夕食は先程の囲炉裏の広間に用意されていた。豪華なわけではないが、きのこ汁や川魚の串焼き、山菜のおひたしなどがずらりと並べられていて食欲をそそった。酒まで用意されている。
「こりゃ旨そうだ」
二人で手を合わせ、いただきますと唱える。箸を取り、まずはおひたしに手を付けた。山菜はみずみずしく、歯ごたえがある。ゲゲ郎は川魚を頭からかじりながらしみじみ言う。
「鬼太郎にも食べさせてやりたいのう」
「あっちはあっちで楽しくやってるさ。でも土産は買って帰らないとな」
「そうじゃな」
料理がうまいと酒もすすむ。いつもなら杯を重ねるうち、泣き出したゲゲ郎が同じ話を何度も繰り返すのだが、今日は終始水木がいかにいい男かという話を熱弁していた。
「なかなかできることではないぞ、見知らぬ子を育てようなどと。おかげで鬼太郎はあんなに立派になって、しかもお主に似て優しい子じゃ」
「褒めすぎだ。俺はそんな大した人間じゃない」
水木は煙草に火をつけながら言った。ゲゲ郎にも新しい煙草に火をつけてやる。ゲゲ郎は美味そうに煙を吐いた。水木も一息つくと、卓の上にあった猪口を手に取り、ちびりと酒を舐めた。いい酒だ。こんな山奥で贅沢をしている気分になる。
「お主のそういう謙虚なところも好きじゃ」
そう言うゲゲ郎の目は優しく、本当にそう思っていてくれていることが分かる。嘘偽りを言わない男なのだ。水木はなんと返していいか分からず、黙って猪口を置いた。
「そろそろ寝るか」
「そうじゃな」
水木は立ち上がり、襖を開けた。こじんまりとした和室には布団が敷かれていた。夫婦で使うような大きな布団に枕が二つ。水木はぎくりとして、恐る恐る後ろを振り返る。
「気が利いておるな」
感心したようにそう言って、ゲゲ郎はさっさと部屋に入ってしまった。仕方なく水木もそれに続く。
部屋は行灯でほんのりと照らされ、火鉢でほどよく暖められている。敷かれた布団が妙に生々しく感じられ、落ち着かない気持ちになる。
「なぁ、ゲゲ郎……」
今日は移動で疲れたから寝かせてくれ、と言おうとする前に、ゲゲ郎が言った。
「気乗りせんならよいのじゃよ」
「……」
どうやら見抜かれていたらしい。水木はがしがしと頭をかくと、ゲゲ郎の隣に座った。
「なんだ……その、俺は別に、お前とするのが嫌なわけじゃないんだ」
「ああ」
ゲゲ郎は優しく相槌をうった。その目を見ていられなくて、水木は目をそらす。
「ただ、俺は……」
言いよどんでいると、ゲゲ郎が先に口を開いた。
「すまんな、水木。お主の気持ちも考えずに、ここへ連れてきてしもうた。……妻とともに来た思い出の場所なんぞに」
やはりそうだったのか、と水木は思った。
ゲゲ郎はきっと、ここが本当にいい場所だから水木にも喜んでもらいたいと思って連れてきたのだ。彼の妻も温泉からの景色が綺麗だと気に入り、二人で仲良く過ごしたのだろう。ゲゲ郎は何も悪くない。女々しくそれを気にする自分が悪いのだ。
「すまない、ゲゲ郎」
いつも酔ったら奥さんとの惚気話をするくせに、今夜は気を遣って彼女の話はしなかった。そんなことをさせてしまったことが心苦しい。
水木は死んでなお妻を愛し続けているゲゲ郎が好きだ。愛情深く優しい男だと思うし、そこまで愛されている彼女を羨ましくも思う。ゲゲ郎には彼女のことをずっと忘れてほしくない。
「俺はそんなお前が好きなんだ。彼女のことも尊敬してる。すごい女性だよ岩子さんは。お前にはもったいないくらいだ」
ゲゲ郎は穏やかな目で水木を見ていた。
「そうじゃな。わしは幸せ者じゃ。わしにはもったいないくらいの連れ合いと二度も添うことができた」
白い手がすり、と水木の頬を撫で、目の傷に触れる。
「愛しておるよ、水木。……わしと一緒になってくれて、ありがとう」
ゲゲ郎は顔を近づけ、こつんと額同士を触れ合わせた。間近に見るゲゲ郎の目は、いつもより潤んでいる。
水木は胸がいっぱいになり、何も言うことができなかった。ただ黙ってゲゲ郎の薄い唇を吸った。
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