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6/23伊剣ワンドロワンライお題「父」

6/23伊剣ワンドロワンライお題「父」をお借りしました。
セイバーを嫁に迎えるために策謀巡らす宮本父子&巻き込まれ高尾。被害者セイバー。
性別はどちらでも。ちゃんと伊剣になる。
セイバーが伊織の剣鬼を知ってて言及もする、本編舞台のなんでもありメタメタハッピー時空と思いねぇ。
江戸時代にはまだ拍手の習慣なかったみたいです?
Pixivには既成事実の一夜追加版があります。not18禁。


「セイバーくんを、伊織くんのお嫁にほしいと思うのです」

 宮本武蔵は時おり、思いついたままを口にする。いや、口にしているように見える。
 それは本人による熟考ののち出た言の葉かもしれないが、聞く周りの人間には、突然なにかを云い出したと映るのだ。
 そして今、吉原三浦屋の高尾太夫の居室でそれは起こった。

 太夫である高尾にはなに不足ないよう、豪華な一室が与えられている。
 客は彼女と一晩ともにするまで数度は通い、彼女に見定められて初めて床入りとなる。それが許されるだけの美貌と働き、そして価値と立場があったのだ。
 壁の棚には豪奢な皿やら置物が趣味よく飾られ、 ふすまには鮮やかな牡丹が描かれている。
 ぴんと張られた障子戸からは柔らかな日差しが注ぎ、室内を明るく照らしていた。
 時が来ればこの部屋には禿たちがやってきて、彼女が客を迎える支度を、手伝う手はずになっている。
 だが、今日はまだその刻限ではない。
 部屋には主人の太夫と武蔵、そして武蔵を訪ねてきた伊織の三人。珍しいことにセイバーとは別行動である。

……武蔵ちゃんがまたなにか云い出したねぇ」

 武蔵の奔放さに慣れている太夫は、また始まったとばかりにため息をついている。頬に手をあて首を傾げるその姿は絵に描いたようで、華やかなかんざしがしゃなりと音を立てた。
 その太夫から言及されし武蔵はこの突飛とっぴさゆえか、今まで幾度か困ったことになりはした。が、そこは英霊。類稀たぐいまれなる能力ですべてを切り抜けている。いや、斬り抜けている。物理で。

「いやだってぇ、ふたりともめちゃくちゃかわいいじゃない?! そのふたりが夫婦めおとになって、ずーっと一緒にいてくれたら、眺めていられて眼福というか、伊織くんになにかをしたい師匠心というかー……いえ、そうでした。伊織くんは私の弟子であり養子。そして家長はこの私。いうなれば父。子の縁談を持ってくるのも、家長である父の役目と思うのです!」
「本音がただ漏れてるよ武蔵ちゃん。そこは心にしまっといておくれ。まぁそうさねぇ、家長といえば家長だから、世話をするのもわからないでもないけれど」

 たしなめこそ入れるものの、武蔵のその勢いに、常識人の太夫は流されつつあった。
 そう、此度の武蔵はバーサーカーとして現界している。水着霊基の武蔵に近い。宮本伊織と名を偽り、聖杯で飯を食ったあの勢いがそこにはあった。
 こうなると止める者がいないのがバーサーカー陣営。行くところまで行ってしまうと思いきや、今日この場にはもうひとり、この男がいたのである。

「師匠、お心遣いはありがたく存じますが、この話しはセイバー本人の意思が絡みます。本人抜きで話を進めるのは得策ではないのでは、と。彼は家の格式や釣り合いとは無縁の立場ゆえ、ここで問題になるのは本人の意思のみ。勝手に進めたと思われては、うまくいくものもいきますまい」

 頼もしい。
 あまりにも頼もしい静止の言の葉がそこにはあった。
 つね日ごろ若旦那をはじめとする、突飛な言動をする英霊に絡まれている者だけあって、面構えが違う。
 目上の意向を立てつつも、やんわりと考え直せと伝える技法は、助之進あたりは泣いて教えを乞うだろう。

「なるほど、そこは理解しました。ひとつ尋ねますが、伊織くんはセイバーくんをお嫁に迎えるのは……いいのね?」
「願ってもないこと。師匠に勧められずとも、いずれ、とは思っておりました」 
「excellent! さっすが我が弟子我が息子! ではここに、セイバーくんを宮本家のお嫁に迎えよう作戦会議第一回を開催します!」

