スサ
2024-06-17 21:52:43
3302文字
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【鬼水】せがれの嫁

父達で飲みに行って、おやじさんのコレかいって言われてバカ言うなっていう話。せがれは最後に少し出てきます。妖怪猥談(?)にも特に引かない水。

 妖怪の交わり方──いや、回りくどく言うのはよそう。妖怪の性交の仕方は人間と同じとは限らない。むしろ、違うと思っておく方がいい。なぜそんなことを水木が知っているかといえば、頼んでもいないのに酒盛りの場で酔っ払った妖怪どもに吹き込まれたからに他ならない。なお、なぜそんな場にいたかといえば、これはもう成り行きで、目玉のおやじに「水木も顔を出してみぬか?」と誘われたからだ。「わしの友を紹介したいのじゃ」と言われては、水木もまんざらではなかった。加えていえば、見た目はともかく、育てた息子がもう大きくなって手を離れたから、という理由もあったが。

 妖怪に必ずしも性別があるわけではないようだったが、交わり方なんて話を持ち出してくるくらいだから、まあ、そういった話が好きな連中ではあった。いくらかは人間の─正確には、もう完全な人間とは言い難いのだが─水木をからかってやろうという思いもあっただろうが。
「幽霊族はだいぶ人間に近いから、あんたと大して変わらんだろうがね」
 目が6つある毛むくじゃらな妖怪が尖った爪で水木を指差し思い切り口を開く。なんという妖怪か、目玉のに聞いた気もするがそこそこ酒が回っていた水木は忘れてしまった。
 ついでに、そいつが喋る前にも散々他の面々が面白おかしく艶話をしてすっかり場はあたたまっていた。もっぱら水木は聞き役だったが、サラリーマン時代に聞き知った下ネタくらいはいくつか披露した。女体盛りの話はいやに盛り上がり、妖怪なんてのもあんまり人間の助平と変わらんのだなぁ、と思ったものだ。
「なめくじみたいに溶け合って愛液を掛け合うなんてのもあるし」
「そりゃびしょびしょになりそうだなァ」
 風呂入りたくなりそうだ、とくいっと猪口を煽りながら言う人間に、妖怪はぽかんとした後笑った。
「は、は、それがその通りでよ、まぐわった後は草がべちょべちょだよ」
 へぇ、と水木は照れるでもなく頷いた。青姦かぁ、と。動じた様子のない水木に妖怪はたたみかける。
「イソギンチャクみたいに腕いっぱいはやして人間取り込むのが好きなやつもいるなあ。お前さん気をつけなよ」
 肩を竦めた水木の隣、ぼふんと音を立てて煙が生じ、さっきまで目玉だった幽霊族のおやじが人型を取る。
「おっ、ゲゲ郎、どうしたんだ急に」
 ちまちま飲むのが面倒になったのか?
 と呑気に首をかしげて笑う水木に、ゲゲ郎──おやじはため息をついた。
「おぬし、もちっと警戒心を持てよ」
「はぁ?」
 水木はぽかんとした顔をする。酔っているせいで妙に素直で、幼い。はぁ、とゲゲ郎は再びため息をついた。
「よいか、おぬし
「おいおい、おやじどののお手つきに手ェ出したりしねぇよ、俺たちだって!」
 友に説教を垂れようとした幽霊族の男を、他の妖怪が遮る。しかし彼らの意に反して、おやじは眉をしかめ、違うわ、と強めに否定する。
 それなら、といたずら心を刺激された妖怪達だったが、続いたおやじの台詞に固まった。
「こやつは倅の嫁じゃあ!」
 全員、何なら水木まで固まった。
「儂とこやつはそんなのじゃのうて、共に死線をくぐった無二の友よ」
 えへん、と胸を張ったところで、ゲゲ郎は周囲がしんとしていることに気づいた。
 水木もすごい顔をしている。真っ赤だが、怒っているような怒って?なぜだ?とおやじは首をひねる。
「なんじゃ?急に静かになってしもうて」
………………か、」
「なんじゃ、水木」
バカ野郎!!!!!」
「あだっ!何しよるこのお転婆め!」
「おめーこそ何口すべらせバカ郎!!」
 渾身の力で殴られたゲゲ郎は頭を押さえていたが、水木は容赦ない。しかし、さらに第二撃、というところで、カラン、と硬質な音が響いた。
