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桐子
2024-05-11 00:35:18
1403文字
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藤花の契り④(父水)
今日はすごろくをしようという話になった。さいころを転がす鬼太郎のつむじを眺めながら、水木はゲゲ郎とのやり取りを思い出していた。
『あの子は哀れな子じゃ』
『ーーーわしがあの子にしてやれることなど何もないからじゃよ』
なぜそんなことを言うのだろう。
水木には子どもがいないが、自分が子どもだった頃のことは覚えている。子どもというのは、親にかまってほしい生き物だ。それなのに、ゲゲ郎は鬼太郎のことをどこか突き放すような態度を見せている。それが水木には理解できなかった。
しかし、彼も鬼太郎も人間ではないのだ。もしかすると、人ではない彼らにとってはこれが普通なのかもしれない。
「水木さん」
鬼太郎に呼ばれて我に返った。
「水木さんの番ですよ」
「ああ」
いつの間にかぼんやりしていたらしい。さいころを渡された水木は、あわててそれを受け取った。出た目は1だ。
「いち」
鬼太郎はそう言って、水木のこまを動かした。止まったマスに書かれているのは『1回休み』だ。
「1回休みですね」
「そうだな。鬼太郎が続けて2回ふっていいぞ」
水木が促すと、鬼太郎は頷いてさいころをふった。最初は無表情であまりしゃべらない子だと思っていたが、毎日遊んでいるうちに、表情の変化に乏しいなりに、楽しんでいる様子がわかるようになってきた。
「あ、上がりだ」
鬼太郎のコマが止まったのは、『あがり』のマスだった。わずかにほころんだ口元は嬉しそうで、なんだかこちらまで嬉しくなってしまった。
「よかったな」
そう言って頭を撫でると、鬼太郎はじっと水木の手のひらを見つめた。
「
……
水木さんはどうして、僕の頭をさわるんですか?」
「え?」
思いがけない質問に、水木は虚を突かれた。
「これは触ってるんじゃなく、撫でるっていうんだ。そうだな
……
こうして撫でることで
お前が可愛いとか、いい子だって褒めてるみたいなもんかな」
「ーーーそうですか」
鬼太郎は俯いてしまった。何か悪いことを言ってしまっただろうか。重い沈黙を振り払うように水木は声を上げた。
「やっぱり二人でやったんじゃすぐ終わっちまうな。お前の父さんも呼んで、三人でするか」
言いながら、これは名案だと思った。ゲゲ郎もきっかけさえあれば鬼太郎のことを可愛がるようになるかもしれない。
しかし、水木の思いとは裏腹に鬼太郎の顔は曇ってしまった。
「きっと来ませんよ」
「どうしてだ?」
「父さんは僕のことが嫌いなんです。
……
お母さんは僕のせいで死んだから」
「え?」
いきなり物騒な言葉が飛び出してきて、水木はぎょっとした。
「お母さんは僕を産んで死んだんです。だから父さんは僕を恨んでる。僕さえいなかったら
……
僕がかわりに死んでれば、お母さんは死なずにすんだんだ」
鬼太郎は淡々と言った。まだ五つか六つくらいの子どもが言うにしては、あまりに重い言葉だ。
「そんなこと言うな」
水木はとっさに鬼太郎を抱きしめていた。鬼太郎は驚いたのか、目を丸くしている。
「お前のせいじゃない。代わりに死ねばよかったなんて言うな」
この子はどんな思いで暮らしてきたのだろう。母親の死、父親の無関心。誰からも愛されず、薄暗い部屋の中で一人きりでぽつんと過ごしていた鬼太郎の孤独を思うと、涙が出そうだった。
「水木さんは、あったかいですね」
鬼太郎は水木に抱き締められながら、ぽつりとそう言った。
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