 ぱちぱちと武蔵の拍手だけが太夫の部屋にこだまする。
 太夫と伊織は〝えく……なんと?〟と問いを返し呆気にとられている。
 手を叩くこの行為に、どのような意味があるのかもわからない。だが、武蔵の〝はいみんな拍手拍手ー!〟という勢いに押されたのか、遅れてふたりの拍手も加わった。
 
 伊織はこの流れに懐かしさを覚えた。同じなのだ。いきなりよくわからない無茶振りが飛んでくるこれは、己を育てた男の武蔵と。
 ならばとりあえずは同じことをやっておけばなんとかなる。
 そも、作戦会議で手立てを講じたとて、それでセイバーが嫁に来てくれるのかもわからない。
 しゃしゃり出られてうまくいかなかったら目も当てられんと、内心穏やかではなかった。
 
「それでは作戦案ですが――
「師匠、この件ですが俺、いえ私にお任せいただけないでしょうか。ひとつ妙案がございますれば」
 
 先ほどからの武蔵の言からするに、このままでは引っ掻き回されて台無しになるとの危惧がある。
 ここは先んじての一手がないと、己の思惑なぞ飛んで消えるのではあるまいか。
 なれば先手必勝。いつかはと練り上げていた計画を、実行に移す時である。
 
「ほう、してどんな?」
「お耳を」

 嫌らしい悪巧み顔の武蔵のそばへいざり出て、こそりと耳打ちをする。

「ほうほうなるほど。聞いた限りでは難しいように思えますが、勝算はいかほど?」
「七割は」
……
「自由な白鳥しらとりを手元にたぐり寄せるのです。そのためには〝わるいおとこ〟にもなりましょう」

 伊織はさらりとそう云うと、己の席に戻り武蔵の可否を黙って待った。
 その佇まいは気負いもなく凪いでいる。されども一本、すると決めた芯だけがぴんと張っていた。

「セイバーくんを一番よく知っているのはあなたね。よろしい、お任せしましょう」
「ありがとうございます。必ずやご期待に応えてみせます」

 武蔵の裁可を得て一礼すると、伊織はそのまま迷いなく立ち上がる。

「もう帰るのかい?」
「忙しなくて申し訳ない。急ぎセイバーのもとへ。善は急げというからな」
 
と笑って云うがこの男、まったく目が笑っていない。
 性急なその様子に、太夫はどこか危うさを覚えてしまった。
 こうと決めたら迷いがない、そういう男だと武蔵はよくわかっていたが、さすがにこの勢いは前のめりすぎていささか怖い。
 セイバーが絡むとこうなるのかと、武蔵をしてかける声もないまま、伊織は三浦屋をあとにした。
 

「武蔵ちゃんいいのかい、行かせちまって。あのお侍様がなにを企んでんだか知らないけど、こういう話しは急ぎすぎてもうまくいかないんじゃないのかい? 目が真剣すぎて怖いくらいだったよ」
「あはははーちょうどいいタイミングに、宮本家のお嫁作戦が効いちゃったみたいね。まぁなるようになるでしょ。たぶん悪いようにはならないわ」
「そうだといいんだけど……連れのあの子が、大変な目にあうんじゃないかとさァ」
「え、そっち?」
「そうさ、そっちサ」

 ここは花街吉原だ。男女の機微だの駆け引きが、いやおうでも目に入る。ゆえに太夫には、そのさまが想像ついた。
 
「がっつかれてへとへとになるんじゃないかねぇ、あれは――
  
 ◇◇◇

 翌日、セイバーを連れた伊織が太夫と武蔵を訪ねてきた。
 すっきりした顔で晴れやかな笑みを浮かべる伊織に対し、セイバーは覇気がなくぼんやりとしている。いつもはぴんと立つ前髪さえ垂れ下がり、陽の光が目を眩しいのか、しぱしぱと目をまたたかせている。
 太夫の部屋へと通されたふたりは、武蔵の前に並んで座した。

「師匠。昨日 さくじつの件、ご報告にあがりました」
「予想よりも早くて引く……いえ、驚きました。まぁ聞かなくてもあなたたちの顔を見ればわかりますが、ここはあえて聞きたいと思います。して、結果は?」
「は。成就、でございますれば」

 云うと伊織は深々と頭を下げた。
 
「天晴れ我が弟子! セイバーくんは伊織くんから話は聞いているわね? 伊織くんのお嫁さんとして宮本家に来てくれる、ということでいいのかしら?」
……こうなっては致し方なかろう。私はな、嫁でなくともよかったのだが、そのぅ、イオリがな?」

