出会って、別れて、また出会う。闘神の魂に導かれし闘士たちは、その定めに身をゆだねては別れと出会いを繰り返し、戦線を共にすることもあれば、ただ敵としてその身を打つだけの時もある。結局は闘士それぞれの性格によるものだが、とある闘士はどちらかといえば、恐れられる側であった。
その闘士の名は、Dr.マッドラヴ。愛に狂い、神の力に愛を求め、闘いに身を投じるその少女の姿は、いつしかそう呼ばれるようになった。明晰な頭脳と類稀なる電子機器への才能は、サイボーグたちから噂が立ち、ほどなくしてその可憐な容姿や才能を求めて尋ねる者が後を絶たなくなった。けれど、博士の求める愛を、訪問者たちは持ち合わせていなかった。博士は見切りをつけると、闘士たちから闘神の魂を抜き取って、更なる実験を繰り返していた。けれど、足りない。まだまだ、数も、純度も、数も足りない。故に、博士は闘士の運命を歩み始めた。
さて、そうして歩いて、出会って、別れて。そんな道半ばの宿の一室。それぞれ一部屋ずつ借りた部屋で、博士は愛するコドモタチの手入れをしていた。エネルギーを搾りとるための抽出器の調子は順調。冷却装置も問題なし。ぱぱっと点検を済ませては、いつもであれば気になった本を読み漁るのだが、生憎手持ちは全て読破してしまった。そして、路銀も底をつきかけていて、どうにも何かをする気にもなれなかった。そう言えば、こんな自分を拾ったあの男、一体何をしているのだろう。ふと気になった小さな博士は、ぴょんと部屋を飛び出しては、隣の部屋のドアをばっと開いた。
おい、せめてノックはしてくれよ。やれやれとばかりに肩をすくめたその男は、まあいいけど、と、博士に椅子を差し出した。この男、博士が出会った中で、最も奇妙な人間と言わざるを得なかった。弛みない肉体は見事に絞りあげられ、ボディラインは整っているし、髪型もばっちり決めてて、顔立ちだって黙っていれば格好いい……いや、少し喋るぐらいなら……。だがこの男、上半身を大きく超える巨大なトンファーを持っては、そのうちに閉じ込めた魂より噴き出す炎と極大出力で殴るのではなく、わざわざ蹴るのである。しかも、それが主力。博士は頭を抱えた。何故そんな非効率を、と。
未だにその疑問は解けていないし、博士にとって男の行動は首を傾げるものが多かった。だが闘士としての性質はピカイチで、ここまで殆ど負け無し。負けようものなら更なる闘志を身に纏い、博士の首根っこを掴んで瞬時に立ち上がる。ここまで根性のある闘士は見たことがない。けれど、苦労して得た闘神の魂自体には対して興味がなく、すぐ路銀に変えてしまう。博士にとっては良質な闘志の結晶を得る絶好の機会。その後をついていくこと早数日。余った結晶を博士が研究用にとくすねた結果、路銀が尽きてしまったのであった。だが男は怒るでもなく、失望するでもなく、闘う機会が増えたな、と笑い、明日が待ちきれない様子。現に、部屋の片隅には男の得物ことロケットンファーなる奇妙な物体が、分解されて置かれていた。
博士は椅子に座っては、男の動向をじぃっと眺める。別に俺を見ても何も出ないぞ、と腰掛けていたベッドから立ち上がれば、男は恐らく中断していたのだろう作業を、得物の手入れを再開した。どれも炎を受けて煤まみれになった部品を、ひとつひとつ丁寧に洗剤を塗り込み、粗めの布巾でしっかり拭き取る。その手際は素早く、あっという間に布巾は真っ黒に。そして、部品たちは新品、とまではいかないが、ピッカピカに磨き上げられ、また男の手によって元の筒の形に戻されていく。かしゃりかしゃりと組み合わさっていく部品たちを見ると、博士はどうにも愉快な気持ちが込み上げた。次は冷却材の補充だ。どうしても必要だからと、なけなしの金で買った液状の冷却材にチューブを差し込んで、小さな補充口からゆっくり、ゆっくりと注ぎこんでいく。とくとくと満たされていく冷却室の内側で輝く塊に、博士はうっとり見惚れる。いつかきっと、あれだってこの手に入る。でも、今はあれでしっかり働いてもらったほうがいいだろう。頃合いを見て、また。
そうして、手入れを終えた男は、最後に点火の確認を済ませ、得物をまた床に転がした。博士は男の行動を理解できないことも多かったが、案外、物は大事にすんだね、と呟く。男はまた、肩をすくめた。これが無きゃ、良いファイトができねぇからな、と。そして、ほら、何も出ねぇんだから、早く寝ろ寝ろ、と、今度こそ博士を部屋から追い出せば、ぶうぶうと文句を言う博士に惑わされず、最後にお休みと一言添えてから、中から鍵を閉めた。ちぇっ。つれない奴。文句をタラタラ述べながら、博士が渋々部屋に戻る。
寝る支度を済ませ、布団に包まって照明を切り、目を閉じる。闘いの絶えないこの世界でも、生き物は大抵、夜に眠る。静まり返る星月夜、窓から覗く明かりをぼうっと眺めていると、ふと男の指先が思い浮かんだ。布で煤を払っていた時の伏し目、存外器用な指先、あれだけ機械をいじれるなら、自分の話にも興味持ってくれるかもしれない。そしてどんどん綺麗になっていくあの得物。そういえば、女は男に出会うと綺麗になるんだったっけ? それが恋とか、愛だとか。博士がぼんやり考えていると、あの武器は良い男を捕まえたんだなぁ、なんて。そして漠然と、ありゃあ悪女に違いない。そんな確信を得ていた。
あーあ、良いなぁ。あいつは愛されて。
ただ、勃然と。何故かはわからないけれど、妙に腹が立って。けれど、少女は月明りに誘われ、夢の世界へと旅立った。
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