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夜明 奈央
2024-06-16 14:37:07
3788文字
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中太SS
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太誕2024
さんこいちにお祝いされつつ付き合ってると勘違いされる中太(中太は全然祝ってない)
お誕生日おめでとうございます!
いつものバーに、いつもの友人。だけどその日はいつもより少しばかり特別で
――
「それでは、太宰くんの誕生日を祝って」
「「「乾杯!」」」
カチンと涼やかなグラスの音が響く。今日はここにいつも集まる3人のうちの1人、太宰の誕生日だった。
「すみません、直前だったのでプレゼントを用意する時間がなくて」
「やっぱりケーキぐらい用意するべきだったか?」
坂口が苦笑気味に詫びを述べるのに、織田が同調した。2人が太宰の誕生日を知ったのは、ほんの数日前だった。それも、その日たまたまそういう話になっただけだったので、場合によっては知らずに今日という日が過ぎ去っていた可能性さえあった。
だから坂口の言葉は、申し訳なさ半分、「なぜもっと早く言わなかったのだ」という非難半分、という感じだ。
「いいよ気にしなくて。2人が祝ってくれるってだけで私は十分嬉しいんだから」
けれど太宰は本当にそんなことはどうでもいいようで、にこにこと楽しそうに笑っている。いつもと変わり映えのない酒席でも、普段とは異なる目的が加わるだけで違うものへと変わるのだ。
「せめてあれ歌うべきなんじゃないです? ハッピバースデートゥユーってやつ」
「ケーキもないのにか?」
「ケーキはどうでもいいけどせっかくだから歌ってほしいな」
主役の太宰に所望され、坂口と織田は声を合わせてバースデーソングを歌った。まだ酔ってはいないはずなのに太宰はご機嫌でそれを聞いていて、終わるとパチパチと小さな拍手を送られる。
こうしていると普段よりさらに幼く見えて、歳上2人はなんだか甘やかしたくなってしまうものだ。
「さあ、今日は俺たちの奢りだ。なんでも好きな物を注文してくれ」
「っていっても、いつものメニューと同じなんですけど」
「ふふふ、ありがたくお祝いを受け取ろうじゃないか」
太宰がとうに暗記しているだろうメニューを開きながら「どれにしようかな」などと言い出すのを、坂口と織田は微笑ましく見ていた。
そうして酔っ払いの夜は更けていく。くだらないことで笑い合い、誕生日を祝って幾度も乾杯を繰り返した。その幾度目かの乾杯の後、「今更だがせっかくの誕生日の夜を俺たちが取ってしまって本当に良かったんだろうか?」と織田が首を傾げた。
「うん? 他に祝ってほしい人なんていないけど?」
「そうか? 誕生日といえば普通は恋人に祝ってもらうものではないかと思うのだが」
「恋人?」
太宰は織田にきょとんとした目を向けた。そのまま坂口の方に向き直る。
「一般的にはそういう人が多いんじゃないですかね。別に、太宰くんがいいならなんだってかまわないと思いますけど」
「そうじゃなくて、私、恋人いたの?」
今度は坂口と織田が顔を見合わせる番だった。
「もしかして喧嘩中ですか? まあいつも喧嘩しているようなものだとは思ってましたが」
「誰のこと言ってるの? しばらく恋人いないけど」
「別れてたのか。知らなかった。すまない」
「何か勘違いしてない?」
どうにも認識に齟齬があるようだった。太宰には恋人はいないはずだった。にも関わらず、2人は太宰の恋人を知っているらしい。
「2人の中で私は誰と付き合ってることになってるの?」
どこから生まれた勘違いなのか俄然興味が湧いてくる。太宰は面白半分で尋ねたが、2人は顔を見合わせた後、「すみません、勘違いしていたみたいで」「俺もてっきりそうなのだと思っていたが、すまない」と口々に謝った。
「それはいいけど、気になるから教えてよ」と重ねて問うたが、もごもごと誤魔化すようにしてなかなか答えてくれない。いよいよ気になってしつこく問い詰め、ようやく聞き出した相手は、なんと犬猿の仲であるはずの相棒、中原中也だった。
一体何をどうしたらそんな誤解が生まれるというのか。太宰にとっては、本当に不思議でたまらなかった。勘違いするにしても、部下だとか本部の受付嬢だとか行き付けの店の店員とか、もっと他に可能性のある人物なんていくらでもいそうなものだというのに、よりによって中原だなんて。
「なんで私があのちびっ子と付き合ってることになってるの!? 悪趣味すぎるでしょ!?」
太宰は猛然と抗議をしたが、坂口は苦笑するばかりだ。
「悪くはないと思いますけどね。彼、顔は整ってますし仕事もできますし情にも厚いですし」
