聖なる夜にも流星双つ

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。

2023年のクリスマスネタ。

きりりと澄み渡った寒空 さむぞらの下に広がるカムラの里を、蒼白い月光が包み込んでいる。

里の人々はおろか、草木も眠りにつく夜更けの時間。

そんな時間に気配を殺して、呼吸も最小限に、足音も注立てず、布団の中でぐっすりと眠る少年の傍にそっと歩み寄る、白い袋をかついだ赤い人影。

ふかふかと温かそうな赤い服を纏ったその人影は、母親と並んで眠っている里の少年セイハクの枕元に歩み寄ると、担いでいた白い袋から蒲公英色 たんぽぽいろのリボンがかかった、青い箱を取り出した。

それを彼の枕元へそうっと置いてから、続いて母親ワカナの枕元にも、小さな赤い袋を置いて慎重に きびすを返し、礼儀正しく玄関から去って行く。

最後まで慎重に、玄関引戸ひきどを滑らせるように閉めて外に出た、月光に照らされた赤服の人影。

白い袋を肩に担ぎ直して、足早にたたら場前広場の方に駆けながら、安堵したように小さく息をつく。

……ふう……! 良かったあ、起きなくて……

広場に着いて、思わずほっと呟いた赤服の人影は、里の英雄『猛き炎』と呼ばれし娘。

白い袋を担いだその姿は、里では珍しい西洋のち。
そしてそんな姿をした人影は、彼女だけではなかった。

「おーい愛弟子、こっちは終わったよー!」

朗らかな声と共に夜、空から翔蟲でたたら前広場に飛んで来る、娘と同じ格好で白い袋を片手で担いだ、もう一つの赤い人影。
その人影、恋人でもある里の教官ウツシを、娘は笑顔と共に手を振って迎えた。

「ウツシ教官、お疲れ様です! 私も今セイハクくんのおうちに行ってきて、全部終わったところです」
「そうか! じゃあこれで全て完了だね! 里長から直々に俺たちに任された、サンタクロース任務!」
「はい!サンタクロース……ロンディーネさんが仰っていた、聖夜に皆が寝静まった後に贈り物を配る、伝説の人ですよね」
「そうそう! 愛弟子、すっかり西洋文化に強くなってきたね! 感心だ!」

珍しく赤い服を着た、師として知識欲旺盛な愛弟子の姿勢に嬉しそうに微笑むウツシに向けて、娘もまた穏やかな笑顔を返す。
その笑顔は、どこかあどけなくも見えた。
娘にとって、最愛の人であるウツシに褒められることは、いくつになっても何よりも嬉しい。

今夜は12月24日。

里に滞在中の交易商であり王国騎士ロンディーネによれば、24日と25日は、王国では『クリスマス』と言われる、聖なる夜の時期。
その夜は赤い服の聖人が、良い子にしていた子どもたちに『プレゼント』を配るらしい。

そんな赤い服の聖人、サンタクロースの話を聞いた里長フゲンの提案で、娘とウツシは師弟で共に、赤い服の聖人を模した姿となって里を飛び回り、子どもも大人も関係なく、寝静まる里中の人々の枕元に贈り物を配り終えたところだった。

広場から居住区の方を見やりながら、達成感に満ちた娘が穏やかな笑顔で、白い息を吐く。

「朝起きたら、みんな喜んでくれるといいなぁ。みんな毎日頑張ってますし、たまには誰かに褒めてもらわなくちゃ!」
「フフ、そうだね愛弟子。カゲロウさんとロンディーネ殿が全力で用意してくださった贈り物だし、きっとみんな喜んでくれるさ!」
「そうですよね! 何だか明日が楽しみです!」

人の喜びを願って満面に微笑む娘の清らかな笑顔が、ウツシにはとても眩しく、愛おしい。
思わず手を伸ばし、彼女の頭を赤い帽子ごと撫でながら、彼はもう少しだけ愛する人と一緒に居たいという願いと共に、目を細めて微笑んだ。

