皆瀬茶太(シキゴウ全)
2024-06-16 15:56:32
6555文字
Public バットマン
 

クラブルなれそめ中編

『寝物語には足りない』というタイトルで書いてるやつ。
まだ終わらないけどレカペまで終わるかな
マッドハッターとか今回出したヴィラン、そんなに詳しくなくて申し訳ない。
一部はコミックで読んだことあるけど大体は映像。ミスターフリーズも出したかった。

 ダイアナは、棺で眠るスーパーマンを生き返えらせるかの問答をした相手だ。
 メンバーに強引な説得をしただけでなく、ダイアナを故意に傷つけた自覚も持っている。
 彼女はブルースが出会った最初から、正しい存在として立っていた。
 世界の秩序が何であるか間違えないワンダーウーマンの言葉は、ブルース個人という物になった途端に、彼女ほど正しく在れない自分への確認作業になってしまう。
 

……おかげでこんな静かな夜には耳が痛いまま残る」
 ダイアナと酒を酌み交わし別れた、その夜。
 ブルースはバットマンとして闇と同化し、ゴッサムの街を見下ろす。
 この街で犯罪の無い夜は無いが、バットマンが呼ばれるほどは無さそうだ。
 主要な犯罪者はアーカムアサイラムに収監されており、小競り合いは聞こえるがゴードン警部の部下たちで対処できる。
 ここでは、あり大抵な夜。俯瞰の眼差しでいるバットマンの背後で、風の切る音がした。
「溜息つくような事でも起きてる? そうでもない、か」
 溜息をしたつもりはないが、言った相手がフラッシュだ。否定より曖昧にしておく。
 返されない事は気にせず、フラッシュは空を見上げてからバットマンの横顔を覗き込む。いでたちの割に緊張感は薄いので、肩を諫めて背中のファスナーから非常食のバーを取り出した。
 エネルギー切れは死活問題の彼を一瞥もせず、バットマンは静かに眼下を眺めたまま。
「バットマンもスーパーマンもいつ寝てるの? 僕で限界感じてきたっていうのに」
「余裕そうだな」
 フラッシュは会話してくれるんだ珍しいなと、2本目のバーに手を伸ばす。
 ヒーローと社会人の両立に、四苦八苦しているのは事実。バットマンが返したように限界値でもない。
 先のは、あくまで会話の糸口。
 そして返事が来たので、フラッシュはあえて沈黙を選んだ。咀嚼だけを繰り返し、僕も空気を読めるようになったかもと喉ぼとけを動かす。
 3本目のバーを手にしようとした時、バットマンは体制はそのままでフラッシュに話しかけた。
「どうしてここに? その食欲なら寄り道か」
「確かに仕事帰りだしその帰りでスーツを着る事も起きたけど、バリーとしてもフラッシュとしても問題はない。ここに来たのは僕があなたの友人だから。来ちゃ……駄目?」
「友人だから。何を俺から見つけた?」
 あれ、本当に今夜のバットマンは珍しいな。探られてるのに逃げないなんて。
 フラッシュは3本目で食欲を落ち着かせて、しっかり食べ終えてから答える。
「あなたは僕の恩人だ。僕を見つけて友人になってくれて仕事も紹介してくれた。こうしてスーツの開発に援助もだし何より僕を対等な仲間として信頼してくれている、ちょっと待って喉乾いた」
 フラッシュは片手で口元を抑えるや、ひとっ走りで炭酸飲料の缶を買って戻る。
 バットマンもいるかと聞く必要はない。プルタブを開けて飲む。
 今夜のゴッサムは、バリーが再び話す時間を与えてくれるほど大人しい。
「なんだっけ、そう友人だ。友達は友達の幸せを応援するものだよね」
 断言するので、バットマンは思わず顔ごと向けて見上げてしまう。
 本気で言っている顔だ。かの赤いマントの男とはまた違うが、夜なのに眩しい存在。
 ここにも、自分とは違う正しい者がいる。
 バットマンは、ブルースの顔になるのを堪えた。
 こんな憧憬だけでスーパーマンを見れたら良かったのに、とも。
……そうか」
 誰よりも速いのに言い回しは誰よりも遠いのは、もどかしさ以上に彼なりのやさしさだったのだと気づいた。
「その口が滑るほどか、俺は」
 ブルース・ウェインはクラーク・ケントに恋情を抱いているが、そこから先の未来は不要だと、道を自ら消している。
 足先には何もない現状維持を、ブルース以外が望まないのを知っている。余計なお世話とは言わない。
 誰もが知るように隠していないのだ。同時に、現状維持が自然体であるとも見せていた。
 フラッシュには、膨らんだ風船のように見えるのだろう。
 どう説得しようかと再び視線を街に戻すと、フラッシュは気まずそうに、もにょもにょと返す。
「というか、うん、まあ、それもある」
 それも? 
