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桐子
2024-01-10 00:28:34
1235文字
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蜜月の宿②
「わしと夫婦になってくれ!」
「断る」
なんやかんやで不老不死に近い、妖怪的な生き物になってしまったが、それはそれ。見た目は人間の頃のままだし、「えっ水木さん四十代なんですか、お若く見えますね」くらいですんでいるので、それほど困りはしなかった。あと何年かすればさすがに誤魔化しきれなくなるから、引っ越しも考えないといけないだろうけれど。
それより水木を悩ませるのはゲゲ郎の時と場所を選ばないプロポーズだった。この男、水木の何かが琴線に引っ掛かると、即座に結婚を申し込んでくるのだ。おむつを変えたり味噌汁を作ったりしていると、言い方を変え場所を変え、時には花を摘んできて精一杯ロマンチックに結婚を申し込んでくる。その度、水木は丁重にお断りしてきた。
「それより風呂の掃除したのか?」
「これからじゃ!」
まったくもう、とぷんぷん怒りながらゲゲ郎は居間から出ていった。最初は丁重だった返事も、最近ではすっかり雑になっている。
残されたのはさやえんどうの筋を剥く水木と、学校の宿題をする鬼太郎だ。
なんと最初のプロポーズから、はや十年はたっていた。赤ん坊だった鬼太郎は今や小学生。すっかり大きくなり、クールで礼儀正しい少年に育っていた。
「いい加減、諦めたらいいのに」
漢字の書き取りをしながら淡々と言われ、水木は苦笑した。
「お前もそう思うか」
「いえ、水木さんがですよ」
鬼太郎はさらりと否定した。
「ええ
……
俺か
……
」
「父さんの諦めが悪いのは分かってるでしょう。いい加減、覚悟を決めたらどうですか」
まさかの息子の造反である。水木は慌てて反論した。
「いやいや、鬼太郎はそれでいいのか?」
「その場合、水木さんは僕の義父さん
……
?それとも義母さんになるんですかね?」
鬼太郎は真顔でそう言ってから、小さく笑みを浮かべた。
「でも、もう僕たちは家族だから、呼び方は関係ないか」
水木は思わず目頭が熱くなり、そっと涙を拭った。あの小さな赤ん坊が、こんなことを言えるまで成長したのだと思うと感慨深い。
「俺の息子はなんていい子なんだ!」
わしゃわしゃと頭を撫でると、照れたように目をそらされた。
まあ確かに、十年もプロポーズされ続けていれば、ゲゲ郎の熱意にほだされなくもない。そろそろ応えてもいい頃合いだろう。
「ゲゲ郎ー、結婚するか」
風呂場にいるゲゲ郎に向かって、買い物に行ってくるというような気安さで声をかける。すると、すぐにゲゲ郎が風呂から飛び出してきた。風呂掃除を一生懸命していたのだろう、裾がびしゃびしゃだ。
「水木!」
「うわっ!おい、濡れるだろ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、水木は顔をしかめた。だがゲゲ郎は気にも留めず、感極まった様子で叫ぶ。
「水木ぃーーーっ!必ずお主を幸せにするからのぅ!!」
「わかった、わかったから」
背中をポンポンと叩いてなだめる。鬼太郎は父親たちの大騒ぎに肩をすくめ、再び漢字の書き取りにいそしむのだった。
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