Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
無窓居室
2024-04-28 08:36:30
2050文字
Public
Clear cache
ピンクムーンに寄せて
春なのでたまにはこういうのもいいかなと思って書いた色ボケ😈👹
4月の月を見てるだけの二人です。
ちなみにフィズはシロップをソーダで割ったお酒じゃないやつ。
まだ新しい葉の中に八重桜の桃色が残る木々の上で、二人は肩を寄せ空を見上げていた。
鬼のアカネの体はその内に秘めた力に似合わない軽さで、悪魔のブラックにいたっては重みにあたるものがあるのかも怪しい。二人して街路樹の上に腰掛けても枝がしなることはなく、人間には大人二人分の姿も気配も察することは困難だろう。
ただ、そう広く張り出しているわけでもない枝ぶりに並んで座れば自然と距離は近くなり、アカネは照れくさそうにそろそろ中天へかかる月とブラックの横顔とへ繰り返し視線を移ろわせた。
「こ、今夜はどうしたんだ?一緒に月を見ようなんて
……
格闘系の企画でもないのに、何か企んでるのかよ」
期待と一抹の不安を隠しきれない様子で口を開いたアカネに、ブラックは柔らかく笑って見せた。近くのカフェで買っておいた飲み物を手渡しながら言う。
「企みがなきゃ誘っちゃダメですか?今夜の満月はピンクムーンですから、撮影しておこうかと思っただけですよ。さとしくんを付き合わせるには遅い時刻ですし」
「ピンクムーン
……
そういえば、ちょっとだけそんな色に見える気がする
……
」
来てからずっと落ち着かなさげにしていたアカネが、今やっと月の丸さに気づいて目元を緩める。その単純さを喜ぶようにブラックは声を弾ませた。
「ちなみにピンクの花が咲く時期の満月、という意味で月がピンクになるわけでは一切ないですけどね!」
「な、なんだってー!!騙したな!」
「アカネさんが早とちりしたのでは?」
すっかり普段の調子を取り戻した相手をひとしきり揶揄った後で、ブラックは再び満月を見上げる。冬の荘厳さをなくした月光は、ただ優しく二人の人外に降り注いでいた。
「ま、人間さん達の想像力は豊かですから、それらしいジンクスを考える人もいるようです。そういった欲望が積もり積もれば、オレちゃんのような存在が力を振るうキッカケになるのかもしれません」
ブラックの目が見開かれる。まるで月の光を飲み干してしまおうとしているように、黒く丸い瞳孔を瞠った。大きく裂けるように笑った口の中で、鋭い歯がほの明るく映える。
「噂ではピンクムーンの夜には特に対人関係の願いごとをすると良いんだとか
……
アカネさんには何かありますか?この月に願うことが」
急に凄むように問われ、アカネは視線を手元に落とした。彼女が先刻月に期待したのと同じ色をしているだろう、テイクアウト用カップに入ったストロベリー・フィズを映す瞳にあどけなさと大人びた気配が交差する。
「うーん
……
無いかな。今は」
やがて呟かれた答えは、悪魔にとっては味気ないものだった。
「いつだったか、流れ星にアンタともっと仲良くなりたいってお願いしたことがあっただろ?多分、その願いは叶ったって
……
アタシは思ってるから」
撮影の邪魔だと追い返されそうになっていた初対面の頃に比べれば、コラボでもない撮影に誘われるようになった今の関係は奇跡みたいだとアカネは言う。あくまで友人として、同業者としてのことと、言外に幾重にも線を引いて。
それは線を引かなければならない想いの在処をわざわざ示すようなものだ。
「YouTuberとしてブラックを超えたいとか、いつかぎゃふんと言わせてやりたいとか、他にも願いはあるけど、それはアタシが実力で成し遂げなきゃいけない事だから。月にまでお願いを聞いてもらうなんて欲張りすぎだよ」
恋の駆け引きなどできないアカネは、無防備に自分の心の柔らかい所を晒しながら、それを悪魔に委ねることも、ブラックに同じものを見せろと迫ることもしないのだった。
満月にかこつけて、無人島での夜と同じことを自分にせがむようなアカネはきっとつまらない女だ。しかし同じほど愛おしいものだろうという思考をブラックは一笑に伏す。
「まるで今こうしてるのは流れ星のおかげみたいな言い方じゃないですか」
ブラックもまた、ならば自分の方から求め訴えようとするような〝可愛い男〟になる気はない。ただ、オレちゃんの意志は無視ですかと言いたげに冗談めかした笑みを向ける。
「気を悪くしたらごめんな、思い上がりたくないだけなんだ」
アカネは静かに微笑んだ。朗らかな、それでいて、傷つきやすい者の表情で。
新進気鋭の若手YouTuberにも色々あるのだろう、と他人事のように考えながら自分が散々に痛めつけてきた彼女の乙女心を思う。そうしているうちにブラックももはや無傷ではないのだ。恋の駆け引きにもならない茶番は、それだけに切実さを帯びていく。
「この月に」
気取った仕草でフィズのカップを差し出すブラックに、アカネも今度は屈託なく笑って縁を合わせた。
この関係が終わるときには4月の月を本当にピンクに変えてしまうのも悪くないとブラックは思った。なかなかに再生数も見込めるだろうそれは、きっと傷に落ちた涙の色をしている。
2024/04/28
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内