 俺は何をフラッシュの思考から見落とした?
「僕は僕なりに人と関わっていきたいけど相変わらず感情を探るのは得意じゃない。そこに数式のような決まった答えが無いし、あなたほどの経験も無い。まだ。だから間違ってたらごめん。僕は、あなたの友人だけど、『匂わせ』もほどほどにしないと誰も彼を止められないからさ」
 あと、この街も。
 フラッシュは空を刺した指で、ゴッサムの街に指先を落とした。
「両方僕は怖い。まさかだけど無意識なら、あなたも僕は怖い。3つともは無理」
 バットマンの仮面に隠したブルース・ウェインに向けて「あなた」という友人は、言い切ったとばかりに大きく息を吐いた。
 バットマンは見た目こそ冷静を貫いているが、困惑の渦で脳がぐるぐるとかき混ぜられていた。
 無理、という語彙の使い方も分からなければ、一言一句思い出せるフラッシュのセリフそのものも、処理出来ずにいる。
 フラッシュは言い切ったぞと自分を褒めたたえ、フリーズしたバットマンを放って帰ろうと片手を半端に上げた。
「じゃ、じゃあ僕はこれで。ぐっなーい」
 わざとらしい挨拶で手を振ったフラッシュの一歩は、アルフレッドからの通信で空振りにされた。
『ご歓談のところ恐縮ですが』
 アルフレッドの介入と爆発音は同時だった。
 街の中心地から少しはずれ。一度は小さな爆発。すぐに同じ場所で大きな二度目。
『アレン様、お帰りになる前にお手伝いくださいませ』
「もちろん」
 フラッシュはバットマンに目くばせをして指示された場所に向かうと、サイボーグが誰かと闘っていた。
「あれ? 僕より早い」
 更けた夜の街に残る人を救助しながら、どうやらサイボーグが気絶させていく相手が犯人だろうと想像する。
 人数はそれなりにいるが、武器を所持しているのは数人。混乱に乗じて強奪をしているのが幾人か。
 閉められたマーケットが襲われているので、それもサイボーグが対処している。
足りないのは避難誘導だろう。
 家電を盗む手から取り戻したフラッシュは、落ちる前のりんごを掴んで齧る。エネルギーが足りていなかった。
「やけに速いけど待機してたとか?」
「この近くに住んでいる」
 そういえば彼はゴッサムの住民だったと、リンゴを食べ終える。
「なる。これってただの強盗?」
 聞き方は妙でも、二人にとって違和感はない。
「こっちはな」
「こっち」
「爆発の前に警備会社のビルがシステムダウンした」
「けど?」
「元に戻しておいたが、40秒の間に外された箇所がいくつかある。バットマンはアーカムアサイラムだ。彼は……
 そう言って、サイボーグが空を見上げた。何もないが、それだけで伝わる。
「俺は彼らとは別な場所を対処する」
 あからさまに、関わりたくないと顔に出ている。 
「おっけー。僕もそうしよう。適材適所だもんね」
 拳を上げて見たが返されなかった。同士なのに。
 しゅんとしながらも、フラッシュは現場保全と救助を最優先にして、到着した警察官に後を任せた。
「僕、出しゃばったかもしれない。良かれと思ってブ……バットマンに色々言っちゃったかも。だってもうなんていうか、彼らの問題なのにこの街がこういう街だって僕っ」
「良かったな知れて。……お前がそうしたところで変わらないだろう」
 これはもしかして慰めてくれた?
