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桐子
2024-01-06 20:03:17
5641文字
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完全なる飼育⑩【父水】
男は一人で縁側に座っていた。煙草の煙を吐きながら、ぼんやりと空を見上げている。星はなく、ただ暗闇だけが広がっていた。
そこに、ふっと蛍光色の小さな光が舞った。蛍だ。次から次へと現れ、かすかな光を放ちながら男の寂しげな横顔を照らしている。
「ゲゲ郎」
赤い目が水木を視界にとらえ、大きく見開かれた。わなわなと唇を震わせ、信じられないというように呆然とした顔をしている。水木はゲゲ郎の前にやってきて、普段は見上げるばかりの男を見下ろした。
「何て顔してるんだ」
ゲゲ郎は、何故戻ってきたのだと責めるような目で水木を見ている。
「なんでだろうなぁ。自分でもよく分からん」
水木は男の横に腰を下ろし、蛍が舞う様子を眺めながらそう言った。
渡し守に「待っている人がいるから」と断り、ここへ戻ってきたのは水木の意志だ。閉じ込められてもいない、自由の身であったのにも関わらず帰ってきた。それはきっと、目の前にいるゲゲ郎を放っておけなかったからだ。
彼からはずっと、寄る辺のない寂しさを感じていた。一人生き残ってしまった悲しみ、理解してくれる人のいない苦しみ
――――
そんな弱い心を押し殺して生きてきた。泣き言は許されない。でも、時々叫び出したくなるほど苦しかった。
ゲゲ郎からはそんな自分と同じ匂いがする。だからこそ、一人残していくことはできないと思った。
「お前のことが放っておけない」
ふと、蛍がゲゲ郎の白い髪の上に止まる。それを払ってやろうとして、手首を掴まれた。大きな手はひどく冷たかった。しかし、こちらを見つめる視線は熱を帯びていた。
ゲゲ郎は水木を引き寄せ、強く抱きしめた。強い力で締め付けられて、息ができないほど苦しい。それでも、水木はその腕から逃れようとしなかった。
ーーーああ、やっぱり俺も寂しかったんだ。
「ゲゲ郎
……
?」
ゲゲ郎は何も言わず、水木を抱いたまま動かない。しかし、水木の肩口に埋められた顔には涙の跡があった。
「泣くんじゃねぇよ」
そう言いながらも、水木の目にもじわりと涙が滲んだ。頭を撫でてやりながら、肩越しに蛍が舞う様子が見えた。
――――
蛍が光っているのは、あれは求愛行動だ。
そんなことをふと思い出した。
布団の上にもつれこみ、お互いの服を脱がせ合う。いつもなら羞恥心のかけらも感じないのに、今は妙に落ち着かない。
肌の上を這う手の感触に、ぞわぞわと快感が込み上げてくる。耳元にかかる荒い呼吸にすら反応してしまい、自分の身体がこんなに敏感だったのかと驚いた。
「っ、あ
……
」
乳首を触られて思わず声が出る。慌てて口を塞ごうとしたが、その手を絡め取られてしまった。手を繋いだまま見つめ合い、どちらからともなく唇が重なった。
「ん
……
んっ、う
……
ッ」
唾液をたっぷりと絡ませながら、舌先を擦り合わせる。ゲゲ郎の舌もまた温度が低かったが、水木の舌と絡ませている間に自然と同じ温度になっていく。息が苦しくて顔を振っても、執拗に追いかけてはまた口を吸われる。それがたまらなく苦しくて気持ちいい。
「あ
……
」
唇を離すと、ゲゲ郎は首筋に顔を埋めてじゅうっと肌に吸い付いてきた。ちくりとした痛みと共に、吐息がかかる。ちゅうっ、ちゅっと鎖骨のあたりにも口づけられ、くすぐったいのと気恥ずかしいので思わず身を捩る。それを拒否と受け取ったのか、ゲゲ郎はむっと眉をひそめ、水木の肩を掴んで押さえつけた。
