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皆瀬茶太(シキゴウ全)
2024-06-18 10:23:42
7020文字
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バットマン
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クラブルなれそめ【後編】
前編としてエロ抜き指定であげたから最後までそうしたけど、そりゃ書きたかったですとも。
ひとまず完結までかけたぞ!
ゴッサムの空からどれほどの場所か、バットマンに考える余裕は無い。
まず、何をされた?
スーパーマンに抱えられた。現在進行形で。
次に、何で浮いている?
スーパーマンがその姿勢のまま飛んでいるから。
地上はどこか分からないが明かりは一つもない。ぽっかりとした闇の絨毯が広がっているので海だろう。
星を見ればおおよそは分かっても、逃げられない。高度がえぐくないか?
大人しく腕の中に居たはないものの、バットマンに出来ることは何も無かった。
諦念で大人しくすると、高度が下がって速度も落ち着いた。呼吸が楽になる。
どれだけ鍛えても、この体は生身の人間だ。
「お前、
……
くそ、なんで卑怯者て呼ばれないんだ」
「呼ばせないからかな」
悪態をつけば、その分強く腕の中に納められた。密着する体温による動揺と屈辱に、感情がいったり来たりで忙しい。
「運び方に不満があるなら次からは変えようか? 僕の背中に乗せてもいいけど結構バランスいるよ? それともマントだけを掴んでこう、サンタの袋かゴミ袋を持つみたいに」
「口説く相手にも容赦しないなお前は。全部やめろ」
「あ、ちゃんと口説かれてる自覚あって良かった」
バットマンは開いた口を苦々しく閉ざした。
デートを申し込んだのはお前じゃないのか。
奥歯を噛みしめ、それでも譲れない物の為には再び口を開けるしかない。
「ゴッサムに戻れ。ジョーカーを逃したままには出来ない」
一緒に逃亡したというキラー・クロックも捕まえなければいけない。
ゴッサムの事情に関与しないなら、野放しの筈だ。
ヴィランの名が出るなりスーパーマンは飛行移動を止めた。てっきり戻るのかと思いきや、バットマンを凝視するだけ。
「
……
なんだ」
「言ってなかったか。君の元へ行く前に独房にそれぞれ放り込んでおいた。文字通り」
ゴッサム市民であるサイボーグに伝えておいたから問題なくフォローするだろう。とも言った。
「ゴッサムの流儀なんだろ。僕には関係ないけど」
「な、なん、っ」
言ってることとやってる事が違うだろう?
街ぐるみでてこずる相手を、赤子をひねる様にか?
それは出来るだろうけど、強者の気まぐれに巻き込まれたくない。
それでは街は期待して祈るだけで事が足り、動かず自立できない。
一言も出てこない感情でも、スーパーマンには手に取るように聞こえた。隠している顔に出すぎている。
「まあまあ、追いつめる為に煽ってる訳でも揚げ足取ってる訳でもないんだ」
ましてやここまで飛んでもいない、とも言った。
「僕を探る衛星は何度も潰してるから、今は介入されてない。ここなら安全だ」
スーパーマンが言えば言うだけ、バットマンの言いたいことも増える。
ほとんどを飲み込んで、絶対に腕から落とさない男を見上げる。
最初から、彼を見上げることしか出来ないのだ。
「僕はね。君と2人きりで話したかったんだ」
背負うその星にも聞こえないようにと、秘め事のように囁いた。
バットマンだけを視界に閉じ込めて笑う虹彩に、シリウスを見る。
手を伸ばせば届く星。
伸ばして良いのだと、スーパーマンから顔を近づけてくる。
誘い水は、何度も注がれてきた。そのたびに拒んできた。
では、止められない水はどうなるのか。
スーパーマンは、カウル越しに額を押し付ける。
「好きだよ、君が。だから、これで君の鬼ごっこに付き合うのはおしまい」
捕まえた。
吐息のような勝利宣言とともに、バットマンの口を塞いだ。
唇を噛むほど閉ざしていたが、意味は無い。
ブルースが消した恋慕の道には、スーパーマンでありクラーク・ケントが建てた看板が常にあった。
