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八上
2024-06-23 16:52:05
2379文字
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霞とクロサワの話 食べ歩きデート
急に始まって急に終わる
いっぱい食べる君たちが好き
それは今度一緒にどこかに行こう、という話をした時のことだった。
「食べ歩きしたい!」
霞の希望で次の休みのデートの予定が決まった。ジェームズも食べるのは好きである。その後はスムーズに事が進んだ。
早朝からやってきた評判のパンケーキ店は、朝食の時間帯でも行列ができていた。20分ほど待ち、店内に入ると蜂蜜のような甘い匂いがした。
注文したパンケーキがテーブルに届く。苺と生クリームの乗ったパンケーキは霞の分で、プレーンに近いバターと蜂蜜のかかったものがジェームズの分だ。分厚くて柔らかそうな小ぶりのパンケーキが、お皿にそれぞれ三つずつ乗せられていた。
「ひとつ食うか」
「いいの? あ、じゃあ私もひとつあげる〜。クリーム乗っけて
……
」
ひとつずつ仲良く交換して食べた。パンケーキは本当にふわふわで柔らかくて、噛まずとも口の中で溶けるようで美味しかった。
今日あらかじめ決めていたのは朝のパンケーキと予約を取った夕食だけ。他は散歩しながら気になったものを食べよう、と言っていた。
「あ! クレープ!」
たた、と小走りで近づいた店前のブラックボードには、クレープのメニューが貼り付けられていた。『今日のおすすめ』と書かれた下にもいくつかのメニューが手書きで書かれている。
「ティラミスのクレープがおすすめなんだって」
「じゃあ俺はそれで」
「私は何にしようかなあ。いちごはさっき食べたしなあ」
「でも好きなんだろ。好きなのを食べたらいい」
「んー
……
うん、そうしようかな、いちごとカスタードのやつにする」
注文を済ませると、クレープ生地の焼ける、バターの甘い香りがした。
「ひと口食べるか」
「食べる!」
差し出されたクレープに齧り付くと、頭上から彼が笑う気配がした。
「ひと口が大きいな」
「これくらいが普通だもん。君も食べる?」
「食べる」
もぐ、と齧った後、霞も笑った。
「君もひと口大きいよ」
昼食には、レトロでおしゃれな洋食屋でオムライスを食べた。大きなエビフライの乗ったデミグラスソースのオムライスを見て、霞は楽しそうに笑った。
「こういうの、家で作ろうと思うとなかなか手間が掛かって難しいんだよね〜」
お店はすごーいよね〜、と言いながら美味しそうに食べる姿は見ていて気分が良い。ジェームズも同じものを食べていたが、他人が食べているのを見ると満足度が違うな、と思った。
「ね、『一時間スコーンとジャム食べ放題』だって」
昼食後、ぶらぶらと街はずれを歩いていた霞がジェームズの袖を引いて指し示した先には、こじんまりとしているが新しい綺麗な建物があり、入口のガラス戸に張られた紙には確かに『一時間スコーンとジャム食べ放題(一日20組様限定)』とあった。その右下には『本日残り3組』という手書きの小さな張り紙もあって。
店の中に入ると、壁際の棚には所狭しとジャムの瓶が並べられていた。どうやらジャム専門店らしい。店員の案内で向かった店の奥には4組ほどが座れそうな小さなカフェスペースがあり、そこで2組がスコーンを食べていた。なるほど、食べ放題は有料のジャムの試食も兼ねていそうだな、とジェームズは思った。
店の本業がジャム専門店というだけあり、運ばれてきた焼きたてのスコーンの後ろには、りんご、いちご、桃、オレンジ、レモン、ブルーベリー、さくらんぼ、いちじくと、様々なジャムがずらりと並んでいる。
「すご〜。ジャムぜんぶ試せるかなあ」
ひとつめのスコーンを割った霞がキラキラした目で言う。ジェームズもひとつスコーンを割ると、手にほかほかとした湯気を感じた。
――
時間いっぱいスコーンとジャムを楽しんだ後、霞は店でいちごのジャムを買っていた。
季節はとうに夏を迎え、人々は涼を求めるのか、街のかき氷屋は夕方でも賑わいを見せていた。
「あのかき氷屋さんは冬でもやってるんだよ〜」
冬でも氷を食べたい人の聖地になってるんだって、と言う霞の目は興味で輝いていた。
「食べるか、氷」
「え、でも時間
……
うーん
……
じゃあ、いっこを二人で食べる?」
シンプルな練乳いちごのかき氷を二人で一緒につついて食べた。冷たいものを食べた時特有の頭痛に霞が悶えていた(が、氷を食べるのはやめなかった)。
あっという間に日が暮れて、予約していたグリル料理の店に入ると、肉の焼ける香ばしい匂いで満ちていた。
一切れが大きなローストビーフで有名なお店らしく、既に食事をしている人たちの中にも、ステーキかな?と思うサイズのお肉を食べている人がいた。
……
あれほんとにローストビーフ?霞は訝しんだ。
前菜が出て、スープとサラダが出て、魚料理も出て、ついに出てきたメインのお肉は本当に大きい骨付きのローストビーフだった。霞は思わず「わあ」と口に出してしまった。ジェームズは知っていたのか、特に驚きの反応はない。そういえばお国にある系列のお店には行ったことあるって言ってたような。
ローストビーフは柔らかくて、フォークの側面で押すだけで切れそうだった(切るにはきちんとナイフを使ったが)。口に入れると牛肉の赤身特有の薫りが口いっぱいに広がってとても美味しかった。意外とさっぱりしていて、もうひとつ大きいサイズのお肉でも食べられたかも、と霞はちょっぴり後悔した。でも本当にとても美味しくて、また来たいな、と思った。
すっかり暗くなった帰り道をふたりで歩く。
「満足したか?」
「うん! いっぱい食べたー!」
手を繋いで歩くふたりはお互い機嫌が良さそうだった。一日、美味しいものを沢山食べたのだ。
「またやろうね、食べ歩き」
「そうだな」
明日からもまた頑張ろう。そう思って一緒に生きていく。
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