「ねえ愛弟子。サンタクロース任務も終わったし、せっかくの聖夜だ。もう少しだけ二人で過ごさないかい?」
「いいですね。それならあのに行きませんか? たたら場の屋根の上! 景色も良いですし」
「そうだね、里も空もよく見える。そうしよう!」

片手に白い袋を担いだ赤い服の師弟は嬉しそうに微笑み、阿吽あうんの呼吸で、翔蟲の光糸こうしを夜空に放つ。

聖夜と呼ばれるこの時期に共に居られる特別感を前に、二人の心は素直に踊った。

里中で最も高い場所となるたたら場の屋根上にて、二人は月下の里を一望しながら、並んで腰を下ろす。
担いでいた袋も置いて、一段落。

元気に「ふぃー!」と朗らかに声を上げ、片手で口元を覆っていた帷子 かたびらを下ろした赤い服のウツシが、片手で赤い帽子も取って、満足そうに空を仰いだ。

「いやあ、寝てる人を起こさないように贈り物をするっていうのは、なかなか大変だね! 狩猟とはまた別の緊張感があったよ!」
「ふふふっ、本当にそうですね。この里の人たち相手だと、本気で気配を消さないといけないですし」
「みんな里守で、強者ツワモノだからねえ! でも無事に任務完了できて良かったよ、本当にお疲れ様! 愛弟子!」
「ウツシ教官こそお疲れ様です、ありがとうございました」

御礼と共に一礼するのもほどほどに、娘が、どこかそわそわとした様子で目を輝かせた。

「ね、ね、教官」
「うん? 何だい、どうしたの?」

不思議そうに首を傾げるウツシの隣で、娘が先ほどまで自分が担いでいた白い袋を漁り始める。

彼女は袋の中から、紺色こんいろ組紐くみひもで結ばれた碧色へきしょくの袋を取り出すと、それを両手で、満面の笑顔でウツシに差し出した

「どうぞ、教官! 愛弟子サンタクロースから、大好きな教官に! 聖夜の贈り物です!」
「えっ!? あ……あ、あ、キミも!?」
「はい?」

今度は娘が首を傾げると、ウツシもまた、先ほどまで自分が担いでいた白い袋を漁り始める。
さほど時間もかからず、彼は中から碧色のリボンで結ばれた桜色の小さな箱を取り出すと、彼女に両手で差し出した。

「お、俺も! 俺……あっ、教官サンタも、大好きなキミに贈り物を……!」
「ええっ!? あ、あ、ありがとうございます! 私、教官相手に気付かれず、起こさず贈り物をするにはまだまだ未熟だと思って、このタイミングに……!」

予想外の出来事に慌てふためく娘とウツシは、顔を見合わせ、その刹那「ふふっ!」と可笑おかしそうに噴き出して。
そのまま二人で「あはははっ!」と楽しげに、夜空へ白い息と共に、高らかに夜空へ笑い声を奏でる。

通じ合うことは初めてではないのに、いつも新鮮に驚けて、嬉しくて、驚けることそのものがあまりにも幸せで可笑しくなってしまうのは、愛し合っている故か。

二人はそのまま、互いの前に差し出された贈り物を手に取り合って、幸せそうに笑顔を交わした。

「わざわざありがとう、愛弟子! 同じことを考えてたなんて嬉しいな、以心伝心だね!」
「えへへ、こちらこそありがとうございます。早速ですけど開けてもいいですか?」
「もちろん! 一緒に開けよう!」

娘とウツシは互いに互いからの贈り物を見つめ、共に両手で楽しげに、それぞれの包装を解き始めた。

寒さも忘れ、何が出てくるのかと、期待で胸が高鳴る。
夜でも世界に彩りが溢れ、愛する相手のことだけを想える、幸せな時間。

ウツシは碧色の袋を、娘は桜色の箱を開いて、先に中身を取り出したのはウツシだった。

彼が取り出したのは、透明感に溢れた小さな碧色の石がついた、白銀の腕輪。

「わあ……愛弟子! これは腕に着ける装飾品かい!? とっても素敵だね!」
「はい、エルガドで見つけました。バングルというらしいです。それなら肌に密着するし、動くのにも邪魔にならないかと」
「凄くお洒落だね、嬉しいなあ! フフ、これでキミをいつも身近に感じられるよ。早速着けちゃおうっと!」

