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浮き流し
2024-06-19 20:32:59
7365文字
Public
イチ松
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居心地の良い場所だから(イチ松)
・pixivと同じものです
「一緒に寝てほしい」がテーマの関係性の違う3つのお話
○責任取ってくれ!怖いものは怖いんだ!
今日はイチノの部屋で映画鑑賞をする。
大学では資格取得にかける時間を増やしバスケットは程々にした。でもそのおかげで都合がつけば他のメンバーとも会いやすくはなっている。同じ大学の深津はしっかりバスケットを続けており、ついでにゼミの教授に頼まれごとをされてしまったため急遽欠席となった。
一方、イチノは服飾系の専門学校へ行っている。自分でデザインや裁縫まで手掛けた衣服が課題提出にこぎつけたらしく、先週から休みを満喫している。
13時から18時までバイトのイチノに合わせ、19時半頃の予定にしている。すぐ夕飯にできる様軽く惣菜を作り持って行く。挨拶をしイチノの部屋に入れてもらうと、開口一番に残念だと溢される。
「今日深津来れないって聞いたけど、その前に借りちゃったんだよね」
深津、見たがってたから喜ぶと思ったのに。そう言ってイチノがレンタルショップで借りたDVDを見せてくる。印刷されてるそれは文字と色使いから見るに、
「怖いって噂のホラーなんだけど」
「嫌だ!」
食い気味に主張する。
「お前が怖いの苦手なの知ってるけど、新作だから明日までなんだよ。だから見ときたくて」
「オ、オレは見ないぞ!?」
感想を求められるのが嫌で座ってる席からも逃げようとする。そんなオレを見てイチノが苦笑する。
「分かってるって、ちゃんと他のものあるから。先にアクションものの映画見よう」
終わったら寝てていいから、と気遣ってくれるイチノは良い奴だ。
夕食用に持ってきた惣菜とイチノの作り置きをテーブルに並べる。
「本当松本、ホラー系苦手だよな」
「身の回りに起こるかもと思うと怖くねえか!?じわじわ追い詰められるとか突然驚かせてくるのとか考えただけでダメだ
……
」
「ははっ、全部じゃん」
むしろそれが好物なイチノがじゃあ何なら良いのさと笑う。同じ様な居心地の悪さは
……
と考え、ふと思い浮かんだものを口に出す。
「まだ人とAV見る方マシかな
……
?」
ホラー系ですらないじゃんと笑われはするものの、その後イチノがとんでもない提案をしてくる。
「ならホラーの前後に挟む?それなら見れるかもよ。」
一応正気を削がれる2つを想像してみる。180度違う興奮を催すそれらの高低差に眉を顰める。
「情緒がおかしくなりそうだ」
あと多分、ホラーの後のは勃たない。
余談ではあるが一度オレの家で、イチノと深津のホラー鑑賞会を無断開催された事がある。
高校卒業後、新しい家に引っ越してワクワクしてた時だった。映画でも同様に新しい生活が始まるものの、日常の僅かな掛け違いから少しずつ破滅へ向かう。それと知らせず見せられた時は数日引き摺る程凹んだ。
後日仕返しに高校時代イチノが苦手と言ってた、体育館でビブスを着てプレイするAVと頼まれてたホラーをテレコにして渡した。SF映画鑑賞後深津と2人で意図せぬAV鑑賞会になったイチノの様子を、隣で狸寝入りして伺った。わなわな怒りに震え松本めと毒付くイチノと裏腹に、深津はこの女優好みピニョンと視聴継続を勧める。イチノの戸惑いを声と背中に当たる振動から感じ、少し心が晴れたところで就寝した。
卑怯なやり方だったと思うし一方に配慮を強いるの申し訳ないとは思う。だけど、それだけホラーや心に薄暗いものを残すサスペンスは無理だ。それは譲れない。
夕飯を食べ終えてからイチノが借りてきたDVDを見る。
特別な力を持った主人公が敵を圧倒し、巨悪に目をつけられ途中壁にぶつかり恋人に支えられながらも住む街ひいては地球を守る。スケールの大きい豪快なアクションが爽快な気持ちにさせられる。エンドロールが終わり、じゃあとイチノお待ちかねのホラーDVDを入れる。一方オレはイチノの言葉に甘え本編が始まるより先に布団へ行く。
来客用の布団はテレビと同じくリビングにある。テレビから距離を取り布団を被ろうが、おどろおどろしいBGMや人の叫び声が耳に入る。画面が見えなければいいかと思ったものの、起こってる事態が分からない分余計な想像を掻き立てられる。10分と保たずイチノの元に戻ると怪訝な顔をされる。
