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本
2024-06-18 20:50:13
2311文字
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伍
………
居ないはずだった刀が目の前に。
は、この本丸にはいない。
そう思っていた時期が俺にもあった。
たしかな違和感に気づかないほど鈍かったなら、どんなによかったか。
記録の
類い
たぐい
を見るのは好きで、この本丸が乗りこえてきたこれまでの戦についてはひととおり眺めた。
…
まだバグっていないころ。
この本丸は、依頼を受けてとある時代の土佐へと調査に出向いたことがある。
その土佐からやってきた刀が逸話も出自も土佐にゆかりの深いあのひとふり、下戸で眼鏡の先生だ。
同郷ゆえか、元ご主人さんとの兼ね合いか
…
土佐訛りが小気味良い
刀
コ
とふたふりで一緒にいる姿をじつによく見かける。
そう、ふたふりでいる。
記録によれば土佐の調査を境に本丸へと迎えた刀はもうひとふりいた。
同郷、持ち主や逸話由来で一緒にいることが多いのだとしたら、あの
刀
こ
なら「三振り」一緒にいるのが自然。
……
もうひとふりの土佐ゆかり、 は折れたのかもしれないなどとうっすら考えた。
おなじ土佐の刀は、まだいるハズだろう?「もうひとふりはどうしたんだい」
…
と尋ねることは気が進まなかった。
バグってからは、この本丸に は居ない
…
それどころか折れたかもしれないと考えては胸が潰れる思いだった。
「主から伝言~」と。かわいい同志が言伝てを持ってきてくれた、あの花冷えの夜を忘れられる気がしない。
「 を起こす?」
「
まごろく
があんまりあの
刀
コ
にお
熱
ネツ
だからって主がさ」
憶測が事実と異なるなんてのは、いくらでも。
いた
・・
。しかも主人は刀として蔵に眠っている を起こそうと言いだした
……
心臓が煩い。主人の意向で蔵にいたという。戦いたくなさそうだったから非戦闘員として眠っている
…
と。
戦いたくないのか。この本丸の は
………
かれこれ一年以上、眠っているという。どういう理由かわからんが、寝ているのならそれがいいと感じてる。
が、いる。それだけでいい
……
居てくれるなら、それでいい。折れていなかった。なによりの報酬だ。
戦いたくない者を戦に出すことは正直、賢い選択じゃないだろう。そこを理由に蔵にしまったのなら英断だろうさ。
「
起こしてくれなくてもいいよ
今すぐにでも逢いにゆきたい
」
眠っていてくれるなら、戦いたくない刀でも無事でいてくれる。
俺がぼやぼやしちまったもんだから が起こされるハメにハマりかけた。
…
それに、 が眠る本丸なら守りがいも増すというもの。
気の引き締まる思いがした。なにかにつけて について考えてしまっていた悪癖をあらためた。
いないハズの についてあれこれと想いを馳せる時間は減って、そのうちすっかり無くなった。
「ぼんやりしなくなったね、
まごろく
」
かわいい同志から花丸をいただく。
いつか を起こす話を聞いて以来 については特になにも聞かなくなり、すがたを見かけることもない。
言伝てを聞いて直談判に行った。
あのねえ、なに考えてるのよ。戦いたくないなら寝かせといてやって
…
『 』がぼんやりして使いものにならないから起こしたよ、となってはさすがに に申し訳が立たん。
「後生だから」と頼み込んだのを主人は聞き入れてくれたんだろうなと思って。
おもっていた、もんだから
…………
いえーい、打刀でーす。
ああ、なんだろうな。舶来のお伽噺の王子さまが本から飛び出してきてくれたみたい。
飛び出してきた先にこんなゴツい姫が待ちかまえてたら王子さま、出てきたおはなしの中にUターンして帰っちゃうよ
……
姫はあちらさんだな。お姫様みたいに綺麗な刀だ。
佳い赤だ。思っていたより背が大きい。脇差としては大柄と把握してはいたが、そうか。なるほど
…
「
…
おい、あんた」
はーい。
「なんだい」
会話をしてしまった。
「熱でもあんのか」
……
じっと顔を見てくれる。
は、配置をされた各本丸ごとに、かなりいろいろな個性があらわれる刀だと資料で読んだ。
人を寄せ付けないような無愛想で尖った個体から、誰とでも別け隔てなく気さくに話をするフランクな個体まで。
うちの は、やさしい個体らしい。
うちの 。うちの本丸の
………
「
…
おい。南海先生。陸奥守!こいつダメっぽいぞ!」
肥前があわてている。ダメとは
……
「孫六さん。
いやっちや
あれまあ
…
」
「どういう事情だ!?会ったらマズかったヤツか
…
!?」
俺の事情については知らずに会いにきてくれたのか。
「ああ
…
?なんも知らねえ。あんたに会って聞く気でいた」
向こう見ずは嫌いじゃないよ。いや、いいねえ。俺は好きだ
……
「
……
ッ」
肥前
…
?
なんだ、突然かわいい顔をして。どうしたどうした、そんなに目を丸くして赤くなって
…
もしや俺が「好き」と言ったからか!?
「
初
うぶ
」なんだなあ、この肥前は。とてもいい、とことん俺の好みだ
…
まいった。どうすりゃいいものやら。
も最近になってから起きたみたいだが俺も顕現してから勘定するなら、あんまり長く月日が経ってはいないからね
…
いやはや。そうか、これが戀。慕情
……
色恋の沙汰だってそれなりに知っているとは思っていたが、なるほど病と言われるに足る。
最近の言いまわしだと『わかりみが深い』あたりか。まさしく
患い
わずらい
に他ならない。
「俺の事情を話そうね。あんたには詫びなけりゃならない」
良い
刀
こ
、と。ついつい撫でてしまった髪は、見た目でいだくイメージよりもやわらかい。
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