かずわや
2022-01-12 21:58:45
1071文字
Public ワンライ
 

【ワンライ】悩みの種【エジクロ】

水曜日のワンライ
今日も時間を越したぞ!!!!

お題:悩みの種

悩みの種

「服を着ろ!」
「着てるだろ」
「下(ズボン)だけな!」
 けろりとした表情で幼馴染は言う。二人掛けのソファに長い足を悠々と投げ出して、素っ裸の上半身を仰け反らせながら、「水、床に落ちてるぞー」と注意までしてくれる。
 僕がシャワーを浴びに行くまで点いていなかったはずのテレビが点いてたり、冷凍庫に残しておいたバニラアイスをちゃっかり食べていたり、「お前、僕の部屋をホテルだと思ってない?」
「ルームサービスは何時までかな?」
「そんなものあるか!」
 冗談だ、と笑って幼馴染は身体を起こした。
「アイスはまだ冷凍庫にあるぜ」
「知ってるよ……
「ああ、あとあれ。こないだ観たいと言ってた番組、まだ録画予約入ってなかったから入れといた」
「あ。ありがとう」
 忘れてた。いま人気のドラマの主人公を務める俳優が出るから絶対観て、とレイミに念を押されていたものだったのだ。弓道一辺倒だったお嬢さまが大事な女友達との話題作りに精を出しているのには微笑ましくなるが、何故僕が巻き込まれているのか理由を知りたい。
「──じゃなくて!」
「ん?」
 アイスの棒をぺろりと一舐めして、灰色の瞳がきょとんと僕を見上げる。

 ──狙ってやっているわけじゃないのだ。

 何故ならこの幼馴染、外面は完璧なくせに誰も見ていないところだと結構ズボラな面を見せる。学校の寮生活ではきちんと生活していたようだから、教師や他の学生には「ミスターパーフェクト」なんて華々しく持て囃されていたが、外面に全振りしすぎて日常生活のステータスが軒並み低いタイプだ。そのことは、彼の家族と、幼馴染の僕とレイミぐらいしか知らないことだけれど。
(朝は起きないし、風呂あがってから服着ないし、たまに髪もちゃんと乾かさないし)

 気が置けないだけだとしても、もうちょっと僕の前でもちゃんとしてほしい。
 気になる相手が裸で数センチの距離にいて、真顔を貫けられるほど、寡黙で無欲ですといったタイプではない。

……服を着ろ」
 何回も言った言葉をスウェットと一緒に投げつけると、奴は笑って受け取って、のそのそと着始めた。それを横目で見ながら冷凍庫のアイスを取り、腹いせのつもりでガッと強く歯を立てる。
 噛みつきたい、とか言ったらズボラな幼馴染は案外許したりするだろうか。近しい人にしか見せない態度の延長線で、僕だけにしか触れさせないところを作ったりしてくれるだろうか。
 今のところは、僕の前でだけ二人掛けソファを独占している横暴さに、満足するしかないらしい。