「どうしたの」
「怖ろしい効果音と悲鳴だけだと余計怖い。結末を見届けさせてくれ」
あと気を紛らわせる為になにか食べる物が欲しい。布団を抱きしめながら要求するオレに、備蓄のおつまみを出してくれる。布団に包まり冷蔵庫から拝借したアルコールをお守り代わりにする。静止した画面を見つめるものの、あと少し踏ん切りがつかない。イチノを見つめ願いを重ねる。
「ついでに手繋がせてほしい」
「ハイハイ。注文が多いお客さんだね」
そう言いながらも快く左手を差し出してくれる。
「もう大丈夫?再生するよ」
大丈夫だ
……
!覚悟を決め画面に向き合う。映画の音声より大きい声で喚いたりイチノの手を大袈裟に振り回したりした。後から考えればイチノが映画に集中できないんではないかと懸念するも、鑑賞中はそれどころではない。映画が終わり客観的に自分を見られると、イチノにしがみついて叫んでいた。
「あ〜面白かったね」
「なんでこんな救いがないんだ。主人公は亡くなったし殺人マシーンは野放しじゃないか
……
オレ怖くて夜出歩けねぇよ」
信じられねぇ。眉をひそめブツクサ呟いているとイチノが見兼ねたのか提案してくる。
「じゃあお詫びに今日はトイレ着いて行ってあげるよ」
「本当か!」
やっぱりホラーを見ると言った自分を棚に上げその言葉に飛び付く。映画の恐怖と視聴中に席を立つマナーの悪さから尿意を我慢していたところだ。恐る恐る部屋の扉を開ければそこは暗い廊下。トイレへ続く短い距離やトイレの個室にだって奴がいる様で気が気ではない。
「ついでに責任取って一緒に寝てくれねぇか?!」
「仕方ないなぁ」
やっぱりイチノはいい奴だ。その後に続く、松本の反応面白いもんねという悪魔の囁きは聞こえなかった事にする。
ー・ー・ー・ー・ー
○毎日同じ部屋で過ごしても、親友以外の気持ちはなかった。
なのに、
久しぶりに元山王バスケット部の皆と飲み会がある。
皆新社会人だから、てんで勝手が分からない。バタバタと慌ただしくしていると月日が飛ぶ様に過ぎていく。ようやくメモを見なくとも間違えなくなり、大分長い期間が経ったと思ったがまだ3ヶ月と経っていない。実習で学んだ通りのやり方で楽、新しい機械になれない老人達が皆新人のオレに聞いてくる、必要性のわからない無駄な工程が多いなど、分かった気になった仕事の話で盛り上がる。
「最近気になる子がいるんだ」
部署違うし廊下でたまにすれ違うぐらいなんだけどな、そう言って1人が恋愛話を始める。
「キツめの雰囲気が似てるんだ」
シャクだけど、ケータイの写真を探す。見せられたものは男女一組が写った喫茶店の様な教室の写真だ。
ふわふわと長い茶髪に紺色のブレザー姿、前髪は目の上で揃えられややつり上がった知性的な眼差しに目元がキラキラと輝いている。背景には文化祭の店名看板と胸元には名札があり「さとこ」と書かれている。どこか見覚えのある姿に記憶を辿っていると、写真を見せた当人より先に右隣から正解を言い当てられる。
「オレじゃん」
「あっそうかイチノだ、まじかよ」
「いや雰囲気がイチノなだけで、気になってる子はちゃんと良い香りのする女子だぞ!」
そんな事もあったっけと記憶を辿ると、過去に関係を持った人と似ている事に気が付く。芋蔓式に、別れてからもお世話になってる一人遊びが思い浮かんでしまう。一瞬でもそんな記憶と友人を混合させてしまい、右隣のイチノを直視できなくなる。箸を持つ手がぶつかったり、目が合ったりしそうになると視線を外しアルコールを煽る。当然、ジョッキを空けるペースが早くなる。するとあっという間に酔っ払いの出来上がりだ。
床と仲良くなりたくなくて、左隣の野辺に寄りかかりつつ抱きつく。真っ赤になって気分が良かったのも途中まで。青くなって吐き気を堪えていると、会計後早々に帰らせられる。
家へ向かう電車の中で、さっき見たイチノの女装姿が思い浮かんでくる。
東京に来てから何人かの女性と付き合った事がある。大体が大学や合コンで出会った女性ではあるが、うち1人は社会人になってからたまたま街で会った人だ。
大通りから細い住宅街へ抜けたところで、道に迷っていたのを助けた。それがきっかけだ。彼女はこちらに越して来たばかりで、友達と最寄駅で分かれ家に戻る途中だったという。オレは買い物のついでに散策をしていたため、家が近くたまに顔を合わせては会話する仲になった。
