supli12
2024-06-21 05:34:07
7189文字
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鉱石ラジオ①

12 years old

1. The bad boys are 12 years old

「ゼノ、天然石取りに行こうぜ」
「天然石?」
「そ、明日から春休みじゃん?」
 スタンリーの部屋で、大学から持ち帰った大きなハードカバーの本から顔を上げてゼノは問い返した。
「採掘場にかい?」
「リッツマウンテンの鉱山跡のとこじゃまだ天然石が出んだってさ。うまく採掘すればデカいのが採れんだと。なんか面白そうじゃん?安いけど売ってもいいし、綺麗なの採れりゃなんかゼノがやらかした時に親を宥めるのに使えるぜ?」
「なんで僕がやらかすのが前提なんだい?」
「そりゃ前科が多すぎるからだろ」
 出会ってニ年近くになるゼノの初めての友人は、金の髪を揺らしてゼノの顔を覗き込んだ。
 目が合ってニカリと笑われれる。
「よし、決まりだな。ゼノ、いつならいい?キャンプ道具持って泊りでいこうぜ」
………決まりなのかい?」
「行かないって顔してないじゃん」
……リッツマウンテンの鉱山跡なら確かキャンプ場があるね。でもそこを離れて子どもだけで鉱山跡に入るなら銃がいる、コヨーテがでるかもしれないからね。僕の銃でいいね?」
「もちろん。No.2がいい」
 ゼノがスタンリーの為に作った最初の銃を改造したNo.2。一番扱いやすかった。スタンリーが射撃大会で使う銃よりももっと。市販の銃ではないそれは大会で使う機会はなかったけれどスタンリーの相棒だった。残念ながら銃は親も一緒に管理しているので、自宅に持ち帰ることはできない。スタンリーのNo.2は普段ゼノのラボに保管されている。
「明後日がいいな。金曜ならマムが休みだから送ってもらえるよ。採掘するなら道具がいるからね。明日造るよ。手伝ってくれるね?」
「OK。なんか要るもんある?」
「大体僕のラボに揃ってる」
 よしっとスタンリーは立ち上がり仕事が休みで家にいる母親へ声を掛けに行く。
「マム、金曜にゼノと泊りでキャンプ行きたいんだ。行きはゼノのマムに送ってもらうから土曜にリッツマウンテンのキャンプ場まで迎えにこれる?」
 スタンリーとよく似た母はベッドカバーを抱えて二階に上がって部屋を覗き込んだ。
「ゼノ、いいの?」
「はい、僕の母には言っておくから」
「OK、私からも後でメールしとくわ。まあ合格よ、悪ガキたち。リッツマウンテンまで自転車で行くって言いださなくて。はい、ベッドメイクしておいて」
 洗いたてのシーツをスタンリーに渡して笑って階段を下りていく。
「ゼノ、そっち持って」
 言われたゼノはベッドの上掛けを軽くたたんで椅子の上に置いた後、スタンリーのところまで来てシーツの端を持った。反対側の端を持ったスタンリーがシーツを広げてふわりとベッドに掛ける。そのまま裾をマットに折り込んでいく。ゼノがベッドに膝をついて壁側のマットへ折り込んだ。スタンリーは取った上掛けを広げてシーツカバーをセットしていく。なんとなく反対側で上掛けのクリップをシーツのクリップと合わせていくゼノを見る。自分のベッドの上にいるゼノを、何故かいつも何となく見つめてしまう。
「スタン、そっち終わった?」
「終わったぜ」
「ならファスナーを閉めてくれ」
 言われるがままファスナーを閉める。そもそもこれはスタンリーのベッドなのだが、泊まる時は一緒に寝るしその頻度もある程度あるしもうゼノのベッドと同じじゃね?と思って礼も言わない。
「ゼノ、でかいの採れると言いな」
「でかいのは現役の時に取り尽くされてクズ石ばかりさ。でも宝石は宝石だからね。偶にはいいさ、宝探しも。春休みだしね」
 長い休みの時のスタンリーの誘いを基本的にゼノは断らない。多分、ゼノも楽しんでる。
 目が合って二人で笑う。
 宝石を探しに行く。宝探しだ。


