Nosmi
2024-06-23 15:38:04
1887文字
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ダン飯 シュローとヒエンと初夏の花の話

本編後、ワ島に帰ったシュローから花を渡されるヒエンの話
シュロヒエというほどじゃない

 廊下を歩いていたら曲がり角の向こうから極彩色の塊がぬっと顔を出した。
ギョッとして立ち止まると、続いて出てきた顔はよく知ったものだった。
「ああ、ヒエン。ここにいたのか」
 トシローの腕には色とりどりの花が抱えられ、先ほどの塊はこれかと納得した。
したものの、いつもの困り顔に見える無表情と、可憐だが雑に括られたむき出しの花々との組み合わせが意外すぎて一呼吸反応が遅れる。
……何?」
「何という程でもないが、これを」
 そう言って抱えていた花を全部こっちに寄越してきたので反射的に受け取ってしまう。
「は!? いや何どういうこと!?」
「散歩中に咲いているのを見つけてな。眺めていたらそこの庭の持ち主に話しかけられて最終的に何故か分けてもらうことになった」
「だからって私に押し付けることないだろ。花とか別に詳しくないし」
「知っている。だからマイヅルか花の世話ができる使用人に渡してくれ。屋敷に飾る花の足しにはなるだろう」
 ではな、と淡々と告げてトシローは背を向け元来た廊下を戻っていった。

 意味がわからん。
率直にそう思った。
どうも島に戻ってからこっち、トシローの様子が少しばかり変わったように思う。
マイヅルからの又聞きだが、帰郷したばかりの頃に一族のお偉方が揃った場に呼ばれたトシローは、御館様からどんな面白いものを持ち帰ったのかと問われて『何も』と言い放ち皆を騒つかせたらしい。もちろんそれでおしまいな訳はなく、『面白くなくとも自分にとっては生涯の宝となる経験と縁を得た』とあの迷宮での出来事を語ったそうだ。
マイヅルが途中から感極まって泣き出したので後半は何を言ってるのかさっぱりだったが、少しは言うようになったじゃん、と見直したのだ。
見直したのだが。
前よりマシとはいえ言葉足らずがすぐに治るものだと思っていないが、意味不明な行動が増えたのはどういうことだろうか。
 変わったことは他にもあった。
難しい顔で何かをじっと見る癖は前からあり、よくそれでイヌタデからビビられていたが最近は穏やかというか、気の抜けたような顔で見ていることが増えた。
仕事中にはしないがそうでない時、花やら虫やらを見つめている時にそんな顔をしている。
誰のことを思い出しているのかは聞くまでもない。
未練たらしいといえばそれまでだが、それにしてはすっきりとした表情なので気持ちの区切りはついているのだろう。
ならば早く切り替えろと喝を入れる必要もないし、やるべきことをやっているなら思い出に浸るくらいは自由だと思う。
この間は歩き茸がのんきに通り過ぎていくのをやけに遠い目で眺めていたが。

 だからまあ今回もぼーっとあの女のことを思い出していたらその花が好きだと勘違いされて断りきれなかったという所だろう。
呆れてため息を吐きながら腕の中の花を見る。
花の種類は一つだけのようだが青、紫、白、薄紅、と色は様々だ。
真っ直ぐ伸びた茎に沿って小ぶりで可愛らしい花がたくさん咲いている。
一本一本がそれなりに長くて前が見えにくい上にフサフサとした細い葉がこそばゆいので鬱陶しい。早く下ろしたい。
仮にも人からもらった花に持つべき感想ではないが、自分が好むような一輪だけで見栄えのする派手な花でもなし、そもそも自分宛でもなし、さっさと他人に渡してしまうに限る。
そう決めて歩いているとちょうど庭先にマイヅルの姿が見えた。
「おーい、マイヅルさーん」
 振り向いたマイヅルは一瞬目を丸くしたが、花を持っていくとフフ、と笑みをこぼした。
笑われた理由がわからずジト目で見つめると、視線に気づいた彼女は一つ咳払いをして言った。
「いやその、ヒエンがヒエンソウを持ってきたと思うての」
…………は?」
「何じゃ、知らんかったのか?お前の通り名の由来だろうに」
 マイヅルの言葉が固まった自分の耳を通り過ぎていく。

 はあ?ってことは何か?ぼけっと花を見ながら思い出してたのは私だったってこと?あの北方女じゃなく?そのくせこっちが花に詳しくないのを知っててそういうこと何も言わずに寄越してきて?一人で満足して帰りましたってか?
ふざけんなよアイツ。
いや他意がないのはわかってるよ?お互いそういう気がないのわかってるから特に深く考えずにやったっていうのは。わかってるけどさあ……
「女心を何だと思ってんだアイツは……!!」




「あれ、こういう花飾るの珍しいね」
 自室に来たベニチドリが棚の上に置いてある一輪挿しを見ながらそう言った。

「野暮天への当てつけだよ」