かずわや
2022-03-09 22:52:39
2160文字
Public ワンライ
 

【ワンライ】思い出ひとつこたつの中

お題:みかん

蜜柑というよりこたつの話になりました。
団欒するフォーチュンベイビーは可愛い!捏造に次ぐ捏造です。


 年末年始はアカデミーも休みになって、よっぽどの事情が無い限りは寮からも追い出されるので、実家には久々に帰ることになる。同じく寮から追い出される長期休暇よりすこし気が重いのは、年末ともなると多忙を極める父でも流石に仕事を切り上げて家に戻ってくるからだ。
 早くに母を亡くし、メイドの手も借りながらではあるが男手ひとつで俺を育ててきた父親に、敬意を持っていないわけではない。けれど、父は食事の席でも鉄仮面を崩すことがなく、そのせいで実家にいるというよりは会社の会議に出席しているような緊張感がどうしてもある。そこで気を休めろというのは流石の俺にも難しい問題だ。
 そんなわけで、とにかく堅苦しい会話と食事をした年末が過ぎた後は、レイミの家におじゃまするのが毎年の事だった。

 レイミの家──西園寺家は日本にルーツを持つ家柄で、見た目は豪奢な館の中に、六畳ほどの質素な和室がある。家族団欒の部屋にするには少し日当たりの悪い場所にあるので、そこはもっぱら俺たちの秘密基地のようになっていた。
 顔見知りのメイドさんに挨拶をして、勝手知ったる廊下を進み、奥の和室のふすまを開くと、既にこたつにくるまっている二つの半纏の背中が見えた。 
「ハッピーニューイヤー、クロウ」
「クロウさん、あけましておめでとうございます」
 レイミがこたつから出てきて、丁寧に指をついてお辞儀する。
 日本の伝統的な挨拶なのだと教えてもらってからは俺も真似するようにしてみたが、“セイザ”とやらが5分と持たなかった。挨拶だけならやってもいいが、この座り方は続けられない。
「ハッピーニューイヤー、レイミ、エッジ。今年もよろしくな……ん?」
軽く手を上げた俺は、こたつの上にあるものに気付く。みずみずしい光沢を放つ、オレンジ色の丸いもの──「ああ、お父さんが知り合いの人から貰ったらしくて、」レイミがひとつ手渡してくれる。
「ちゃんと土から育てた蜜柑なんだそうですよ。珍しいですよね」
「へえ、合成物じゃないのか」
「“こたつ”に“みかん”──これが日本のトラディショナルカルチャーらしいよ。知ってたか?」
 勝ち誇った顔でエッジが言ってくるが、半纏でモコモコに着膨れた上、こたつ布団に埋もれているような姿では可愛いなと思うことこそすれ競争心など微塵も湧いてこない。へえ、そうかと適当な返事をしながら、こたつに足を踏み入れる。
「あったかい……
「お茶もありますよ」
「おお、サンキュー」
 初めて“こたつ”を体験したのは5年ほど前だったか。西園寺の親父さんが骨董品集めを趣味にしているおかげで、西園寺家にはデータや本でしか見たことないものや、使い方すらわからない“がらくた”が多く仕舞われていて、こたつもそのうちの一つだった。日本では年末年始に家族でこたつに入ってテレビを見るのが伝統なのだと親父さんが言うのを俺たちが面白がって、秘密基地の和室にひっぱり込んだ。全身がすっぽりとぬくもりに覆われる安心感は他のどれにも得難い体験で、いかに古い文化だと言われようと、確かにこれは親父さんの言う通り語り継いでいきたいくつろぎ方だった。
──父のように忙しくなっても、レイミの家に集まらなくなっても、これだけはやめたくないな……
 そう思いながら茶を飲む。
 年の初めに西園寺家に集まって二人と言葉を交わす安らかさは、こたつに入って感じるあたたかさと同じ、他のどれにも得難い時間だ。望めば大抵のものはきっと手に入る俺の家にだってこんなに尊いものは無い。

 できれば、3人でずっとこんな風に──その祈りは今のこの世界だと叶いづらいのを知っていて、胸を馳せてみる。
「──蜜柑ひとつ、」
 指先で丸い蜜柑を転がす。
「みんながちゃんと食べられる世界にしたいよな」
 レイミは微笑んで、エッジはさっきの挑発が無視されたと思ったのか若干ムッとした顔をしながらも、大事そうにうなずいた。



「これが“コタツ”かー! 地球の文化!」
「地球と言うより、地球のごく一部の地域に根付いた暖房機ね」
「艦長さん、もうつけてもいいかな」
 名前を呼ばれた男は浅い皺が刻まれた目元に微笑みを浮かべながら頷く。星の海をゆく宇宙船に季節など無いも同然だが、冬の間だけという特別サプライズをもって、こたつは艦内の団欒室に現れた。
「名前だけは聞いたことがあるが、流石に私もこたつは初めてだな」
「私もです。なるほど……これは確かにあたたかくて……、自室には置いておけませんわね……出られなくなっちゃう……
 地球出身のロニキスとイリアが早々にこたつに飲み込まれていく。助けに向かったクロードが、こたつに入りハッとした顔をした後ふたりと同じように動かなくなったのを見て、レナが慌てて引きずり出しにかかる。
 そんな様子を微笑みながら眺めていた艦長は、背後で同じように見守っていた3人に向き直った。
 希望通りだった?と言いたげな視線に、3人は微笑む。
「でも、もう一つ足りないものがあるな」
 いたずらげなエッジの言葉に、艦長は首を傾げて続きを促す。3人は顔を見合わせ、そしてまるで特別な紋章術の呪文を唱えるように言った。

「──“こたつ”には“みかん”だ!」