これがアリスなら、チェシャ猫によって新たな厄介事であり出口の分からない迷路を示される。クラークは、自分の腕の中しか示さない。
「
……
分かった、から
……
話し合いなら、ここ以外で頼む」
唇が離れるまで待ったバットマンに、スーパーマンは夜でも明るく光る笑顔で頷いた。
「うん。絶対逃がさないから」
顔の割にセリフが物騒すぎる。初めてツケを払う気分を味わいながら、ブルースはグラスハウスを指定した。
屋敷のケイブにいるアルフレッドに後を任せる胸を伝えれば、
『ようやく観念しましたか』
愛情深い嫌味が返ってきた。
サイボーグが予知した『騒がしい朝』にはまだ時間がある。
グラスハウスに着くや、ブルースは話し合いの意味を辞書引いてこいと言いたくなった。
しているだろう? と、一枚脱がせ合うごとに一つ告白していく男が悪びれずに笑う。
バットマンは、まずカウルを剥かれてブルース・ウェインに戻された。
「一つ。ねえブルース? 僕らはお互いを受け入れあえるけど、僕は君と返しあいたいんだ」
この違いが分からない君じゃないだろと、スーパーマンは、ふわりと揺れるマントを地球の重力に落ち着かせた。
そうしてにこにこと腕を広げるので、ブルースは一度上げた手を止めて、背後に手を回した。
「
……
君にそうされると、自分は許される存在なんだと錯覚する」
ブルースの声は、ほとんど音になっていなかった。
許されたと知った時が怖い、自分が自分じゃなくなりそうだと目を閉じる。
「何を返せる。俺はどこにもいきたくないのに
……
」
返されない声と知りながら、何度も足を運んだ両親が眠る場所。
そこから一歩も動けないままの自分で居る。
そして、新たにカンザスに一つ、墓を増やした。
グラスハウスの明かりは淡く、ガラス越し一面にある湖畔に波は無い。風が吹いていないのだ。おかげで森からの葉音も僅か。
息すら隠す静寂でも、クラークならそれらを微細に拾える。
空気の流れで風を感じれるし、動物の吐息すら探れる。
だから、世界の誰にも聞こえない声でもブルースの声は届いていた。
「きみ、そういうところがズルいて言われたことない? あるだろ」
ずい、と長年居座る目元の隈ごと覆うメイクを指で擦った。
「は?」
視線が合ったので、また笑う。
クラークのスーツは中途半端に脱がされたままなので、ならばこちらはと遠慮なくバットマンのスーツの上半身を剝いてやった。
「な、」
「なんでって? 君がどれだけの間、僕から逃げてきたと?」
君は自分で思う以上に奉仕の性根を隠せないから、純然なその光を求めてあらゆる人が近寄るんだ。
救いの祈りの全てを掬えやしないのに。
空を仰ぐくせに、なに一つ願わない。
君が僕に貸しにしてカラにした、僕の棺に話しかけている。
満足だと。
頭の中で浮かぶ言葉の数々を、言ってやらない。クラークは嫉妬を隠さない。
本当は逃げられている間、捕まえたら似たような事を言ってやると思っていたが今止めた。
代わりに、一つ。
「僕の声にだけ耳を塞いで聞こえない振りなんて、僕はそんなに意味の無い男か」
「違うっ」
目を見開くブルースを睨み上げる。
ゴッサムの街と僕を天秤にかけるな、とまでは言わなかった。きっと、絶対、誰かに言われているこの男。
「僕には君の声が聞こえているのに」
救いの祈り全てを拾ってみせる男は、全ては掬えない男の心ひとつで願いが叶う。
ブルースの、傷だらけの肌を眺めてそっと触れる。意味を持っては、まだ出来ない。
この肌に触れる許可が欲しい。
同じだけ自分に触れたいと思われたい。
逃げるなら暴けば良いと思っていた。
根気強く待てば、やがて手を伸ばして同じものをくれるとも。
結局、ブルースの頑固には勝てず、負けたのはクラークだった。
「ブルースが好きだ」
ブルースの手を掴み、自身の頬に寄せた。細かい傷跡の残る指先が、躊躇いながらもクラークの温度を受け入れる。
人は、知らない物を恐れる。
「クラーク
……
」
「好きだ。僕は、君を、愛している」
人は、自分と同じでは無い物を遠ざける。
むき身の心臓が見えないならと、掴んだ手を今度は自身の胸の上に当てる。
「僕を二度救ってみろ」
人は、分からないままで居られないから、クソッタレだと叫びながら知ったらどうしたいかを夢想する。
