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カッパ巻き大車輪
2023-11-07 21:38:16
5827文字
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小説
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スネ6♀の小説
謎の平和時空。
上司からの「スネイル君は良い人はいないのかね?」攻撃を回避する為に621ちゃんに付き合ってるフリをしてもらう閣下だったが…!?(ラブコメの導入)
その日は本社からのお偉方を交えた大掛かりな会議があった。
通常の業務に加えその準備だ何だと多忙を極めていたスネイルはようやく終わったそれに肩の荷を下ろすと事後処理に滞りがない事を粗方見届けその場を去ろうとしていた。
そこに後ろから声が掛けられた。
「スネイル君、ちょっといいかな」
内容を聞く前からこの後の展開が予測ができて既にうんざりしていたが上役を無視する事もできず振り返る。
「今回はご苦労だったね」
「いえ
…
恐縮です」
苦労を掛けていると思うなら早く帰らせてくれと内心で毒を吐きながら貼り付けた笑みで対応しているとそれはやってきた。
「で〜スネイル君、最近はどうなんだ。良い人はいるのかね」
「
………
」
カツカツと足音高く突き進む男にすれ違った者達はみな大きく道を譲りその不機嫌を隠す気のない後ろ姿を無言で見送った。
何が良い人はいるのかね?だ。
こちとらそれどころでは無いレベルで日々仕事に追われていると言うのに。
あの手の現場の切迫とは無縁の連中に投げかけられる呑気極まる言葉には心底うんざりしていた。
回避するには既に相手がいると適当を言ってしまえばいいのだがいつまでも進展がなければ嘘と分かってしまうし、そうなればよりしつこい追撃があるのは目に見えている。
どうしたって恋愛の優先順位が低くならざるを得ない生活サイクルの上、これ以上面倒事を背負い込む事になるような人間関係は絶対に御免だった。
ようやく戻ってこられた自身の執務室に知らずため息をつきながらドアを開けると目に入ったのは最近出入りを許している少女が本から顔を上げるところだった。
「お帰りなさい、スネイル」
「
……
ああ、来ていたのですか、レイヴン」
今や名を知らぬ者はいない独立傭兵レイヴンにこの施設に出入りし何かしらを待つ必要がある際は私の執務室で大人しくしているようにと命じたのは自分だった。
本人にそのつもりはなくとも如何せん何処にいてもこの少女は目立つ。
こちらの職員との余計な接触から要らぬトラブルに発展する事を避ける為の措置だったがレイヴンは物静かなので特に支障がなくその後もここに居させている。
今も最近与えた世界中の童話の類をまとめた本を読んでいたらしい。
「
…
?、何かあったの
…
?」
「
…
わかりますか。非常にくだらない事がまあそれなりに」
デスクチェアにどかりと腰を下ろし眼鏡を外し眉間を押さえているとこちらを慮る控えめな問いが掛けられほんの少し胸がすく思いがした。
「こういう時、余計なしがらみに捕らわれない貴女が少し羨ましくなります
…
」
らしくない弱音じみた言葉が思わず溢れ、聞いていたレイヴンは落ち着かない様子でこちらを見ていた。
そして思いついたとばかりにソファから立ち上がると棚に備え付けられたポットやカップを手に悪戦苦闘している。
少しの後、デスクまで歩み寄ってきたレイヴンの手には湯気の立ち上るカップが握られており「教えてもらったフィーカ淹れられるようになったんだよ」とどこか誇らしげに差し出してきた。
以前気まぐれに教えたフィーカの淹れ方をあれから練習していたのか
…
と思うと目の前の独立傭兵がなんだかとても可愛い生き物に見えてきた。
なんならここに戻ってきて最初の「お帰りなさい」もだいぶ効いた。
自分は本当に疲れているのだな
…
と自覚し差し出されたカップを受け取る。
温かなそれを手にふとある事を思いついた。
「
…
レイヴン」
「?」
「貴女、交際相手はいるんですか?」
「こうさいあいて?」
まさにきょとんという擬音がぴったりな顔で聞き返すレイヴンはすぐさま首を横に振って否定する。
「
…
物は相談なのですが
…
」
それから暫くの後、前回同様本社のお偉方を交えた会議に参加していたスネイルは前回同様自分を呼び止める声に足を止め振り返る。
これまた前回同様の良い人いないのかね攻撃上司がそこにいた。
日々の業務への当たり障り無い労いの言葉から始まり、それはやってきた。
「それで、最近はどうなんだ。良い人は見つかったかね」
来たな。
予測通りの展開に内心ほくそ笑みながら完璧に仕上げられた返答を繰り出す。
「ええ、お陰様で。順調に交際させて頂いている方がいます」
「そうかぁ、いや取引先の役員のとこにな、ちょうど君くらいの歳の
