カッパ巻き大車輪
2023-12-31 23:04:15
1233文字
Public 小説
 

スネ6♀の小説

香りにまつわる2つの話です。



◆残り香の話


予報通り朝から降り始めた雪は、午後には吹雪になるらしい。
資料片手に窓の外を眺めながら通路を歩いていると前方に小さな人影が見えた。
こちらに気付いたレイヴンが小走りに走り寄って来るにつれてある事に気付く。
「甘い香りがしますね」
「ハンドクリーム。良いにおいでしょ?」
上着のポケットから小さなチューブを取り出して見せたレイヴンはこちらが何か言うより先に「スネイルにも塗ってあげるね」と空いている方の手を取った。
フローラルかつ甘い香りにこれを纏った自分を想像して思わず制止の声が出そうになるが、自分より一回りも二回りも小さな手が大事な物を包み込むように触れてくるのを見てつい黙って好きなようにさせてしまう。
結局「はい、反対もね」という少女の言葉にも素直に従ってしまった。


レイヴンと別れて一人通路を進みながら、まあ誰にも会わなければいいだろうなどと思っていた。
そういう時に限って人と会うものである。
……言いたい事があるなら言ったらどうです」
「いやぁ、意外な人物から意外な香りがしたものでねぇ」
今抱えてる案件について確認したい事がと呼び止めてきたのはV.Vホーキンスで、話している間やたらとにこやかな様子に無視を決め込むのも限界となりそう切り出せば隠しもせずに笑って指摘された。
「可愛い彼女の趣味かな?」
………
こういう時は何を言っても墓穴を掘るだけだと潔く沈黙していると、ホーキンスは「春だねぇ」などと言ってとうとう声を上げて笑い出した。
何を呑気なことをと溜め息を吐いて見た窓の外はいよいよ吹雪始めている。

しかしどれだけ吹雪いても、芽吹いたものを掻き消すには至らないのだろう。




◇移り香の話


「良いにおいがする」
ベッドの上。
寄り添ってスネイルの胸元に顔を埋めると良い香りがして思わず呟く。
「これってなぁに?」
「香水でしょうね」
香水をつけている人物は何人か知っているが、その誰とも違う気がする。
とても好ましく感じる香りに引き寄せられように強く抱き着いて深呼吸した。
このにおい好き」
うっとりとしながら言うと頭上のスネイルが小さく笑う気配がした。
「そんなに気に入ったのなら差し上げましょうか」
「いいの?」
「試し程度なら使いかけでも十分でしょう。今使っている物を
そこまで言ってスネイルは言葉を切り黙り込んでしまった。
何事か思案している様子に首を傾げているとちらりとこちらを見てから口を開く。
いや、やめておきましょう」
「え、なんで?」
「なんででも、です」
しつこくなんでなんでと言い募ると僅かに視線を逸らしたスネイルはやがて観念したかのように溜め息をついた。
……香りで満足されて会いに来なくなられては困ります」
告げられた言葉に目を瞬かせていると強く抱きしめられ、何かを言う前に唇を塞がれてしまった。

そして彼と同じ香りになるまで放されることはなかった。