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かずわや
2016-02-27 12:58:16
3297文字
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刀剣乱舞
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【蜻蛉杵】紫煙を誘う悪い指
※現パロ
※喫煙描写あり
両片想いになりましたがとんぎねワッショイパワーで許してください!
紫煙を誘う悪い指
気になる人がいるのだと仏頂面で言ったのを俺はぽかんとした顔で見つめていた。本当かと、まず疑ってかかるのは許してほしい。どう見たって恋する人の顔ではない、どちらかと言うと今にも自害しそうな顔である。乙女らしい顔をしてみろとは言わないが、もう少しその眉間のしわを取ったらどうだ、と思いながらコーヒーをずずと啜った。本当は酒が良かったが、昼間から、しかもファミレスで酒はやめろとこっ酷く釘を刺されたので大人しく苦い汁をちびちび舐めている。
その釘を刺してきた本人は、まるで釘に刺されたかのように微動だにせず、俯きがちのまま「その、話を、聞いてほしい」と呟いた。
「まあ聞くけどよ」
「ありがたい」
「ちっともありがたがってねえな」
「なにを言う。今度酒を奢る」
「まだ19だろうが」
ようやく下手な笑顔を見せた。19のくせに一回り以上年の離れたおっさんにコイバナをするこの強面が、どれだけ世間とずれているか分かるだろう。言葉遣いも古風で、背も抜きん出て高い。2メートル近くある。堅物という言葉から想像されるものを片っ端から詰めこんだようなまじめで、女どころか同い年の友達と歩いているところを見たことがない。友達がすくないのだ。そも、いないのかもしれない。
恋愛相談の相手もろくに選べないこいつが、恋をしたという。
「相手は誰なんだ? 同じ学校のやつか?」
「
…
あなたも知っているひとだ」
「へえ、俺もか。じゃあバイトのやつ?」
ぎこちなく頷いた。
蜻蛉切と同じアルバイトに女はひとりもいない。白状したようなものだ。
「
……
御手杵か」
盛大に肩を揺らして、焦って烏龍茶をあおり、噎せた。
「何をそんなに焦ってるんだよ、ヒントも何も答えだろ。まあ顔はいいからなあ、あいつ」
「顔だけでなく! 新人の自分に仕事を丁寧に教えてくださって、それに、」
口元を拭きながら可哀想なくらい真っ赤になる。「
……
可愛らしくて」
可愛いだァ? 192センチ23歳のれっきとした筋肉質男が?
苦いコーヒーも今はありがたすぎて泣けてくる。
御手杵は、俺がオーナーを勤めるコンビニのアルバイトである。背は日本号と同じくらい高く、歳は23。大学3年生だ。
蜻蛉切は俺の甥で、御手杵の4つ下の大学1年。今年の4月、大学が決まった時間の隙を狙ってバイトを探していたところに俺が誘って入ってきた。
一目惚れだったらしい。いまは2月も半ばに差し掛かる中、4月からということはもう10ヶ月の片思いになる。よくそこまで続いたものだと流石に息をついた。
「しかしもう限界で、いつ心臓が口から出てしまうか分かったものではなく
……
」
「冗談じゃねェぞ、恋煩いが募って死なれちゃ困る。
……
流されやすい奴だから案外いけるんじゃねえか?」
御手杵とは長い付き合いだ。あいつの性格は知っているつもりでいる。
そう言うと、蜻蛉切は俯いた顔をすこし上げて、何か言いたそうにじっとりと俺を見た。
「
……
分かった分かった。次の週は二人になれるようシフト調整してやるよ」
「かたじけない!」
「特別だからなぁ?」
テーブルに額がつきそうなほど頭をさげられて、なにかまじめな仕事の取引でもしたようである。実際は迷える198センチのコイバナなのだが。しかし、可愛い甥の頼みだし、面白そうだから乗っかってみることにする。当たって砕ければそれまでだし、もしまかり間違って(この場合は正解か?)くっつくことになっても、俺にとっての可愛い弟分である二人ならまあ異論は無い。
苦いコーヒーを啜りながら、脳内で来週のシフトを確認する。全く酔っていないのに、本気で協力しようとするあたり俺も大概頭が沸いていた。