…
って、えっ、いる?いるのか?」
「います」
それ以上二の句が継げない相手の様子に勝ちを確信し慇懃に礼をしてその場を去る。
この日のスネイル閣下は稀に見る上機嫌で執務室に戻って行かれました
…
と目撃した第2部隊隊員は語った。
簡単な話、これ以上ない程理想の相手だったというわけだ。
なんのしがらみもなく、この仕事に理解があり、余計な口出しをしない。
何より独立傭兵レイヴンが相手の交際にその後の進展がどうのと頭がお花畑な戯言を抜かす馬鹿は流石にいないだろう。
レイヴンに交際しているフリをしてくれないか、と打診した時の事を思い出す。
「諸々の事情の説明は省かせて頂きたい。とにかく交際相手がいないと面倒事を押し付けられかねない危機的状況なのです」
「私と付き合ってることにすれば大丈夫になるの?」
「そういう事です。
…
ああ、もちろん報酬
…
いや、謝礼はさせて頂きます」
交際しているフリに対して報酬を払うと言いかけて何か如何わしい関係を想像させて慌てて言い直す。
少しの間の後、レイヴンはこちらの提案を受け入れてくれた。
交際しているフリと言ってもこの辺境惑星でできる事など高が知れているし、この執務室で落ち合い話をするといった時間の過ごし方に大きな変化はなかった。
ただある程度は周囲に私達が交際関係にあると勘付かせる為に人前で一緒にいる姿を見せる必要があり、施設内の移動やカフェテリアでの食事を共にするようになった。
元々一緒にいて居心地の悪くない相手だったので、そうと見えるよう振る舞う事に苦痛は無い。
向き合って座り、他愛無い近況報告を交わしながらテーブルに乗せられたレイヴンの小さな手を見遣る。
自身の手を横に並べると全て包み込めてしまう程大きさに違いがあり思わず掴み上げまじまじと観察する。
「
…
貴女の手、随分小さいのですね」
そのまま指先を絡めよくもまあこの小さな手であれだけACを乗りこなすものだと思案していると向かいに座るレイヴンが何も言わない事に気付き視線を握った手から顔に向ける。
こちらを窺うように見上げるいつもの表情の乏しい顔。
その頬が僅かに染まっているのが見てとれて、思わず握る手に力が篭った。
…
なんだ、随分可愛げがあるじゃないか。
お互いに手を取り合ったまま黙って見つめ合う二人は思惑通りあっという間に噂の的になっていった。
「聞いたぞ。いつからそんな面白い事になってたんだよ」
翌日肩に腕を回しながらそんな事を聞いてきたのはV.Ⅰフロイトで、その瞳には好奇心がありありと浮かんでいる。
面倒くさい相手だが同時に非常に勘の鋭い相手でもある為対応は慎重を求められる。
「つい先日です」
「へぇ。まあ執務室で好きにさせてたり仲は悪くなさそうだったもんな」
それにしても面白すぎるだろ〜!などと肩を組まれたまま歩みを進め気付けば執務室までフロイトは着いてきていた。
「
…
貴方私に何か用があったんですか?」
「ん?いやレイヴンにな」
ここにいるんだろ?と問われこのままフロイトとレイヴンを会わせて大丈夫だろうかと一瞬だけ逡巡してしまう。
自分ほど弁が立たないレイヴンがボロを出さないだろうかと僅かに不安になりながらドアを開けるといつかと同じ、ソファに掛けて読んでいた本から顔を上げるレイヴンが見えた。
「お帰りなさいスネイル、
…
」
「うわ、そういう感じなのかお前ら」
「喧しいですよ貴方
…
ああ、これは気にしなくていいですから」
これとフロイトを指しながらレイヴンに告げている間にも興味津々といった様を隠す事なくフロイトはレイヴンに詰め寄る。
「聞いたぞ。お前ら付き合ってるんだって?」
「うん」
レイヴンの隣を陣取り早速始まったフロイトの質問攻めに耳をそばだてながらそう悟られないようにデスクに向かう。
「どこが良かったんだ、こんな悪い男の」
お前も似たようなものだろうがと思わず言い返そうとしてそれはレイヴンの言葉に遮られた。
「
…
スネイルは、私が考えてると待ってくれるし、わからないって言うと教えてくれる。この本も私の勉強にって用意してくれた」
「
……
」
「思ってる事ちゃんと言ってくれるから、私にもわかって
…
うれしい。わかるように言うって事、してくれてるの、伝わるから
…
」
「
…
フロイト、うるさいですよ」
「まだ何も言ってないだろ」
私とレイヴンを交互に見比べる視線が煩くて絞り出すように言えば存外フロイトは真面目なトーンで話し出した。
「なんだ結構上手くやってそうじゃないか。お前にしきりに縁談持ち掛ける本社のがいただろ?その内つまんない女とくっつけられるんじゃないかと心配してたがこれで一安心だな」
ぎくりとする内容にレイヴンを見れば特に反応はなく黙ってフロイトの言葉を聞いていた。
「こいつは悪い男だけど気に入ったやつにはこいつなりに誠実なんだ。よろしく頼んだぞ、レイヴン」
「うん」
うん、でいいのか。
和気藹々とした二人とは対照的に自分の執務室なのにどうも落ち着かなかった。
