2024-06-18 20:44:50
2431文字
Public
 

そうして彼は 肆


   ひぜん?」

おどろいた顔、そして数年は会えなかった昔馴染みと久しぶりに会えた時のような名まえの呼び方。

「あんたが『     まごろくかねもと』?」
「そういうあんたは     ひぜんただひろ

……

どっかで見たようなやりとりの気がする。


既視感はともかく。

あれはいつのことだったか「人の身になって戦に出るのは少し待ってほしい」と告げられ、まあ、いくらでも待つと返した。
倉の中では自分以外にもなん振りか、似たような願いを審神者から請われソレを「よし」とした刀たちが刀のナリで静かに過ごしてた。
共通点は、どうやら「戦いたがらない刀」

戦に出たいか否か。戦いを忌避するか否か。
真意にせよ建前にせよ。表向き、審神者に対しハッキリと難色を示したことがある刀……
中でも戦力がそれなりに揃ってきたタイミングで顕現をした刀。
どう見ても戦いたがらない刀であろうとも、この本丸が動き始めたばかりの頃から戦ってきた刀は
あの優しそうで謝ることが多い白い短刀なんかも戦はいやだなぁとは明言をしているがこの本丸には初期からずっと居て今や主戦力。
そういう、さんざん戦ってもらっていて今になって引っ込んでいるよう頼むのはちょっとという刀は此処には居ない。

軽く初陣だけは済ませ。数日は内番や近侍をつとめ。
おれはありがたく戦力外通告を受け、それからずっと刀のナリで倉にいる。
八十振り近い名刀が居ならぶ大所帯の本丸だ。なにもおれがわざわざ斬らなくとも戦いたがる刀は山ほどいる。
だからといって、心配ごとがないと言っては嘘になる。ここには昔馴染みと顔馴染みが顕現してる。
気になることを察してというべきか、ただ暇なのか昔馴染みも顔馴染みもふたふりで来たり、ひとふりで来たり……
ときどき此処に顔を出して近況報告をして帰っていく。
どうやら先生も人の身で顕現こそしているが戦力外通告を受けている。
有事の際に備えてこんぺいとうをたらふく食わされたもののキホン、研究に明け暮れて戦いには出ないらしい。
昔馴染みのほうも、あまり戦には出ない。強さが近い連中を率いる役として一緒に遠征に出向くことが主な仕事だと。
それぞれ、げんきにやってるようで。
「平和にやってる」とまでは、さすがにいかねえらしい。のびのび暮らしてると聞くが「戦いが終わりそうだ」という一言は、いくら待っても。
此処を訪ねてくる刀たちの頭数は増えたくせに、誰からも聞かない。

なにをするでもない。定期的に刀身や精神面のチェック、メンテは受ける
それ以外は、ただなにも斬らない刀として。
単に此処に在って、訪ねてくる刀が居たら「来たな」と思いながら静かに時は過ぎる。

ある時、いつものように刀のかたちから人の身になるよう促された。メンテの時期にしては、いつもよりいくらかタイミングがはやい気がする。
久方ぶりに肉体の重みを感じながら動かせるようになった腕や脚の感覚を確かめる。

「メンテか?」
「それがのう

どう説明をしたものか……という言い淀みかた。

よくわからねえ理由で急に刀のかたちをやめにして人の身で駆り出されるようになった刀も、いた。
近侍をしていた期間は少しばかりだがそれでもわかる。どうやらマイペース、気まぐれな審神者だ。
さては、またよくわかんねえ理由で今回はおれに白羽の矢が立ちやがったか
戦に出ては敵を斬る。どうやら、練度を上げている。ろくな説明も受けず、そのうち戦力的に熟達をして本丸での生活にも、肉体があることにも慣れて……
唐突に、見合いの話を持ち出されて。

「冗談じゃねえ。誰が、どいつのなんになるためにこのナリで暮らすようになったって?」

言伝てしてくれてる先生にしつこく尋ねるこっちゃねえのはわかるが。

「きみがね、『    』の

お嫁さんかな?旦那さんかな……

「関の!?きのうの晩そこの包丁で茶漬けに入れる板海苔刻んだぞ

嫁でも旦那でもそんなに変わんねえよ先生!
いや変わるか?
顕現してから過去イチ頭いてえ

「最上大業物様々じゃねえか……

人斬りの刀が。もう居る、とは把握していたおなじ本丸で暮らしてるはずでも顔を合わせねえやつは居るもんだな程度の認識でいた。多いし……
吉行が申し訳なさそうにしてるのはわかるんだがおれにもさすがに受け入れにくい事実ってのは、あるんだよ。
だが、審神者がそうしろっつうなら……ここの刀んなったからには……主命?が、存在意義が、それだってんなら腹くくって………

「いっぺん会ってみて キミ的にナシなら断ってもいいそうだよ」
「自由意志かよ!?」

刃権尊重はする気あんのか

「急がなくても心の準備ができたら会いに行ってほしいとのことだ」
「わけわかんねえこと押しつけやがって

どういう刀かって部分までは把握してねえ。ツラもわかんねえやつと、なんだって……
そもそもヨメさん娶るために顕現する刀もそんなにいるもんじゃねえ………のか……
ここ来る前に居たとこでそんな例、聞いたか?
刀どうしのコミュニケーション(?)のためだけに鍛刀する審神者も居なくはねえとは聞いた気がする……
そういうシュミか?

「すこし困っているようだ」
わしゃあ、おんしを会わしてやりとうての」
「?」

なんか抱えてやがんのか

事情とやらをあらかじめ聞くかどうかも選択肢かよ
なにもかもわからねえが本人のいねえところでごちゃごちゃ言うのは しょうに合わねえ。

「会って聞く」

太刀だったか打刀だったか……
決めるのがおれだってなら相手の野郎がゴリラでも筋肉でも知ったこっちゃねえ。

上背あって筋肉ついてる別嬪だった。
美刃じゃねえか。
いい声してる。
よくばりセットかよ。大盛り特製にもほどがあるわ。

「太刀?」
「打刀」