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かずわや
2022-01-26 22:32:02
1429文字
Public
ワンライ
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【ワンライ】自動販売機
オリジナル
今回は時間内だぞ!やったー!
なので推敲してません。
自動販売機
草熱れが鼻につく中、坂道になる道路を赤いスクーターが走っていく。段々畑をすこし見下ろす形になる中腹に差し掛かる頃、そのスクーターは道の途中で止まり、ひとりの人間がヘルメットを取りつつガードレールを超えて林の中へ入った。
「ひい、ひい、ふう
……
今日も暑いなあ
…
」
木漏れ日以外は照らすもののない、薄暗い林の中を、その人間は小走りで駆けていく。10分ほど草むらをかき分けていったその奥に、ふるい自動販売機がぽつんと置かれていた。全体的にペンキが剥げ、ショーケースの中は泥やゴミがたっぷり詰まって、どんなものが買えるようになっていたのかもう分からない。放置されてからかなり長い年月が経っていると一目でわかるような代物だった。
男は長い背を折り曲げて、自動販売機のコイン口を覗き込んだ。
「グジ様、グジ様、お役目果たしてきましたよ」
低い声を、コイン口の暗い穴にそっと投げ入れる。
うるさいくらいの蝉の声。風に木の葉が擦れる音。時折、車かバイクのエンジン音が通り過ぎる。忠実なしもべのように自動販売機の前で立ち尽くしていると、やがて、コイン口からひょっこりとカエルが顔を出した。
全長4センチほどのちいさなアマガエルだ。体表は鮮やかな緑色で、ぬめりけで少し光っている。大きな黒い目玉はくりくりと周りを見渡し、そして男を見上げた。アマガエルは口を開いた。
《うむ》
しわがれた声がゆるりとこぼれた。
間違いなく、コイン口から顔を出している小さなアマガエルから聞こえてきた声であった。
《首尾はどうであった》
「グジ様のおっしゃる通り、2-Cの葉室雪茂(はむろゆきしげ)は本を拾いました! これで彼が図書室へ届ければ、図書委員の保科(ほしな)メリとの距離はぐっと縮まるはずです!」
男はぶんぶんと腕を振り回す。汗で張り付く前髪も気にならないようだ。
《ふたりが会うところまで見とらんのか》
「え、いやあ
……
彼の性格なら届けることは確実だろうと
……
」
《ばかものっ! そこまで見届けてこその「縁の神」じゃろうが! 今すぐ上杉中に戻ってふたりの動向に不備が無いか見直せぃ!》
「ひゃ、ひゃい!」
ちいさなカエルの口から出たとは思えないほどの怒号に気圧され、男はわやわやと手足を振り回しながら元来た道を駆けていく。
コイン口のふちで頬杖をつきながら、カエルの神はふうとため息をついた。
《ミシャグジ信仰が廃れかけてきてから早数十年
……
。こうして「縁の神」の真似事もしているが、なかなか信仰は戻らんのう》
どこかでセミが甲高く鳴き始めた。林にこだます大合唱に、グジと呼ばれたカエルは顔を顰める。本殿──といっても山の中の小さな祠に過ぎないが──にいた頃は静かでよかった。地震で崩れてからは誰も祠を直す者がおらず、こんな自動販売機に避難せざるを得なくなってしまった。昔は山よりも大きかった自身の体も、力を失い、一般的なアマガエルと変わらない。
《うーむ。時代はやはり“まるち”な営業力。祟り神としてだけではなく、縁結びも出来ねば神としては生き残っていけぬのう。はあ、誰か夢のような噂を信じてこの自動販売機まで来てくれぬものか──保科メリのように》
これは、「願いを叶えてくれる自動販売機」に住むちいさなカエルの物語。ただし願いは3つまでにしなければいけない。
その“神”の本質は縁結びではなく、祟り神であるからだ──。
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