猫柳 楸
2024-06-19 14:34:08
606文字
Public ポケモン
 

例えば、さいしょにつかまえたキャタピーの話


例えば、さいしょにつかまえたキャタピーの話



大事に大事に育てて一緒に戦ってご飯を食べて何時しか立派にバタフリーに進化した
でも数年もすると戦うのを嫌がるようになる飛びたがらなくなる
はばたきがゆっくりになり目が濁ってくる鱗粉の輝きも落ちた
別れの時が近づいているというのは幼い私にも分かった
必死に看病をしてポケモンセンターやもっと上の専門の病院にも通う
そうして1年も経った頃
バタフリーが戦うのを避け始めた頃から一緒に寝ている部屋で、いつものように1番最初に声をかける

「おはようバタフリー」

いままでなら元気がなくとも律儀に返事をしてくれていた
けれどこの朝、返事はなかった
真っ白に濁った目はもう私を映すことはもう無かった
強ばった脚は私の肩に留まることはもう無かった
美しかった羽根はもう光を反射することは無い
そこに生命はない
小さく開いたまま凍りついたその口から、超音波にも似たけれど甘くて優しい囁くような鳴き声を返してくれることはもうないのだと悟り、私の目からは勝手に涙が零れ落ちる
思わず謝罪が口をついて出そうになり、言葉を飲み込む
きっとそんな言葉を掛けられるのはこの子は望んでいないだろう
息を吸い込んで、言う

「私と一緒に居てくれて、ありがとうね、バタフリー」

『ふりゅい』

肩にあの子が乗った時の優しい重さを感じた気がした
涙がとめどなく溢れて止まることはなかった