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MN*B
2024-06-23 02:43:25
3024文字
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二次創作単発:pixivバックアップ
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糖錯 【腐術廻戦/日虎】
本誌で初登場した頃に書いて放置してた短編です。恋愛物苦手なので悶えながら書き上げました。本誌もあれなので供養がてら投稿します。
【概要:謎時空・でも多分コロニー内、初対面バトル後・受け攻めとか投げてるけど、おそらく日虎で、たぶん誘い受けという概念】
受けからのキスシーンあり。というかメインがそれ。
#腐術廻戦 #日虎
2024年1月14日 00:40
床にある間接照明だけがぽつぽつと点いて、通路の隅ばかりを照らしている。散々観た映画の中で出てきた、ゾンビだかウイルスだかで人類が衰退した世界のようだった。
通路に響く足音は二人分、俺と日車の分だけだ。それが尚更、俺達が人類に置いていかれたかのような感覚にさせる。
「わぷっ」
不意に、先を歩いていた日車が足を止めたせいで、その背中に顔から飛びこんでしまい、変な声が出た。
日車が手にぶら下げているビニール袋が揺れて、カサリと音を立てる。それはここへ来る前に手に入れていたものだった。
「すまない」
日車は俺のことを肩越しにチラリと見た。そして、「俺は少し休むが、君は
……
好きにするといい」と言って、俺に一言断りを入れると、止めていた足を横に向けた。
俺達がいるのは商業施設の中で、日車が足を向けたのは、ただの家具屋さんのフロアだった。
俺も日車の後ろに続いた。進んだ先の足元にはカーペットが敷かれ、その中央にはローテーブル、そばに大きなソファーがL字に置かれていた。
こうなってしまう前はオシャレな店構えだったのだろうけれど、ついたり消えたりする電灯や横から差し込む光源のせいか、うらびれた雰囲気が漂う場所だった。
日車がソファーに姿勢悪く沈みこんだ。手に持っていたビニール袋は脇に投げ出している。それなりに良いソファーのようで、身体が深く沈んでいた。空を見上げるように座るのは彼の癖か、無気力の表れなのか。
柔らかい背もたれにも埋もれる、広げた両腕。その右側に身体をねじ込んで収まる。日車は懐に潜りこむ俺のことを目で窺うだけで、止めることはなかった。
日車は空いた左腕で先ほど投げ出した袋を漁り、目当てのものを取り出す。それはアルミの袋にジップがついていて、パッケージの色合いやデザインはどこか古めかしい。
「ビタミンドロップスだ。葉酸
……
各種ビタミンなどが摂取できる」
俺の視線に答えるように、言葉を途中で区切って変えて、彼は話した。
「一日分をこれだけで補おうとすれば、それなりに食べるはめになるがな」
「どれくらい?」
「
……
二十粒」
袋の裏面を眺めて、説明書きを読んでからの答えだった。
それは少しだけ上の空な声で、彼は上を向いたまま袋を掲げて見ていたから、実際上の空かもしれない。
「口ん中がシワシワになっちゃうじゃん」
「ははっ。気にするのはそこか」
あ、笑った。日車は上のほうを見たままだったから、その笑顔は横から、それもちょっと下から見えただけだった。
計らずも見せてくれた表情はすぐに消えて、いつもの不愛想にも見える顔に戻ってしまう。そして、袋の口を開けてガサガサと探り始める。
「嫌いな味はあるか?」
「ないよ。俺、食べ物に好き嫌いとかないし」
日車は飴をひとつ取り出すと、自分の口へ運ぶ前に、俺の口元に宛がった。俺が日車のことを見ていたのを、物欲しげにしていると思われたらしい。
別にそれでいいや。そう思って素直に口に含む。
個包装されていない飴は、袋の中で固まったりしないようになのか、表面が少し粉っぽかった。