鼻の頭を赤くして、弾けんばかりに微笑むウツシは宣言通り、すぐ右手首に腕輪をはめて、それを月光にかざした。
ほうっと白い息を吐きながら「綺麗だなぁ」と何度も繰り返し、表情を綻ばせる。

彼の満月のような瞳は、恋人への想いと喜びにとろりと蕩けて、金色 こんじきに煌めいていて。

そんなウツシの様子に、娘は内心緊張に張り詰めていた糸をほどくように、ほっと息をついた。
彼なら何でも喜んでくれると分かってはいるのだが、それゆえに、いつも贈り物には迷ってしまう。

全ては、彼に本心で喜んで欲しいがため。

ウツシの至福に満ちた、偽りのない澄んだ瞳の輝きを見て安心したところで、娘も彼からの贈り物を確認する。
桜色の箱を開けて出てきたものは、月光を浴びて輝く、小さくも澄んだ朱色 しゅいろの石がついた、白銀の指輪。

「あ……! ゆ、指輪……!? す、てき……!」

思わずうっとりと声を零した娘に、ウツシが寒さからか照れからか、鼻だけでなく頬まで赤くして、はにかむように微笑んだ。

「いつも皆を、俺を明るく照らしてくれる、優しき希望の焔であるキミのような、美しい石のついた指輪だったから……きっと、キミに似合うと思って……!」
「あ、あ……あ、ありがとう、ございます……!」
「ねえ、貸して。指輪、俺がはめてあげる」
「えっ!? は、はいっ……!」

言われるまま、素直にウツシへ指輪を渡した娘だが、途端に妙に恥ずかしくなってきた。心を甘やかに締め付けられながら、素直に胸を高鳴らせる。
まるで夫婦となる際のやり取りのようだと考えてしまったが最後、愛する彼の顔を見られなくなり、視線は下に向けたままだ。

ウツシは優しく、両手で娘の左手を取って甲を上向けると、そのまま、そっと彼女の左手薬指に指輪を滑らせるようにして、はめていく。

その様子を見ていた娘は、ふと彼の左手の薬指にも、小さな石が煌めいているのを見つけた。

——えっ……? あ、あれ? 教官の、左手……
「ああ……バレちゃった?」

小さく苦笑しながら、ウツシはまず娘の薬指に、指輪をはめ終えた。
まるであつらえたようにぴたりとはまったそれを見て、彼は安堵と歓喜の息をつく。
内心、きちんとサイズが合うか心配で仕方がなかったようだ。

「ああ、良かった……ぴったりだね。フフ、やっぱりキミに良く似合ってる……素敵だ」
「あ、ありがとうございます……! き、教官の指にも、その……!」
「うん。地金 じがねの色だけ変えて、キミとお揃いで買ったんだ」

観念したような笑顔で「ほら」とウツシが左手の甲を娘の方に向けると、彼の薬指には、娘と同じ朱色の石が煌めく金色の指輪。

娘はそれと、自身の左手薬指にはまった指輪を見た途端、胸の中に熱いほどの喜びが滾々 こんこんと満ちて。
指輪のサイズをぴたりと当ててきたこともそうだが、彼は自分を心から愛してくれているのだと確信できて、泣きたくなるほど笑顔が零れる。

「こんなに、素敵な指輪……本当にありがとうございます、ウツシ教官……! あ、あの、その……
「ん? どうしたの?」
「わ、私も、その……さっきの、バングル……

はにかんで語る娘は、おずおずと自身の赤い服の長い右袖を まくり、右手首を露わにしてウツシの方に向けた。
彼女の右手首には、煌めく桜色の石がついた、ウツシと同じ白金の腕輪がはめられている。