柄にもない平穏の終わりは突然やって来た。
たまたま通りかかったエントランスでレイヴンの後ろ姿を目にし声を掛けようとしてその向かいの人物に足が止まる。
あのしつこく良い人はいないのかだ何だと言い募っていた上役だった。
彼女になんの用があるのだと知らず眉間に皺を寄せながら歩み寄ればこちらに気付いた上役の反応を見てレイヴンも後ろを振り返った。
その青褪めた顔にまた足が止まってしまう。
初めて見る表情に横をすり抜け走り去る少女を引き留めることも忘れ茫然と見送ってしまっていた。
「聞いたよ、相手はあの独立傭兵だって?」
「
…
ええ、それが何か?」
「随分と旧世代型の強化人間という話じゃないか。まあ確かに君みたいな最新の調整を重ねている者からしたらある意味面白い素材なのかもしれんがね
…
ちょっと手を出して楽しむ分には色々と都合も良いだろうしな」
「
……
」
「子供を産む機能なんか残されちゃいないのだろうからどれだけ、ッ」
気付いた時には胸倉を掴み上げていた。
大して上背のない相手の両足は宙に浮き何事かを呻きながら必死にバタつかせている。
血相を変えたフロイトが駆け寄って来るのも、続いて駆けつけた数名の職員によって掴む手を引き剥がされるのも何処か他人事のように感じながら自分が蒔いた種で傷付けただろう少女の事を考えていた。
処分は追って。
取りなしたV.Ⅰにいいから行けと追い立てられその場を離れる。
向かう先は心当たりというより居てほしいと願う場所だった。
執務室のドアを開けると少女は指定席のソファで丸くなっていた。
「
…
ここに居てくれて良かった」
傍に膝をつき顔を覗き込むと僅かに赤く染まった目尻が見えた。
「
…
スネイルが言ったから。何か待つ時はここにいろって」
「
…
そうでしたね」
「だから待ってた
……
スネイルのこと」
微かに笑って見せる様がいじらしくて思わず頬を撫でる。
「
…
すみませんでした。私の都合に巻き込んだせいで嫌な思いをさせた」
「平気。色々言ってたけど
…
よくわかんなかった」
嘘なのだろう。
あの男に何を言われたかなど想像に難くない。
V部隊の上位番号付きと関わり合いのあるレイヴンに表立って悪感情を晒す者はこの施設内にはいない。
そんな中、剥き出しの悪意に晒されて驚愕し傷付いたからあんな表情を見せたのだ。
やがてレイヴンは思い詰めたように小さく呟いた。
「
…
きっと罰が下ったんだ」
「罰?」
「もらった本に書いてあったよ。良くないことをすると罰が下るって
…
」
ソファ前の机に置かれているのはレイヴンがここ最近読み進めているあの本だった。
童話の類を集めた物で、確かに因果応報が主題の物語が多いジャンルではある。
「罰を受けるほどの何かをしたのですか?」
「
…
スネイルは困ってるのにうれしいと思ったから」
何の事だと思案していると少女はまるで懺悔するかのように瞳を伏せてその罪を告白した。
「
…
フリでもうれしいって、一番に気に掛けてもらえるのがうれしいって思ったから
…
」
ごめんなさい、そう告げてレイヴンはこちらの視線から逃れるようにソファに顔を埋めた。
「
…
レイヴン」
いつもはすぐに次の一手が浮かぶ策謀慣れした頭がこんな時に限って上手く回らない。
回らないながらもなんとか伝えられたのはこの関係の始まりと同じ言葉だった。
「
……
、物は相談なのですが
…
」
「だからどうしてそんな面白い事になってんだお前達は」
その後エントランスでの騒動を治めて仔細を報告に来たフロイトにこちらも事の顛末を洗いざらい話した。
「で、今度こそ本当に付き合うことになったと」
「
…
そうなります」
「レイヴンはそれで良かったのか?」
「うん、うれしい」
真っ直ぐに肯定されてこちらが気恥ずかしくなるがレイヴンのまとう空気が柔らかく本当にそう思っているのが伝わってきてまあいいかとなる。
フロイトも同意見だったようで「まあ嬉しいならいいんじゃないか」と言いながら少女の赤くなった目元を見とめて冷やしてこいと洗面所へ押し込んだ。
「
…
さっきの一件は方々黙らせといたから安心しろ」
「感謝します、フロイト
…
しかし一体どうやって?」
「奥の手を使った
……
向こう1ヶ月の仕事は全てうちのパーツで組んだACでこなしてやるってな」
「フロイト
…
貴方
……
、
それは企業に所属する者としては当然の事なので普段からそうしてください」
「えぇ〜?」
どこまで本当かはわからないが話はそれだけと返事にならない返事をしながらドアへと向かったフロイトは洗面所から出てきたレイヴンの頭をすれ違いざまに一撫でして退室した。
戻って来た少女の嬉しさが滲む上目遣いを受け止めて僅かに濡れた前髪をそっと分けてやる。
そして失わずに済んだ平穏なやりとりに知らず安堵の息をついたのだった。
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