 だいたいいつもいきなりすぎるのだ、とぶつくさむすりとそう云うと、セイバーは唇をつんと尖らせ、隣の男に目を向ける。

「そうだな。俺が望んだ。そう望んで既成事実を作った。いくらでも〝あやつのせいで〟と言い訳に使ってくれ」

 不機嫌顔で言い訳を述べるセイバーに、ふわりと優しい笑みを返した。
 セイバーの不機嫌などどこ吹く風である。今日の伊織はめっぽう強い。

「きせっ?! きみなぁ! そういうことは人前で云うな! ムサシ! タカオ! 今のは忘れろ! べ、別になにもなかった! イオリから嫁にと乞われだけだからな!?」

 慌てふためくセイバーはふたりに釘を刺し、改めて伊織に向き直る。

「だいたいイオリは私を甘やかしすぎだ。なんだ言い訳とは。そう云いたくなることもあるやもしれぬが、私とてそのつもりがなければ、その……よし、とは……

 最初は勢いのあったセイバーだが、次第に言の葉の勢いがなくなっていき、しまいには頬を染め俯いてしまった。
 そのさまを見て伊織は、さらに笑みを深くする。目をすがめ眩しそうに見やる伊織のおもてには、深い情愛の色が浮かんでいた。
 
「そうか。それを聞いて安堵した。おまえは自由だ。そこを好ましく思っているのに、そのおまえを留めようというのだ。迷いがないわけではないんだよ」

 初めて聞く伊織の迷いに、俯いていたセイバーは弾かれたように顔を上げ、真っ直ぐに伊織と目を合わせた。

……先ほどから云っているではないか。その気がなければ受け入れないと。きみのいう自由な鳥はなイオリ、君の隣を選んだぞ」 

 そう告げるセイバーの顔は、困ったような泣きたいような不思議な顔だ。
 世にいう愛しくてしかたがないとは、こんな顔をいうのかもしれぬ。
 セイバーと伊織は言の葉はいらぬとばかりに視線を交わし、互いの心を混ぜ合わすように黙した。


 ふたりから報告を聞いていた武蔵と太夫は、先ほどから黙ったままだ。
 いや、黙っているのではない。ただ口をはさめなかっただけなのだ。眼前で繰り広げられる、伊織とセイバーのこのやりとりに、圧倒されて割り込む隙がない。
 目の前からぽんぽんと、武蔵のいう〝はーとまーく〟とやらが飛んでくるようで当たって痛い。痛い。

「武蔵ちゃん。あたしたちはここにいてもいいんだろうかねぇ。いや、いないとよくないね。このままだとおっ始まっちまうよ。そのくらい、たいへんな惚気を見せつけられているのだけど」

 そう云い武蔵に目をやれば、そこには涙を流す大剣豪の姿が。

「so cute……あまりにもcute……うちの息子夫婦が尊い……焚きつけてよかった……なんなら昨日の長屋の壁になりたかった……

 整った顔を両手で覆い、天を仰いで涙するその姿はただの親馬鹿の姿である。
 いや、最後のひと言は親の範囲を越えてすらいる。

「武蔵ちゃん?! 泣くほどかい?! あと本音は心にしまって? しまっといておくれね!?」

 ここで太夫は武蔵の企みに気がついてしまった。宮本家の作戦会議というのになぜ、部外者の自分が加わり進行したのかを。
 武蔵は己がこうなることを予想していたのだ。たしかに頼りの武蔵がこの有り様では、自分が仕切るしかないようだ。
 まったくもうと、太夫はひとつ嘆息すると、仲睦まじいふたりに向き直る。

「仲が深まったのはよろしいことだけど、あんたたちはこのあとどうするおつもりだい? 祝言を挙げることになるのかね?」
「いや、ひとまずはこのまま儀を進める。これと思う望みができたゆえ――盈月を取る。そして、残す――

 伊織は太夫と武蔵を見据え言の葉を告げた。
 盈月への意志を人前で、ここまで明確にしたのはおそらく初めてだ。発せられた言の葉に部屋の空気は瞬時に張り詰め、場を支配する静寂が痛いほど。
 万感胸に迫って泣いていた武蔵の涙も消え、その瞳は伊織の視線と交わっている。