「ん
……
っ!」
ゲゲ郎はそのまま乳首を口に含んできた。生暖かい粘膜に包まれて、びくんと腰が跳ね上がる。そんな所感じるはずがないのに、じゅぷ、ちゅうっと音を立てながら舐められ、もう片方の突起も指先で摘まれると、たまらなく気持ちよかった。
「俺は、女じゃ
……
ん、うっ」
ぴん、と勃起した乳首を押しつぶされ、軽く歯を立てられた。痺れるような感覚が走り、無意識のうちにもっととねだるように胸を突き出す格好になってしまう。ねっとりと乳輪ごとしゃぶられ、反対側はきゅっきゅっと強弱をつけて引っ張られる。
「あっ、あぁ
……
! やだ、そこばっか弄るなって
……
」
水木の言葉を無視して、ゲゲ郎は両方の乳首を苛み続けた。痛いくらいきつくつねられたかと思うと、今度は労わるように優しく撫でられる。緩急をつけた刺激を与えられて、水木はすっかり息が上がり、下半身に熱が集まっていくのを感じた。
「ん
……
んん
……
っ」
未知の快感に戸惑いがあったが、抵抗はしなかった。水木もこうしたいと思ったからだ。
胸を弄っていたゲゲ郎は、ふと水木の左肩に触れた。いたましげに見つめ、舌を這わせる。動物が傷を癒やすような仕草に、どうしようもないほどの愛しさを覚えた。
「そんな顔すんなよ。もう痛くはないさ」
火傷の跡も目の傷も欠けた耳も、昔の傷だ。だが未だに湿度の高い日や戦場の夢を見た日に、じくじくと痛むことがある。そんな時、ゲゲ郎が傷を撫でてくれたことを思い出した。
「なぁ
……
それより、早くしようぜ」
太股をすり、とゲゲ郎の腰のあたりに擦り付ける。すると、彼は小さく笑って、また唇を寄せてきた。
「ん、ふっ
……
ん、ん」
ちゅくちゅくと舌を絡ませ、貪るように口づけるのは気持ちよかった。
「はぁ
……
っ、はぁ
……
ん、ぐぅ
……
!?」
息継ぎをする間もなく口内を貪られているうちに、ゲゲ郎が水木の陰茎を握り込んできた。急所を握られて一瞬怯えたが、ゆるゆると扱かれるとすぐに力が抜けた。
「はぁっ、はぁ
……
う、あ
……
」
ゲゲ郎の冷たい手が竿を包み込み、上下に擦ってくる。自分で慰めるのとはまるで違う感触に、水木は夢中でゲゲ郎にしがみついた。
「あ、あ
……
っ、はぁ
……
はっ」
ぐりぐりと亀頭を親指の腹で押される。尿道口から溢れる汁を塗り広げるように動かされると、たまらない快感が襲ってきた。
「うあ、あっ
……
それやばい
……
ッ」
裏筋を強くなぞられて、ぞくりと背筋が震えた。陰嚢も一緒に揉まれ、その度に射精欲が高まっていく。溢れた先走りのせいでぬちゃ、ぐちっと卑猥な音が響き、それがまた興奮を煽った。
「も、イきそう
……
だからっ、手ぇ止めろって
……
!」
このままでは達してしまと思って制止したが、ゲゲ郎は手を緩めるどころか更に激しく動かし始めた。
「ああッ、だめだって
……
! 出る、出ちまうから
……
っ!」
首を振って嫌がっても、ゲゲ郎は手を離してくれない。そればかりか、追い打ちをかけるかのように乳首まで吸われてしまった。
「うあ、あ
……
っ、もぉ無理だ
……
っ! イく、あ、あ
……
―――
っ!!」
目の前が真っ白になり、頭がぼうっとする。身体が小刻みに痙攣し、びゅくっと精液が飛び散り、お互いの腹の上を汚した。心地よい倦怠感と余韻に浸っていると、ゲゲ郎の身体が離れていった。
「え
……
」