 金曜日の朝、スタンリーが荷物を纏めて家の玄関先に出ると、丁度ゼノの母が運転する車がやってきた。
「おはよう、スタン。今日はよろしくね」
「おはよう。今日は送ってくれんのありがと」
「いいのよ、あなたのママとも話してたのよ。自転車を改造して行こうとしなかっただけ成長したって」
 それを聞いたゼノが肩をすくめる。自転車に原動機を取り付けて遠出したら帰りに警察に声を掛けられた。身なりの良い二人の子供が素直に工作と実験の一環だったと殊勝に謝ったことにより親への注意だけで済んだのを思い出しているのは分かった。子供のうちはこの手が有効だからねと笑ったゼノは正真正銘の悪ガキだろう。
 リッツマウンテンキャンプ場はグランピングゾーンも併設されている管理の行き届いたキャンプ場だ。だからこそ親もOKを出すのが分かっていた。キャンプ場の受付でチェックインの後、夕食の食材は管理小屋に行けば貰えるように予約してゼノの母は帰って行った。夕食の食材を受け取りに来なかったらここに連絡を、と電話番号を置いていったあたり13年近くゼノの親をやっているだけはある。スタンリーとゼノは顔を見合わせてキャンプ場の隅にテントを張る。荷物を持ってさっそく山に入ることにした。
 トレッキングシューズの紐を縛りなおしてリュックを背負う。スタンリーはホルスターにNo.2を入れてウィンドブレーカーを羽織った。
 ハンマーとタガネと防護メガネを入れたリュックを背負う。一応道中買ったランチボックスとペットボトルも入れてキャンプ地を出発した。
 元々が鉱山だっただけに、道は悪くなかった。ハイキングコースとして整えられ、天然石を目当てに来る人間たちにも入りやすいようになっている。
 しばらく歩くとゼノは小型のタブレットを取り出し位置情報を確認し始めた。
「スタン、こっちだよ」
 道から外れて奥に進む。半分地中に埋まっているような大きな岩が重なり合っているところをよじ登った。スタンリーが先に上ってゼノを引き上げる。何度か繰り返し、完全に山の中に入った風景になった。そうはいっても鉱山は岩が多く大きな木々は少なく見通しは良い。木漏れ日の溢れる中進むと小さな沢に細い水が落ちている滝があった。
「おお、ここだ。だけど航空写真では分からなかったが沢がある。鉱山が稼働していた頃には水無川だったのが地上に出てきたのか」
「ここで掘るん?」
「そのつもりだったんだが、沢があるとなると野生動物の水飲み場になっている可能性が高い。でもこの奥の鉱脈が恐らく一番天然石を発見できるポイントだ」
「へえ。調べたんだ、やる気じゃん」
「どうせなら良い石が欲しい。君が言っていた通り、宝石としての価値はなくとも見た目が綺麗で僕らのマムたちの機嫌を取れるようなね。ここは道中分かっただろうけど大岩が多くて道まで高低差があってね。廃鉱間際に発見されたそうで、価値ある大きな石は山中で採り尽くされているとの判断で採掘されなかったんだ。そうはいっても当時の専門家たちが大きなものは採っていっただろうけどね。でも大分前の地震でここが崩れたと当時の新聞の記事にあったから手付かずの場所があるんじゃないかと」
「もうここ一択じゃん。掘ろうぜ」
「そうだね。だが水場から離れよう。この辺はクマは出ないけどエルクやコヨーテはいる」
「そだな。じゃああっち側にしようぜ。片方が崖だから挟み込まれない」
 ゼノがニヤリと笑ってポケットからジャラリと音をさせて小箱を取り出して渡してきた。受け取った予備の銃弾の重みにスタンリーも笑う。
「悪い子だな」
「僕の身の安全は君に任せるよ」
「まかせな」
 崖の近くの採掘場跡の前にリュックを下ろし道具を広げる。野生動物と虫よけ対策として作って置いた希釈した濃い目のハッカ油を撒いた。ゼノは採掘に取り掛かった。スタンリーはホルスターのボタンを開けて後ろを気にしながら母岩を削りはじめた。
 暫く削っていると、幾つか鉱石らしい塊を見つける。そこに印をしてゼノに任せる。細かい作業を根を詰めて後ろに注意を払えないのは危険だ。
「すごいよスタン、予想以上だ」
 ゼノは声を弾ませ喋りながら手を動かす。