口の中で飴を転がせば、歯に当たってカロコロと軽やかな音がする。味はオレンジだ。少しわざとらしさすらある爽やかな香りがした。
飴は舐めている内に表面が溶け、丸く艶やかになる。とろりとした舌触りと甘さによって、身体から余計な力が抜けていく心地がした。
身体の大半を日車にくっつけて、その胸元に頭を乗せた。息をすれば、口に含んだ柑橘系の香りが鼻から抜けていき、微かに残る。
男二人で大きいソファーの上で、狭っ苦しくまとまるように絡み合う。その姿勢でいると気持ちが落ち着いた。
俺の頭の上から、硬い物を砕く軽い音がする。重厚なものではなく、儚さがある音だ。答えはすぐに分かった。
真面目そうな見た目をした大の大人が飴を噛み砕いている。ちょっと目線を上げるだけで、日車の素知らぬ顔が見えた。初めて会ったときに話していた『やってはいけないことをする』のは続いているのかもしれない。
カチリ。ガリ、カリ。ガツリ、ガリリ。ジャリ、ザリ。ジャラリ。変化していく音色。周囲も静かな中では、その音がよく聞こえる。胸元に耳を付けているので余計にだった。
早々に飴を食べ終わった日車は、また一粒取り出した。そのときに「君もいるか?」と尋ねられるも、俺は小さく首を横に振った。俺の口の中には小さくとも飴がまだ残っていたし、なかったとしてもなんとなく断ってたと思う。
日車は飴を口に含み、中で幾度か転がすと、再び歯を立てて大きく噛み砕く。しっかりとした顎が上下するのが、横から見上げてよく見えた。
……
それで、ふと、魔が差した。
俺は絡み合い、まとまっていた身体を解き、座っている日車を跨いで膝立ちになる。ソファーが鳴いて沈む。支えをなくした日車の腕が下にずり落ちる。
日車の頭を両腕の間に置くように、俺は背もたれに手を置いた。
日車が口の中でガリ
…
と飴を鳴らし、覆いかぶさる俺のことを見上げた。俺の口の中でも、小さくなった飴が耐えきれずに砕ける。
音もなく触れ合ったところは少しカサついていた。俺も同じことを思われてるのかもしれない。
寄せた唇は、相手のも俺のも、熱いわけでも冷たいわけでもなくて。互いの表面をなぞるように重なるだけ。それだけなのに、そうしている内に腹の底から息がせり上がってきて、肌の下をゾワゾワと逆撫でされる。
その感覚は不思議と嫌じゃないのに堪えきれなくなりそうだった。自然と俺は目を伏せて、ソファーの背もたれに置いている手が奥にずれていく。
お互いの歯が僅かにぶつかり合い、俺はちょっとだけ離して一呼吸を入れた。それから、懲りずにまた重ね合わせる。
日車も身動きをして、腕を持ち上げたのが感覚として分かった。その手が俺の耳を掠めるように触れたのも。
俺の後ろ頭に日車の手が回った。浅く触れるだけのキスが、啄ばむように弄ばれ、音を立て始める。
唇を唇で食まれ、翻弄される。その感触に堪え切れなくて、小さく息を漏らした。いつの間にか、相手に凭れかかりそうなほど身体が近く、ほとんど密着していた。
頬に相手の鼻が掠めて、くすぐったい。伏せていた目を開けて、相手のことを見た。
鷲鼻の奥にある白目がちな目が、こちらを見つめている。なんとなく見つめ返していれば、日車のほうからスッと視線を外して下に向けた。
その態度に引っ掛かりを感じて
……
日車が俺を前に目を閉じたときのことを思い出して、腑に落ちる。目を合わせたくないのかもしれない。
俺は目を瞑って、触れる感覚だけを頼りにキスを続ける。
ずらして、合わせて、離して、食んで。相手の緩く開いた唇を舐める。誘われて出てきた舌を捕まえて、慣れないなりに絡めていく。
甘い。彼の舌の上に残る飴の味だ。何味だろ。柑橘系ではないのは確かで、そのせいか俺がさっきまで食べていたのと後味が混ざって、ちょっと変な味がする。
舌を擦り合わせ、間に挟まる飴の欠片が儚い音を立てながら溶けていく。尖った欠片がチクリと舌を刺したけど、構わなかった。
吐息は人工の香り。それでも甘いことに変わりはなくて。その中に、血の味が混じったような気がした。
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