かずわや
2015-11-21 23:16:45
1323文字
Public ワンライ
 

【元主と刀】俺の誇り

第22回「自分の居場所は君の隣」結城晴朝と御手杵で書かせていただきました。これがほんとの最終回です、前回早とちりしてしまってすみません!晴朝パパの御手杵所望書を見て以来、ぎねは晴朝を救うために望まれて生まれてきたのだろうと思っております

ワンライ
自分の居場所は君の隣


この世に生み出されてこの方、俺は結城晴朝から離れたことが無い。俺たる手杵の槍が養子秀康に譲られても、俺の魂は常に晴朝のそばに在った。秀康が嫌いなわけじゃない。むしろ俺を慈しんで武器として褒めてくれるし、まっすぐでひたむきな所は好ましい。好きだ。けれど、俺の両目はずっと晴朝を追いかけていた。日に日に老いていく男の背中を見つめていた。人間は儚く弱いから、いつかぽっきり折れてしまいそうで目が離せなかったのだ。
秀康は俺を使ってくれた。でも、俺が父と思うのは、主人と慕うのは、戦友と認めるのは、多分晴朝ひとりだけだった。

格子窓から吹き込む初夏の風が、慰めるように髪を揺らしていく。時折啜り泣く女の声が聞こえた。運ばれていった亡骸は、秀康だった。
「人間て、やっぱり呆気なく死ぬものなんだな」
いくらでも見てきたはずなのに、俺が守る彼らだけは違うのだと思っていた。
「あんたもいつかそうなるのかな」
そう漏らせば、涙交じりの苦笑が返される。
「人間いつかは死ぬものだ。婿殿は、あまりにも早過ぎたが……
「寂しい?」
「当たり前だろう」
別れはいつだって寂しい。慣れないものだ。そう言って俺を見上げる晴朝がからかうように言う。
「お前はもっとこの別れを体験するだろうから、そのうちに慣れていくのだろうな」
……あんたもたくさん別れてきたんだっけ」
晴朝が口をつぐむ。やなこと言ったな、と俺は自分を責めた。
父と、兄たちと、妻と。秀康の人生も壮絶だったが、俺が見守ってきた晴朝の運命も寂寥に満ちていた。その頃の晴朝は実家と周りの強い大名の勢力に挟まれて、いつもひとりで文机に向かって背中を丸めていた。地図を広げていたり、そうかと思えば手紙をしたためていたり、何をしているのやら武器たる俺には全く分からなかったけれど、その顔がいつも苦悩に歪んでいたのを酷く鮮明に覚えている。俺の主にそんな顔はさせたくなかった。なまじ俺は望まれてこの世に誕生した槍だ。その自負はちゃんとある。他ならぬ晴朝に、この運命を切り開いてくれと、願いを託された誇りの槍なのだ。その責務を果たせないと、無いはずの心臓が痛んで仕方が無かった。

「大丈夫だ、俺がいる」
曲がってしまった背中を慰めたかった。
そんな顔をしないでくれ。
「俺は武器だから、神様だから、ずっとあんたのそばにいてやれるぞ」
秀康の魂も持っていった。俺がいつか再び戦場に足をつけるとき、いくさを欲した彼が共に戦えるように。晴朝の魂がこの世から離れることがあれば、俺がまた持っていけば良い。そうすれば俺が生きている限りふたりはずっと一緒だ。名案を思いついたとばかりに俺が騒ぐと、晴朝は目を細めてそうかと頷いた。
「お前と共にいるのも、良いだろうなあ」
今思えば、馬鹿で浅はかな俺につき合ってくれた笑みだったのだろうが。疲労と悲しみに沈んでいた顔が、仕方なさそうに緩んでくれたのが俺はすっかり嬉しかったのだ。

俺が隣にいるからには、何ものからも守ってやろう。だからそんな顔をしないでくれ。ちっぽけな付喪神は、尊大で大仰な神になったかのように、その背にそっと寄り添った。