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めぐみ
2024-06-25 20:16:24
3083文字
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髪にまつわる話(轟百)
ビビリ玉ヘアスタイルのイケメン
―
寝てらっしゃる。
放課後、八百万が職員室から教室へ戻ってくると隣席の轟焦凍は静かに眠っていた。
本人曰く、授業を聞いていればテストで苦労しないらしい。八百万は座学の勉強にもかなり力を入れて取り組んでいるから、少し羨ましい(一応、八百万のほうが座学の成績は良いが、容量良く勉強をこなす轟に一種の憧れを感じるのだ)。
轟はその言葉の通り授業中に居眠りなんてしないし、普段大人びている彼がこうして机に突っ伏して寝ているのが珍しくて、つい八百万はその姿に見入ってしまった。
(轟さんって、案外可愛らしい寝顔ですのね)
轟の席の前に立って眺めてみる。
机と腕の間から少しだけ覗くその寝顔は、少しあどけなさも残る。
なんだか自分だけが轟の秘密を知ってしまったようで、八百万は少しの優越感とこそばゆさを感じた。
教室はすっかり茜色に染まり、下校時間も近付いているのだから起こしたほうが良いことは承知だが、つい、じいっと観察してしまう。
(そういえば、轟さんの髪色は珍しいですわ)
「個性」が溢れる時代。その影響で生まれながらに一風かわった髪や肌の色である者は多いが、2色に、それもちょうど真ん中で分かれる髪色は珍しいものであった。
半冷半燃の個性を持つ彼は、その個性を表すように左は赤、右は白にきっちり分かれた髪色を持つ。
きれいだ。赤と白という真逆の二色はどちらも艶めいて美しい。よくよく考えればおかしな髪色かもしれないが、轟のそれはそう思わせないし、むしろ素敵だとさえ思わせる。
轟の髪は夕日の色を反射してきらきらと輝いているようで、一層美しく見える。
その輝きに惹かれるように八百万はゆっくり右手を伸ばした。
さらり、と柔らかな感触が心地好くて、ついそのまま何度もすかすように指を通してしまう。
(
―
そういえば、確かにぱっと見た限りだと半分に色が分かれていますが、分かれ際はどうなっているのでしょう)
見たい。そう思ってしまった。
一度湧いてきた疑問を無視出来ないのは自分の良いところでもあり悪いところでもある。そう自覚しつつも、このとき八百万は自身の好奇心を抑えることが出来なかった。
丁度色の分かれ目であるつむじのあたりに手を動かし、さらさらと撫でてみる。
本当に、きっちり、真ん中で分かれている。八百万の髪は黒一色だから、興味深くてつい観察してしまう。
「
……
ん、」
―
びくり、と轟の肩が動いた。
それと同時に八百万の心臓も跳ねて(轟の肩の動きよりも非常に大きな動きだったと、八百万は思う)、慌てて手を引っ込めた。
「お、お目覚めですか?」
「ああ
…
、寝てた。今何時だ」
「18時を過ぎたところです。もうすぐ下校時間ですわ」
バレていないか。バレていませんように。興味の赴くままに髪に触れていたが、随分と大胆な行為だった気もする。ドキドキと激しい鼓動を鎮めつつ、誤魔化すために八百万は会話を続ける。
「それにしても、轟さんが居眠りなんて珍しいですね」
「ああ、先生に個性のコントロールの練習に付き合ってもらってたんだ。左の細けえ調節は苦手だからな。ちょっと疲れちまって、寝てたらしい」
「そうでしたのね」
ぐっと伸びをしながら轟が答える。
彼が眠っていたのには理由があったらしい。確かに、入学から体育祭まで轟が左の個性を使用するところは見たことがなかった。
八百万もそのことには気付いていたが、どういう理由なのかまでは知らない。
ただ、体育祭以降轟の雰囲気は随分と柔らかくなったし、人付き合いも良くなったと思う。
