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桐子
2024-01-29 00:09:52
1925文字
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瀬戸の花嫁④
目が覚めると、ゲゲ郎たちは既に出掛けたとのことだった。
「水木様のことをよろしくと頼まれております」
「ありがとう」
おにぎりと暖かい汁物を渡され、水木はありがたくいただいた。
それにしても、とんだ家族旅行になったものだ。観光名所は調べてきたが、三人でまわろうと思っていたのだから一人で行っても仕方ない。二人が牛鬼を倒してから行けばいいだろう。
水木が一人さみしく狸の宿で休んでいると、昼過ぎになってやっとゲゲ郎たちが帰ってきた。
「いたか?」
「いいえ」
鬼太郎は申し訳なさそうに首を横に振った。妖怪センサーにかからないなど、相当気配を殺すのに長けているか、他に理由があるのか。ゲゲ郎は目玉に戻っていて、茶碗風呂に入りながら腕組みをして唸っている。
「まあ、まだ初日じゃ」
ゲゲ郎の言葉に鬼太郎はうなずいた。
「昼からは海岸をあたってみましょう」
「そうじゃな
……
水木よ、一人にしてすまんな」
ゲゲ郎と鬼太郎はしょんぼりした様子で水木を見た。
「いや、俺のことは気にするな」
「せっかくの旅行なのに」
水木を一人にして申し訳ないと思ってくれている。それだけで充分だ。水木はくしゃくしゃと鬼太郎の頭を撫でた。
昼からは海岸へ行くという二人を見送ると、することもないので辺りを散歩することにした。この辺りは牛鬼も出たことはないそうだから、少し歩くくらいはいいだろう。
狸の娘に少し歩いてくると伝え、ぶらぶらと林の中を歩く。少し行くと寺が見えてきた。屋島寺だ。
ひとつ、鬼太郎たちの無事を拝んでおくか。水木はそう決めて、寺に足を向けた。境内に人は少なく、白い装束のお遍路さんたちが参拝したり休んだりしていた。
水木も賽銭を投げ、手を合わせて目を閉じた。鬼太郎たちが無事に帰ってきますように。そしてどうか四国に平和が訪れますようにと祈る。
「熱心ですね」
声をかけられ、水木は振り返った。白装束の男だった。ずいぶん若いお遍路さんだ。
「ああ
……
まあ」
水木が曖昧に答えると、男は穏やかに微笑んだ。
「私も祈っていました。四国に平和が戻りますようにと。きっと私の願いもあなたの願いもすぐにかないます」
「そうだといいんですが」
そうなりますよ、と男は言った。やけに説得力のある物言いに、水木は少しの引っかかりを感じた。だが、男の穏やかな笑みには敵意は感じられない。
「あなたは必要とされここにいるのです。すべてのことに意味がある。あなたがたがここへ来たことも、あなたが生きていることも」
「あんた
……
」
まるで水木の心のうちを見透かすような言葉だった。しかし、どうしてそれをと問いかけようと水木が口を開くより早く、男は消えていた。
「
……
」
まるで狐につままれたような気持ちだった。もしかして妖怪か。水木はしばし呆然としていたが、男がいない以上考えても仕方ないと首を振る。先ほどの男が悪いものとは思えなかった。きっと見えないけれどそこにいる「なにか」だったのだろうと結論付けた。
狸の宿に帰り、恐縮する狸たちに混じって夕食を作っているとゲゲ郎たちが帰ってきた。
「収穫なしじゃ」
残念そうに目玉のゲゲ郎が言う。よほど隠れるのがうまいらしい。
「気はすすみませんが、次の計画ですね」
鬼太郎の言葉に、ゲゲ郎はうなずいた。
「探して出てこぬならば誘き寄せるしかあるまい」
「生け贄か
……
」
太三郎翁が顔を曇らせる。
「牛鬼を封印するために、ある村の人間が生け贄になったという言い伝えがあるそうじゃ。それを利用する」
「狸の皆さんにそんな危ないことはさせませんよ。僕が囮になります」
鬼太郎は言ったが、狸たちは口々に自分たちも役に立ちたい、と言い出した。
「みんな
……
」
「鬼太郎さんは牛鬼を倒さねばならん。すぐそばに潜んで攻撃するが一番じゃ」
「いや、でも」
そうだそうだ、誰がやる私が俺がと狸たちが言い合う。
「それなら、俺が適任だろう」
しん、と水をうったように静かになる。
「水木さん」
鬼太郎は驚いて目を丸くした。
「そんな、危険です」
「俺は丈夫だ。少なくともこのひとたちよりはな」
それが水木のもつただひとつの強みだ。幽霊族には劣るだろうが、少なくともそこらの妖怪よりは頑丈にできている。
「でも
……
」
鬼太郎は心配そうだ。ゲゲ郎はふむ、と腕を組んで言った。
「では、水木に囮となってもらうとしよう」
「父さん」
「やれるな?」
赤い目がきらりと光る。水木は大きく頷いた。
「では頼む。水木よ、必ずわしらが守るからの」
「誰に言ってんだ」
水木は不敵な笑みを浮かべた。それでこそわしの連れ合いじゃ、と目玉のゲゲ郎は満足そうに笑った。
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