クラークは己を知ってもらうために相手を信じるところから始めた。その先で、子供のままの君が蹲っているなら。
「ブルース。僕はとうに、君の傍にいる」
かつて学校の倉庫に隠れた僕は、きっと自分で扉を開けて君の隣に座るだろう。
クラークが自身の頬に押し付けていた、ブルースの手が震えた。
それは明確に意思を持って、クラークの頬を撫で、眦を指の腹で拭った。
まるで涙を拾うしぐさだが、クラークもブルースも泣いてはいない。
ただ、そうしたかったのだ。
クラークが注いできた呼び水が、溢れてついに溺れた。
「たった一つの為に
……
いくつもの不条理も理不尽も繰り返される喪失感や矜持さえも、自分のほとんどを殺してきたのに
……
」
はー、はーと、短い呼吸を繰り返す。
泣き方は忘れた。だからごまかしてきた。
「だのに、どうしても殺せないんだ。すまない自分の気持ちなのに、どうしても、どうしてもっ」
クラークが握る手を払い、暴いた男をなじるように、脱がしきれなかったスーツの上から胸元を叩いた。
ああ、君を、博愛の宗教画の廊下で眺めていたかったのに。
「名前、あるだろ? その気持ち。教えて」
君は憎たらしいほどに、人間臭い。
もう一度殴ろうとした拳は空で止まり、すがるようにクラークの二の腕を掴んだ。俯いた視線の先のスーツを脱がしたいなと思う。
この気持ちに名前はある。
「っ、好きなんだ、クラーク、君が」
できれば、君に愛されたい。
クラークの首筋に顔を埋めたまま告白する。ここまで来て、まだそんな小さな声で言うのか。
クラークは声を上げて笑って、正しくブルースの願いを掬い上げる。
◆◆◆
誰もが明日は朝から騒がしくなるだろうなと悟り、祭りに参加する気分で加担した。主に肯定と拡散いう行動で。
案の定の朝がやってきた。
グラスハウスで朝を迎え、クラークはリビングルームにあるL字型のソファに座る。借りたガウンの着心地の良さに、何度も触ったのはご愛敬。
まず、元恋人で元婚約者だった彼女からのメールを開けた。
『刷りの時間に間に合ったから』とデイリープラネット紙の一面の画像。
あくまでスーパーマンのネタはうちが一番で一面だと言いたいらしい。恋ネタでも良いんだよく許したね編集長。
補足で『ブルース・ウェインの方は芸能の12面だから』 と添付された画像は、まだ見ていない。
君は自分の元恋人にすら容赦がないからな、と苦笑いでSNSを先に確認した。
記者なので職業柄しないという選択はない。
「
……
うん。さすがブルース」
正体不明のヒーローより、誰もが知るセレブのゴシップの方が投稿数も反応も段違いに良い。
もちろん、さあネタにしろと言わんばかりに見せつけたので、スーパーマンの恋愛も騒がれているが。
賑わう比率は世界規模ではスーパーマン。局所的にはバットマン。広く満遍なくはブルース・ウェイン。
同時に騒がしている恋の話でも、同一人物にはならない事に世界はまあ、概ね平和だと苦笑する。
その中で一つの気づき。
マスコミ名のある記事は、ブルース単体のサムネイル画像のみ。
個人投稿は引用か隠し撮りで、それもブルースが主体だ。相手がクラーク・ケントだとストレートに書かれているのは見当たらなかった。
後ろ姿や顔のアップが過ぎて鼻や顎、首筋などしか写っていない。ハッキリ写っていそうなものはクラークのみボカシ加工をされている。
ーこっちの画像に関しちゃブルース、カメラ目線で僕を隠したな。
「意図的しか感じない」
「実際そうだ」
見上げると、日課のトレーニングを終えたブルースが、シャワー上がりのガウンを着ていた。
手には自ら淹れたコーヒーのマグが2つ。
来るのは分かっていたので、「ありがとう」と一つを立ち上がって受け取って頬にキスをする。
「っ、あ、意図的の話だが、君は一般人だ。そして俺の浮名の数は覚えがある物も無い物も含めて覚えていない」
キス一つで動揺しておきながら、このセリフである。面白い。
ゴッサムの寵児は、慣れた口調でクラーク記者に教える。
「取りこぼさない裁判と好意的な取材条件で、既に俺へのゴシップ記事には暗黙の了解が出来ている。
逸脱するやつも中にはいるがそこも織り込み済みだから、君のプライバシーが過度に脅かされる事はない」
俺が君に出来るのはこれぐらいだと、笑う。
「これぐらいかなあ」
