カッパ巻き大車輪
2024-03-15 20:47:47
1146文字
Public 小説
 

スネ6♀の小説

アーキバスの制服を借りた621ちゃんと、懲らしめようと思ったら慰められてた閣下の話。



スネイルの執務室に向かう途中のことだった。
ご機嫌で足取り軽く通路を進み、曲がり角に差し掛かったところで、目の前に突然人影が迫った。
……っ!」
あっと思った時には遅く、衝撃と何か冷たい物が掛かる感触に目を瞑る。
恐る恐る目を開くと、びしょびしょになった上着と、しまったという顔をした知らない職員が立っていた。

……それで、うちの制服を貸し出されたと」
「うん、似合う?」
アーキバスの職員用制服を纏って現れたレイヴンから事のあらましを聞き、溜め息をつく。
泊まらずに帰るから早めに顔を出すと言っていたのに、なかなか来ないと思えばそんな事になっていたとは。
「掛かったのが冷たい飲み物だったから良かったようなものの……改めて注意喚起する必要がありますね」
貴女も十分に気をつけるようにと告げると、レイヴンは不満そうに頬を膨らませた。
「ねっ、どう?似合う?」
くるりと回って全身を見せてくる少女を、デスクに頬杖をついて眺める。
一番小さいサイズだろうに、それでも袖も丈も随分と余っている。
濡れたのは上着だけだったようで、下にはいつものスカートを履いていた。
一見して借り物を着ていると分かるチグハグさが、なかなか悪くない風情を感じさせた。
……よく似合っています」
ぱっと表情を明るくしたレイヴンは満足気に微笑んでこちらに歩み寄ると、膝の上に乗り上げて胸元に擦り寄ってきた。
その呑気さに呆れながら、少し懲らしめてやろうと受け止めた腕に徐々に力を込める。
もぞもぞと居心地悪そうに体を動かしていたレイヴンは、やがてそれがわざとだと気付くと抗議の声を上げた。
っ、スネイル、くるしいっ!」
上目に睨みつけられても、如何せん顔が愛らしいので微塵も凄みが無い。
アーキバスの制服を着たレイヴンが腕の中にいるのは、なんとも不思議な感覚だった。
言葉もなく、ぼんやりと見つめながら抱き締める男に何を思ったのか、少女は真剣な顔で呟いた。
……スネイル、さみしいの?」
思い掛けない言葉に黙していると、それをどう受け止めたのかレイヴンは顔を上げ正面から見つめてきた。
「あのね、今日は帰らなくちゃだけど、またすぐ会いに来るよ」
どこか一生懸命に言い募るレイヴンは、さも名案を思い付いたかの様に小さく叫んだ。
「飛んでいくよっ!」
少女の言葉に小さく笑って、僅かに上気して色付いた頬を撫でる。
こちらが笑ったことで安堵したのか、表情を柔らげたレイヴンは再び胸元にもたれ掛かった。
そして、まるで安心させようとするかの様に頬を擦り寄せている。
いじらしい生き物の、容易く肩甲骨に触れる薄い背中を撫でる。
何もない筈のそこに、少女を一処に留めさせない、奔放な濡羽色の翼が見えた気がした。