もともと、右の個性だけでも充分強いし、左だって八百万が見る限りでは問題なく使いこなせているように見えていた。
轟の向上心に関心してしまう。同時に、さらにまだ強くなれるのかと、その底知れなさを羨ましくも思ってしまった。
同じ推薦入学枠で、隣の席。八百万は轟を常に意識してきた。
彼は決断力と戦闘力を兼ね備え、しかも期末試験では八百万の意見を聞く柔軟性まで見せた。
知識量こそ轟に負けないとは思っているが、ヒーローとしての実力は彼に敵いそうにないと思っている。
(わたしもまだまだ頑張りませんとね)
羨望と尊敬、そんな想いを轟に向けているが八百万とてトップヒーローを目指すもの。常に下学上達。彼に追いつき、いつかは肩を並べて闘えるようなヒーローにならなければならない。
轟も努力しているのだから、自分はその倍以上努力したい。
「
―
それで?」
「え?」
「それで、お前はなんでこの時間までいたんだ?しかも俺の髪触ってるし」
「へ!?あの、その、えーっと
……
」
いけない。考えごとをしている間に消え去っていた恥ずかしさがじわじわと蘇る。
というか、やはり気付かれていた。遠慮なく触っていたから、無理もないのだが。
「私は先生に質問をしていて、この時間になったんです。轟さんの髪を触っていたのは
…
、きれいだと、思ったんですの。轟さんの髪。どちらの色も美しくて、きらきらしてて」
しどろもどろになりながらも八百万は素直に答えた。轟の反応を伺ってみると、彼はきょとんとした顔でこちらを見ていた。
(ああああ!言わないほうがよかったかしら。何言ってるんだとでも言いたげな顔ですわ
…
。というか、正直に答えすぎたでしょうか。思い返せばずいぶん照れくさい答えをしてしまったようにも思いますわ)
「
…
ありがとな。初めて言われたよ、そんなこと」
少し間を置いて返ってきた言葉に八百万は思考を中断させる。
轟の表情があまりにも優しくて、ドキリともう一度大きく鼓動が鳴った。
「昔は嫌いだったんだ。特に左の能力を表したようなこの赤がな」
「そうなんですか?こんなに綺麗なのに
…
。そういえば、前のヒーロースーツではすっかり隠していましたものね」
「ああ。でも、左も自分の力だから向き合おうって決めたんだ。それからスーツも変えた」
「そうだったんですね
…
」
何があったのだろうか。聞いてみたい気持ちがむくむくと湧き上がる。しかし、踏み込むべきでない気もする。轟の表情が少し複雑そうに見えたからだ。
今はまだ、聞くべきときでないのだろう。それに、先ほど自分の好奇心のままに轟の髪を触って後悔したばかりである。
いつか聞けるだろうか。だが、ここ最近の轟の様子を見ていると、聞ける日もそう遠くないのではないかと思う。
かわりに、べつの質問をぶつけた。
「
…
今は、どうですか?左は好きになれそうですか?」
「
…
そうだな、考えたことがなかった。だが、八百万が綺麗だと言ってくれたから好きになれそうな気がする」
「そうですか」
自分の言葉がきっかけになるだろうか。なんだか嬉しい気持ちが込み上げてきて、八百万はつい笑った。轟も少し笑っているように見えた。
そのとき、下校を促す放送が教室に流れ出した。
「
…
帰るか」
「はい」
荷物を持って、2人並んで帰る。別れるまでにいくらか話せるだろう。なんでもない、他愛のない話でいい。轟ともう少し一緒にいたいと思った。
「
…
ああ、そうだ」
ふと、轟が話かける。
「どうしたんですか?」
「いや、前から思ってたんだけどな、お前の髪も綺麗だ」
―
まったくこの人は。
自分も人のことは言えないが、ストレート過ぎる。前からっていつからなのだろうか。再びうるさくなった心臓をごまかしながら、八百万はありがとうございますと告げた。
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