カッパ巻き大車輪
2024-04-19 19:22:43
1610文字
Public 小説
 

スネ6♀の小説

余裕ある彼氏のつもりでいたのに全然そんな事なかった閣下と、ここぞというところで外さない621ちゃんと、スネ6見守りお兄さんフロイトの話です。



会議室から出てすぐの通路に立っていた男は、へらりと笑うと手にした端末を振ってみせた。
抱えた資料の上に乗せた自身の端末を一瞥し、表示されたままの文章を読み返して溜め息をつく。
「いちいち私に確認する必要はないでしょう」
「えっ?」
何を驚いているのか、フロイトは目を丸くしている。
いつからか、アーキバスに来訪中のレイヴンをシミュレータや模擬戦へと誘う際、フロイトはまず私に伺いを立てるようになっていた。

『シミュレータで遊ぶから、レイヴンを少し借りていいか?』
『いいんじゃないですか』

『模擬戦の相手に、レイヴンを誘っていいか?』
『彼女が応じるなら、お好きにどうぞ』

今までは特に気にせず、そのような事を返していた。
しかし、今回は流石に問わざるを得ない。
『レイヴンとシミュレータで遊んでいいか?』
打ち合わせ中にも関わらず、わざわざ私用の端末にメッセージを送ってまで事前確認をしてきた男に。
「レイヴンとシミュレータを利用するのに、何故私の許可を取るんです?」
「えっでもお前、」
何事かを言い掛けて珍しく言い淀んだフロイトは、次第にニヤついた笑みを浮かべた。
何です、言いたい事があるなら言いなさい」
「いや、言ったら怒るだろお前」
含みを持った言い方に、思わず片眉が上がる。
……いいから、言いなさい」
「怒らないって約束するか?」
……
渋々と首肯すると、フロイトは楽しそうに笑った。
「だってお前、俺が何も言わずにレイヴンを連れ出すと、めちゃくちゃ嫌そうな顔をするじゃないか」
……はあっ!?」
全く予期していなかった返答に思わず声が大きくなると、フロイトは慌てたように半歩身を引いた。
「怒らないって約束だろ?」
「怒ってはいないでしょう!」
怒ってるだろ、と呟くフロイトは一先ず放って、今までの事を思い返す。
フロイトが許可を取るようになる以前。
まさか、そんな筈はない。
そんな筈が。そんな。
……そんな顔をしていましたか?」
「無自覚だったのか」
けらけらと屈託なく笑う男を前に、思わず額を押さえて俯く。
他の男と遊ぶ、といっても旧知の同僚が相手だ。
それも、社内施設を利用するだけ。
その程度の事に『不快』『不満』……
……あまり往生際が悪いのも見苦しいだろう。
その程度の事に『嫉妬』の念を隠せていなかったとは、何とも情けなかった。
しかし、幸いな事にレイヴンはそこまで察しが良くない。
己のこの無様には、恐らく気付いていないだろう。
それだけが救いだと安堵の息をつこうとして、軽やかに近付く足音に気付き顔を上げる。
通路の先から現れたレイヴンは、並び立つ男二人を見て不思議そうに首を傾げた後、特に気にした様子もなく歩み寄り抱き着いてきた。
軽く頭を撫でてやると、常と変わらず、にこにことして受け入れている。
予想通り何も気付いていない様子に、今度こそ安堵の息をついた。
「フロイト、シミュレータ空いたって」
「ようやくか。よし、行こう……あーっ!」
思い出したように告げたレイヴンと連れ立って歩き出そうとしたフロイトは、わざとらしく声を上げると大袈裟に振り返り、少女をこちらに押し返した。
「彼氏にちゃんと許可をもらえ」
「きょか?」
「他の男と遊んでいいか〜ってな」
フロイト、余計な事を言わないように」
頭上に疑問符を浮かべつつ、フロイトと私を交互に見上げたレイヴンは、状況を何も察せられていないようだった。
「?……スネイル、フロイトと遊んでもいい?」
「っ、ええ、まあ」
何も察せられていない癖に、期待された通りのことを言ってみせるのだからタチが悪い。
自覚をした後では、僅かでも面白くないと感じている自分を認識できてしまった。
二の句が継げず、何とか平静を装って頷いてみせる。
余程顔に出ていたのか、フロイトの笑い声が通路に高らかに響いた。