 ついでだと、ペンギンの部下が金庫破りをしている箇所に向かうサイボーグを見ると、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
 世界の隣人たる空の男が、この犯罪都市があからさまなのに、当のバットマンがブルース・ウェインだけが分かっていないらしいと、バリーは友人の顔で見立てている。
 サイボーグは変わらず朝の遠い空を眺め、それでも、陽は待てば上るのを知っている。
「俺もこの街の住民だ理解はする。が、この娯楽も明日には終わるだろう」
……なにか見た?」
「ただの住民としての勘だ、そして明日もこの町は騒がしい」
 不敵な笑みなのに、どこか目が死んでいる。
 ゴッサム大学の花形QBだった青年は、新しい場所のヒーローになって以来、スポットライトの少し横を望むようになっていた。
「そう……
 バリーには目の前の仲間をフォローすべきと思いつつも、方法が分からない。
 友人には違いないが、間違いを恐れずに全てを言える仲ではないとも思っている。良好に向かわせつつ、持続をするための距離感は難しい。
 今もバリーには見えないものを見ているし、バリーの知らない街を知っている。
 視点がどこか教えてくれないが、明日には同じ物が見られるとは言ってくれた。
 だからあくまで、ブルース・ウェインの友人としてもう一度「そっか」と頷いた。
「君が言うなら安心だ」
 ニカリと笑い、パチリと閃光が瞬く。
 だって、バリーにとってはブルースが正しい人なのだ。



 サイボーグがフラッシュに告げた通り、バットマンは、アーカムアサイラムに来ていた。
 警備会社のビルがシステムダウンした時、アーカムアサイラムの機能も失った。
 ブラックゲート刑務所も同等だが、そちらはサイボーグとフラッシュが向かうとアルフレッドが告げる。
 関連が無い筈は無い。犯人は逃亡中だが、アサイラムの混乱を収束する方が大事だ。
 いの一番で向かい、暴れているであろう囚人を拘束。
 暴れる者には拳で解決。これが最適解。
 多くの囚人は看守たちで沈静化できる。問題は、脱走と時々合法的に出ては、収監を繰り返しているヴィランたち。
 あらゆる可能性を考えて、一つ一つ対処をシミュレーションする。
 これも経験測だ。ところが、今夜はそのどれも当てはまらなかった。
「よく来たバットマン。俺たちの望み通り俺たちが見定めてやる、ソイツがてめぇに相応しい男かをな」
 施設中で暴徒の音が響いている中。食堂で男が一人、座ってティーカップで茶を飲んでいる。
 視線の先には火災と爆発から看守も囚人も救助しているスーパーマン。
 背の低いこの男は誰だ? ああ、アーカムアサイラムの常連、マッドハッターだ。オレンジの囚人服を着たまま、緑のシルクハットを被っている。どこから持ってきた。
…………帰る」
「来たなら手伝ってくれっ」
 囚人と素手で闘っている看守が、殴りながら叫んだ。周囲のほとんどは問題なさそうだ。
「コレは貴様のマインドコントロールか」
「大方。だが望まない物ではないから簡単だった。逃げたいものは逃げたが見ろ、おかげでここに居るのに誰もお茶会に参加してくれない」
 マッドハッターに殺された数人の囚人がテーブルの反対側の椅子に転がっていた。
 ほとんどは混乱とその数だけの視線。
 殺意ではない。囚人も監修も好奇の眼差しをバットマンにだけは向けている。
「意図はなんだ」
「君の命を茶会のテーブルに乗せる前に、その命に手を加えたやつがいるからシェフを呼んだ」
 わざとらしく、何もないテーブルへ手を広げた。
 形も大きさも違ういくつものカップやコップに同じ色をした紅茶が入っていた。
 空の皿には、そこに乗るのはお前の肉だと言いたげに何枚も置かれてある。
 シェフがスーパーマンなのは察するが、まだ意味が分からない。
……ジョーカーも収監されていた」
 バットマンがここへ向かった最大の理由がコレだった。尚、ペンギンはブラックゲートに収監中。
 マッドハッターはその場で立ち上がるや、テーブルに飛び乗る。