「大きめの結晶もあるし、この色、多分この採掘場で採れていたインペリアルトパーズだ」
「何それ、インペリアル?」
「水酸基を含むOHタイプのトパーズだよ。色がイエローからオレンジなのが特徴でね」
「へえ見せて」
「綺麗だろう?この母岩ごと削りとるよ」
 背後からの空気が変わるのをスタンリーは感じてホルスターから銃を抜いた。ポケットの中でさっきの銃弾は箱の口を開けてある。
「ゼノ、それ暫くかかるよな?」
「かかるね。大きい結晶を三つ見つけたから、それだけは採りたい」
「OK、じゃ、それやってて」
 スタンリーは数歩前に出て姿勢を整えた。大型犬より少し大きめな影の群れが離れた木の影で息を潜めている。木が少ないこの場所は射撃場のようだった。スタンリーは静かに照準を合わせる。攻撃される前に攻撃する事は野生動物には威嚇になる。一番狙いにくいところにいる、一番大きい、多分群れのリーダーを。木の陰から出ている右肢を狙う。致命傷にはならないだろうがそれで、充分だ。
 木々の間に銃声が響いた。
 ギャン!!という鳴き声と共に複数の影が遠ざかっていくのを目の端に捉える。それでも完全に気配がなくなるまで目線は逸らさない。
 その後ろでゼノは全く調子を変えずに岩を叩いて崩している。
 暫くして危険が無い事を確認したスタンリーと変わって、大きな塊を三つ採取した。朝早く出たのにもう昼はとうに回っていた。荷物を纏めて元来た道を戻る。道すがら位置情報を確認しながらまた大岩を下りる。ゼノの手を取り、降ろしていく。
「ゼノ、俺が居ない時に自分で行けない道選ぶなよ。危ねえから」
「君が要るからこの道にしたんだよ」
………ならいいわ」
 やっとキャンプ場まで戻った二人は遅い昼食を摂った。休憩してから水場で借りたバケツに水を張った中で、ふたりで母岩に埋まったトパーズを丁寧に小さなタガネで削っていく。
 夕方に差し掛かってスタンリーはレンタルのバーベキュー用のコンロで炭に火を入れた。管理小屋に食材を取りに行き食材を焼き始める。肉と野菜、今日の夕食はシンプルにそれだけだ。調味料にマジックソルトを入れてくれたのが嬉しい。これもまた管理小屋で買ったサイダーを出した。いつか酒を飲むようになってもゼノとまたこうしてふたりでどこかに行けるといい。そう思っていると後ろからゼノに声を掛けられた。
「焼けた?」
「焼けたぜ。ほらサイダー。食べようぜ」
「うん、ありがとう」
 紙皿に乗せた肉や野菜をテーブルに置いてやる。カトラリーだけは持ってきていたのでゼノはナイフで肉を小さく切って口に運ぶ。周囲はもう暗くなっていて、テーブルの上のランタンがスタンリーとゼノの周囲を照らす。
 肉も野菜も、焼きたてで美味い。
「スタン、トパーズは三つとも取り出せたよ」
 ほら、とゼノはハンカチに包んだオレンジがかった煌めく石をテーブルの上に置いた。
「きれいだな」
「うん。どれも5センチ以上はある結晶だ。研磨したら綺麗な宝石になるよ」
「ゼノが研磨すんの?つかできんの?」
「知識と工具があればできるさ。帰ったら調べてみるよ」
 テーブルの上の石はランタンの灯に反射してきらきらと輝いている。星空の下、ランタンの隣で煌めく宝石の隣にゼノとスタンリーはいる。ゼノが言った。
「トパーズは三つある。互いのマム用と、残りのひとつはどうする?売ったとしても大した金額じゃないから記念に持ってるのはどうかな。研磨して上手く二つに割ってみるから」
「せっかくデカいのに割るのは勿体ねえな。ゼノが持っててよ、記念にさ」
 灯が反射して煌めくのはトパーズとゼノの目だ。黒い目にオレンジの灯が反射して揺れていて、同じもののように見えた。
 ハンカチの上から一番大きなトパーズを摘まんだ。指の間のオレンジがかった半透明な石は綺麗だった。その向こうにいるゼノの目も。
「ゼノが持ってて」
 ゼノの目が丸く開かれて、それから笑った。
「一番きれいに研磨するよ。ラボの棚に飾ろう、いつでも見れるように」
 楽しそうな声に、スタンリーも笑った。うん、この石はゼノの近くに置いて欲しい。