「お、お、おそろい……なんです……! 私、のも……!」
…………!」

不意をつかれたように、大きく目を瞬かせて驚きながら、ウツシは娘と娘の腕輪を、そして自分の腕輪を一瞥 いちべつする。
以心伝心の言葉が脳裏に蘇り、至福に震える中、彼は勢い良く「愛弟子!」と、情熱的に彼女を抱きしめた。

——わっ……!? う、ウツシ、教官っ……!!」

驚きながらも、娘はすぐに、彼の広い背中にそっと手を回した。

頼もしく愛おしい、数多 あまたのことを学んだ背中。
今も、たくさんのことを学ばせてもらっている背中。

叶うなら、このままずっと離れたくないと願わずにいられない。

娘もウツシも、身に纏っているのは温かくて、ふわふわとした、もこもこの赤い服。
互いにぬいぐるみを抱きしめているような心地良さの中でも、互いの心音が、はっきりと感じ取れる。

「ありがとう、愛弟子……! 俺の愛しい人よ……
「こちら、こそ……! 本当に……ありがとうございます……!」
「キミという素晴らしい人と結ばれることができて、更にまだこんなに幸せになれるなんて……! 夢みたいだ……!」

低く、艶やかに響くウツシの声と彼の温もりは、娘の全身を甘く震わせる。
存在を確かめるように、娘の頭と背を何度も、何度も撫でながら、ウツシは不意に彼女の耳元に唇を寄せた。

——愛してるよ、愛弟子……! 今年もキミと過ごせて、俺は本当に幸せだ……!」
「わ、私もです……! 愛しています、ウツシ教官……
「ありがとう……!」
「あと……その、えっと、何だっけ……! め、メリークリスマス、です、教官」
「フフ……メリークリスマス、愛弟子」

慣れない覚えたての挨拶に、くすぐったそうに笑い合って抱き合ったまま、娘とウツシはどちらからともなく、顔を近付けていく。
溢れる想いをもっと深く重ね合い、感じ合いたかった。

互いの鼻腔を、互いの熱い吐息がくすぐり、互いが目を閉じて唇が重なり合おうとした、その刹那。


『アオオオォオオーーーォオン!!!』


夜空の彼方から響いてきた、聖夜の静寂を切り裂く、野太い咆哮。
恋人同士の甘い時間を過ごしていた娘とウツシの動きはぴたりと止まり、やがて二人の顔は名残惜しそうに、ゆっくりと離れていく。

愛し合う二人の男女を、ハンターへと覚醒させる咆哮の響いた夜空の彼方に視線を向けながら、ウツシが怪訝に目を細めた。

……やれやれ、無粋だね。聖夜の……しかも、こんな時にやって来るとは」
「今の声……ジンオウガですよね?」
「ああ、そうだね。かなり近いところに居るようだし、念の為に向かった方が良さそうだ。俺が行ってくるよ」
「ダメですよ、お一人では行かせません。師弟でやれば確実ですよ、教官!」
「! 愛弟子……そうだね……感謝する!」

勇壮に微笑んだ『英雄』として名高き愛弟子の瞳に灯る炎に、ウツシの心も奮い立つ。

二人がほぼ同時に、たたら場の屋根上で軽やかに赤い服を脱ぐと、互いに普段見慣れた装備品を纏ったカムラのハンター、英雄『猛き炎』と、その師の姿となった。
聖夜を楽しむ赤い服の下には、常にハンターとしていつでも狩猟に向かう覚悟と共に装備品を身に着け、その背には、月光に煌めく愛用の得物。

……さあて! では、行こうか、愛弟子!」
……はい、ウツシ教官!」

師弟は同時に翔蟲を放ち、咆哮の主が居る夜空の彼方へ駆けていく。

『気焔万丈ッ!!』

瞳に同じ炎を宿し、同じ想いで繋がり合い、揃いの指輪と腕輪を身につけた二人の強者 ツワモノが、聖夜の安寧を守るべく、夜空の彼方へ消えていく。

その姿はさながら流れ星のように、人々の想いをも乗せて輝いていた。




@acadine