「ふうん? 願いを聞いても?」
「セイバーを伴侶とするのです。末長く現界してもらわねば俺が困る。そのために盈月を使う。そういうことです」

 なるほど、伊織の云うことは理にかなっている。
 セイバーという英霊の現界を維持するのだ。喚び人である伊織との繋がりのほかに、魔力で満ちた器は喉から手が出るほどほしいだろう。
 静かに願いを告げる伊織は、いつもと変わらぬ人好きのする穏やかな顔だ。
 それゆえ逆に、薄寒うすらざむいものを感じてしまう。
 
「イオリ、きみの一番ののぞみはそれではないはずだ。そうだな?」
「ふむ、お見通しか。おまえの見立てどおりだよセイバー。だがな、俺はこうとも考えている。おまえが日毎ひごと相手をしてくれるのなら、この乾きもあるいはおさまるのではあるまいか、と」
 
 
 
 ――――――――いま、なんと?
 
 
 
 いまなんと?
 この男はいまなんと云った?
 
 セイバーは理解が追いつかず、呆けた顔のまま言の葉を反芻はんすうする。
 
〝おまえが日毎ひごと相手をしてくれるなら〟
 
 なんの? なんの相手だ? 
 ナンノアイテダ?? 
 日毎ひごと? あれを? 
 毎日あれをすると???
 
「イ、イオリ!? きみ! な、なにを云っとるんだ!? 日毎ひごと!? 毎日あれをやると!? 体が持たんわ精力お化けが! 昨夜私がどんな思いを! やめてくれと云ったのにきみときたら、きみときたら!!」
 
 昨夜の情事を思い出し、恥ずかしいやら嬉しいやら頭にくるやら、セイバーは顔を真っ赤にして乱れに乱れた。 
 なにせ昨夜の伊織は酷かったのだ。
 〝だめか?〟と尋ねられて体を許した。
 いま思えばこの尋ね方からしてずるかった。
 憎からず想っている男にこう乞われ、否と答えるそのすべを、セイバーは持ち合わせてなぞいないのだから。
 最初はよかった。
 ところがもう一度、もう一度と強請ねだられて、もうやめてくれと乞うても乞うてもれられた。
 ああいうときの宮本伊織は、はなはだ悪どく性質たちがわるい。
 おかげで今日は体は痛いし視界が黄色い。陽の光すら目に染みる。
 だいたいどこかおかしいのだ。体液の交換に粘膜の接触なぞ魔力の供給手段でもある。なのになぜ伊織が元気になって、サーヴァントの自分が疲れているのか。普通は逆だろう。
 そんな状態になったのだ。それを日毎夜毎ひごとよごとに求められてはこちらが持たぬ。
 
「無理!! 無理だからな毎日とか! もう少し控えめにしろ! でないとおかしくなってしまう!」
「そうか、残念だ。おまえと度々 たびたび死合しあえるならば、この渇きも満たされようと思ったのだがな」
「そう死合しあ――ん??」

 またも聞き捨てならぬ言の葉が出た。
 いま、なんと?
 度々 たびたびするのはなんだって?
 度々 たびたびするのは死合いだって剣だって??
 度々 たびたびするのは目合まぐわいではなく死合しあ――
 
 此度は瞬きすら忘れ、目を剥き食い入るように伊織を見た。
 俯き気味にて口元を手で覆い、表情を隠し読ませない。ただ、重く伸びた前髪からのぞいている瞳は細められ、嬉しいような笑っているような――
 
「いやすまなかった。昨夜のことは面目次第もない。おかしくなってしまうのは見た……ごほん。いや次からは控えめにするとしよう。ちなみにどちらも本音だぞ?」
「このっ! こんのーーーー!! きみ! わざとだな!!!!!」
「わー! セイバーくんタンマタンマ! 剣しまって! 伊織くんも好きな子にいじわるしないの! あやまりなさーい!」
 
 三浦家二階の一室から、吉原の空にひときわ大きな声が響き渡る。
 
 情がもつれて揉め事なんぞ珍しくもないこの界隈に、近ごろ増えた噂がひとつ。
 なんでも惚れた遊女かわいさに、揶揄からかいすぎて、一発くらった二本差しがいるらしい。
 へえ、お侍をはっ倒すたぁ剛毅な女もいたもんだねぇ。
 いやねぇ、くだんの二本差しはそんなところもかわいいと、身請けなすってよろしくやってるんだと。
 なんでぇ、そりゃ破れ鍋に綴じ蓋ってところじゃねぇか。
 どっとはらい。