 視線をバットマンに合わせ、持っていたティースプーンでバットマンの顎に当てた。くいっと上げれば、マスク越しでも分かる嫌悪で顔を反らせた。
「会いたかったのか? 俺も混ぜたかったからソロモン・グランディに頼んだがあいつはキラー・クロックを連れて逃げた。
 端からお前は自分の物だと豪語している上、それを疑ってないからな。お前に変化があろうと無かろうと全てお前という華美なケーキを食いつくす価値の等しいジャムになるんだろう、ああイカれている!」
 イカレ具合ならジョーカーと並ぶか上回る男が、 最後は笑って叫んだ。
「いつまで話してるんだ」
「⁈」
 声は不意に落ちてきた。
 吹き抜けの食堂の上には、スーパーマンが浮いている。
 彼の眼差しは深く、威圧的だった。
 怒気を隠さないのは場所柄理解するが、およそスーパーマンらしくはない鋭利な声だった。
 困惑するバットマンと同様に多くの怒号が一瞬で止んだが、ここはアーカムアサイラムであり、ゴッサムだった。
「ここはアーカムアサイラムだぞっ 余所者がしゃしゃって来んな!」
「そうだ! 俺たちとバットマンの仲を邪魔すんじゃねぇっ」
 幾人もの囚人が先に叫びをあげ、傍にいる看守を片っ端から襲っていた。
 暴力を暴力で鎮圧する看守たちも叫んだ。
「だったらここはゴッサムだっ ブルース・ウェインの新しい相手が余所者だろうと街の為の人がいるならバットマンも受け入れろっ なあ、バットマン!」
「そうだ! ウェインに相手がいる間は嫁との会話が増える手頃で害のない娯楽なんだ! バットマンに人間臭さがあるならもっと話題が増える! ゴッサムの家庭円満を邪魔するな! よく来てくれたバットマンッ」
 とても良い笑顔と迫力で、囚人を押さえつける看守たち。
 バットマンの背後では、マッドハッターがニヤリと笑った。
……おい、本当に、何をした」
 バットマンのマッドハッターに向ける目つきと声の温度が下がった。
「あらゆるストレスは本音を吐き出させやすい。分かるだろ? この街は全てこの街で完結されるべきと誰もが思って成り立っている。素晴らしきゴッサムというテーブルクロスってだけだ」
「僕は救助を最優先にしていてそれが望みだ。君たちの関係や、対処できる範囲の犯罪に対してどうこうするつもりはない」
 マッドハッターの声にかぶせる形でスーパーマンが降りてきた。バットマンは証拠隠滅を図る子供の気分で、マッドハッターを殴って黙らせる。
 なんだこの全ての当事者なのに、全てに置き去りにされている状況は。
「スーパーマン、お前も、悪党の戯言に耳を貸すな」
 出会い頭にこうすれば良かった。事件は解決。
 スーパーマンは、バットマンの肩越しに主犯を見下ろす。
「助けたい意思に範囲なんか無いだろうに」
 それにしても、という言葉はバットマンだけに囁いた。
「つくづくこうだ。街がライバルなんて妬ける」
「っ⁈」
 ビクリと体が強張るバットマンに、これ幸いとスーパーマンは軽々と両腕で抱えた。
 衆人環視の中で姫抱っこされている事実に気づかれる前に、スーパーマンは一番近くにいた看守に笑顔を向ける。
 あらかた救助は済ませ、主犯は沈黙。後は彼らの仕事だ。
「後は任せた」
 スーパーマンは吹き抜けをふわりと飛んで、爆発で空いている穴から出て行った。バットマンを大事そうに抱えて。
 先ほどバットマンに向けて叫んだ看守の二人も、すっかりマインドコントロールは解けていたが元々の本音なので後遺症は薄い。
 二人は空いた天井を見上げながら、気の抜けた囚人を拘束する。
……やっぱり二人が付き合ってるのは本当だったんだな」
「蝙蝠男にも春が来たんだなあ」
「ウェインさんはいつもだけどなあ。まあ、あっちは本当か分からねえが、マジなら今回はどれだけもつかな。今までと毛色が違う眼鏡の男だろ?」
「また賭けるか。今回は酒でどうだ」
「乗った」
 賭けに関しては囚人たちも同意だった。ただし、対象はバットマンの方だ。
 善人も悪人も、多くのどちらにもなれる地に足のついた街の住民たち。
 バットマンが、ブルース・ウェインだけが、街に根付き染み付いた深度なり執着を見誤っていた。