猫柳 楸
2024-06-19 15:37:05
1376文字
Public その他
 

満開の花をあなたに

ハッピーバースデーみのりさん
みんなみのりさんが大好き
プロデューサーとかアイドル以外の人もめっちゃ喋ります

夕方。
俺の誕生日会の準備をするからと張り切るピエールと恭二と別れて、事務所に寄る。

電気が付いている割に人の気配が少ないな、と思いながらレッスン用の楽譜と資料を鞄に詰める。

人がいるようなら挨拶をして行こうかと事務室を覗くと、プロデューサーがひとりで唸っていた。
その目の前には細長い包みがひとつ。

「どうしたの?プロデューサー」
……ああ、渡辺さん」

ちょうど良かった、とホッとしたように言われて首を傾げているとプロデューサーはその包みをしゅるりと解いた。出てきたのは

「わあ、ハーバリウムだ」

プリザーブドフラワーを、オイルで満たした瓶に詰めたハーバリウムと呼ばれる植物標本だった。
淡いブルー、優しいピンク、あざやかなイエローの花が詰まったカラフルな瓶。

「以前、妹と一緒に作ったんですが置き場所に困っていまして」

持て余してたら先程妹が事務所まで押し掛けてきて置いていったんですよね……というようなことを呟きながら中空に視線をさまよわせるプロデューサー。よっぽど妹さんが怖いのだろうか。

「渡辺さん。よろしかったらこれ、貰ってくれませんか」
「え、くれるの?」
「ええ、誕生日ですしなにか差し上げようかと思っていたところなんです。……もっともこんな初心者の作では物足りないでしょうから、また後日別のものを用意しますが……

なんて言うから。

「いいよこれで。……いや、これがいいな、プロデューサー。俺、こういうの好きだよ」

きらり、ライトにかざせば薄く透けた花弁の色が瞬く。色や花の形を眺めているとふと思った。
……青にピンクに黄色。これ、俺たちみたいだね」

「ええ、Beitの3人をイメージしましたから」

少し照れくさそうな、でも誇らしげなプロデューサー。なんだか自分まで照れくさくなって受け取った瓶を大切に抱きしめた。
「嬉しいな、これ大切にするよ」

「はい、お誕生日おめでとうございます」

・・・

商店街をてくてく歩いて恭二のアパートに向かう途中。

「みのりちゃんみのりちゃん!今日お誕生日だったでしょう」
「渡辺さん、これ良かったらBeitのみんなで食べてよ」
「みのりちゃん、お仕事忙しそうだけどまた来てよ。サービスしちゃうから」
「みのりさんおめでとう」
「恭二くんとピエールくんにもよろしくね」

仕事をしてた頃仲の良かった人達や常連さんに口々に祝われて、駄菓子やらコロッケやらたこ焼きやら、それにたくさんの花束を貰ってしまってなんだか感動して泣きそうになってしまった。

・・・

恭二の部屋のドアチャイムをぽちぽちと押すと、扉の向こうがどたばたと騒がしくなって。

バタン、ドアが開いた。

ぴょこっと飛び出した頭が2つ。

「すごい荷物っすね、少し持ちますよ」
「みのり!おつかれさま!」

返事をするよりも前に手荷物を全て回収されてしまって、王子様がすっかり板についてきたなぁなんて思う。

「うん、商店街の人に貰っちゃった。2人も準備お疲れ様」

靴を脱いで部屋に上がろうとした時、

「あ、みのりさん」


2人がこちらを見て微笑んだ。

「誕生日おめでとうございます」
「みのり、おめでとう!」

その言葉が嬉しくて、こんな時間がこれからも続けばいいな、って思うんだ。