よく笑顔を見せるふわふわと可愛らしい女性で、背は高い方だっと思う。背が大きいのに可愛いものって似合わないよねと気にしていた。だけど女子なんてみんな小さくて柔らかくて折れそうだし、都会の女子は皆ヒールで身長を高く見せるから、そんな気に留めてはいなかった。
今思えば、抱きしめた時骨付きがしっかりしてたり筋張ってたりしたと思う。でもやっぱり体質だと思ってた。
それがもっと深いお付き合いに進み自分のベッドに彼女を押し倒す。
「?」
不思議な触感に疑問符が飛ぶ。しかし先に進みたい欲の方が強い。不躾と思いつつ再度感触を確かめる。
「
……
?」
「
……
私、男の子なんだよね〜」
フリーズしたままのオレに向かい、証明するように長いスカートを捲り上げる。下着に浮かぶその形は、紛れもなく覚えのあるモノだ。
コンプレックスと言っていた女の子らしくないところ、別にそれも可愛いとは思っていた。だけど男の体なら納得だ、そもそも女ではないのだから。全てが1つに繋がった気がした。
「
……
えっ
……
?」
我に返った時、大分熱は鎮まっていた。どんな可愛くても付いてるモノを見てしまうと男としか考えられない。一方彼女もとい彼は続行の意がある様で、頬を染めつつ興奮して続きを急かしてくる。
「入れる?」
左右に大きく首を振る。
「いや無理だ」
「なら私が気持ち良くしてあげる」
大人しくしててね。そう妖しく笑うと、被さるオレを横に転がし乗り上げる。
同じ男だからか、良いところを的確に刺激してくれる。感情とは裏腹に高まる熱を、挿入した事のない場所に導かれる。女性では使用したことのない場所で、締め付ける圧に堪らえきれず果てしまう。
結果として、してもらうのに関してはとても良かった。
気持ちが追いつかないためその日以降付き合いは解消してしまったが、搾り取られるのもなかなかで
……
。それから新たな扉が開いたのか、モノがある以外あの子の事が好きだったからか、一人でする時想像して抜いてしまう。
それがあの飲み会以降、女装したイチノの姿が混ざるようになってしまった。あまりしっかり記憶していなかったくせに、あの写真を見せられてからふと思い出す様になってしまった。イチノ小さいもんな、女装姿可愛かったな。高校の時は欠片も思わなかった感想が頭をよぎる。
さらにどうしたことか、最近は女装したイチノから普段のイチノにすり替わる事がある。外見が女子だった彼女が男と知った時、大人しくなってしまったと言うのに。男のイチノに攻め立てられる想像をして、達してしまう。
流石にどうしようかと頭を抱える。
イチノは友達だぞ?!
それからイチノに合わせる顔がない。元バスケット部の飲み会はあれこれ理由を付け欠席していた。しかし生活圏が同じで普段の様子を知ってる深津から、大した用事はないだろいい加減来いと言い渡されてしまった。
気が進まないながら10分前に着くと、来た者から席に通される。またしてもイチノの隣になってしまった。
淫夢を差し置いても、イチノの事を良い男だと思う。知識が幅広くて話が面白い。興味ない話だとしてもこちらが話したくなる様な返しをしてくれる。小さく薄い唇が動く様子を見ていたくなる。男子の平均身長程度の小さい体から男らしい心地の良い低音が繰り出される。
こちらを見上げる釣り上がった目が、店の照明を反射しきらきらと輝く。
……
ああ、好きだな。
他の人との会話の合間や飲食物を確認する時、それとなくイチノを見つめる。無心でアルコールを口にしてたら摂取量が多くなっていた様で、もう帰れと言い渡される。そこまで酔ってないし自分では受け答えもしっかりしてたと思う。だけど、家の遠いイチノはここで解散となる。イチノと少しでも一緒にいたくて、酔いが回った事にして帰る。
イチノに対する感情に気付いている深津が、さり気にサポートしてくれる。
「酔っ払いは面倒見切れないピョン。明日は二日酔いでもなんでもいいから夜仕事ちゃんと行けピョン」
本当に足元が覚束ないわけでないが、酔っ払いを演じてイチノにしがみつく。酔ったら抱き付き魔になると言われるんだから、多少はバレないだろう。酔いで気が大きくなっている今なら、という下心付きだ。
酔っぱらいのフリと言っても、ある程度は酔っている。ビールの他にワインと日本酒は飲んだからちゃんとアルコール臭はするし顔も赤くなっている。そうでなくてもイチノに触れているんだ、体温は上昇するし心臓だって早くなる。
一方アルコールに強いイチノはほとんど変わらない。
「ちゃんと歩いて。酔い潰れるなら置いてくよ」
