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かずわや
2022-03-03 19:34:44
4356文字
Public
ワンライ
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遠き星の罪を問う【アナムネシス】
ワンライとは一体!?今日は大幅オーバーで4000文字くらいあります……。
お題:夏の夜 のつもりです。宇宙なので季節はありません。
エッジとヒースの話。
せっかくフォーチュンベイビーという貴重な共通点がある二人なのに、本編はもちろんイベントでも絡まなかったので、二人の絡みが見たくて書きました
遠き星の罪を問う
これは夢だとわかっていた。
広がっていく炎と煙、圧倒的な轟音と灼熱に押しつぶされて飲み込まれていく、人や建物。グラウンドゼロから数百キロの海は蒸発し、地上の生命はほとんど枯れ果て、きっと何も残らない。
その大爆発から命からがら逃れ、空へ飛んでいく艦(ふね)に怒号を浴びせるように、黒い焼土がぽっかり口を開けていく。
──この星が死ぬのはお前のせいだ。
「──!」
それは、自分の声で聞こえた。
もしくは、大切な仲間たちの声で聞こえたようにも思えた。
暗い部屋の中、汗ばんだ身体を引きずってゆっくりと起き上がる。
体は重く、至る所から不快な汗がにじみ、息は乱れていた。
(そうだ。この星を殺したのは僕だ)
この夢を何回見たのか覚えていない。時におぼろげに、時にはっきりと、何度も何度も「もうひとつの地球」の最期を見せられる。
自分の時代の科学力を、己の力だと見誤った浅はかな驕りが、己を救世主のように考えた幼稚な思い上がりが、先を見据えなかった無鉄砲さが招いた、凄惨な結末。正しく扱われなかったいきすぎたエネルギーは暴走し、周りを巻き込みながら爆発を起こし、そして自分達は滅びゆく星を置いて宇宙へと逃げた。
旅を終えて、乗り越えたと思った。それを教訓にして、その先の世界を作りたいと思った。それが自分に償える罰だと思った。
けれど、その光景は内側にひそみ、じっとりとエッジを睨んで離さないでいる。
(あの地球に暮らしていた、何万という人を、僕が)
胸の奥から吐き気がこみあげ咳き込んだ。咥内で唾液が転がり、酸っぱい味が残った。
ベッドから降り、備え付けの洗面台で口をゆすぐ。チェストのデジタル時計には午前2時20分の数字が浮かんでいる。きっとみんな眠っているだろう。
(こういう時は何か温かいものを飲む)
アカデミーの頃、訓練で疲れた時にレイミがコーヒーや紅茶を淹れてくれたことを思い出した。苦みは頭をすっきりとさせて、紅茶の甘みは気持ちを落ち着かせてくれた。
部屋を出て、食堂へ向かう。まだ心臓は大きく拍動している。
──この星が死ぬのはお前のせいだ。
そんなことを仲間達が言うわけがない。わかっているのに、心臓は嫌な音を立てている。
「あれ、」
食堂に人影がいるのを見てエッジはぎくりと足を止めた。この時間に起きている人物に心当たりがないわけでもないが、そう言った人はこんな人肌が残っている場所に来そうではない。引き返そうか迷いながら近づくと、人影の方が先に気付いた。
「ん? おお、エッジだっけ」
「ヒース
……
」
ひょいと顔を出したのは、一番この深夜の時間帯に合わなさそうな快男児だった。橙色のダウンライトにぼんやりと照らされた顔は血色が良い。
顔が引き攣るのを感じた。あんな夢を見た後で顔を合わせるには最悪の人選だ。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
「ヒースこそ」
「俺? 俺はちょっと悪い夢見たもんだから」
へへ、と照れ臭そうに、しかし隠すことなく笑んでみせる。その瞬間、緊張した身体からわずかに力が抜けた気がした。
「起きてから部屋で筋トレしたけど、何しても落ち着かなくてよ。そういえば前にラヴァーが『落ち着かない時は温かいものを飲むと良い』って言ってたのを思い出したから、ここに来たんだ」
ここ押せばいいのか、と首を傾げながらコーヒーメーカーをいじくり、ボタンを押すヒースの手つきは少し危なっかしい。「あまり期待しないで欲しい出来だけど、お前も飲むか?」
「あ、ああ」
快活な声に押されるまま頷く。
ここにいていいのだろうか、と迷う間もなかった。自分が食堂に来た理由を話すタイミングを失い、結局雫がぽたぽたと落ちる様子を興味深そうに覗き込むヒースと一緒になって、しばらくコーヒーが出来上がるのを待つほかなかった。
マグカップにたっぷり入ったコーヒーをすすり、苦い顔をして、「そんで、」と気を取り直すかのようにヒースが言う。
「ただ喉が渇いただけじゃなさそうだよな。お前も悪い夢なんかを見たクチか?」
「まあ、そんなところ」
「へえ。どんな?」
「聞いてて楽しい話じゃないぞ
……
」
「まあ悪夢に楽しい話はないよな」
はは、と笑う声につられて、思わず自分も苦笑した。
すこしでも気分を和らげようとしてくれているのが分かった。用意してくれたコーヒーは、いつも飲んでいるものよりも薄くて、それもまた逆に雑念を紛れさせた。
良いやつだ、と思う。さっぱりしていて、頼り甲斐があって、年上の幼馴染に似ている。だが、すこし抜けたところがあって、それをいつも上司に叱られているのは、レイミに叱られる自分と似ていると思ったこともあった。
だからこそ話すのが憚られた。
ヒースは戦争で両親を失っている。その戦争も、大元を見ればエッジが引き起こしたことに繋がってくる。
責められないか。
