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カッパ巻き大車輪
2024-02-29 18:41:17
3151文字
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小説
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スネ6♀の小説
閣下のお使いを頑張る621ちゃんとオキーフから見たスネ6の話です。
白い煙を吐き出し、冷え切ったフィーカを流し込む。
施設の外れに程近いこの喫煙コーナーは、滅多に人が立ち寄らない。
誰にも邪魔されず、また人目を気にせずに思考するのに適しており、時折訪れては紫煙を燻らせていた。
今日もいつも通り静かなひと時となる筈だったが、見覚えのある人影がキョロキョロしながら近付いてくるのが見えた。
喫煙コーナーは通路の突き当たりにある為、僅かに壁側に下がり様子を窺う。
こちらには気づかず、何かメモのようなものを片手に似たようなドアを確認しながら進むのは、スネイルのお気に入りの少女だった。
独立傭兵レイヴン。外部の人間がこんなところで何をしているのかと警戒していると、一つのドアを開け中に入って行く。
確かそこは、古い資料がまとめられた部屋だった筈だ。
煙草の火を消し、足音を立てずに近付く。
慎重に開けたドアの先では、資料が入れられたボックスコンテナが並ぶ棚を前に、メモとコンテナを交互に睨みながら歩みを進めるレイヴンがいた。
身を隠しながら追随すると、やがてお目当ての物を見つけたらしい少女は立ち止まる。
運が悪いことに、それは一番上段に置かれているらしかった。
伸ばした指先は底を掠めるばかりで、小柄な少女は足場に使えそうな物はないかと周囲を見渡す。
何も無いと分かると、意を決して飛びつく様にコンテナに触れた。
僅かに手前に動いた事でいけると思ったのか、繰り返し飛びついて徐々にコンテナを引き出している。
少女が必死にぴょんぴょんと飛び跳ねる様子は思わず笑ってしまいそうになる光景だったが、この後の展開が読めてしまい隠れていた物陰から歩み出る。
「もうちょっと
……
っ、わぁ⁉︎」
棚板からずり落ちたコンテナボックスは、重力に従い真下にいる少女に向かって降り注ぐ
……
一歩手前で、背後から片手で押し止めた。
「
……
?」
体を縮こめていたレイヴンは恐る恐るといった様子で上を見上げ、背後から伸びた腕を辿るようにこちらを振り向いた。
「
…
オキーフっ」
「これに用があるのか?」
頷いた少女に手渡す前に中を覗き、眉を上げる。
こんなところに置かれている資料だ。
大して機密性のある物でもないが、だからこそ疑問が湧く。
「
……
本当に、お前がこれに用があるのか?」
首を振った少女は、持っていたメモをこちらに向けた。
そこには見覚えのある、些か神経質そうな字が書かれていた。
「スネイルのお手伝い。これ持って来てって」
「あぁ
…
そういうことか」
メモには資料の番号が書かれており、手元のコンテナと一致している。
溜め息をついてドアへと向かうと、慌てたようにレイヴンが着いてくる。
「それ
…
っ
…
」
「スネイルの執務室でいいんだろう?」
「!