イチノの肩に腕を回し下にある側頭部を見ていると、あることに気がつく。大学までバスケットを続けてたオレと違って、イチノは高校でやめていた。前に抱きついた時より固さの減った感触に、感想が口を衝いて出る。
「イチノ小さくなった?筋肉減った」
そう言うと、面白くなさそうに反論される。
「ずっと鍛えてる巨人達と一緒にするなよ」
今はこの酒癖に感謝だ。抱き付き魔にでもならなければ、好意を寄せるイチノになんて触れない。酔いが回ってきた事にしてさらにイチノに体重をかける。
「なー眠い、寝よう」
オレん家イチノの家より近いだろ~。この辺りにビジネスホテルがない事を念頭に置きながら言ってみる。駅から少し外れたところにラブホテルがあるが、勿論本当に行く気などない。
「嫌だよ、ずっと松本の面倒見ないといけないの」
素面の状態で断られる勇気はないし、かといって友人として一緒のベッドで寝られる気もしない。断られる前提の、ただの冗談だ。
そしてイチノは口では厳しい事を言いつつも面倒見は良い。
どこまでなら許されるだろうか。ドキドキしながらイチノの頭に手をやり、自分の頭と挟んでグリグリと撫で回す。
「なんでだよ~!」
酔い潰れたフリの俺を助けてくれる。
そんなイチノに、甘えてる。
「おい、本当に置いてくぞ」
イチノは優しいから。
オレは、その優しさを利用してる。
ー・ー・ー・ー・ー
○最近ゆっくり会えないから
松本の朝は元気だ。起きてストレッチをしてランニングへ行く。その後軽めの朝食を作ってコーヒー飲みながらのんびりする。
反面、夜は弱い。普段23時半にはベッドに入っているし、就寝時間が遅くなると結構翌日に響く。深夜残業とか年越しとか、セックスで夢中になるとかでいつものペースが崩れると半日寝坊助だ。
最近閉店後の片付けをして家に帰ると、松本がソファやコタツに転がっている。残業が多いと言っていたから、それが祟ってるのだと思う。
少し前だったら眠くなればすぐ寝室に引っ込んで行ってたし、オレの帰りが遅い時は夕食を用意して朝もなるべく物音を立てなかったりとあまり迷惑をかけない様にしていた。それがもうすっかり緩んだのか、こうしてリビングで寝落ちしている姿を目にする。
ただ、コタツの中で寝るのはよろしくない。肩を叩きと強めに揺する。
「松本〜眠いなら向こうで寝な?コタツだと風邪引くぞ」
「いやだ、まだ行かない
……
」
半分以上夢の住人な松本がむにゃむにゃと返事する。
「また砂漠で遭難するぞ」
コタツの中、座布団に転がる松本をなんとか引っ張り出す。ただでさえでかくて重いのに寝ぼけてるからふにゃふにゃで、重心移動もままならない。半分放り投げるようにソファへ転がす。松本の部屋から毛布を持って来ながら一応声を掛ける。
「部屋で寝な〜?」
足元から胸の方へ掛けていく。すると腕を取られ力強く引き寄せられる。
「イチノも一緒に
……
」
タタラを踏むも上半身で松本を潰さない様背もたれに体重をかける。
「ねえ、オレ落ちるんだけど」
「
……
じゃあ上乗って」
寝ぼけ眼で駄々を捏ねられる。
友人だった時に言ってたわがままは、恋人になってから鳴りを潜めた。恥ずかしいのか真っ赤になって迷惑がかかると言い訳し、妙によそよそしくなった。だから眠い時限定だとしても、こうやってわがままを言えるようになったのは大きな進歩だ。
ただ、この特段広いとも言えないソファで大の大人2人は窮屈だ。それに足は床に付いているし布団は体の下、そのままだとオレが風邪を引く。
「ここで寝てて良いから。オレは部屋行くよ」
半分寝ぼけた遠慮のない力で抱きしめられる。
「最近イチノ遅いから寂しい」
最近夜ソファやコタツで転がって寝てる姿が増えたのは、ただ疲れたからじゃない様だ。どうやら、オレの帰りに合わせて起きて待つつもりが、寝落ちしてたらしい。
いじらしいその姿に、抜け出そうと突っ張ってた手を緩め全体重を預ける。歯磨きは松本が寝てからにしよう、まずは目一杯甘やかしてやろう。そう心に決めていると頭上から不明瞭な言葉が聞こえてくる。
「イチノは優しいな
……
」
その後うんともすんとも言わないため、もう寝言だったのかもしれない。腕の拘束を解き寝顔を見つめる。起きてる時にはあまり見られない、ふにゃふにゃの笑顔がなんとも幸せそうだ。
オレがお前をいつから好きだと思ってんだ。
オレが優しいのはおまえだからだよ。
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