何事かと思っていると、ゲゲ郎は自分の指を口に含んで唾液で濡らし始めた。何をしているのかとぼんやり見ていると、濡れそぼった中指を水木の後孔に押し当ててきた。
「ちょっ、待てよ
……
!」
男同士はここを使うと聞いたことがあるが、さすがに抵抗がある。慌てて押し返そうとするが、ゲゲ郎は構わず指を挿入してきた。指一本とはいえ、異物感がものすごい。
「あ、あ
……
っ」
ゲゲ郎はずぷっと第二関節くらいまで指を埋めたところで一度動きを止め、今度はゆっくりと引き抜いていく。排泄感に似た感覚にぞわっと鳥肌が立った。
「ん
……
っ、ぐぅ
……
っ」
再び中に埋められ、今度は根元まで埋め込まれる。そのまま出し入れを繰り返しているうちに、少し慣れてきた。それを見て、ゲゲ郎は二本目の指を入れてきた。圧迫感があり苦しかったが、痛みはなかった。
「ん
……
んっ、んんっ」
指が抜き差しされているうちに、おかしな気分になってきた。背筋がぞわぞわして、腰のあたりが重く痺れている。そして、指がある一点を掠めた瞬間、びくんと大きく腰が跳ね上がった。
「あっ!?」
にやっと笑みを浮かべて、ゲゲ郎は同じ場所ばかりを狙ってきた。
「やっ、そこやめろ
……
っ! なんか変だ
……
っ!」
ぐりゅ、と強く押し上げられ、腰ががくがくと揺れる。今まで感じたことの無い刺激だった。ゲゲ郎は執拗にそこを攻め立ててくる。萎えていた陰茎も硬度を取り戻し、先端からはとろとろと透明な液体が流れ落ちていく。
「あっ、ぐ、あっ、
……
っ! やめ
……
げげろ
……
っ!!」
そこを刺激されると何も考えられなくなるほど気持ちよくて、涙が滲んだ。いつの間にか三本に増えていた指で責め立てられ、水木は二度目の絶頂を迎えようとしていた。
「
……
っ!!!」
びくんっ、と大きく身体を震わせ、水木は再び達した。腹の上に生暖かい飛沫が飛び散っていく。
「はぁっ、はぁ
……
っ、うぁ
……
」
ずるりとゲゲ郎の指が引き抜かれ、後孔がひくつくのが分かった。二度も極めてしまったせいで荒い息をしている水木と対照的に、ゲゲ郎は涼しい顔をしていた。しかし、こちらを見下ろす片目にはじっとりとした熱がこもっている。脱力している水木の体を舐め回すように見下ろし、足を折り曲げて開かされた。男の前に何もかもさらけ出すような姿勢を取らされ、羞恥で頬が熱い。しかし、さっきから視界の端にちらちらと見えているゲゲ郎の陰茎はすっかり勃起していて、早く挿れたくて仕方がないといった様子だ。自分の痴態を見て興奮してくれているのだと、嬉しくさえ思った。
「一応言っておくが、俺は
……
その、初めてだから、できたらあまり手荒にしないでくれると助かる」
ゲゲ郎はこくこくと頷いて、水木の手を握った。ひんやりと冷たい手にぎゅっと力を込められる。
「ん
……
」
唇が重ねられた。ゲゲ郎は何度か啄むように口づけた後、水木の両足を抱え上げた。膝が胸につくくらい身体を折られて苦しい体勢だったが、それでも構わなかった。
「あ
……
っ」
ぐっと腰を持ち上げられ、後孔に陰茎の先端を押し付けられる。ちゅぷ、と濡れた音を立てて、ゲゲ郎のものが少しずつ体内に入ってきた。
「ゔ、あぁ
……
はい、って
……
っ!」
指とは比べ物にならない質量のものを挿入されているというのに、あまり痛みはない。それどころか、内壁をごりごりと擦られて、快感すら覚えた。ずぶずぶと根元まで埋め込んだところで、ゲゲ郎は一旦動きを止める。
「はぁ
……
っ、あ
……
」