「中也なんて乱暴だし短絡的だしデリカシーないしお節介だし最悪だよっ!? しかも全然趣味合わないし! っていうか何で中也の肩持つのさ!?」
「肩を持ったつもりはありませんが」
「織田作もなんか言ってよ!」
「すまない。俺は直接の関わりはないからよく知らないが、よく一緒にいるしこないだだって迎えに来ていたし、てっきりそういうことだと思っていたのだが
……
」
「織田作だって迎えに来ることぐらいあるでしょう!?」
「それはそうだが」
「なんというか、空気感が違うといいますか」
「何言ってるの!?」
太宰はそれから中原中也とは本当になんでもないのだということを真摯に訴えた。しかし、言葉を尽くす程に生温い目を向けられる。口では「わかった」「悪かった」と言うが、ちっとも信じているようには見えなかった。
***
太宰は怒っていた。この怒りは、中原中也本人にぶつけるしかない。太宰はそう決意して、酒席を解散した後、中原の家に突撃した。もう寝ているであろう時間帯だったが、太宰は中原相手にそんな配慮をする気は毛頭なかった。勝手に鍵を開けて自宅に侵入し、寝室の扉を開けて叫ぶ。
「君の所為で誤解されてたんだけど!?」
中原はその叫び声で目を覚ましたが、太宰の姿を視界に入れることさえなく、布団を頭まで被り直した。無視して二度寝を決め込むつもりらしい。
「聞いてる!? 大迷惑なんだけど!!」
太宰が布団の上からガクガクと揺さぶると、中原は仕方なく頭を出し、うっすらと開いた瞳を太宰に向けた。その瞳は今にも閉じてしまいそうである。
「何だよ?」
「君の所為で誤解されてたんだけど責任取ってよ!」
「何の話だよ」
「だから! 誤解されてたんだよ! 君と付き合ってるって!」
しかし、太宰の訴えを聞くと、中原は途端にぱちりと覚醒した。
「は? 俺ら付き合ってんだろ?」
「君まで何言ってんの!?」
太宰は天を仰いだ。太宰と同じように怒り狂うか困惑するか、はたまた笑い飛ばすかと思っていたが、まさか中原本人でさえ勘違いしているとは。
中原は中原で、「嘘だろ
……
」と俯いて項垂れている。その後黙って何事かを考えていたが、しばらくして口を開いた。
「じゃあ何で家来んだよ」
「君に文句を言うために来たに決まってるでしょ」
「じゃなくて、普段から用もねぇのに来んだろうが」
「付き合ってなくても家ぐらい行くでしょ」
「じゃあ俺が女にデレデレしてたら機嫌悪くなるのは?」
「シンプルにムカつく。気持ち悪い」
「飲み会の後部下じゃなくてわざわざ俺に迎えに来させるのは?」
「部下にプライベートまで詮索されたくない」
「ここんとこ俺としか寝てねぇのは?」
「いちいち予定合わせるのめんどくさい」
「あ、
……
そう」
中原は脱力して布団に倒れ込んだ。
太宰はおかしなことを言っているつもりはなかった。例えそれが世間一般とどれだけズレていようと、太宰にとっては中原はただの“セックスもする相棒”であった。むしろそれで彼氏面をするような奴ではないと信じていたからこそ手を出したのだ。自分の目算が誤っていた事実に打ちひしがれたいのは太宰も同じだった。
「でもさぁ、別に付き合ってても不都合なくないか? ほぼ付き合ってるみたいなもんじゃねぇの?」
中原は急にむくりと起き上がり、天啓を得たとでも言わんばかりに顔を輝かせた。
「君と付き合ってるという事実が耐え難い」
「俺と寝てることは隠さねぇくせに?」
「それとこれとは別でしょ」
「手前のその価値観わっかんねぇ!」
「わからなくていいよ」
太宰がめんどくさそうにため息を吐いた。
「ほら、私と君は付き合ってない。明日弁明するからついてきてよね」
そう言ってしっしっと手で何かを追いやるようなジェスチャーをする。
中原は釈然としなかったが、これ以上言い争っても勝ち目はなさそうだった。仕方なく太宰の要求通り奥に寄ってやると、太宰はそのまま布団に潜り込んできた。中原が抱き寄せても文句のひとつも言わず、むしろ胸元に頬を擦り寄せてくる始末だ。
中原には、どう考えてもこれが“付き合っていない”状態とは思えなかった。セックスを介さなくても会う相手を一般的にはセフレとは呼ばない。この距離感で寝る相手をただの相棒とも呼ばない。もちろん太宰にとってそんな相手が中原の他に存在することもない。
どうやら太宰の周辺の人間は2人の関係を恋人だと思っているようだし、中原は恋人だと思っている。太宰本人が認めなくても、中原の望みはほとんど叶えられている。それならそれでいいんじゃないだろうか。弁明とやらだって、後で太宰抜きで事情を説明すればきっとわかってもらえるだろう。
今日のところはそうやって無理やり納得することにして、太宰を引き寄せて瞼を下ろした。
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