2024-06-18 20:21:55
1114文字
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薄暗い

肥孫

「なあ、あんたには夢とかあるのかい」
「あ?夢だ?」

こいつは顕現をしたばかりのころから好奇心や探究心が強いらしく降ってわいたような、なんの脈絡もない話を急にきりだす刀ではあるんだが。
夢?
畑仕事から帰り、風呂を済ませて、なにをするでもなく寝転がって部屋の天井を仰いでいたとき尋ねられた。
いま、いわゆる自分のへやでは研究者気質の学者先生があたらしい実験に明け暮れているので邪魔をしないよう新刃の部屋に邪魔している。

……夢?

考えてみたこともなかった。

夢があるとすれば。
夢見たり。
夢見たり……

部屋のすみで鳴っている古びたラジカセから聞こえてきた歌の詞が頭に届いてくる。
今どきラジカセもめずらしいが、こいつは気に入っているらしく、この部屋で音楽を聴くならだいたいこのラジカセ。
先生が修理と改造をしてキレイに鳴るようになった。
テープにダビングされている落語を聴いていることが多い。
ああ、こいつこの「夢」「夢」いってる歌を聞いて尋ねてきたのか
夢が叶うとか願いが叶うと繰り返す曲のあかるい間奏を聞きながら反芻をして、尋ねてきた刀の顔をよく眺めてみる。
べつだん、なにか実りある問答を期待などはしていないというツラだ。

「思いつかねぇ。そういうあんたに夢は?」
「無いな」
「ないのかよ。酒、好きだろ『世界じゅうの酒を呑み尽くす』とかねえの?」
「はは、なかなか面白いことを言う」
「食べ放題で全メニュー制覇とか」
「あんたのやってみたいことか?遠征のついでにやろうと思えば叶いそうだ」
「叶うかもしれねえがさすがにそこまで食わねえ」
「厨で夕餉の料理を全種類つまみ食い」
「良心が咎めるわ」
「同感、こしらえてくれるなら『どうぞ』と出してくれたときありがたくいただきたい!」
「一番うめータイミングで出してくれるしな」
「この大所帯、食うペースや量まで把握してくれているんだよなあ頭の下がる思いだよ」
「遠征に出る連中が戻る時間も今日は誰がどこで当番やってるかも知ってて夜食も支度する」
ああ、うまい飯は食い尽くしてみたいかもしれない」
「『夢』?」
「さてね」

のらくらと話しながら畳で寝そべっていたやつが、不穏な怪談が語られはじめたところでずいと手をのばしてラジカセを切る。
聴いていたのはカセットじゃなくラジオだったらしい。

「怪談」
「あれがはじまると畑当番はちょうど夕餉の時間でね」

見れば、障子の外はいつの間にやら薄暗い。

よっこらせと声にだしながら起き上がるやつの襟元を握って手繰り寄せる。
三秒ぐらいしゃべれなくしてから、めしを食べに。



おしまい