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元プラズマ団員とトウヤ①

活かしきれてない転生設定あり

なまえなまえなまえ 親の顔も知らない孤児の私は、物心つく前に拾われてプラズマ団という組織の中で育ってきた。
 ゲーチスさまと、七人のおじいちゃん。あとNさまと女神さま。他には沢山の大人とその家族、私みたいな孤児たち。みんなで地中深くにひっそりと構えたお城で暮らしていた。移住食に困らずここまで大きくなれたのは、私を拾ってくださったゲーチスさまの気まぐれだろう。
 ゲーチスさまやおじいちゃんたちは、みんなNさまを王として敬っていた。私たちも当然そうしてきた。私とそう歳の変わらない小さな子供。だけど特別な存在、Nさま。私たちの王。
 大人たちが口をそろえて王と呼んだ少年は、ポケモンは人間に支配されるべきではないと考えた。それは同時にプラズマ団の思想そのもので、大人たちはみんなポケモンを開放するためイッシュを回っていた。ここでは十二の誕生日を過ぎると一人前として扱われたので、私も当然、任務として沢山のトレーナーからポケモンたちを解放した。
 プラズマ団ではそれが普通のことだった。何ひとつ疑うことなく、沢山のポケモンを解放してきた。
 そんな私が所謂『転生者』なのだと気付いたのは十五のときだった。
 唐突に、ふっと走馬灯のように見覚えのない女の一生が脳を駆け巡った。なんてことない普通の人生で、見たことも聞いたこともない世界で前世の私は生きていた。
 普通の家庭に生まれ大人へ成長した女の最期は、まばゆい光に身動きがとれず次の瞬間体は宙を舞い、そこで記憶は途切れている。女の人生は事故で幕を閉じたらしい。あっけない最期だった。
 以上が現前の私の生い立ちと前世の記憶。
 前世の記憶を見てすぐ、プラズマ団からは抜けてしまった。――いや、強引に逃げ出したというのが正しいか。意味の分からない記憶を見てから、急に自分の今までの行い全てが悪逆無道の行為に思えて仕方がなくて。とにかく逃げなくてはいけない、そう感じた。
 逃げ出してボロボロだった当時の私は、イッシュの著名な博士に拾われた。アララギという女性で、彼女は私の泥だらけの汚れた団服を見てなお何も言わず、伝手を使って住む場所と仕事を紹介してくれた。

なまえ!そろそろ休憩はいっていいよ」

 挑戦者もしばらく来ないしゆっくりしておいで、なんて手を振るアーティさんの笑顔に見送られジムを後にした。
 城の外へと逃げたあの日からもうすぐ五年。この冬で二十歳になる私は、アララギさんの紹介してくれたジムの受付の仕事で何とか生活の基盤を整え、今はヒウンシティの外れにある小さなアパートでひっそりと暮らしている。
 仕事にも慣れ、ひとり静かに暮らすには何の不自由もない生活を送れているのは、あの時私に声をかけてくれたアララギさんのおかげ。正直、呪いのようなプラズマ団の思想が抜けきってはいないのだけど、それでも人並みの生活が送れるようになったのは全て彼女のサポートがあったからだ。三年前に比べれば精神的にも身体的にも安定していると思う。
 ジム通りを抜けて、セントラルエリアのベンチに腰掛ける。
 時刻は、丁度昼の二時を過ぎたあたりだろうか。中央の噴水がつい先ほどまで音楽に合わせ水しぶきを上げていた。
 この時間は人が適度に少なくて、ぼーっとするには丁度良くて気に入っている。
 私が逃げてから数年後、プラズマ団は解散に追い込まれたと聞く。
 英雄が現れたのだ。しかもその片割れがかつての王だと、風の噂で耳にした。
 伝説の英雄を連れ添って、彼らはどこかへ消えてしまったという。当時の私に本当かどうかなんて確かめる術は無かったが、それでもNさまの安否は心の片隅で未だに気になっている。
 Nさまも。彼もきっと、私と同じ側の人間なのだ。
 あの城には沢山の孤児がいた。ゲーチスさまが時々連れ帰ってくる子供たちは、みんな言葉も話せない、何も知らない小さな子供だった。彼らはプラズマ団の為だけに教育され育てられる為に連れてこられたのだ。かつての私がそうだったように。
 ゲーチスさまとNさまはまるで親子のように接していたが、今思えば彼も孤児だったのだと思う。王の器の為だけに育てられた歪な子供。
 ――彼はどこかで救われているのだろうか。
 そんな考えが頭に過りすぐに首を振った。ひとり逃げた分際で、なんて身勝手な願いなんだろう。
 
「っ……。大丈夫、平気」
 
 足元のレパルダスがにゃおんと鳴く。不安げなグリーンの瞳を安心させるように覗き込み、にこりと笑ってみせた。
 少し昔の事を考えすぎてしまったかもしれない。あの頃の記憶はあまり気分のいいものではなかった。
 平気と強がっては見せたものの、少し気分が悪いのは確かだった。ジムへ帰る前に少しでも落ち着かせないと、そう思いながらベンチへ体を倒し呼吸を整える。
 