「あんまり帰ってこないから来てみれば、何やってるんですか、ふたりとも」
 実に冷静な声がふたりを止める。だが妖怪達はそれどころではない。
 さっきのおやじの言葉を信じるなら、この人間は今現れた童子姿のこの幽霊族の伴侶ということで
「もういい時間ですよ。お開きにして帰りましょう」
 じきに夜もあける、と呆れた顔で言う鬼太郎に、妖怪達の視線が集中する。
……?なんだ?」
 さすがに様子がおかしいと気づいたのか、鬼太郎は眉をひそめた。そこで慌てたように水木が立ち上がる。
「そうだな!帰ろう!今日はお開きだ!なっ!」
……やけに聞き分けがいいな。何かあったんですか」
 さあ皆立った立った、と片付けにかかろうとする水木を、鬼太郎が止める。腕を軽く掴んだようにしか見えないのに、ぴたりと止まる。
「まあ、いくら親父ったって、そりゃテメェのカカァが目の届かねぇとこいたら心配かぁ
 水木が止める間もなかった。
 妖怪達はがやがやと話し始める。一度堰を切ってしまえばもう歯止めはない。
「おい鬼太郎よ、いつのまに嫁さんなんてもらったんだ」
「幽霊族ってなもっと呑気なもんだと思ってたが、いやいや、あんたァませてんだね」
「人間にしちゃあ確かに肝も座ってていい嫁御だよ。体もがっしりしてて、これなら子供もいっぱいこさえられるだろさ」
 イヒヒ、と夜の静寂に響く笑い声に水木は頭を抱えてしゃがみこみ、おやじの方は「ちぃっとまずかったかの?」という顔で明後日の方を見ている。
 まあ、わからないが、察した。というところで、鬼太郎はため息をつき、しゃがみこんだ水木を軽々抱き上げた。
「鬼太郎?!」
「黙って」
 けして冷たい言い方ではなかった。何なら甘ったるく感じる程の声だった。
「父さんはきちんと収めてから帰ってきてくださいね」
……うむ
「父さん」
すまぬ、あいわかった」
 厳しい息子の呼びかけに、「叱られてしもうた」という顔で頷き、ゲゲ郎は答える。
「あっ、おい鬼太郎、お前も飲んでから行け、つまらん男だな」
 さっさと去ろうとする鬼太郎に、妖怪達の誰かが野次を飛ばす。鬼太郎は片方の眉を器用に跳ね上げ、声のする方を軽く睨みつける。
 温度が下がったような気がするひと睨みに、妖怪達はすくみ上がった。だが鬼太郎は何を思ったか、両手でいわゆるお姫様抱っこをしていた水木を片腕で抱えるように抱き直し、もう片手を差し出したのである。そして、よこせ、と面倒そうに手を振る。誰かが猪口を差し出すと、違う、と鬼太郎は首を振る。
「そっちをよこせ。河童が持ってるやつだ」
 鬼太郎が指定したのは大徳利にしても大きい徳利で、二升は入っていようかという大きさだ。逡巡する空気を裂くように、口切りいっぱい入れてよこせ、ともう一度鬼太郎は言う。有無を言わさぬ口調だし、それに妖怪達は愉快なことが好きだ。
「おうおう、豪気なことだよ、そんなナリでいっちょまえによ」
 そらよ、と渡された大徳利を、鬼太郎は勢いよくそのまま煽った。どよめきの後やんややんやと囃したてる声の中、一度も口を離すことなく飲み干すと、ぺろりと自分のくちびるを舐めた後で、余裕綽々の態度で徳利を逆さにする。一滴たりとも零れてこない。
 どっ、と場が沸く。しかし鬼太郎は淡々とした表情を変えず、しらっとした顔で肩をすくめて言った。
「僕の嫁はつれて帰る。皆一番鶏の前に帰れよ」
…………………
 鬼太郎の胸元で顔を押さえる水木の耳が赤い。
「それじゃ、父さん。お先に失礼します」
 目は口ほどに物を言う息子に暗に念を押され、ぼふん、と、幽霊族のおやじはまた目玉姿に戻った。
「おやじさん、息子はありゃどうなってんだい?」
 まだまだ解散しそうにない妖怪達の興奮気味の問いかけに、はぁ、と目玉姿でおやじはため息をつく。
「せがれはあやつにぞっこんなんじゃあ
 さてさて、自分は一体朝方帰って大丈夫なもんだろうか、お邪魔虫になりゃせんか?とも思うが、妖怪達の猥談を聞かされていたなんてことが水木からばれた時の方が頭が痛い。
 頼むぞ、口を滑らしてくれるなよ、友よというおやじの願いが通じるかどうかは、神のみぞ知る。