魔界王の忙しいお仕事を中断して、ニュートはきょろきょろとあたりを見回し、いつもの裏庭のベンチにやってきた。一瞬だけ誰もいないかと思った。暗くってよく見えない、そんな場所が魔界にはたくさんある。
もちろん、ちゃんとデビイが待っていてくれて、ニュートに手を振る。ニュートは飛びつくようにしてデビイに抱きついた。
「もー、ニュート、おおげさじゃない? ほとんど毎日会ってるじゃない」
デビイ、デビイ。大好きなデビイ。
ニュートが王になっても、魔界にいてくれた。デビイは、ニュートの家臣であり続けている。
ニュートは天才幼なじみの助言を、とてもとても頼りにしている。どの魔物よりも信頼している。けれども一番うれしいのは、こうして、自分のそばにいてくれることだ。ベンチの近くの茂みはとても背が高く、ニュートとデビイならすっぽりと収まる。二人はそこを秘密基地にしている。
「別に、お城の中で、普通に呼んでくれてもいいのに。え? 魔物に襲われないか心配? ここならみんな知らないから、大丈夫だって? ふーん。そっかー。それで、今日は何の話? ……また、スプーンを曲げて見せてって? いいよ」
残念ながら、期限までに魔界の再建をすることはできなかった。けれども、ニュートにしてはまあまあ頑張ったし、それでもデビイはニュートを見捨てやしない。ニュートにとってはこれで十分だ……。
「ニュート。そろそろしよう?」
デビイったら……。
ニュートは頬を染めてぎゅっと目をつむった。
「あ。そっちじゃなくてさ。もうそろそろ、新魔界を滅ぼさない? え? 戦うのは怖いって? ケガをするところは見たくないって? せめてレベルが54くらいないと心配だって? もー、心配性なんだから……ニュートは! っていうか、そんなに上がらないって」
「……領土なんて取り返さなくても、ぼくがいればいいって? ふーん。そうなんだー」
だから……とニュートが言葉を続けようとすると、デビイはするりと、ニュートの手をすり抜けてしまった。
「ごめんねニュート。今日はぼく、ちょっと用事があるんだ。またね」
ぽつん、と雨が降ってくる。
今日こそプロポーズしようと思ったのに……。
ニュートはデビイがとっても好きで、できることならずっと傍で支えてほしいと思っている。一緒にいたいと思っている。
しかしニュートが思いを告げようと決めると、いつもいつも、デビイはいなくなってしまうのだ。空がどんより曇っていて、しかも雷まで鳴ってきた。
ニュートは慌てて城に帰った。
***
小鳥が鳴いていたような気がした。くちばしが窓をノックしたような気がした。けれどもニュートは起きなかった。起きてみると、ノックをしていたのはフランコールだった。
「ニュート様、ニュート様。大変です」
しんまかいが攻めてきたの?
ニュートは寝ぼけたままフランコールに聞いた。
「いいえ。もっとたいへんですわ」
空を見てみると、空を覆いつくさんばかりに、巨大な何かが覆っている。とても大きな天体が、かなり大きく見える。きれいなばかりではない不吉なオーロラ。時空の裂け目……。
でも魔界ってときとしてこんな感じなのかな?
「いいえ。隕石が降ってくるのは、はじめてのことらしいです」
そうなんだ……。
「そうだね、ニュート。このままだと、新魔界どころじゃない。魔界ぜんぶがなくなってしまうかもしれないね。……」
デビイはそこで言葉を切った。ニュートはハッとしてデビイを見た。
もしかして、新魔界と協力して、隕石を止めるの? ここにきて魔界が一つになる、みたいな展開が?
「え? まさか。新魔物たちも隕石にびっくりして、忠誠を誓った魔物たちが、どんどん人間界に帰ってるんだって。ほら、あっちの魔物たちって、ロクな教育も受けてないでしょ? だから、今ならラクに攻め落とせるよ!」
でもデビイ、新魔界が倒せたとして、あの隕石はどうするの? ぼくたちも、せめてきみだけでも避難しておくべきじゃないのかな……。
「ちなみに、新魔界を滅ぼすまで、あと3週以内に落ちてくるから。頑張ってね?」
何かをはぐらかされた気がするが、ニュートは慌てて魔界の鎧を引っ張り出してくることになった。
「ね、ニュート。ぼくだったそろそろ次の段階に進みたいなって、ニュートをダイジだって思ってるんだよ」
デビイはにっこり笑って、ニュートの乗った馬の綱を引いた。ニュートの凱旋を告げるラッパが鳴っている……。
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