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カッパ巻き大車輪
2023-12-24 11:59:42
2776文字
Public
小説
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スネ6♀の小説
平和な時空、給料の使い道に困った閣下がクリスマスに有意義な金の使い道を得てご満悦の話。
アーキバス内V.Ⅱ執務室。
社用のタブレット端末を睨み付けながら思わずため息が漏れる。
表示されているメールは半年に一度の賞与明細だった。
随分前に届いている事は気付いていたが緊急性が無いため放置していた。
正当な報酬ではある。
アホ程業務を割り振られ、かつそれを全て完璧にこなしている自分に支払われる報酬としては妥当な金額なのだが
…
。
「また使い道のない金が増えたのか
…
」
正直、毎月の給与ですら使い切れずに貯まる一方である。
倹約家なわけでも何でもなく単純に使う時間が無い。
そう、とにかく時間が無いのだ。
趣味も遊びも時間あってこそのものだ。
一度せめて何かに利用しようと投資に回した事もあったのだが中途半端な事が許せないタチが災いして儲かってしまい使い道が無くて困っているのにこれ以上増やしてどうすると叩きつけた拳によってデスクが破損してから手を引いたのだ。
まとまった金を消費するのにも時間がいる。
ドブに捨てる気でただ浪費するだけならそういった手段もあるのだろうがそれは流石に馬鹿馬鹿しい。
最低限、意義のあることに使いたい。
「
…
レイヴンへの報酬の上乗せ」
駄目だ、会社が絡むとコンプライアンスだ何だとうるさい。
「毎度こちらに出向かせてる訳だし、その手当として
…
」
会うたびに金を渡す?
援助交際か。
ふとフロイトは金の使い道をどうしてるのだろうかと考え、いつぞや交わしたメッセージのやり取りを思い出し私用のスマホを取り出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[ V.Ⅰ ]
俺ベイラムの筆頭株主に
なるかもしれんwww
[ V.Ⅱ ]
草
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
メッセージを見返し、自分はここまで自由に生きられそうにないとアプリを閉じた。
「
……
土地でも買うか」
ネットを開き半ば投げやりに“月の土地”などと打ち込んでいると、ある広告が目に入った。
〜大切な人へのクリスマスプレゼントはお決まりですか?〜
「クリスマス
…
?」
クリスマスとは?
いや、クリスマスはわかる。
卓上のデジタル時計の日付部分には12月の表示。
激務続きで曜日の把握も危うい日々ではあったが今が何月かの認識も出来ていなかったのか。
「クリスマス
…
」
カレンダーを見ると次にレイヴンと会う約束の日はなんとクリスマスの前日だった。
丁度いい、と誰しも一度は耳にした事があるであろう名の知れたハイジュエリーブランドの広告をタップすると、ずらりと表示されたアクセサリーの数々はなかなかに値が張る物ばかりだった。
表示順を価格の高い順に変更して見ていくと、価格の上昇は豪華さに直結しておりどれもギラギラとしてあまり心を惹かれない。
何より贈ろうと思う相手にもこれでは合わないだろう。
脳内に思い浮かべた少女、レイヴンがアクセサリーの類いを身に付けていた記憶はない。
極力シンプルで、それでいて高額な物
…
と見ていくと限定品の文字と共に一つの品に目が止まった。
煌めきは優美であるがデザインに無駄な豪奢さはなく控えめで身に付けやすそうだ。
使われている貴金属と石が非常に希少価値が高い物らしく価格は他商品に比べてずば抜けて高い。
迷わず購入ボタンを押した。
「メリークリスマス」
約束の日。
一日早いけど、とレイヴンは後ろ手に隠していた包みをいそいそと差し出してきた。
「クリスマスを知っていたのですか」
「実は最近教えてもらったんだ。だからこういうので良いか自信ないんだけど
…
」
そう前置きしたレイヴンから薄紫のリボンが掛かった包みを受け取る。
彼女もプレゼントを用意していたとは思わなかったのであの日偶然見かけた広告に感謝しながら開けると中からは揃いのマグカップが現れた。
「ここで一緒に使いたいから私のも置いていい?」
なんと可愛らしいプレゼントからの愛らしい申し出だろうか。
この辺境惑星に来てから久しく見ていない無垢な生き物の純粋な好意に触れ感動しながらも渾身の澄まし顔で承諾すると早速フィーカを用意しようと席を立とうとする少女を引き留めてこちらも細長い包みを渡す。
少女も自分同様に相手がプレゼントを用意しているとは思っていなかったようで嬉しそうに顔を綻ばせると受け取った包みを開いた。
「きれい
…
」
現れたネックレスをぱちぱちと瞬きして見つめる様子に気に入ったようだと安心して髪を上げるよう促す。
肩口に触れる髪を持ち上げたレイヴンの細い首筋にチェーンを回すと胸元の石は人工の照明の下でも眩い輝きを見せている。
「ありがとう」
指先でネックレスに触れながら嬉しそうに笑った少女はふと表情を曇らせた。
「
…
私も、もっとよく考えた方がよかったかな」
「いえ、私は嬉しかったですし
…
こういった物は気持ちが大事ですから」
自分が用意したプレゼントと比較して気後れしたのか不安そうにするレイヴンだが、恋人との初めてのクリスマスにお揃いのマグカップを贈ろうと思う彼女の感性こそが正常であり、一軒家を購入しても釣りがくるような額のジュエリーを贈る男の方が異常なのは重々承知しているのでここはしっかりとレイヴンを擁護しておく。
ほっとしたのか改めて胸元のネックレスに触れて存在を確かめた後、
「うれしい」
ありがとう、ともう一度言って抱きついてきたレイヴンを受け止めながらそっと見下ろして髪のかかったうなじから覗くチェーンの輝きを見る。
まるで手ずから巻いた首輪のようだ。
これは自分の物であると高々と主張しているかのようで思いがけず支配欲も満たされほくそ笑む。
金の使い道が見つかり、自分の女を喜ばせることができた上、支配欲も満たされる。
Win-Winどころではない。
Win-Win-Winである。
自ら考案したプランのあまりの完璧さに思わず自画自賛してしまう。
贈った品の高額さを知れば突き返されかねないが、言い方は悪いがレイヴンにこういった装飾品の価値は分からないだろう。
大した物ではないとこちらが言えばそうと信じて喜んで受け取ってくれるはずだ。
幸いと世の中には様々な記念日がある。
これからは何かにつけて贈りまくろう。
本当に良い買い物をしたと胸中で完全勝利宣言を掲げ、嬉しそうに胸元に頬擦りしてくる存在を抱きしめた。
失念していたとすれば少女の保護者は物の価値が分かる大人であった為、ハンドラー・ウォルターの元に帰ったレイヴンが嬉しさからすぐにネックレスを見せたことで事態が発覚し、業務斡旋企業関係者からの超高額装飾品の個人的贈与に関して重大インシデントに繋がる恐れがあるとの強い抗議の一報がアーキバス本社コンプライアンス通報窓口へと申し入れられる事となるのであった。
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