2024-06-18 20:58:51
2625文字
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「好いてくれるっていうならあんたのやりたいようにするといい。
 この先「やっぱりナシだ」と思うようなことがあったらいつでも煙たがってくれるといい」

最初に顔を合わせたとき。日暮れ夕餉の時間まで横にいたとき、そんなことを言っていた。

「生きておなじ本丸のどこかに居てくれさえするのならあんたが俺を嫌ってもかまわない。煩わせるのは本意じゃない
 ああ、怪我はしてないほうがいい。元気で日々を暮らしてくれたら重畳」

……『いい』ワケがねえだろうが。

わかっちまう。先生に言ってった意味が
平気でヨゴレ役おっかぶって。恨まれ役、買って出るタイプだ。こいつ。
そういうのについておれが物申す性分 しょうぶんっつうことを把握してる。ツラ見に来てわかった……

「深い意味はない。なにが、ってこともない。そのままの意味で受け取ってくれたらいい」
「先生を伝言役にするんじゃねえよ。ああ見えてけっこーのんびりしてる」
「のんびりしてるのはわりと見た目どおりだと思うぞ」


「僕らの手合せ、このまま始めても良さそうだね。兄弟」
「そうであるな」
「武器をはじき飛ばすような身体の運びは封じるか?」
「あー、逆にそーいう状況もあるか。んじゃ、全員味方ってことで」
「この稽古場に立っていられる時点で手練れ てだれ。おのおのがた、加減は無用の心得でもって参ろうぞ」

……誰が手練れだ、こいつらはともかく。

「俺たちパスね、ノーカン!さっきまでいた連中と何時間やりあってたか知ってるでしょ」
「えっ」
「そんな顔してもダメだから。俺もお前も夕ごはん、特製スイーツ食べたら二日がかりの遠征 えんせーい!」

かわいい連中がやいやい言いながら、赤いのが青いのをはんぶんひきずりながら。
とっくに始めてる四振りのあいまを綺麗に抜けて稽古場を出ていく。
引き摺られてるほうが引き摺られながら、黒装束の篭手に振るわれた竹刀を手元の得物で払ってのける音が清々しく響いた。
手練れだわ。
向こう側からこっちまでブッ飛んできた竹刀がヨメさんに直撃しないよう掴んで、連中の拾いやすいほうへ払い飛ばして返す。
もともと使ってたやつの手元まで届いて難なく拾いなおしたのを確かめる。
目の前で大人しくあぐらかいてる(文字通りだけの意味で)やつに向き直って、おれはさすがにあぐらまではかかない。
いつもならああいう見事なやりとりを見たとき必ずしていた「愉しそうだ!」ってツラに、ならないのを、見る。
すこし驚いてる。ギラつきがない。殺気もない。
バツが悪い。つい、舌打ちが出る。

「護るっつったろーが」

一生。そのつもりで、マジだったんだが。
あー、こいつもう「忘れちまえる 忘れちまっと思うかい」



「覚えてる。あんたが言ってくれたことは……さすがに全部とはいかないが、こう見えて物覚えはよくてね」

…………………………

「望めよ」
「なんだって?」

剣戟のたぐいを「やかましい」と思うのは久方ぶりだ。

「平気なツラしてなんでも食っちまうクセに」

それこそ。おれみたいなのと、この状況になっちまうことまで呑み込んじまったクセをして。

「食いてえモンを食いてえって言わねえよな。あんた」
「さっきまでここに居たひとふりと「うな重食わせてもらう」って約束とりつけて一本とったばかりだが」
「なんだよそれ」
「うまいうなぎを食わせてくれる専門店が万屋にあってね」
「角の鰻屋だったら確かにうまいがバカけーぞ」
「それゆえ奢り。 やっこさん羽振りが良いんだ」
………………
………………
……おれには」
「?」
「うなぎ食いてえなんて言ってきたことねえじゃねーか」
「うなぎが食いたかったわけじゃないからね。一本とってやりたかったのが目的だ」
「おれには?」
………………うん前も言ったが、
「「生きていてくれたらそれでいい」」とか言うんじゃねーぞ。
 おれが生きてることなんざおれ目線から見りゃ、あたりまえなんだよ。ほしいモンねえのかよ」
「ない」
………………………今晩、夕餉の献立しってるか」
「はんばーぐ」
「1から仕込み手伝った」
「!?」
「玉ねぎって切る包丁によっちゃマジで涙出るんだな」
「厨の子たちなら涙が出るような切れ味じゃないだろう」
「おれの包丁がある。すこし長く使われてくたびれてっから研がずに休ませてやってんだが」
………
「たまになんか切りたくなるらしいからそういうときにおれが使う」
「へえ
「そいつでみじん切りしたらすげー涙出た」
「そうかい」
「話戻すわ」
「うん?」
「夕餉のハンバーグおれが イチからこしらえた」
「うん
「なにもいらねーんだろ?」
「いやな予感がしてきた」
「10分ぐらいで済む遠征先でなんか食って帰ってこいよ。今なら烏賊とかうまいだろ」
………………
「莫迦野郎」
「ば、

顕現してから過去イチ頭痛え。

さっきまで『  の作ったハンバーグ』だったのが、
『烏賊か。どうやって食おうかな』のツラになっちまいやがった!!

「食わねえのかよ。ハンバーグ」
「駄目なんだろ?」
「あんたのためにこしらえた」
………………
「あんたのために泣きながらこしらえた」
………………
「嫌いだったかよ、ハンバーグ」
「かもしれない」

頭が痛い。ここまで徹底できるもんか?惚れてるってどういう状態だ?
もともと我慢強い?

「なあ、これから食堂行く」
………
「おれは自分が作ったハンバーグをあんたが食ってくれるところを見たい」

のう。おまさんら、お互いのこと嫌うちょるがか?」

たぶん先生がなにか話してくれた。
ついさっきから稽古場に来て、しばらくようすを見てくれていた ヤツが言う。

「嫌いな相手にめしなんざ作らねー」
「普段しないだけで上手ですよね」
「昨晩の味噌汁も絶品であった
「おれの味噌汁が絶品なら普段のは国宝かなんかかよ」
「一昨日の煮物も美味かった。本科も褒めていたぞ」
「感想ならそいつから聞いてるどーもな」
「煮浸しもうまかったぜ」
「ああ?いつの話だよく覚えてんな

あんたひょっとして」
「おれに寄りつかなくなってしばらくしてからずっとだよ」

これでもか。