桐子
2024-01-28 23:11:37
1590文字
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瀬戸の花嫁③


水木の危惧をよそに、狸たちの宴はいたって人間的なものだった。狸に限らず、わらわらとたくさんの妖怪たちが集まってきた。彼らは久しぶりの再会を喜び、手土産や酒を持ち寄ってさっそく宴会を始めたのだった。
「水木さんは、幽霊族の若の嫁御なんですよね」
小柄な狸の少女がおずおずと尋ねてきた。なんとなく哭倉村で出会った少女に似ている。
「まあ、馴れ初めを聞きたいわぁ」
「人間だったのでしょ?どうして若と夫婦になろうと思ったの?」
若い娘、いや若い狸たちに囲まれて水木は苦笑いした。人間でも狸でも若い娘の圧は変わらないらしい。
「いや、それは成り行きというかなんというか……
「求婚は若様から?それとも水木様?」
「若が水木様を見初めて、駆け落ちなさったとか!?」
きゃー、と勝手に想像して盛り上がっている。困ったものど。
「これ、娘たち。水木様が困っていらっしゃるでしょう」
少し年嵩らしい狸が、若い娘の狸たちをたしなめてくれた。そして水木に「ささ、一献」と酒を勧めてきた。果実のように甘いがあとをひかない、うまい酒だった。
「すみません、口下手なもので」
「いえいえ。久しぶりのお客様で興奮しているのですわ。それにねえ……こんなに熱烈に匂いをつけられていては、あてられてしまいますわ」
ほほ、と笑う狸に合わせて水木も引きつった笑みを浮かべた。後でゲゲ郎にどういうことかきちんと聞かなくては。
一方の鬼太郎は、子どもの狸たちに取り囲まれていた。
「髪が針になんのすげぇ!」
「お前強いのかよ、あとで相撲とろうぜ」
「なあなあ、東京ってビルがたくさん建ってて畑なんか一つもないってほんとかよ」
好奇心旺盛な子どもに、鬼太郎はすっかりもみくちゃにされている。困りながらも鬼太郎はどこか嬉しそうだった。ゲゲゲの森に住む妖怪たちは鬼太郎よりも年上で、こうして子ども同士で遊ぶ機会はない。鬼太郎も大人びた言動をしているが、まだまだ子どもなのだ。
「ところで若、頼みがあるんじゃが」
太三郎翁がそう切り出すと、それまで飲めや歌えの大騒ぎだったのに、妖怪たちはしんと静まりかえった。
「四国の地を守るわしら狸一族の役目はご存知じゃろう」
太三郎翁の言葉に、ゲゲ郎はうなずいた。水木も鬼太郎も静かに聞き入った。
「しかし、近年はどこもかしこも人間たちのせいで開発が進んでおる。昔は恐れて立ち入らんかった禁足地まで……そして罰当たりな人間がな、封印をといてしもうた」
太三郎翁は悔しげに拳を握った。ゲゲ郎は杯を置いて、じっとその話に耳を傾けている。
「して、その封印とは?」
「牛鬼」
声に出すのも恐ろしい、というように太三郎翁はその名をつぶやいた。
「あれは……おぞましい化け物じゃ。もう何匹も同胞が食われてしもうた」
太三郎翁はぶるりと身を震わせた。
「それはまた大物じゃな」
「幽霊族の若、そして息子の鬼太郎。あんたたちの話は四国まで届いておる!我らを助けてはくれぬか」
太三郎翁の懇願に、ゲゲ郎と鬼太郎は顔を見合わせた。
「力を貸しましょう、父さん」
「うむ。一宿一飯の恩もあるしの」
「おお!ありがたい!」
太三郎翁は喜び、まわりの狸や妖怪たちも歓声をあげた。
水木はその中で、一人疎外感を感じていた。だが、自分にできることは何もない。人より少し寿命が長く体が丈夫なだけで、鬼太郎の仲間たちのように戦う術をもたないのだから。
「それで牛鬼はどこにおるのじゃ」
「わからぬ」
太三郎翁は重々しく首を横に振った。
「あやつは突然現れ、妖怪を食う。時も場所も選ばんのじゃ。どこに現れるか、いつ襲ってくるかわからん」
「なるほど……それは厄介じゃな」
ゲゲ郎は考え込んだ。
「明日から現れた場所を中心に、そやつを探してみるとしよう」
「頼みます、幽霊族の若」
太三郎翁は深々とゲゲ郎に頭を下げた。