セレブにはセレブの苦労があるんだなあと、当事者らしくない感想をコーヒーで飲み込んだ。じゃあ自分が取材する時はどうしようと考える。
「ブルースて、自分に関するネットの評価を気にしたり記事とか読んだりするの?」
「君とロイス・レインのは読む」
読んでくれているのを知らなかったので、ちょっと照れてしまう。
「ありがとう。でもそうじゃない」
「記者の君には悪いが俺は見ない。対処の為にアルフレッドや弁護士に任せてあるし、他人が他人を消費しているのを他人が見る必要はあるのか?」
「ううんんん」
愛されて育ち、愛されている事を疑わない生まれながらのセレブには承認欲求を説くだけ無駄という、持つ者の純度高めな残酷を見てしまった。
「必要。必要とか言われると
……
」
その他人の承認欲求をコントロールするのも、他人が見たいと望むセレブのブルース・ウェインでいるのも、全部バットマンとしての活動の為だと、クラークは知っている。
一人の、超人ではない人間の20年による闘いと半生の前では、逃げた分だけ外堀を埋められていた群衆の好奇心など、効果のひとかけらにもならなかった。
中心地の彼だけが静かな、騒がしい朝。
「クラーク?」
クラークの飲み終えたマグを受け取ろうと伸ばした手に返されず、じっと見られる。
逆にブルースのマグを取り、漆塗りの木の根で支えてるガラスのサイドテーブルに置いた。ついでに持っていたスマートフォンも。
クラークは、自分が座っていたソファに再び沈むや、ぽんと隣を叩いた。
笑みを浮かべて素直に横に座るブルースに口づけ、遠慮なく押し倒す。
「急だな」
「したいのは急じゃないよ」
鼻にキスをし、そのままちゅ、ちゅと顔中にキスを浴びせる。
残り香のコーヒーは両方から漂うが、ブルースからのみ石鹸の香りがする。
ここは外と遮るものがガラス一枚の空間。朝の開放感溢れる場所での行為は、きっと背徳者をくすぐられる。
台風の目のここは静かで、時間すらあやふやに思える。まだ夜の途中なのかもしれないと、都合よく解釈する。
ブルースもその気だろうと手をガウンの隙間に滑らせると、その手を強めに掴まれた。
「これ以上の先に同意を求めないなら、クリプトナイトを使う」
「真顔
……
まだ持っていたのか」
「もう持っていないと思っていたのか」
溜息に苦笑で返す。
「いや。君、負けず嫌いだもんな」
「負けず
……
」
反抗期の少年かのような言われようだった。
「それで。僕は続きをしても良い?」
「先約があるから今は駄目だ」
やんわりとクラークの胸を押して、ブルースは内心惜しみつつ体制を戻す。
「せんやく」
「デート、するんだろう?」
忘れたとは言わせない。
先の仕返しとばかりに、ブルースから口づける。
下唇を食み、ぺろりと舐めた。
意地が悪いと思いつつ、メトロポリスでピザを食べながら決めた約束は今日だ。
もちろん、忘れていない。
仕事鞄を圧迫する程のデートプランを詰め込んだファイルを広げたのはクラークだ。
はたから見ればブルース・ウェインとのランチミーティング。間違いなくプレゼンテーションだった。
「本当はどんな場所で何をしても良かったんだ。わざと逃げてばかりで靡かない秋風な君は卑怯だと思っていたから意趣返しのつもりだった」
「ひ、きょう?」
目を丸くさせたブルースはきっと珍しい。
クラークは留飲を下げた。
「惚れた男に期待だけさせて袖にして焦らして楽しんでいる、さすがはブルース・ウェインてあの時の君はそう思われたんじゃないかな」
たっぷりの間の後、フラッシュが言っていたのはこれかと、ブルースは眉間に皺を寄せた。
「
…………
ちがう」
あらゆる感情を込めてみた。ちょっと震えてる。
「分かってる。今、分かった」
やっぱり続きがしたいなと、抱きしめた。
クラークはもう一つ気づいた。
ゴッサムとクラークを天秤に乗せてなど彼はいない。
街が、君と僕を乗せている。
そして、常に比重は片方にだけ重い。凄く。
「こういうのも箱入りっていうのかな。君を僕に下さいていう相手、多すぎる」
どういう意味だと、首をかしげるブルースの瞼にキスを一つ。
「スーパーマンには丁度良い重さってことさ」
まずは、二人の最初のデートをしようか。
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