体内を埋め尽くしているものの形や熱さを感じ取り、無意識のうちに内壁が蠢いて受け入れた陰茎を締め付けてしまう。中でどくどくと脈打っているのが分かって、それが嬉しくてまた中を締めてしまう。そんなことを繰り返しているうちに、ゲゲ郎はゆるりと腰を動かし始めた。
「んっ
……
んん
……
っ!」
最初は緩慢な動きだったが、徐々に激しくなっていく。奥を突かれるたびに、頭の芯が痺れるほどの快楽に襲われる。
「あっ、あっ、ん
……
っ!」
ぱんっ、と肌同士がぶつかる音が響き、結合部からはぐちっ、ぬちゃっと淫猥な水音が聞こえてくる。それに混じって聞こえるゲゲ郎の吐息がひどく色っぽくて、それだけでぞくぞくした。
「や
……
っ、あ
……
っ! これ、やば
……
いっ! っ、ぐ、うっ
……
ふっ!!」
みっともない顔や声を見せたくなくて、水木は腕で顔を隠そうとしたが、ゲゲ郎に掴まれて阻まれてしまった。手のひらを絡めるように握り込まれ、布団に押しつけられる。
「はっ、
……
っ、んっ、あ゙ぁ
……
っ!」
遮るものがなくなったせいで、律動に合わせて、甘ったるい喘ぎが漏れる。身体の奥を穿たれると目の前に火花が散るような感覚がして、頭が真っ白になった。気持ちいい。それ以外何も考えられない。もっとゲゲ郎に近付きたくて、水木は緩く拘束されていた手を振りほどいて、ゲゲ郎の背中にしがみついた。広くすべらかな背は、今や水木と同じ体温になっている。
「げげろ
……
ん、うっ
……
げげろう
……
っ!」
何度も名前を呼ぶと、ゲゲ郎は返事をする代わりに水木を強く抱きしめ返してきた。繋がった部分から溶けてしまいそうなほど気持ちよくて、このまま一つになれたらどんなに幸せだろうと思った。
「はぁ、あっ、んんっ
……
っ!! あっ、あ゙
――
っ!!!」
最奥を突き上げられた瞬間、びくんと腰が大きく跳ね上がり、全身に甘い痺れが走った。頭の中で何かが弾けたような感覚に襲われ、気がつけば射精していた。それと同時に後孔もきゅぅっと締まり、中にいるゲゲ郎のものを思いきり搾り取った。
「
……
っ!」
ゲゲ郎は低くうめいて、達した。どくどくと脈打ちながら熱いものが注がれていく。一滴残らず注ぎ込むかのように何度か腰を打ち付けられ、その度に小さく体が震えた。
「はぁ、はぁ
……
っ」
水木はぐったりと身体を投げ出し、呼吸を整えていた。身体は疲れ切っていたが、ひどく満たされた心地だった。ゲゲ郎は、汗で張り付いた水木の前髪をかき上げ、左の目元にそっと口づけてきた。その優しい仕草が愛おしくて、思わず頬が綻んだ。
「ゲゲ郎
……
好きだ
……
」
そう言うと、ゲゲ郎は驚いたように目を見開き、それからくしゃりと顔を歪めた。彼は水木の肩口に顔を埋め、きつく抱きしめてきた。
「
……
っ
……
、
……
」
「何だよ、泣いてるのか?」
よく泣く男だな、と思いながら白い髪を撫でてやる。
「
……
もしかして、後悔してるのか」
一瞬、ひやりとしたものが胸に広がった。同じ思いだというのは水木の勘違いだったのだろうか。しかし、ゲゲ郎は首を横に振ると、ゆっくりと顔を上げて水木のことを見つめてきた。嬉しそうな笑みを浮かべ、それでも涙をぽろぽろと流している。水木はほっとして、ゲゲ郎の頬に手を伸ばした。
「愛してる
……
なんて、大仰だが」
「
……
」
「俺はお前と会えてよかったよ」
「
……
」
ゲゲ郎はうんうん、と何度も頷きながら、水木のことをずっと抱きしめていた。
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