……
ありがとう」
横に並んで歩き出したレイヴンを、そっと見下ろす。
誰に対しても物怖じしない少女だと思っていたが、普段あまり関わり合いのない人間を相手に、些か緊張しているらしかった。
それでも後ろから着いてくるのではなく横に並ぶあたり、なかなか肝が据わっている。
「
……
お前も大変だな」
「どうして?」
「スネイルの小間使いまでして」
「こまづかい?」
「
…
仕事をさせられてるんだろう?」
手に持ったコンテナを軽く持ち上げて見せると、レイヴンは勢い良く首を振った。
「ちがうよ。スネイル忙しそうだったから、何かお手伝いするって私が言ったの」
そう言ってから何かを思い出したように、表情を曇らせ俯く。
「
……
でもスネイル、ほんとはあんまり手伝ってほしくないみたいだった」
「どうしてそう思うんだ?」
「最初、聞いても何も頼むことはないって言ってて
…
しつこく聞いたら、じゃあって」
手にしたメモを見つめ、溜め息をつく。
「きっと私がお手伝いもできないって思ってるんだよ。だからできるってとこ見せて、いっぱい頼ってもらえるようになる」
熱く決意を語る少女だが、恐らくそういうことではないのだろうと察しがついた。
「
……
出来ないと思って、頼まなかった訳じゃないと思うがな」
「じゃあどうして?」
「こういう状況を避けたかったんだろう」
「こういう状況?」
どういう状況?と首を傾げる少女に、小さく笑う。
見たところ、普通だ。ACの腕前は確かなものだが、それ以外は至って普通の少女だった。
強いて挙げれば、今の時代に第一線で活躍しているのが珍しいくらいには、旧式の強化人間である。
その点に至っては、あの〝新しい物好き〟の男などは、嫌悪しそうなものだが。
そんな事を考えながら歩みを進めていると、時折レイヴンが小走りに距離を詰めているのに気付いた。
……
ああ、歩幅がだいぶ違うのか。
そう思い至り、少女とスネイルが並び歩く光景を思い出す。
あれは随分と少女に気を遣って初めて成立していたのだなと気付き、あの男の思わぬ献身に笑いそうになる。
歩みを緩めたことに気付いたらしいレイヴンはこちらを見上げ、にこにこと笑った。
「ありがと」
そう言って安定して隣を歩き出したレイヴンを見つめる。
……
訂正、可愛げのある女なのかもしれない。
執務室の少し手前で立ち止まる。
「悪いが、ここまででいいか?」
「うん、ありがとう」
コンテナを受け取り礼を言うレイヴンに、念の為にと釘を刺す。
「俺に会ったことを、スネイルに言うのはやめておけ」
「どうして?」
「面倒なことになるからだ」
「
……
?、わかった」
腑に落ちない様子ながら頷いた少女は、執務室に向かい歩き出す。
ああは言ってみたが、スネイルに問われれば正直に白状してしまうのだろうなと思い、溜め息をつく。
ドアの前で振り向いたレイヴンは、器用にコンテナを持つ指をパタつかせ、バイバイと口の動きだけで笑ってみせた。
「スネイル、持ってきた!」
意気揚々と執務室に入って来たレイヴンは、頼んだ資料を無事見つけられたようだった。
「助かりました。一人で取れましたか?」
頼んだはいいものの、もしかしたら小柄なレイヴンには届かない場所に置かれていたかもしれないと思い、心配していたところだった。
「ぅ、うんっ、大丈夫だった!」
僅かに言い淀んだのが気に掛かり、デスクの傍らに立つ少女を見つめる。
レイヴンが落ち着かない様子で身じろぎしたその時、覚えのある匂いがした。
フィーカと、煙草の匂い。
「
……
誰かに会いましたか?」
「ぇ、え、なんで?」
「誰に会ったんです?」
「ぁ
…
ぁぅ
……
」
俯いて視線を彷徨わせた少女は、観念したのか口を開いた。
「
……
あのね、箱が上の方で届かなくて、取るの手伝ってくれたの」
「それで?」
「ここまで運んでくれて
……
でも、自分に会ったことは、スネイルには言うなって
…
」
「ほう
……
それは誰ですか?」
「
……
オキーフ」
予想通りの男の名前が出て、取り敢えず安堵して息をつく。
「あのねっ、スネイルに言うと面倒なことになるから言うなってオキーフが
……
私が言っちゃったこと秘密にしてね?」
慌てたように言い募る少女に苦笑する。
恐らく、そこを含めて口止めされていたのだろうに。
脳裏に、少女が口にした名前の男を思い浮かべる。
あの男のことだ。やましい事などはなく、言葉通り面倒事を避けたくて黙っているように言い含めたのだろう。
「ねっ、ねぇ、なんで誰かに会ったってわかったの?」
そして、レイヴンが自分相手にこうしてあっさりと白状してしまうことも、恐らくは想定内に違いない。
「ねぇ、すごい、なんで?なんでわかったの?」
なんでなんでと腕に纏わりついて繰り返す少女からは、薄れつつも他の男の痕跡が未だに感じられる。
それが非常に腹立たしく、塗り替えるように騒ぐ口を塞いでやった。
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