2024-06-18 20:12:37
1054文字
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ときどきの些細な

肥孫

遠征の途中に出くわした小型の敵、さほど強くもなかった最後の一体を斬ったのはあいつだったが。
悪足掻きの一閃を喰らって鞘が手元から弾き飛ばされたのを見る。
拾い上げ手渡したら顔を見られた。
浅葱色はただ、こちらの無事を確かめて安堵したように目を細めた。

「自分が生きるか否か」に、あまり執着が見えない。
ふとした引っ掛かり。しばしば懐いてきた疑念は、戦いを繰り返すたび濃厚さを増している。
己を励起させた主人への忠義。この刀を繋ぎ止めるものは、それだけなのでは。
大事な同志たちに刀ひとふり失った痛みをのこすことも本意ではないのかもしれないが。
折れそうだ、と感じたら、背筋が「すぅ」と冷える。
笑いながら「こういう終わりも、ひとつだろうさ」とのたまう光景が頭に浮かぶ。
なにかが行き場をなくし、頭痛にも似た感覚を紛らわせたく、ぐっと拳を握りこむ。
生き汚いぐらいでいい、誰かが負傷をしたら引き返せ。
そういう審神者の本丸だ、こいつもわかっているから、くたばるつもりは無いだろう。
「斬ることに躊躇があると、いざという一瞬に勝敗を分ける」と捉えている気がしている。
そう言いたかったなら、たしかにそうだろうよ。
だが、あんたこそ。
執着の無さ、いざというとき帰還する人数の勘定から「自分」を外す選択も、直結をするだろうが。

「こんやの肴は春の山菜が出始めたから天麩羅にするんだとよ」

いつも、どんな本を読んでいるか、ぐらいのことすらまだ知らねえ。
めしとか酒とかの話題ぐらいしか引き出しもないが、厨の連中がこしらえてくれるものはうまい。
ちょうど畑で苺を育ててる好きか嫌いかしらねえが気に入ったなら食える機会は増えるだろう。
「いいねえ」と嬉しそうに明るくなる顔が、本陣へ帰還することを視野に入れている。
こいつが、粋 というやつを。風流というものを好み嗜んで季節を大切にする性質でよかった。
夕暮れの空がちょうど鮟肝のふかしたやつに紅葉おろしを添えたみたいな色をしている。

「鮟肝を肴に呑めるのはまた来年かなあ」

こいつも思うことはそれか。
「好みも分かれるだろうし」と厨を拝借していた。
すこしだけ自分で作って酒呑み連中に半分ぐらいとられていた。
ぬるめの燗によく合って旨かったのでしかたない。
来年。そうかよ、来年も。

「あんたも好きかい」
「そこの木から舞ってきた桜だよ」
「へえ、春だ」

(ああ、こういうもの。生きたい、と思うため必要なものも、些細かもしれない。)