 簡単に片付けて、ふたりでテントに入る。寝袋に入って、ランタンの光の中で色々なことを話す。ゼノがコツコツ開発を続けているレールガンの進捗や、来週のイースターで毎年作っているパイの話。春休み中にやりたい実験の事は聞いた時点でスタンリーも付き合う事が決定している。
「スタンは?射撃トレーニング以外の予定は?」
「暫く大会もねえし特にないな」
「じゃあ僕の実験に付き合えるね!」
「はいはい」
 お互い同年代でここまで親しい友人は初めてで、一緒に居て楽しい。無言さえも心地よい関係は初めてだった。互いの部屋で全く別の事をしながらも一緒に居る。時々いつの間にか寝ていることもある。
 今日もテントの中で話しながら、お互い眠くなって、防犯対策を施してから、途切れ途切れに話しながら眠りに落ちた。なお、防犯対策とはテントの出入り口外側に一定以上近づけば高電流が発生するという簡易スタンガンなので、ふたりは安心して眠りに落ちていった。



 ゼノはスタンリーと出会ってから初めて母に悪ガキと言われた。やり過ぎないようにとよく注意されてはいたが、ラボ兼車庫の窓ガラスを割ってスタンリーに連れられて逃げるゼノにこの悪ガキたち!!と叫ばれた。その後スタンリーを迎えに来た彼の母も加わり、帰った2人は母2人に怒られた。それでもその後二家族で食べた夕食はゼノとスタンリーの好きなものが並んでいて、親たちは笑っていた。方向性は違うがそれぞれギフトを持って生まれた子供が、同い年の友人と楽しそうに遊んでいるのを見るのは珍しかった。それを待ち望んでいた親達はその遊びの内容には目を瞑ることにしたらしい。笑い合う2人が年相応の笑顔だったことも大きいのだろう。

 科学は楽しかった。科学へ、宇宙へ進む道はゼノにとって遊び場であり進むべき道だった。それが、スタンリーに出会ってそこは遊園地のようにゼノの目には映った。いつか、あの観覧車の天辺からの光景を君に見せてあげるよ。それがゼノの秘密の目標になった。



 ゼノの手を引いて走って逃げた、笑いながら。後ろから怒るマムの声が聞こえる。
 息を切らせて走りながらも吐息の合間に笑い声が混じるのを聞くのが心地よい。スタンリーにとっても初めての同じ場所にいる友達だった。

 多分同世代と視点が違ったスタンリーはクラスメイトに馴染めなかった。マークスマンだったスタンリーの最初の狙撃の教師はスタンリーをギフテッドだと言った。風の読み方、銃弾の軌道、怖い程の観察眼と判断力が君にはあると言い、努力を続けてくれと言い彼は去っていった。出会って半年程で銃の腕だけいうなら並んだのは分かった。一人でトレーニングを続けた。銃を扱うという事は、射撃に使う筋力と瞬発力を鍛えなければならない。地道なトレーニングを続け、その頃出場した地方の射撃大会で優勝した。
 銃を持ち的を定め引き金をひくことはスタンリーにとって自然な事だった。その為に必要なトレーニングは食事をする事と同じようにするべき事だった。そうして季節が幾つか移ろった頃、10歳になったスタンリーに並ぶものは郡にはいなくなり、雑誌に乗る時は天才少年と見出しがつくようになっていた。
 人付き合いはあるものの、学校の外で遊ぶ友人は作らなかった。それを寂しいと思ったこともない。そんな時、スタンリーに自分と同じ位の少年が声を掛けてきたのだ。亜麻色の髪に黒い大きな、底が見えない目をした少年はゼノと名乗った。荒唐無稽なレールガンという電磁銃の話をしだし、それを試射して欲しいと言われた時は揶揄われているんだと思った。持っていたケースの中を覗いて、見た事のない銃に一目で惹かれた。美しい銃だった。
 それ以来、ずっと側にいた。通う学校は違った。スタンリーが射撃という項目での天才だというのなら、ゼノの頭脳はまさにギフテッドだった。飛び級を重ね10歳には大学に入学していた。毎日会えるわけではなかった。それでもいつも一緒にいるかのように其の存在はスタンリーの側にあった。恐らくゼノにとっても。
 細い身体に赤く塗ったロケットを抱えて笑うゼノを見るとわくわくする。そのロケットが見えなくなる程高く飛び、大会発の高度を計測しその大会で優勝した時、喜びの余り抱き上げたら顔を真っ赤にして笑った。絶対負けるものかと思って、翌月の州の射撃大会に向けてトレーニングを重ね大人の部で優勝した。表彰された台の上からゼノを見つけて走りよる。
「エレガントだスタン!!すごいね、君はすごいよ!」
普段は饒舌なゼノがスタンリーに辿々しささえ感じるような褒め言葉を言い募る。
「美しい射線だった、君は本当にエレガントだ
 午後の陽光を反射させて潤んだような目を細めて言ったゼノの顔が見たかった。
 胸に込み上げてくる衝動のまま両手でゼノの顔を上げて目を合わせた。目を丸くしたゼノはスタンを見つめる。真っ直ぐに見つめてくるその視線に満足してスタンリーは笑った。一緒に居たい。勝ち負けじゃない、ただ一緒に居たかった。このわくわくするものを考え出し創り出す存在の一番近くに。
 一瞬の驚いたような顔の後ゼノも笑い返す。
 笑い合って、側にいて、共に過ごす。ゼノとスタンリーは悪ガキと呼ばれながら、そうやって一緒に大きくなっていった。