「ねえ。お姉さん大丈夫?」
「えっ、……
「顔色悪いよ。ほら」

 突然頭上から降って来た声に瞼を上げると見知らぬ青年に見下ろされていた。帽子を深く被っていて表情は読めないが、訳が分からず困惑している私へ噴水の水面を指し示す。言われるままに覗き込めば、真っ青な顔の女が水面からこちらを見返していた。

「あの、平気だから……
「そんなに顔真っ青にさせて平気なわけないだろ」
 
 イレギュラーな出来事に面倒なことになったと感じながらも、平気なのでほっといてくれと男の手を払い除ける。そうしたつもりだった。実際は力も入らずただふらふらと中途半端に舞うだけで、簡単に捕まってしまう。

「ねえ、お願い。ほっといてよ」
……お姉さん、もしかしてアーティさんとこで受付してる?」
「えっ何、いきなり」

 唐突な質問に心臓がドクンと脈打った。この街で見知らぬ誰かに顔を覚えられる程有名になったつもりも、なる予定も無かったものだから身構えてしまう。
 あからさまだったんだと思う。表情が硬くなった私を見て、彼は別にとって食ったりしないよとくすくすと笑った。

「どうせ今から顔だそうと思ってたし丁度いいか。ジムまで送ってくよ」
「いや、だから」
「もう連絡したから諦めな。流石に、そんな状態で置いていったら俺が怒られるし大人しく送られて」

 顔を出す、ということは挑戦者だろうか?今日はあと二人予定があったはずだが、いずれも女性だ。彼ではないだろう。というか連絡したってどういうことなのだろう。
 私の事はお構いなしに、さっさと腕をかせと目の前の彼が手を差し出している。大丈夫だからと断りのやり取りを二往復程しても引かない手は、彼の中で私に構うことが既に決定事項のようなのが伺えた。
 見ず知らずの他人に貸しを作るのは避けたいが、このまま不毛なやり取りをするよりはマシか。やむを得ない。

「もう、……わかった。お言葉に甘える」
「そうしとけ。ほら、立てる?」
「うん、平気。気分も収まったから歩ける」

 ぐいっと引っ張り上げられ、ようやく彼と目があった。帽子の奥のブラウンの瞳は穏やかに笑っている。
 立ち上がって隣に並ぶと、彼は私よりも頭ふたつ分程背が高くて大きなバックパックを背負っていた。私と同じくらいの年頃に見えるから、旅に出たてのトレーナーという訳ではないのだろう。もっと、何年も旅をしてきた。そんな印象を受けた。

「よく懐いてるな」
「レパルダス?もうずっと一緒なの」

 相変わらず心配そうなレパルダスへ大丈夫だからと目線を送る。元々心配性な性格だったのが、ここ数年で拍車がかかったように感じる。そうさせているのは間違いなく私だろう。
 支えられながらジムへ戻ると、アーティさんがメインホールで待っていてくれた。心配そうな彼の顔に心苦しさを感じつつ、一言謝罪を伝える。

「体調まだよくないんじゃない?」
「すみません。ちょっと、考えすぎちゃったみたいで」

 彼は私の事情を知っているし察しもいい。ここまで言えば伝わるだろう。案の定、なるほどねと微笑みそれ以上は何も聞いてこなかった。

「にしても……、久しぶりだねえ!トウヤ君」
「ご無沙汰してます」
「いつ戻ってきたの?」
「一昨日?だったかな。しばらくはイッシュに居ようと思って」

 私を椅子へ座らせ、そのまま世間話を始めた二人。
 てっきり挑戦者だとばかり思っていたが……。会話の様子はどうやら昔馴染みのようだった。

「アーティさん。あの、彼は?」
「トウヤ君?君と同じ年くらいじゃないかなあ。あぁ……確かキミ、カノコ出身じゃなかったっけ?彼女はなまえ。アララギ博士の紹介でうちで働いてもらってるんだ」

 よく知る名前を耳にしたからか、ほんの少しだけ警戒心が緩む。カノコ出身という事は彼もアララギ博士と親しいのだろうか。
 昔の挑戦者で、アデクさんも倒した優秀なトレーナーなんだよとアーティさんが教えてくれた。アデクとは、アイリスの前のチャンピオンだっただろうか。つまりそれは、当時のイッシュリーグを勝ち進んだということで。凄腕のトレーナーを見の前にして一瞬気が遠くなるような感覚がした。

「改めまして、カノコ出身のトウヤです。だいぶ顔色戻ったんじゃない?」
「えっと……なまえ、です」

 ひとりで暮らすようになってから、私は交友関係をあまり広げないように努めてきた。元とはいえプラズマ団だった身で、あまり人と積極的に接するべきではないと思っていたから。
 成り行きとはいえ、こうして自己紹介なんてするのは城にいた頃ぶりかもしれない。

「あの、さっきはありがとうございました」
「気にしないでいいって。ぶっ倒れる前で良かったよ」
「あの時はいっぱいいっぱいで……。態度悪くてすみませんでした」

 少し気がたっていたのは事実だ。そう続けて軽く頭を下げる。彼は変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。