落胆されないか。
卑下する目で見られないか。
──俺が「こう」なのは、お前のせいだ。
そう言われやしないか、と。
「でも、どんなに怖いと思った夢でも、人に話すとそうでもないなって思ったりするだろ。誰かがそばにいると怖くないって思うのと一緒でさ。温かい飲み物を飲むのも良いけど、こうして深夜に会ったのも何かの縁、話してみることで変わることもあるだろうぜ。あ、これボスの受け売り」
「
……
やっぱりああ見えて優しい人なんだな、ジャンヌさんって」
「まーな。両親から俺のことを託されてるって言っても、それ以上に目を掛けてもらってた自覚はある」
でも『ああ見えて』は禁句だぜ、とヒースは周りを警戒しながら囁いた。わかった、とエッジは神妙にうなずく。確かにあの天使のような微笑みから繰り出されるげんこつの一撃は、遊びでも喰らいたいものではない。
コーヒーを一口流し入れる。
気持ちの上では落ち着いていた。風のない、凪いだ海に漕ぎ出したような心持ちだった。ヒースが何の屈託もなく話を続けてくれたからだろう。
「でも、これは惑星ラーザやヒースの生まれにも関わることだから。簡単なことじゃない」
カップを持つ手に力がこもる。「僕の罰だ。一生背負っていかなきゃいけないものだ。怖くないって思ってはいけないものなんだよ」
「それって、ラーザが吹っ飛ばされてきた『もうひとつの地球』って話か」ヒースが呟くように言うのに、エッジはハッと顔をあげた。
ヒースは、じっと凪いだコーヒーの水面を見ていた。エッジが息を止めた気配を感じたのだろう、ひとつまばたきをする。
「成程。艦長やケビンたちから聞いた話が夢の内容だとするなら、それは相当悪い夢だな」
「
……
想像通りだと思うよ」
「すまん。本当に楽しい話じゃなかった」
律儀に謝るのに、張り詰めた糸がほどかれたようにまた苦笑が漏れた。
同時に、想像していた憎むような視線で見られなかったことに、心の底から安堵していた。
「まあ、俺からしてみたら、ラーザ
……
地球がアズライト星系に吹っ飛んできたのは500年以上前だからな。そこはもう仕方ねーつーか、ああそうなんだなって思うだけなんだけどよ」
ヒースは自らの手を握ったり開いたり、指をひらひらと動かしたりして、その様子をじっと見ている。
「戦争は憎い。両親が死ぬ夢は、何度見ても怖え。でも、魔王の野郎を倒せたのは俺が『フォーチュンベイビー』だったからだし、今までの戦いで生き残れたのもきっとその力があったからだ。そこには感謝しかねえよ」
「え」
「『お父さん、お母さん、丈夫な体に産んでくれてありがとう』って感じ?」
そして晴れやかに、鬱雲を吹き飛ばすように笑ってみせる。
カップを持つ手が震えた。
大きく息を吸って、そして吐いても、震えはなかなか止まらなかった。
──この星が死ぬのは、
「でも、僕は一度殺した。地球を、ラーザを
……
」
「起きちまったものは仕方ねえさ」
何度も聞こえた夢の声は、あまりにもあっけらかんとした快活な青年の声音に掻き消された。どんな声でその言葉を呟き続けていたのか、エッジはもう思い出せなくなっていた。
「罪も、罰も、エッジが背負っていくのは良いと思う。が、惑星一個分の責任なんて重すぎるだろ。そう思い詰めるもんじゃねえよ」
「そう、かな
……
」
「そうそう。当事者の俺が言うんだから大丈夫! それに、」
カップを机に置いて、ヒースは続けた。
「今の話、ボスに言ったらカンカンに怒るぜ。『今までのラーザの進化を否定しないでください』ってさ」
「進化を、否定
……
?」
「お前が一度殺した星も、なんとか命を繋げてここまで来た。宇宙進出も図れるようになった。この過程の上に俺たちが生まれて、生きている。無かったことにしたら、俺たちの先祖が積み上げてきた技術も進化も、そして俺たち自身も全部無くなる」
お前がいなかったら、始まらなかった物語だよ。
エッジは大きく肩を上げ、そして下ろした。
俯いていたつもりはなかったが、さっきまでよりずっと上を見上げているような心地がした。
「
……
そうだな、」
進化は絶対否定されない。してはいけない。生き延びようと努力した人々を無かったことにしてはいけない。
「ありがとう。話したら、やっぱり大したことなかったかもって思ったよ」
「そりゃ大物だ」
笑うヒースに握手を求める。ヒースは何の違和感もなく、それに応じた。敬礼の仕方も、握手という儀式に戸惑いを見せないのも、ヒースが地球で生まれた子だという証だった。
「ずっと、悩んでいたんだ。ずっと落ち込んでいたせいで、だいぶ仲間たちにも迷惑をかけた。それも長い間記憶の隅にあったから、何度もそんな夢を見たんだと思う」
「まあ、些細な事ではないもんな」
「だけど今日からはきっと悪夢を見ないよ。ありがとう、ヒース。本当に、本当に
……
君と話せてよかった」
ヒースは青い目をほそめ、「おう!」と元気よく笑った。
カップを片づけ、穏やかに照らしていたダウンライトの光量を絞る。時刻はもうすぐ午前4時になるところだった。朝に訓練をする者や、起床が早い者たちがそろそろ起き始める時間だ。
食堂から各船員の部屋へ戻る廊下を歩きながら、エッジはふと呟く。
「そうだ、もう一つ言おうか悩んでいたんだけど」
「ん? そんなに悪い夢を見てるのかよ」
「いや。コーヒー、薄かったぞ。ジャンヌさんに淹れる時はもっと濃くした方が良いと思う」
「何!?」
「声、声!」
まだ薄暗い廊下に、二人の若者の声は軽く明るく響いた。
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