そこまで広くもないコンビニ内に客はいない。耳に障らないくらいの音量で女性歌手の透き通るような歌声が静かに流れているが、それでは蜻蛉切の緊張を癒すには足りなかった。隣にいる御手杵の存在がいつも以上に気にかかって仕事も手につかない。客がいなくてよかった。
「なにみてんだよ」
ハッと我に帰ると、バツの悪そうな顔でこちらを見る御手杵と目が合った。まずい、そんなに見ていた気はなかったのに。枯茶の瞳がそわそわと揺れている。
「なんかついてる? 変?」
「いや、そんな!」
バッと音がしそうなほど首を明後日の方向へ曲げた。顔から火が出るほど恥ずかしい。
「俺、あんたに何かした?」
目が合って思った。揺らめく瞳が可愛げだった。そう心を乱されたことは事実だが言えるわけがない。
「なんでもない
……
」
心臓がどくどくと波打っている。絞り出すようにそう言った瞬間、ひとりの客が中へ入ってきた。
「いらっしゃいま、あ、どーも」
御手杵の表情が緩む。どうやら近所の住民らしい。
「俺レジ見てるから、陳列頼む」
そっと肩を押されてどぎまぎしながらその場を離れたが、耳はしっかりと会話を聞き取っている。
「あ、この煙草吸うんすか。俺も好きなんですよ。ありがとうございましたー」
柔らかな声が耳をくすぐる。
煙草を、吸うのか。
品行方正、実直誠実で生きてきた蜻蛉切は、酒にも煙草にも未だに馴染んだことがない。日本号がよく酒に酔って悪酔いしていたのを見ていたからか、あまりそれらのものに良いイメージがなかった。煙は臭いし、身体に悪いし、相手にも己にも良いことがない。素行の悪い者が好んでやるものだと思っていた。
それを、あの御手杵が嗜むと言う。
煙草も、もしかしたら酒も。
あのやさしい、無害な、御手杵が
……
。
長い指が白い葉巻を持つ、その美しさには、憧れてはいけないような気がした。
風が白み始めた空を冷やし、より透明にしていく。早朝勤のアルバイトが入ってから、2人は退勤を押して連れ立って外へ出た。薄青い靄に街は死んだようで、今この場には二人しかいないような気にさせられる。実際、運が良いのか悪いのか、外は誰もいなかった。
蜻蛉切はマフラーを口元まであげてコートの前を閉める。そうしないと早鐘を打つ心臓の音が今にも聞こえてしまいそうだったのだ。
御手杵はバイト先のコンビニから10分ほどの近くに住んでいて、蜻蛉切は電車通いだ。コンビニ前の大通りを渡ったすぐ先が駅だから、黙っていればすぐ御手杵と別れなければならなくなる。往来に出て、車の通行を確認する振りをして御手杵を見やれば、白んだ光が御手杵の肌を照らしていた。
鼻が通って、色良い唇のついた冷美な横顔が、酷く透明で。
なにかいけないものを見てしまったような。
「
……
なに、みてんだよ」
寒さのせいか鼻の頭を赤くした御手杵が、にまりと笑いながら蜻蛉切を見上げる。
「俺より背高いし、俺より仕事できるし、俺のことジロジロ見てくるし。あんたほんと生意気」
「は
……
申し訳ない
……
?」
先ほどとは違う、揶揄るような御手杵の表情に戸惑った。徐ろに御手杵がポケットから何かを取り出す。黒いパッケージの、「それは、煙草
…
か?」「そう」またにまにまと笑いながら答える。
「あんた、さっきお客さんと煙草について喋ってた時そわそわしてたから、気になるのかと思って。やったことないだろ? 真面目そうだからなあ、あんたは」
「気になどなって」
「甘いのすき?」
慣れた手つきで火をつけた御手杵が、黒い煙草を口元に持って、軽く吸う。そして蜻蛉切の言葉を遮るようにふうっと吐き出した。
ツンとしたものが来ると思って顔をしかめた蜻蛉切は、見当違いに目を丸くする。
「
……
あまい」
「バニラの香りがすんの。年下はだいたい甘いのすきかと思って」
長い指先で煙草を弄びながら御手杵が言う。憧れてはならぬのだと、そう戒めたばかりなのに。その何処か艶めきのある光景に釘付けで蜻蛉切は御手杵の声を聞いていなかった。
「まだあるんだけど。興味があるなら俺んち、くる?」
長年好いた男の家に赴くのがどういうことか、経験もない、朦朧とした蜻蛉切にわかるはずもなく。ぱっと嬉しそうに笑った御手杵の手に引かれて、蜻蛉切は駅から逸れ、道を歩き出した。
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