける。濃くて純粋な香りがした。
甘い、のか、苦い、のか。スミには分からない。
「何しているの」
背中から声が聞こえてくる。花から顔をはなして、後ろを向くと雪月が立っていた。
「花を
……
」
――
花を見ていた。そう囁くと、雪月は一度かるく頷いた。
黄色かかった花は廊下にぽつんと置かれているだけで、ほかの仲間は見当たらない。まるでだれかが置き去りにしたかのような不自然さだった。
「どうしてこんなところに置いてあるのかしらね」
雪月が鉢を見下ろすと、長い黒髪がさらりと肩に流れる。
「分からない。誰かが捨てたんだろうか」
「捨て猫、捨て犬ならぬ捨て植物ね
……
」
雪月の胸あたりまである細長い植物。名前が分からなければどうしようもなかった。花屋に聞けば分かるだろうか。
ただ、土に栄養剤のようなものが刺さっていた。よく見ると柔らかそうなプラスティック製の入れ物の中はからのようだ。
「持ち主がいるかもしれない」
「そうね。そういえばアンタの家、やけに植物多いけど
……
」
「庭にたくさん生えている」
「この植物の名前、知らないの?」
「これは見たことがない植物だ。
……
おそらく南国の植物だと思うが
……
」
くわしくは分からない。そう呟くと、雪月は確認するように時計を見た。
「そういえば私、アンタ呼びにきたんだった。お呼びよ。婿殿」
雪月の表情はいつもどおりだった。スミは眉を動かそうとしたが、力が入りきれずに動くことはかなわなかった。
「まだ、婿では
……
」
「そうね。でも分かってるでしょ、最近うるさいのがいるって」
ぼんやりと窓の外を見る。リノリウムの廊下から壁を隔てた直後に木々がうねっていた。4月の緑は濃い。
けれどもう4月も終わる。あと1週間もすれば5月だ。
「アンタの周りも、私の周りもね」
あけすけな視線、巧みな言葉。それに血のにおいと、ヒトと神を殺す罪。あいまぜになって、たくさんの色が混じり合って、最終的に黒になる。
おのれの髪の色だ。
澄んだ黒ではない。薄汚いと罵れるような色だ。
澄み。
墨、炭。
彼女がスミを呼ぶとき、どんな字を当てるのだろう。
「
……
でも、俺は」
口の中がすこし乾いた。まるでこの奇妙な花に、からだ中の水分を吸い取られたようだと馬鹿なこと思う。
雪月の目が、視線が、閉じたくちびるが、その言葉の続きを促した。
「俺は、後悔していない。お前の許婚になったことを」
そう、と彼女は息を吐くように言った。
「
お前の家の
・・・・・
とは言わないのね?」
「そうだな。言わない。そんな、傲慢ではない」
言葉の端々が重たく感じる。質量をもった言葉のようだった。
「
……
家同士が決めたことだが」
視界のすみで、彼女の指先がゆれる。
だから言わなければならない。
「家同士の繋がりは大事だと思う。それでも雪月、お前の中に溜め込んだ怒りをどうするのか、どうすればそれを少しでも取り払えるのか、俺には分からない。でも知りたい。
……
だから、俺のことを利用しろ」
雪月はまっすぐスミを見上げている。
言いたいことはそれだけではないだろうと。
「利用し尽くしたあとでも俺を必要とするなら、俺はお前のとなりにいる。
……
俺、もそれを望んでいる」
「
……
どうしたの?」
彼女はわずかに驚いた様子で、首をかしげた。
「お前は俺のことを気に入っていると思ってくれているようだったから」
――
少し、安心した。
エイプリルフールの嘘。いや、嘘、の逆。
「意外と根に持つタイプ?」
雪月はすこしいじわるそうにくちびるの端を上げてみせた。
「あ、いやそういうわけでは
……
」
「冗談よ。さ、行くわよ」
スミの背中をとんと叩くと、雪月は名を知らない植物に背を向けた。頷き、彼女のとなりを歩く。
「また次に来たとき、あの花が置いてあったら栄養剤を刺そうと思う」
スミの言葉に、くすりと雪月は笑った。
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